レイラの最後の10分38秒

  • 早川書房
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感想 : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099624

作品紹介・あらすじ

1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏にあるごみ箱の中で、娼婦が息絶えようとしていた。死後も続く10分38秒間の意識の中で、彼女は、5人の友人とひとりの最愛の人と過ごした日々を思い出す。居場所のない街の片隅でみつけた、汚れなき瞬間を映し出した物語

感想・レビュー・書評

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  • 主人公の女性レイラは最初から死んでいるのです。しかもごみ箱に捨てられて。体は死んでいるのですが、意識だけは10分38秒残っていて、その間レイラが生涯を走馬灯のように回想するというところが第一部。第二部はその友人たちがレイラの遺体をめぐって行動に出るお話としてつながっていきます。レイラは10代で故郷を捨て都会へ行き、あっけなく騙されて娼婦となります。読者からは転落人生のように思えて、しかしそのことをただ嘆くのではなく、5人もの親友に出会って力強く生きていきます。レイラの心はその境遇においても濁るがありません。イスタンブールという街は複雑な社会情勢、たくさんの宗教、人種が交差する街。そこでたくましく生きるひとりの女性とその友人たちの人生が描かれていました。人はどんな境遇でも魂を濁らせることなく生きることができるんだと教えられた小説です。

  • 2017年、カナダの医師らは、臨床死に至った1人の患者が、10分38秒間、生きている人と同様の脳波を発し続けていたことを発見した。
    少々奇妙な本書のタイトルは、このニュースに由来する。
    心臓が止まった後、10分余り、人に意識があるのならば、その人は何を思い、何を考えるのだろうか。

    主人公はレイラ。トルコ・イスタンブルに住む40歳代の娼婦である。
    物語冒頭、彼女はすでに虫の息である。襲われ、サッカー場近くの大型ゴミ箱に捨てられた。心臓が止まる。カウントダウンが始まる。

    1分。2分。3分。
    薄れゆく意識の中で、彼女は自分の人生を振り返る。
    生まれた日のこと。1人の父と2人の母がいる複雑な家庭であったこと。望まれていたのは男の子だったのに、女の子として生まれたこと。

    4分。5分。6分。
    人生の時々には、思い出深い匂いがあった。
    時にはスイカの匂い。時にはヤギのシチューの匂い。時には薪ストーブの匂い。
    寄る辺ない娼婦となるには理由があった。抑圧された少女時代。近親者による性暴力の被害者であったのに、彼女は声を上げることを許されなかった。丸め込まれることを是とせず、彼女は家を出た。単身、都会に出た彼女にはしかし、職業の選択肢は多くはなかった。

    7分。8分。9分。10分。
    楽な暮らしではなかったが、しかし、彼女にはかけがえのない友人がいた。
    気の弱い幼馴染の男の子。性転換手術を受けたトランスジェンダー。イスラム教徒とキリスト教徒の間に生まれたソマリア人。122cmという低身長だが楽天家の占い師。メソポタミアのバラッドを歌う歌手。
    生まれも育ちもばらばらで、どこか世の中からはみ出した彼らは、レイラと深い友情を結んだ。悲しい女を見たら、すぐそれと気づく、そんな美点が彼らにはあった。

    10分10秒。20秒。30秒。残り8秒。
    レイラにも美しい過去があった。
    相思相愛の優しい恋人がいて、彼と、娼婦だった彼女は結婚する。
    だが幸せな時は長くは続かなかった。
    反体制派だった夫に連れられ、レイラはデモに出かける。そこで悲劇が起こる。
    余命のカウントダウンとともに、描き出される彼女の、そして友人たちの人生の苛酷さに胸が痛む。だが、レイラは人生を闘い続ける。たとえ、勝てないことがわかっていても、闘うことを諦めてはいない。そのことを友人たちは知っている。

    レイラの物語は、残念ながら終わりを告げる。彼女に奇跡は起こらない。
    だが、悲しく葬られた彼女を、友人たちは放っておきはしない。
    10分38秒の後、友人たちが物語を引き継ぐ。
    終盤近くのボスポラス大橋から見る景色の美しさに息を呑む。
    物語には、イスタンブルというもう1人の登場人物がずっと寄り添っていたのだ。猥雑で汚れていて複雑で、けれど紛れもない輝きを持つ大都会が。

    表紙の絵の意味、そして章の間に挟まれた小さなマークの意味が、最後にわかる。
    しなやかに人生を泳ぎ切った、レイラの魂に安らぎが訪れることを願う。

    著者はトルコ人の両親を持つ。フランス生まれ、イギリス在住。母の仕事の関係で各国を転々とした経験がある。英語とトルコ語で執筆活動を行い、LGBTQの人権擁護者でもある。
    さながら、多様性の旗手といったところか。
    物語の大筋は悲惨だが、読後感は悪くない。著者のまなざしの温かさのゆえだろう。

  • 〝レイラ・アカルス〟が、トルコ東部の町ヴァンで生れた1947年1月から、イスタンブルの路地裏のゴミ容器の中で息絶える1990年11月までの43年間を、脳波計の針が完全に停止するまでの10分38秒に凝縮して、運命に翻弄されながらもひたむきに生きるレイラと5人の友人たちの姿が切々と描かれ、心に深く刻まれていきます。東西文化が交差する喧騒と混沌のイスタンブルに生きる社会的弱者やマイノリティな人々と〝寄る辺なき者の墓地〟の存在は、病める社会への著者からのメッセ-ジが込められており、長く記憶に残る哀哭の物語です。

  • 1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏にあるごみ箱の中で、殺害された1人の娼婦が息絶えようとしていた。
    彼女の名前はレイラ。死後も続く10分38秒の意識の中で、彼女は、5人の友人と1人の最愛の人と過ごした日々を思い出す。

    この小説の前提に、ひとつの事実がある。
    2017年にカナダの集中治療室勤務の医師たちにより発表された「臨床死に至ったある患者が、生命維持装置を切ったその後も、10分38秒間、生者の熟睡中に得られるものと同種の脳波を発し続けた」という論文だ。作者はこの記事を読んで興味を持ち、この小説を書くに至ったという。

    主人公のレイラはトルコの田舎町で生まれた。
    厳格で理解のない父と、とある理由からぎくしゃくとした家庭で育てられ、レイラは高校生の時に家を出てイスタンブルへ向かう。そこで騙されて、娼婦としての人生が始まってしまう。

    レイラをはじめ、5人の友人たちはみな「思い通りにならない人生」を必死で生きている。親や金銭に恵まれず、暴力をふるう配偶者から逃げてきた者や、性別を変えてトランスジェンダーとして生きる者や、小人症という生まれながらの病気を抱えた者などがいる。
    レイラは愛する人と出逢い一度は娼館を出るものの、その後も辛い運命に巻き込まれてやはり「思い通りにならない人生」を生き続けることになる。

    第1章の「心」はレイラが殺害されごみ箱に捨てられた場面から始まる。そして身体は死んでも脳と心が生き続けた10分38秒の間、レイラはこれまでの人生のあらゆることを回想する。
    辛いことが多い中、5人の友人を回想する部分はとても温かい。家族に恵まれなかったレイラの人生で、友人に恵まれたことはとても誇りであったことが伺える。
    そして第2章の「心」と「魂」はその友人5人が主役となり、レイラを深く思うからこその無謀な計画を立て、それを実行する。

    思い通りの人生を生きられる人はおそらく多くはない。レイラたちはその極みにあって、死を選んでもおかしくないほどの苛酷な運命の中にあっても、とても力強く生きている。それだけに、どうしてこんな人生の閉じ方をしなければいけないのかと、物語なのに強い憤りを感じてしまう。
    トルコでは物語同様、娼婦が狙われた連続殺人事件が起きた歴史があり、しかも被害者が娼婦だという理由で罪が軽く済んだという出来事が実際にあった(その後法改正された)
    人は人を立場によって心の中で裁いたり、貴賤があると密かに思ったりしている。だけどどんな人にも様々な事情や背景があり、力強くまっすぐに生きている人がいることを忘れてはいけない。

    それでもレイラの人生は悪いものではなかった、と思う。友人に恵まれ、一時ではあるけれど愛する人とともに過ごし、自分の人生をまっすぐに生き切った。苛酷な運命であっても、とても輝いて見える。
    「生き方など選べなかった。それでも自由を探した」という帯にある言葉にすべてが詰まっている。
    当時のトルコの時代背景も知ることが出来る、とても良質な小説だった。

  • Elif Shafak: エリフ・シャファク: フィクション小説の利害 | TED Talk Subtitles and Transcript | TED
    https://www.ted.com/talks/elif_shafak_the_politics_of_fiction/transcript?language=ja

    レイラの最後の10分38秒 | すべての商品 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014612/all_items/page61/disp_pc/

  • 人間関係は好ましいけど、本人は死んでるしなー複雑。
    364pの画像がやるせない。

  • お別れを丁寧にするという考えがなかった 前まではフェードアウトでええかと思ってたけど 人生は一度きりやからお別れも丁寧な方が良いか

  • 面白かった。殺された娼婦レイラ。肉体は滅びたが、まだ意識がある。10分38秒、レイラの脳裏に走馬灯のようによぎる人生。レイラの回想に出てくる友人たちが、後半のメイン。

  • 4.02/290
    内容(「BOOK」データベースより)
    『1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏のゴミ容器のなかで、一人の娼婦が息絶えようとしていた。テキーラ・レイラ。しかし、心臓の動きが止まった後も、意識は続いていた―10分38秒のあいだ。1947年、息子を欲しがっていた家庭に生まれ落ちた日。厳格な父のもとで育った幼少期。家出の末にたどり着いた娼館での日々。そして、居場所のない街でみつけた、“はみ出し者たち”との瞬間。時間の感覚が薄れていくなか、これまでの痛み、苦しみ、そして喜びが、溢れだす。トルコでいま最も読まれる女性作家が描く、ひとつの生命の“旅立ち”の物語。』

    冒頭
    『彼女の名はレイラといった。
    テキーラ・レイラ、友人や客にはこの名で通っていた。自宅にいるときも、波止場に近い丸石敷きの袋小路にある紫檀色の館で仕事をするときも、テキーラ・レイラと呼ばれていた。キリスト教会とユダヤ教礼拝堂のあいだ、ランプ屋やケバブ屋が連なるあたりにその館は立っている──イスタンブルでもとりわけ古い、認可された娼館をいくつか擁する通りに。』


    原書名:『10 Minutes 38 Seconds in This Strange World』
    著者:エリフ・シャファク (Elif Shafak)
    訳者:北田 絵里子
    出版社 : ‎早川書房
    単行本 ‏: ‎372ページ

  • 1990年、トルコ。イスタンブルの路地裏のゴミ容器のなかで、一人の娼婦が息絶えようとしていた。テキーラ・レイラ。
    しかし、心臓の動きが止まった後も、意識は続いていた──10分38秒のあいだ。
    1947年、息子を欲しがっていた家庭に生まれ落ちた日。厳格な父のもとで育った幼少期。家出の末にたどり着いた娼館での日々。そして居場所のない街でみつけた"はみ出し者たち"との瞬間。

    トルコ・イスタンブールの元娼婦テキーラ・レイラ。彼女の心臓が止まり、脳が死ぬまでの10分38秒。レイラの歩んできた悲しい人生と心がつながった五人の仲間の友情物語。酷い環境に閉じ込められるんだけど、レイラは常に前向きなマインドだから、暗い話が苦手の僕は救われた。読み終わったあとは何とも言えない気持ちで満たされて、読書の幸せを感じられた。あと文章が美しい。澄んでるというか。それがレイラの心の美しさというか、姿形とマッチして最高。この訳者の翻訳した違う本も読んでみたいと思えた一冊。

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