財政赤字の神話 MMTと国民のための経済の誕生

  • 早川書房 (2020年10月6日発売)
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本 ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784152099662

作品紹介・あらすじ

政府は通貨の発行体であり、無限の支出能力を持つ。緊縮なんてもってのほか、国民の幸福のための財政出動を! MMT(現代貨幣理論)の主唱者が財政赤字にまつわる6つの神話を撃破し、これからの経済を革命するNYタイムズ・ベストセラー。解説/井上智洋

感想・レビュー・書評

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  • MMT(現代貨幣理論)を正しく理解するための決定版とも言える一冊。お金を刷りまくっても大丈夫というような、この一見怪しい理論に対して、きちんと限界を示した上で、理論の限定的な正しさを示す。読むと、世界観が変わる。

    本書をもとにして、自分なりに考えてみた。極端な例で考えるのが分かりやすいので、敢えて、想定として、人口3人の国家で。国民は、農家、大工、工具屋。MMTに基づき、金配り。全員に財政支出で1兆円ずつ。内需だけならただのインフレ。

    次に、大工の仕事がなくなった場合。みんなの家を建て終わり、失業したとする。国が財政支出で工事を大工に発注。大工が職を得て、GDP増。

    更に、全員失業状態では。つまり、ベーシックインカムだが、失業者に金を配っても産業がなくては、使いようがない。

    結局、重要なのは、貨幣流通量ではなくて、潜在的な労働余力なのだ。これを活用する範囲において、MMTは有効だが、これを上回れば、インフレになる。

    これに関し、本書に名言を発見した。
    財政赤字が小さすぎる証拠は失業率。大きすぎる証拠(過剰支出)は、インフレ。つまり、失業者が多く、余力を持て余した状態なら、財政赤字が足りない。もっと金をばら撒いて良い。しかし、インフレ、物価高騰し始めたら、ばら撒きすぎ。

    多少のインフレには害がないと思われており、経済成長においては好ましいと考えられている。しかし、物価がほとんどの人の収入を上回る速度で上昇し始めると、多くの人の購買力が低下する。その状態を放置すれば、実質的に生活水準が低下していく。失業者が増えないレベルで賃上げを伴いながらの、ギリギリのインフレが重要。

    世界の主要国の多くは、10年以上、低インフレの解消に必死に取り組んできた。インフレ率が低すぎると言う問題であり、日本、アメリカ、ヨーロッパ諸国は公式に2%というのが適正なインフレ率とし、アメリカのFRBや日本銀行、欧州中央銀行はこのインフレ率を目標にしてきた。しかし、安定的に2%を達成できたところはない。特に苦しんでいるのは日本で、デフレへの対応に迫られていた。漸くインフレに動き始めている。こうした大局を理解するためにも、有意義な読書となった。

    • Tomoyukiさん
      こんばんは。
      いつも拝見しております。

      インフレターゲット2%は永遠の課題ですね。
      しかも、インフレの質も現状の日本のようなコストプッシュ...
      こんばんは。
      いつも拝見しております。

      インフレターゲット2%は永遠の課題ですね。
      しかも、インフレの質も現状の日本のようなコストプッシュ型だとアレですし。。
      金利、為替との関係もあって金融政策の舵取りの難しさを痛感します。
      2024/02/06
    • Rafmonさん
      Tomoyukiさん
      コメント有難うございます。

      漸く日本はインフレに転じていますが、物価高が賃上げを上回る至近時のコストプッシュ型の値上...
      Tomoyukiさん
      コメント有難うございます。

      漸く日本はインフレに転じていますが、物価高が賃上げを上回る至近時のコストプッシュ型の値上げに対し、政府は賃上げ促進を本格的に発信し始めています。恐らく、来年度「値上げはまた続く」が「漸くハッキリとした給与アップ」が起こりそうですかね。家計に余裕のある安定状態が望ましいのですが、立場により利害や動向も異なり、難しい所…。私もまだまだ、勉強中です。
      2024/02/07
    • Tomoyukiさん
      返信ありがとうございます(^^)
      rafmon44さんの選書、レビューいつも参考にさせていただいております。
      返信ありがとうございます(^^)
      rafmon44さんの選書、レビューいつも参考にさせていただいております。
      2024/02/07
  • 近年、MMT(現代貨幣理論)という言葉を新聞や雑誌等で見かけるようになった。本書はそのMMTの旗振り役の一人、ステファニー・ケルトンによる一般向けのMMT解説書である。一般向けとはいうものの、私は経済学を学んだことはなく、大学の教養授業でさえも受講したことがない。そんなわけで、半分ほどしか理解できてないと思うが、とても刺激的な本だった。

    誤解を恐れず、本書の内容をかいつまんで言うならば、財政赤字で国庫が破綻することはない、社会保障が破綻することもない、なぜなら政府は通貨の発行体だからだ、ということに尽きる。足らないなら刷ればいい、というわけだ。コペルニクス的な理論と言える。必然的に、国の赤字は国民の借金だとか、後世にツケを払わせるというのはMMT的にはあり得ない。政治家の嘘、ないし誤解である。コロナ禍にあって各国の財政支出は天文学的な数値になっている。しかし、MMTに立つならば、財政赤字による支援策こそが危機を乗り切る手段となる。

    もちろん、MMTにも限界はある。いくらでも赤字を出していいということではない。注意すべきはインフレである。インフレは支出が過剰という証左になる。逆にいうならば、インフレどころかデフレ気味な状態が続く日本は、むしろ支出が不足していることになる。またどこに支出するのかというのも注意が必要となる。ひとつの目安は、医療、教育、インフラ等、実体的な財やサービスを継続できるようにすることである。

    ただし、全ての国にそれが可能というわけではない。アメリカのように自国の通貨主権を持っていることが条件である。通貨主権のない国やEUのような共通通貨圏には当てはまらない。当然ながら日本は強い通貨主権を持つ。MMTが適応される国である。本書では、目も眩むような赤字を出し続けながらも国が破綻しない例として日本のことが頻繁に取り上げられる。

    経済学に無知なので、なかなか理解はできないが、ただ妙に説得力があった。さらに本書はアメリカの抱える様々な問題点(かなりシビアである)、温暖化等、世界的な課題にも論が進む。グローバル社会にあって、ある国がMMT政策を採ることで周囲に与える影響についてはもう少し知りたいと思う。

  • 通貨を発行している国は、いくら赤字を出しても財政破綻なんかしませんよ。
    簡単に言うと、本書の趣旨はそういうことです。
    このような学説を「限界貨幣理論(MMT)」と呼びます。
    もっとも、同じような主張をする経済学者は昔からいました。
    ただ近年、ずいぶんと注目を集めるようになりました。
    そんな虫のいい話があるのかしらん。
    眉に唾をたっぷり塗って読みました。
    唾は8割方、取れました。
    著者の主張は明快です。
    たとえば、「政府と家計を比べない」というもの。
    国の財政を家計と比べる議論をよく見かけます。
    国の財政赤字は、家計で例えると、こんなに莫大な借金があるということ云々。
    しかし、国(日本や米国など)はれっきとした通貨の発行体です。
    つまり、通貨の「発行者」と「利用者」を同一に見るのはナンセンスだということ。
    「通貨主権を持つことは、その国が財源の心配をせず、国民の安全と幸福を最優先できることを意味する。」
    と著者は主張します。
    一般に、国は税金を集めて、足りない分は借金をして、支出をしていると捉えられています。
    だが、事情は「逆」なのだと著者は説きます。
    「通貨を発行する政府が求めるのは金銭ではなく、実体のあるものだ。欲しいのは税金ではなく、私たちの時間である。国民に国家のために何かを生産させるために、政府は税金などの金銭的負担を課す。」
    ちょっと目からウロコではないでしょうか。
    少なくとも、私はこれまで、そんなふうに考えたことはありませんでした。
    「国の財政赤字は、国民の富と貯蓄を増やす」という主張も、ハッとさせられるものがありました。
    「財政赤字は悪」という話に慣れ親しんだ自分にとっては新鮮ですが、理屈は単純。
    「政府部門の収支+非政府部門の収支=ゼロ」
    という、常に真である会計等式があるからです。
    たとえば、国が国内で100ドルを使ったが、税金としては90ドルしか回収しなかった。
    この差が「財政赤字」と呼ばれます。
    しかし、この差はだれかの「黒字」になっています。
    「問題は政治家が片目で世界を見ていることだ。財政赤字は見えているのに、反対側にある同額の黒字は見えていない。」
    と著者。
    なるほど、分かりやすい。
    本書を読むと、これまで見聞きした財政赤字の話がまさに「神話」のように思えてきます。
    ただし、MMTとて万能ではありません。
    たとえば、インフレです。
    財政支出が増大すれば、インフレになるリスクが高まります。
    2、3%程度の健全なインフレならいいですが、ハイパーインフレになればそれこそ国は危機的状況に陥ります。
    MMTも財政赤字よりインフレに注目すべきだとして、財政支出のキーポイントに挙げています。
    ただ、ひとたびインフレになれば、コントロールできるのでしょうか。
    その点が甚だ心配です。
    MMTが今後どこまで浸透するか、この理論を踏まえた財政運営にかじを切る国は現れるのか。
    注目していきたいと思います。

  • MMTの概要と全体像について分かりやすく纏められている。平易な表現で数式モデル等も使っていないため、理解しやすい。
    近年注目されて、何かと話題にのぼるMMTについて解像度が上がった。従来の主流経済学の考え方とは真逆を地で行く論理だが、個人的に論理が破綻している点は見つけられなかった。
    これに対してどこに懐疑点があり、どのような反論があり得るのかについて今後は調べたい。

    MMTとは何かを知りたい人にとってはお勧め。良書。

  • なるほどMMTの入門書としてはとてもわかりやすいが
    通貨と税の関係がよくわからなかった
    インフレが起きない財政赤字の具体的指標もよくわからなかった

  • 通貨主権国ではインフレの起こらない限り通貨を発行して国民を助けることができるという現代貨幣理論( MMT )について書かれている。各自治体や家計とは異なり、通貨主権国の支出を税金によって賄う必要はない。通貨発行の制限は財政赤字ではなく、あくまでインフレであるということが記されている。日本はデフレの状態であり、 MMT を適用すればまだまだ国民を助けるような財政政策をとることができると思われる。財政赤字は悪だという従来の考え方に縛られている政治家たちにこの理論が浸透し、国民のために積極的な財政支援を実施してもらいたい。経済についての有用な書であるが、同じような主張が繰り返し書かれ過ぎていて少ししつこいと感じたため星 3 つ。

  • たぶん理解しきれていませんが。。。

    MMTに沿った政策が可能なのは、通貨主権が強く、それを支える財を製造できることが必要。つまり、増税や緊縮財政によって経済活動を弱めてしまうことが、通貨主権を弱くし、財政破綻に近づく恐れがあります。

    納得できることが多い理論で、素晴らしいですが、うまく現実に適用できないんじゃないかと思います。
    高い理解度が求められ、実行には難しすぎるんじゃないかと。

    この本を読んだうえで、現実にうまく適用できるのか疑問に思ったところを記載します。

    ○過剰な支出の証拠はインフレである

    この主張は不十分に感じます。
    たしかにインフレになったときには過剰支出の証拠にはなるでしょう。
    しかしインフレになっていないとき、過剰な支出の証拠がないだけで、過剰支出でないことの証拠ではありません。
    「証拠がないこと」は「ないことの証拠」にはなりません。

    また、インフレが支出過剰に対して遅れてやってくるのならその「証拠」を理由にしてもいいのでしょうか。
    また、インフレになれば増税をすればいいと言われますが、こちらも遅れて効果が現れるのなら、ある程度犠牲の上に成り立つことになります。

    インフレのコントロールについて、リスクを負う理論だと思います。
    勢いのあるインフレで困る人が出てくる覚悟が必要かと思いました。

    本書にもある通り、「全体として経済のバランスがとれるように財政を運営することが目的」で、常に均衡財政が正しいと思いませんが、絶妙なバランス感覚が必要だと思いました。

    ムツカシイ。

  • ここ何年か、少なくとも二人のクリエイターが論拠不明な国家財政に対する主張をするさまを観測した。
    「政府は信用を創造できるのだから貨幣をつくれ。とにかくつくれ。消費税率を上げる必要などない」ということを、声高に。貨幣をいっぱいつくるとインフレになることは経済に疎くても知っている。それを覆す論とはなんぞや。
    論拠不明というのは受け取る側の素養不足で、MMTがそうなのかもしれないとは、本書を読んで思い至った。

    著者自身、MMTにはまず否定的な態度で臨んだという。本書の体裁は、経済学の自説解説というよりはエモーショナルな主張なので、著者のその態度については立場を理解する程度に留める。
    その態度を踏襲して読み進めたが、4章までは、著者がつらつらと訴えてきたことに対して、説明のない飛躍があって結論に至るということを繰り返しているように感じられ、どうにも肯定的な印象を受けない。
    最終章で「合法的な滞在許可のある外国人にも就労保証がなされるべきである」という筋の悪さを見せ、これはリベラルの一派ではないか、サイタマ系クルド人のような寄生者のための論なのかという疑念を抱くに至り、まじめに読むべき本ではなかったという結論を得た。

    環境保護が経済主義の一種であるとしてCiv4に実装されているが、学説にエコや差別を混ぜて語るあたり、おキモチであり学問ではないと思わせる。
    文系の学問は哲学・宗教と区別がつかないことがある。特に経済学は学の字を外して思想の段階に留めるべきだと強く思う。仮説とか言ってカッコつけるのもダメだ。だって脳内妄想じゃん?
    「トリクルダウンは間違ってました」と認めはしたが、責任は問われない。理系の学問の成果にはなされる責任の追求がない。カタチがないから? 使う方も評価する方も幼すぎる。学問というにはあまりに稚拙すぎる。

    この読書に良い点があったとすれば、過去に読んできた本の内容を思い出させてくれたこと。これまでに得た知見をある程度まとめる役割を果たしてくれたこと。2020年時点のアメリカ経済について教えてくれたこと。
    日本の経済は、どの筋の外国からかは不明だが、消費税率上昇など、日本政府の舵取りが間違ってるがゆえに衰退していると見られている。本書はアメリカの経済を主に扱っているが、アメリカ政府の舵取りはどこかで見たような印象があり、つまりは日本はアメリカのやり方を踏襲しているようだと思える。富裕層への忖度だ。
    「年寄りが金を持っている」と言い、世代で分断を測るべく誘導している輩がいるが、分断があるのは世代ではない。比較すべきは世代ではなく、世帯だ。この分断を唱えるものは信用してはならない。金持ちである自分を守るために、自分を若者に分類して、年寄を攻撃する輩は。

    『幻想の経済成長』という書籍において、次のような著述がある。
    「実際に起きた最悪の事態とは、金融システム全体が崩壊寸前に陥った結果、金融メルトダウンの進行を阻止する最終手段として、数千億ドルもの税金が救済策に投じられたことだった。これまで何度も指摘されているように、金融業とは富裕層にとっては社会主義だが、それ以外のすべての層にとっては資本主義なのだ。」 P.92

    誰得な舵取りなのかという疑問に対しては、まさにこれ。
    投資という常態バブルが存在する以上、世界はまっとうに平等になることはありえないと思えば、MMTのような甘い蜜を垂らす論に騙されてみたくもなる、ということは理解できる。

    同書はまた、資産を考慮すべきだとも述べている。
    赤字財政、国債、借金、その反対側になにがあるのかを考えよ、と。公共事業で道路が作られたのなら、負債の反対側には道路という資産があるはずだ。

  • ・政府の借金はインフレをもたらさない限り問題ではない
    ・即ち自国通貨を持つ国にとって政府支出が過剰かどうかを判断するバロメータは、赤字国債の残高ではなく、インフレの程度である

  • 【所蔵館】
    総合図書館中百舌鳥

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000951802

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