ニッケル・ボーイズ

  • 早川書房
4.02
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152099785

作品紹介・あらすじ

1960年代アメリカ。アフリカ系アメリカ人の真面目な少年エルウッドは、無実の罪により少年院ニッケル校に送られる。しかし校内には信じがたい暴力や虐待が蔓延していた――。実在した少年院をモデルに描かれた長篇小説。ニューヨークタイムズ・ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の代表作『地下鉄道』は歴史改変小説という特殊なジャンルだった。そのためかなかなか世界観に馴染めず、先に実話を基にした本書から取り掛かることに。

    読むだけの充実感がある反面、重い…。目に見えない重しがのしかかってきているようで、読み終えた瞬間に思わず息を吐き出した。
    史実(それもつい最近明るみになった)とフィクション・過去と現在が巧妙に入り混じり、特に第三部からのストーリーの進め方には度肝を抜かれる。恐らく読後、一部の章を読み直さずにはいられなくなるだろう。
    『地下鉄道』よりこちらの方が自分の肌に合っているかも。

    「侮辱されるたびに野垂れ死にしそうな気分になっていたら、日々を生きていくことはできない」

    舞台は1960年代前半のフロリダ州。アフリカ系アメリカ人の聡明な学生エルウッドは祖母との2人暮らし。ある時大学進学に向けてのチャンスに恵まれるがそれも束の間、無実の罪でニッケル少年院に送られてしまう。
    少年院を出るには院内にて善行を積み、ポイントを稼いでいかねばならない。加えて、院内で横行する暴力や虐待に耐えてゆかねばならない。地獄のような日々の中、エルウッドはターナーという少年と出会い次第に友情が芽生えていくが…。

    「少年たちは、あの学校に潰されさえしなければ、いろいろな未来に進むことができた。[中略]彼らには平凡であるという単純な喜びすら与えられなかった」

    第一印象としては『ショーシャンクの空に』の少年院ver.っぽいと思ったが、精神が未成熟であるが故に彼らの恐怖がより身に染みて伝わってきた。(男同士の固い絆と収監された場所が「名ばかり更生施設」であることは共通していると思う) 用務員による壮絶な虐待により最悪の場合命を落とすことも少なくなかった。
    これは何と近年閉鎖したアメリカの男子学校がモデルで、本書に登場する独房や拷問部屋も実在していたという。
    本書では日常の一コマであるかのように描写されており、憤りよりもまず不気味さを覚えた。

    「みんなが目を背けているということは、みんなグルだということだ」

    学校の閉鎖に伴いようやく暴力・虐待の告発がされたというが、近年のヘイト事件を見る限りこうした問題は解決の兆しすら見えていない。差別意識はアメリカ国民の中にDNAとして刻まれている。更に差別された側には恐怖も刻まれる。
    エルウッドは元々公民権運動に関心のある学生で、序盤では黒人デモにも参加していた。しかしニッケルでの体験を経て、後半では白人に助けを求めるようになる。「究極の良識」が人々の心に刻まれていると信じ、望みを賭けたのだ。

    今思えば「外に味方がいるエルウッドだから踏み出せた」とも言える。
    でも人種を問わず世間の誰かが「おかしい」と共感してくれるだけで、その人の「究極の良識」を信じてみようと思えるのかもしれない。「自分には味方がいる」と思えれば、行動する勇気が湧いてくるのかもしれない。
    つまりは、まだまだ綺麗事を諦める時ではない。

  • 小説だけれど、事実を基にしている。2011年まで運営されていた少年院が舞台。主人公は何の罪も犯していない。ただ運が悪かっただけ。世界は変わると信じている。彼が、アフリカ系アメリカ人が、理不尽のただ中で生きていくことの苦さで、胃の腑が捻り上げられるよう。それでも、言葉の力が本を閉じさせない。
    物語の仕掛けが明かされたとき、それまで主人公エルウッドに絞られていた焦点が、一気に、理不尽に傷つき生きてきた人たち皆に合っていくような気持ちになる。
    人間はいつでも醜悪になれる。忘れてはいけない。

  • ラストも大体予想通りやったし、目新しくはなかったかな。

  • 『地下鉄道』でピューリッツァー賞フィクション部門含め様々な文学賞を総嘗めしたコルソン・ホワイトヘッドが、再びピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した作品。
    『地下鉄道』が強烈な作品だったため、さすがに前作は超えられないんじゃ、と勝手に訝って発売から大分経ってから読んでしまったが、これも力強い傑作だった。
    黒人の差別の歴史はずっと続いているが、BLM運動が起きていた発売当時に読んでいたら、もっと印象深い読書体験になっただろうな、と少し後悔した。

    本書は実際に起きたドジアー校という更正施設での虐待事件をモチーフにしている。
    ニッケル校という少年の更生施設近くの土地から遺体が次々と発見される。
    かつてニッケル校に在籍したことのある主人公のエルウッドがニッケル校に送られるまで、送られてからの生活、そこから出るまでが描かれていく。のだが、後半のある部分で仕掛けが施されてる。その仕掛けがあまりにも辛くなるものだった。
    文学的に、こういう仕掛けは決して新しいものではないのだが、これが黒人の差別、その差別には黒人が自由になった時期よりも長い奴隷としての歴史、迫害、差別の歴史があるのだとわかっていると、この仕掛けにどういう意図があったのかが見えてくる。
    自分は、これは決して忘れないというバトンであるという気がした。

  •  有色人種差別の風潮が色濃く残る1960年代のフロリダ州で、アフリカ人の血を引く高校生のエルウッドは、大学進学の日に無実の罪で少年院ニッケル校に入れられてしまう。
     ニッケル校では看守たちによる不正と虐待が横行しており、エルウッドは早くも不条理な暴力にさらされるが、それでも尊厳を失わずに非暴力で人種差別のない世界が来ることを信じ続けていた。
     本書は、ある少年院の跡地から多数の少年の死体が発見されたという実際の出来事から発想を得たという。絶対的な権力に屈するあきらめ感や暗黙のルール、絶望的な状況で生まれる復讐心とかすかな友情など、どこまでがフィクションなのかわからないほどリアルに校内の虐待とそれに耐える少年たちの姿を描いている。
     ただ、実際に起きた出来事にとらわれすぎたのか、少年院に入れられてからのストーリーはリアルな描写のわりには予想通りというかやや平板で、ラスト近くで明かされる真相も取ってつけたような感じだった。
     主人公のエルウッドが地元のホテルで働いていた頃の百科事典のエピソードや、祖母と暮らしていた頃の世間の空気感に引き込まれたのと、前作の『地下鉄道』のような波瀾万丈さを期待してしまったので、よけいそう感じたのかもしれない。
     前作に続くピュリッツァー賞受賞も、本書の出来というよりも、事件に対する白人側からの贖罪の意味が込められているのではないかと、なにかモヤモヤしたものを感じる。

  •  以前に「地下鉄道」を読んでファンになったコルソン・ホワイトヘッドの新作。本作も前作同様にアフリカ系アメリカ人の人種差別がテーマで重たいけれどもエンタメとしても楽しめてオモシロかった。表紙がめっちゃかっこいいのでモノとしても最高。
     優秀で勤労勤勉なアフリカ系アメリカンの若者が大学へ行こうとした矢先、半ば冤罪のような形で少年院(ニッケル)へ投獄され、そこでの生活が中心に描かれる。入所前に公民権運動の最前線を目撃したりマーティン・ルーサー・キング牧師の演説をレコードで繰り返し聞いたり。単純にかしこくて真面目というだけではなく志が高い。そんな若者が自らの正義を貫いたにも関わらず少年院の管理者からの暴力に苦しむ姿が辛かった…さらにその不条理の世界へと順応していくのも辛い。キング牧師が非暴力での抵抗、敵を愛せと説いた言葉が、圧倒的な理不尽と暴力の前では子どもにとっては空虚なものでしかないのが痛烈だった。このラインとか特に。

    彼らには平凡であるという単純な喜びすら与えられなかった。レースが始まる前から、すでに足を引きずってハンデを背負わされ、どうすれば普通になれるかわからずじまいだ。

     ところどころニッケル時代を回想する大人になった主人公の視点も入ってくるので、主人公がなんとか生きて脱出できたことは分かる作りになっている。したがって、読んでいるうちはこの地獄もいつか終わるものと思って読んでいた。しかし、思いもしない展開が用意されており終盤はページターナーっぷりが加速していった。序盤の伏線をめちゃくちゃ鮮やかに回収するラストの描写が圧巻だった。「来ないと思っていた未来が今ここに!」という感動が静かに立ち上がる。その時代を生きていない人間でもそれを体験できるのはフィクションだからこそ。本作は実際の少年院での虐待事件をベースに描いているので、それを広く知らしめるノンフィクションとしての機能も持ち合わせている。さらにはエンタメとしての魅力もバッチリなので非の打ち所なしの傑作!

  • 事実に基づく小説ということだけど、なんか信じられないくらい凄惨だな。この国的に言うと本来は矯正施設である「学校」という場所をいい年した大人たちが私利私欲のために「生徒」たちのその尊厳を踏みにじることを躊躇していないかのように暴力を振るう。そこに人種差別という腐敗した信条を付加して。犠牲者が浮かばれない。でも、どうして「卒業」した人たちは告発しなかったのだろう。そこのところが読み取れなくて残念だった。

  • いつか再びこの本を開く時がくるだろうという予感がある。なぜなら今回だけではしっかりと理解しきったなどとは到底言えないという確信があるから
    きっとまだまだ気づけてなかかったり体に落ちてない
    魅力というか地獄を目を見開いて覗かなくてはならないと思うことになるのだろう

  • 繰り返し、世界の発信されてきて、今なお光が見いだせていない黒人差別。「地下鉄道」と同じ筆者?と感じる程に抑制された文体の謎が巻末説明で納得できた。圧倒されるのは、その抑えた空気故に地下で炸裂して迸るエネルギー。リアルという事実に勝るものはない。

    ホワイトヘッド50歳半ば、藤井氏40歳半ば、何れもアブラギッシュの人物が取り上げて世に問うているものはあった!

    アフリカにれてきて、今なお光が見いだせていない黒人差別。「地下鉄道」と同じ筆者?と感じる程に抑制された文体の謎が巻末説明で納得できた。圧倒されるのは、その抑えた空気故に地下で炸裂して迸るエネルギー。リアルという事実に勝るものはない。

    ホワイトヘッド50歳半ば、藤井氏40歳半ば、何れもアブラギッシュの人物が取り上げて世に問うているものはあった!

    ヒトの祖は アフリカに現れたという事実はまごうべくもない‥がその後の歴史、特に新大陸発見からの怒涛の時間は彼らを蹂躙して余りある。特に新大陸アメリカ、今日の姿になるまでに白人が流した「生贄の血」
    代償となった彼らの叫びは未だに他民族寄せ集めにすぎぬかの地で日の光の下に堂々と続いている・・時には政治の力を持って迄。

    ホワイトヘッドの登場はそれまでキングズ牧師らが築いてきた歴史を繋げる素晴らしいペンの力だ・・頂ける自分に幸せを覚え、更に追って行きたい。

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