地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険

  • 早川書房 (2020年11月19日発売)
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本 ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784152099853

作品紹介・あらすじ

札幌方面西方警察署刑事課勤務の鈴木勢太は小樽市で交通事故に遭い、目覚めると――ロボット掃除機となっていた。こんな姿になっても義父からDVを受けて勢太が保護していた姪を護らなければいけない! 卓抜な着想で選考委員達を驚嘆させた掃除機ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 交通事故で吹き飛ばされて意識が戻ったのが掃除機の中。「自分の身体が黒い円盤状に変身していることを確認、自ら納得、受け入れざるを得ないと悟りを開くまで、約数分間を要し」…え?たった数分⁇こんな風にテンポ良く、次々と迫る難関を突破していく掃除機の冒険!最後まで面白かった!

  • 暴走自動車にはねられた、警察官の鈴木勢太。
    気がつくと、その意識はある機械の中にあった。

    第10回アガサ・クリスティー賞受賞作。

    SF設定を導入したミステリはいくつもあるが、ロボット掃除機になってしまう、というのはなかなか突飛。
    しかも、ロボット掃除機のまま、札幌から小樽まで移動しようというのだから、ぶっ飛んでいる。

    屋外の道路を走行する、ロボット掃除機。
    不審すぎで、はらはらどきどきの旅路だった。

    スマートスピーカーとロボット掃除機の機能を活用しながら、少しずつ状況を打破していく、勢太。
    行く先々で事件を解決してしまうのは、ちょっとできすぎというか、いろいろご都合主義なところが。

    ミステリよりも、ロボット掃除機の大冒険として楽しむ。

  • 本作のMVPは、誰がなんと言おうと「『Eリモ電子』の社長」(p37)でしょう。異論は認める。この社長自身は作中に登場する訳ではなくて物語序盤の述懐の中に出てくるだけなのだが、この人が「ロボット掃除機ランルン」(p15)をこだわって開発してくれなかったら、果たしてどうなっていたことやら。高機能・高耐久を兼ね備えたびっくりメカです。
    とりわけ、「吸い上げたチリゴミを同時に上方の吹き出し口から勢いよく排出する」(p37)社長こだわりの機能については全く意味がわからないし(一応、もっともらしい説明はあるにせよ)現実では絶対に不要な機能であるはずなんだが、これが後々きちんと活きてくるのが良い。
    いや、むしろこの展開・このトリックを成り立たせるべく、そえだ信先生の‘都合’によって搭載された設定なのではないだろうか。聞いた事ないよ、ゴミをクジラみたいに噴出させられる掃除機とか。

    ということで、ひょんなことからロボット掃除機に憑依してしまった刑事の男が愛する娘(血の繋がりは無いが)を守る為に、札幌から小樽を目指すロードノベル。
    最初の密室脱出から既に大変なんだが、道中何も起こらない筈もなく。子どもに拾われたりおばあさんに拾われたり、さあ大変。
    降り掛かる苦難を機転と機能で跳ね返して、ボロボロになりながら小樽へ突き進む姿を想像すると感動。
    最後はああなっちゃったけど、ちゃんと回収されていたらいいな。


    間違いなく設定が唯一無二の作品であると思うし面白いけれども、最初の密室の謎そのものはちょっと考えたら解けちゃうくらいめちゃくちゃシンプル。あと、最初に主人公を車で轢いた高齢男性が実は物語に絡んできて…みたいな発展が無かったのは正直残念。
    主人公の意識がなぜこの掃除機に宿ったのかに関しても、実は何らかの因縁があったり…等の驚き要素が設定されていたなら尚良かったかな。


    1刷
    2025.5.30

  • 第10回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。
    アガサ・クリスティー賞は2010年に新設された、英国アガサ・クリスティー社公認のミステリ賞だそうである。
    そう、何だか不思議なタイトルだが、本作、ミステリなのである。
    但し、ちょっと変わっている。何といっても探偵がロボット掃除機なのだ。丸っこくて自走式、ウィンウィンかたかた進みながら、ゴミを吸い込んでいく掃除機。「ルンバ」が一番知られているけれど、国内メーカー産などもある、あれである。
    とはいえ、ロボット掃除機に実は心があり、という話ではない。若き警官、鈴木勢太が、自動車事故にあった拍子に意識が飛び、次に気がついたら「ロボット掃除機になっていた」のだ。
    えーと、何だそりゃ!?の展開なのだが、ここで理由を考えても仕方がない。
    ともかくも勢太はロボット掃除機になってしまった。そればかりか隣の部屋には中年男性の死体があることがわかった。その上、勢太にはある気がかりがあり、どうしても今いる(掃除機がある)札幌から小樽へ向かわなければならない事情があった。
    札幌・小樽間、約30キロ。ロボット掃除機の時速1.8キロ。
    掃除機は地べたを旅立ち、遥かなるかなたを目指す。
    ・・・とりあえず、中年男性死亡事件の解決の糸口を見つけ、それからドアや階段を乗り越える必要があるのだが。

    掃除機は札幌の小さなメーカーが製造したもので、他にはない一風変わった機能も搭載されていた。掃除機の内なる頭脳となった勢太は、そうした独自機能やWiFi接続機能を駆使していく。インターネットで情報を集め、メールで同僚に事件を知らせ、チャチなマジックハンドでドアを操作し、悪戦苦闘である。何だかいじましい努力の末、ようやく旅が始まる。
    とはいえ、その先も災難続き。自転車にはねられ、子供に拾われ、老夫婦の家に閉じ込められる。そのたび、子供がネグレクトを受けていたり、老女が戸棚の下敷きとなったりといった事件や事故に頭を悩ませる。挙句に合間には充電だって必要なのだ。

    さまざま難事を乗り越えて、それでも小樽を目指すには理由があった。
    亡き姉の娘、朱麗を、姉の元夫(朱麗にとっては義理の父)から守らねばならないのだ。元夫はDVのため、朱麗に対して接近禁止命令を受けていたが、勢太がいないとわかれば取り戻しに来るに決まっている。急げ、勢太、いや、ロボット掃除機!

    旅路はたどたどしく覚束ない。
    考える時間だけはある勢太は、中年男死亡事件について推理を巡らせる。そしてまた、姉の死亡の謎も徐々に解きほぐされてくる。
    勢太は無事に朱麗を救うことができるのだろうか。

    ミステリとして非常に上質か、と言われると、そうとは言い切れない。
    いずれの事件も手掛かりが少ない上、大部分、勢太の推理が展開されるのみで、事件解決のカタルシスは強くない。真相はそうかもしれないけれど、本当にそうなのかという疑念は残る。
    けれど、「掃除機になってしまった」という不条理をものともせず、愛する姪っ子のため、ちまちまと不器用に頑張る勢太=掃除機の姿に何だかほだされてしまう。このまっすぐさ、著者さんは若い人なのではないかな・・・。
    読み心地は決して悪くない。

    『掃除機探偵の推理と冒険』と改題し、文庫化されているそうである。
    なかなかの佳品として楽しんだ。

  • 交通事故に遭った刑事の意識がなぜかロボット掃除機に宿り、自分が保護している姪の元まで旅をする話。そもそもなんでロボット掃除機?かは不明。ネットにつないで状況把握できたり、怪しいメールで同僚を動かしたりすることで、目的達成へと進む。途中、関わった人たちとのエピソードを挟みつつ。老夫婦の察しの良さと行動力は都合良すぎるのではないか。それを言ったら、そもそもこの物語自体荒唐無稽なのだが。

  • 2020年10月第10回アガサ・クリスティー賞受賞作に加筆修正し、2020年11月早川書房刊。インパクトのあるタイトルと帯に惹かれて手に取りました。巻末にある受賞時の選評にあるように、アイデアが秀逸で、テンポの良い展開も面白く、ラストも楽しく、上出来の作品です。掃除機の視線と推理も興味深く、最後まで楽しい思いをしました。

  • アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。交通事故に遭って意識を失い、気づいたらロボット掃除機に憑依していた主人公。大切な家族を守るため、掃除機に搭載された機能を駆使して旅立つものの、さまざまな障壁に行く手を阻まれそれを乗り越えようとする姿はユーモラスでありながら感動的。とんでもない設定に驚かされ、とにかく可愛い作品です。いやほんと、可愛いんだってロボット掃除機が! すんごく健気に頑張ってるのがもうたまりません。
    一応ミステリとしての核は密室殺人。なのだけれど、その部分は案外あっさり。でも物足りなさは感じません。道中で出くわす事件を解決するさまも充分面白いし、なんといっても機能をいかに使いこなして問題を解決するのか、という部分もある意味謎解き。「掃除機になんでそんな機能が搭載されてるんだ! 要るかそれ?」と序盤にツッコミまくったあれやこれやが全部生かされてくるんですよ。愉快でたまりません。
    老夫婦とのくだりが良いなあ。とてもほっこりして素敵。そしてラストの対決シーン、緊迫感がものすごいのだけれど、いろいろ企んで動くロボット掃除機がやっぱり健気で可愛いのです。ものすごーく応援したくなりました。

  • 面白かった。まさか憑依するのが掃除機に、だなんて…。
    すこしまどろっこしい表現が続くところもあるけど、先が気になってサクサク読める、他の人に勧めたい本だ。

  • 猫の視点になる話や、虫になる男の話は読んだことがあるけれど、AI搭載の掃除機ロボに憑依する話は読んだことがなく、新鮮でした。

    ミステリ&ロードノベルといった内容です。

    突如事故に遭った警察官の男性が、自分の義理の娘の危機を救うべく、機械の体で懸命に目的地まで地べたを這いずりながら進んでいきます。

    うちにもルンバがおりますが、このお掃除ロボが歩道を走ったり、国道を走ったりしていたらハラハラしてしまうと思います。
    決して頑丈ではない身体で懸命に小学五年生の娘の元へ走るのですが、とにかく無茶な旅をどう完遂させるのか、そして密室事件の謎もそのままに、義理の娘の母の死因の謎、娘をどう救うのか、など問題が山積し、読み手を飽きさせない内容です。

    発想が斬新ながらも、ユーモアと程よく堅い文体で、掃除機になってしまうという前提以外は、そこまで突拍子もないことも起こりません。
    論理的に、明瞭に状況を分析しながら、掃除機の体でできることを一つずつやっていく地道な作業がなかなかに楽しかったです。

    掃除機になりたいという人はあまりいないと思いますが、だんだんと掃除機の体に愛着が湧いてくる不思議。
    もともとルンバみたいなお掃除ロボって不思議な愛嬌があるので、不思議と脱力してしまうような雰囲気もあります。内容は緊迫感があるけれど、そこまで息をつめなくていいのも、読みやすかった要因だと思います。

    それと、回想がところどころ入るのも上手いと思いました。
    ミステリ部分はさほどすっきりしませんが、ストーリーがとても面白かったと思います。

  • 事故に遭った刑事の意識がルンバ的自動掃除機に宿り、道道事件を解決しながら家族の元へと旅をする!
    受賞時にあらすじを聞いて、これは読まねばと思ったよね!
    何て発想!
    読んでいて、低速で懸命に夜の路地を走る掃除機の姿を思い、愛おしくてならなかった…。
    色々と都合が良すぎるところはあるのだけど(でないと成り立たないよね(笑))、面白かった。
    ただ、子育てやその世代に関してちょっと時代遅れ感がある。
    途中で出会う母親、この年代で今時こんな喋り方しないと思う…。
    そして一番気になったのが主人公と姪。
    姪に対する愛情はよく伝わるし、親族の中で一番姪のメンタル的に良い行先だったのはわかるけど、小学生が自分と叔父が栄養不足になるのを懸念して料理を始めざるを得なくなるのを、いい話にしないで欲しい…。
    そんなこともあり、少し人間の描き方が雑な印象だった。

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