三体III 死神永生 下

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100214

感想・レビュー・書評

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  • 【読もうと思った理由】
    元々ミステリーを中心に小説を紹介しているYouTuberさんが、ほぼ全員絶賛していたので、文庫化になったら購入しようと思っていた。ここ数ヶ月で知ったことだが、図書館で予約していたら、文庫化されるよりも早く読めることを知り、読むに至る。

    【作者 劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)について】
    山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短編を執筆。「三体」が、2006年から中国のSF雑誌《科幻世界》に連載され、2008年に単行本として刊行されると人気が爆発。「三体」三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は、全世界で2,900万部以上を売り上げた。中国のみならず世界的にも評価され、2015年にはアジア人初のヒューゴー賞を受賞。日本でも2019年の発売後、シリーズ累計47万部突破。

    【ヒューゴー賞ってどんな賞?】
    ヒューゴー賞(The Hugo Awards)は1953年に創設された世界で最も権威のあるSF賞で、前年度に英語で発表された作品や活動が対象になり、アメリカで主催される賞である。

    【あらすじ】
    物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。数十年後。ナノテク素材の研究者・汪森(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体“科学フロンティア”への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象“ゴースト・カウントダウン”が襲う。そして汪森が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

    【感想】
    正直に言うと、全5冊のうち、5冊目の後半までは、長すぎるので、退屈に感じるところも多々あり、中々読むスピードが上がらなかった。だが最終巻の残り100ページからの作品の出来があまりに素晴らしく、今年読んだ小説の中で、読んで良かった小説としては現在トップである。それほどラスト100ページが引き込まれるし、感動的だ。

    読了後、ブグログで皆さんの三体の感想アップ数を見てみると、シリーズ1冊目の感想をアップした人の数と最終巻のアップした人の人数を比較すると、1/4程に減っていたので、約75%の人が最終巻の最後の結末まで辿り着かずに、読了を諦めた人なのかなぁと。
    正直、凄くもったいないなぁと思ってしまう。なぜなら僕も、途中で投げ出してしまおうかなと一瞬思ってしまったからだ。
    だが残りの100ページでそんな気持ちを払拭してくれるパワーと筆力があるのだから、僕の様に、特別SF好きでない方にも是非挑戦して頂きたい作品だ。
    注意点としては、5冊あるうちの1冊目が、物理用語や中国の歴史や中国の人名など、普段あまり触れない用語が多数出てくるので、そこで読むのを諦めてしまう方が多いのかなぁと。
    2冊目からは、作者もインタビューで言っていたが、SFファン以外でも楽しめる様に、かなり読みやすく工夫してくれたらしいので、ぜひぜひ最後まで読んでいただきたい。想像を超える感動するラストが待ってくれているから。
    ※内容を少しでも書くと、作品の性質上どうしてもネタバレを含んでしまうので、今回の感想はここまでにします。

    【雑感】
    傑作ではあったのだが、5冊もあると流石に疲れた。なので次は一冊で完結してくれている、2022年本屋大賞1位の『同志少女よ、敵を撃て』を読みます。

  • 分厚い本を6冊読んできて、最後がこういう終わり方とはなあ。宇宙が収縮して、またビックバンが起こるのを見届けるなんて、とんでもない。いろいろ提起されてきた問題が棚上げされちゃったよ。雲天明が提供した小宇宙って何?でっかい風船についたこぶみたいなもの?マルチユニバース?はっきり言って、この提供は生物体には無理でしょ。雲天明のおとぎ話はとても面白かったし、そのメタファーを考えるところは、ぐいぐい読ませるし、その後の人類の対処方法など興味深かったけどね。物理学には、詳しくないので、最後は結構理解が難しかったよ。

  • 三体シリーズの完結編。
    壮大なストーリーだったけど、次元攻撃など少し難しさもあった。

    個人的には三体Ⅱ上〜三体Ⅲ上までの三体文明と人類の戦いが1番おもしろかった。
    三体ロスになっているので、三体Ⅰの前の世界を描く三体0も読んでみたい。

    長編小説やSF小説を読みたい方には三体はおすすめです!

  • ようやく読み終わりました。。。
    結論、とても面白かったですが、よく分かりませんでした。
    すみません。

    シリーズ通して、とにかくスケールが大きいのが特徴的で、あっという間に100年経って、あっという間に宇宙にいたりします。
    難しいことは全く分かりませんが、根本には"三体"的な構造が常にあり、その中での情勢が描かれているというのがひとまずの理解です。
    作中では、現在の地球や我々よりも格段に発展した地球や人類や他生命体が登場しますが、最後まで読んで思ったことは、これらは自分の人生には全く影響しないということです。(関一帆が数億年前のことを心配するような描写がありましたが、そういう意味合いで、です。)
    とはいえ、考えずにいられないのもまた事実であり、それがSFの面白さなのかもしれません。

    智子が程心に言った、
    「あなたはいまもまだ、責任のために生きているんですね」
    が色んな意味で、自分にとって、とても印象的な言葉になりました。

  • kuma0504「三体が終わっちゃいましたね」

    SFファン「終わっちゃいましたね」

    kuma0504「どうでした?」

    SFファン「素晴らしかったです!ヒューゴー賞、星雲賞ダブル受賞は伊達じゃなかった」

    kuma0504「うん、素晴らしかった。重大なネタバレを避けながらあらすじ紹介するのは難しくて自信ないけどやってみます。
    文化大革命で人類に絶望した葉文潔が発信した信号のために、地球文明を遥かに凌駕した文明を持つ三体星人の艦隊が400年後に地球征服のためにやってくることが明らかになる。というのが第一部。
    相対する人類は地球連邦政府を作ってざまざまに対応するけど、ことごとく失敗する。羅輯が起死回生の手段で一旦成功するのが第二部。
    第三部では、成功して抑止紀元が(西暦に換算すると)2208年に始まるけど2270年に破綻、2年の混乱を経て人類の生き残りをかけた計画が始まる。ハン体紀元が2333年より。そして2400年に思いもかけない展開に。実はそこで終わらずに、暗黒領域紀元が1800万年という途方もない時間が続き、それでさえも終わらずに‥‥」

    SFファン「おゝなかなかストーリー紹介の匙加減が難しいですね。1800万年ですか‥‥」

    kuma0504「言いすぎたかな。でも、言っとくけど、400年後以降まで描いているからと言って、ハッピーエンドじゃないからですね」

    SFファン「いや、あれは悪いエンドじゃない気がする。むしろハッピーエンドでしょ」

    kuma0504「それは人によって違うでしょうけど、私はむしろバッドエンドだと思います‥‥」

    SFファン「訳者の大森望さんは小松左京「果てしなき流れの果てに」や光瀬龍「百億の昼と千億の夜」を引き合いに出していたけど、私も読んでいる間中、アレをもう一回読みたいと思いましたよ」

    kuma0504「三体というメインテーマがあるのにも関わらず、途中で三体星人はフェイドアウトしちゃうし、でも最後で少し出てくるんですけどね。それでも三体という星人は智子という魅力的な助演女優賞もののキャラを生んだのだからよしとすべき。彼女はほとんど映画「キルビル」キャラですよ。劉慈欣の凄いのはそういうオタク心をくすぐるキャラを所々配置していること。第三部では「風ともに去りぬ」も重要な台詞とともに出てきた」

    SFファン「主演女優賞はなんといっても程心です。彼女の咄嗟の2度に渡る選択が、人類をとんでもない運命に引き入れていくかのような物語になっている。とんでもない美女のようですし、映画化が楽しみです」

    kuma0504「映画化と言えば、コレは一体どういう映像になるんだろうかという場面が十数ページに一回はありますよね。(上)では、なんといっても水滴対地球連邦艦隊との無慈悲なまでの戦闘を、それでも映像で見てみたいし、(下)ではサッパリ分からなかった色々な物理現象を、「あゝそうだったのか!」と納得させて欲しい」

    SFファン「ふふ、君はホントに理系関係に疎いからね」

    kuma0504「ほとんどがそうだと思いますよ。でも理系関係なくて、おそらく哲学的問題で、しかも作品の根本部分で、私は納得いっていない点があるんです」

    SFファン「ああ、君が第二部から言っていたあの問題だね」

    kuma0504「いやいや、第二部で言ったのは、三体シリーズ全体が中国共産党(三体)と中国知識人たち(主人公)の歴史のメタファーなんじゃないか、という仮説なんですが、全体が共産党批判になっていないからこそ劉慈欣は現在中国のあらゆる公開の場所で自由に動けているようだし、第三部では共産党批判の片鱗さえ見れず、かえって中華思想が所々見えたし(博愛思想も見えたけど)あの主張はとりあえず取り下げます。
    ‥‥そうではなくて、問題にしたいのは黒暗森林理論です。それこそ詳しく話すとネタバレに抵触するので難しいんですが、宇宙は実は手探りの暗黒森林みたいなもので、文明を持つ星は他の文明星を見つけ次第、自らが殺されないために相手を抹殺しないわけにはいかない。よって、自分の星の座標を相手に知られることは、自殺行為である、ということです。話し合いは話し合いが可能な距離にあるから可能なのであって宇宙はそうではない。という理論です。つまり宇宙弱肉強食本能論ですね」

    SFファン「ホモサピエンスは弱肉強食本能は持っていない、と主張している君には肯定し難い理論だろうね」

    kuma0504「いや、本能を持っていないゴリラだって、相手のゴリラを殺す場合があるんです。本能というのは違うかも知れない。暗闇で相手が武器を持っていて、交渉出来ない場合は、殺し合わざるを得ない、特に相手の武器が進歩しない間に先制攻撃しないと自分が必ず殺されるという理論なんです。そこまで未来予測ができるのならば、私は先制攻撃よりももっと他の手段があるように思うんです。ここに出ている暗黒領域防衛もそうなんですが、もっと効果的な防衛手段もあるはずなんです。「銀河英雄伝説」に出てくるイゼルローン回廊は、そこだけがある星域に行くための関所になっているのですが、あれは自然にできた回廊だったのですが、それを人工的に作るとか‥‥」

    SFファン「おっと、ここで銀英伝が出てくるのか。確かに、今までの理論をどんどん覆してゆくのが、この本の魅力だったのだから、その理論を覆すことも可能かもしれないね。いやあ、もっといろんな人とネタバレありで語り合いたくなる作品だったね」

    kuma0504「作品に刺激されたトリビュート版も近々刊行されるようだけど、完結した以上、全てを図入りで解説して、完全年表も作成したムックを先に出して欲しい。それを叩き台に私のような無知なもんでも十分語り合えるようにしてもらいたいと思います。お願いします、早川書房さん!」

  • 最高に面白い「三体 死神永生 」だった。
    とにかくアイデアが豊富で宇宙に関する疑問に、あり得るかもしれない答えを提示してくれた。裏付けする物理知識も交え、納得しながらいつのまにか完読。
    宇宙の終わりを冷えた膨張か、ビッグクランチかそれを決める判断に人間が絡む最後はすごい、すごいと拍手喝采!
    こうなるとXも0も読まないわけにはいかない。

  • ブ、ブ、ブラヴォー、ブラヴォー、ブラヴォー!!!!!

    まさに本三部作にはこの「ブラヴォー」の一言しかないですね。

    もう、スタンディングオベーションが止まりませんよ。

    この壮絶なスペースオペラ。
    僕ら人類が今、この瞬間に、この場所に存在している、この地球という星自体がすべてにおいて奇跡なのだろう。

    この宇宙には数限りない知的生命体が存在しているのかもしれないが、この瞬間に同時に存在しているかというとそれは疑問だ。

    僕ら人間の歴史だってアウストラロピテクスの時代を含めてもたったの600万年しか経っていない。人間が宇宙を観測し始めたのはどんなに早くてもここ1000年程度の話だろう。

    だって考えてみてよ。
    飛行機が発明されたのだってたったの100年ほど前の話だ。
    それがやっと月に行き、同じ太陽系の火星の観測をじかにやり始めようとしたばかりだ。

    こんな年月は宇宙の誕生から考えればほんの一瞬でしかない。
    ましてや人間の一生など、それこそ塵芥の世界の話だ。

    そんな地球人類がこの数十億年を超える時間を刻んできた宇宙にパッと発生し、そして、どこかほかの宇宙の場所で同じような知的生命体も同じように、同じ時間に存在しているなど、もう奇跡以上の話だろう。

    ああ、この3部作を読み終わってしまい、一番感じたことは
      もっと永く生きて宇宙のことをもっともっと知ってみたい
    ということだ。

    この三部作のそれぞれの主人公たちは僕ら人類の代表だけれども、決してスーパーマンではない。
    誰もが思い悩み、自分の選択に自信を持てずにいた。

    それが人間というモノのあり様なのだろう。

    本当に素晴らしい物語だった。
    こんなに手に汗を握り、ページをめくったSFは初めてだった。
    作者の科学の知識もさることながら、このストーリーテリングの上手さ、そして予想外の展開。
    まさにジェットコースター的エンターテインメントの真骨頂だ。

    もうこの『三体三部作』に勝るスペースオペラは今後10年現れないのではないだろうか。

    いやはや。素晴らしい本を読ませていただきました。
    ありがとうございました。

  • 【感想】
    あたまがパンクしそうだった。
    本書のあとがきに「既存のSFファン以外を取り込もうとしても無駄なので、ハードコアSFファン向けの純粋なSF小説を書くことにした」とあるとおり、最終章はとにかく冬眠&新時代の繰り返しで、場面転換ごとに新たなテクノロジーが登場する。かといって一つひとつがおざなりにならず、きちんと説明した上で、消化し、次の場面に向かう。そして新時代に突入したと思ったらまたピンチになり、それが繰り返され、やがて世界が一つに収れんされていく。

    これでシリーズが完結したわけだが、全篇を読み通して驚いたのは、劉氏の見識の深さと多芸さである。天文学や量子力学といった分野に精通していることはもちろん、物語を進める上での「ドラマ」をおろそかにしない。一巻の間で予想外の展開をいくつも用意して、しかもそれに対応する解決策を全部取り入れているのが、本当に見事である。脚本家としても素晴らしいし、ミステリー作家としてもいけそうだ。挙げ句の果てには童話も書けるなんて、そんなのずるいと思ってしまった。

    ふつう、ハードコアSFは内容が難解なこともあって、人を選ぶ。しかし「三体」は読者を飽きさせないためのドラマ要素がそこここに散りばめられているため、だいぶ馴染みやすい物語となっている。この「間口は広く、奥は深い」という性質が、普段SFを読まない層にも爆発的にウケた要因だと思う。

    しかし、今後のSFはこの「三体」が基準になると思うと、何とも酷な話だ。
    「三体」レベルに設定を練るのが困難であることはもちろん、ここまで風呂敷を広げられない。現実の科学がフィクションに肉薄してきた今、SFが描き出す世界観もどんどん縮小しているように思える。現実が虚構に追い付いてきたというわけだ。
    そうした状況にあっては、劉氏のような「風呂敷を広げる力」が重要になってくる。もちろん、物語は小さい箱庭で展開したほうが、完成度が上がる。取り回しやすいし、設定上の矛盾も生まれにくい。ただ、やはりそれでは「物足りない」。SF作品を読むならば、宇宙の彼方まで想像力を膨らませ、この世界が本当に存在していると錯覚してしまうような作品に触れたい。そう私は思ってしまう。
    そう考えると、やはり「三体」は頭一つ抜けている。ここまで綿密に練られ、しかも風呂敷を広げまくりながら、「お話」としての面白さを維持してゴールまで突っ走れる作品は、今後もなかなか現れないだろう。

    まさにSFの歴史に名を刻んだシリーズであった。

    ――――――――――――――――――――
    【まとめ】
    天明が程心に語った三つのおとぎ話の中に重要な情報が隠されている。
    しかし、天明の3つの物語には、メタファー、暗示、シンボルが豊富に含まれている。作者が本当に伝えたかったメッセージはどれなのかを判断するのは不可能であり、どの解釈も戦略的な情報とはなり得なかった。

    メッセージ解読が膠着状態に陥っていたのと同時期に、もっと現実的な方向、つまり地球文明を保存する「掩体計画」が誕生していた。掩体計画とは、太陽が暗黒森林攻撃によって破壊された際に生じる爆発を、木星・土星・天王星・海王星の四つの巨大惑星の影に隠れることで回避する計画だ。各惑星外部に人類が収容できるだけの宇宙都市を建設し、太陽爆発によって流れ出した核融合資源を採取しながら生きることになる。

    程心はおとぎ話の一部分からあるアイデアをひらめく。「曲率推進」だ。もし宇宙船が、自身の後方の空間を平らにならして、曲率を減少させることができれば、その船は、曲率がより大きい前方の空間にひっぱられて前に進む。これが曲率推進である。曲率推進を使えば、限りなく光速に近い速度で航行することが可能となる。
    天明は三体文明の光速船が空間曲率ドライブを使っており、それが実現可能であることを伝えたのだ。このメッセージが、人類の宇宙航空技術開発に明確な方向性を与えてくれた。。

    天明が残したメッセージの中のもう一つのピースは、「光の速度低下」だった。真空中における光の速度を太陽系の第三宇宙速度である秒速16.7キロメートルまで落とせば、光は太陽の重力から抜け出せなくなり、太陽系は一個のブラックホールと化す。光速を超えることは不可能なので、もし光が脱出できなければ、なにも脱出できない。太陽系ブラックホールの事象の地平面を超えて、その内側に入ると、もうなにも逃げ出せなくなる。太陽系は、宇宙の他の部分から完全に隔離され、閉ざされてしまうのである。したがって宇宙の他の部分にとって絶対に安全でもある、と証明できる。同時に、外界からの侵入を完全にシャットアウトする防護壁にもなる。
    しかし、地球文明はそのために莫大な代償を払うことになる。太陽系は宇宙のほかの部分から完全に隔絶され、事実上、人類が属する宇宙の広さは、直径160億光年から50天文単位へと縮んでしまう。その世界の電子コンピュータや量子コンピュータがきわめて低速でしか動作せず、人類はローテク社会に戻ってしまう。外の宇宙から自身を隔離することに加えて、みずからテクノロジーを放棄することを意味する。人類は、自分でつくりだしたこの低光速の罠から永遠に脱出できなくなるのである。
    この計画は「暗黒領域計画」と名付けられた。

    曲率推進計画は、曲率推進を使用するとその航跡が宇宙に残ってしまうという問題が生じたため廃止されてしまう。光速船開発が禁止となり、程心とAAは星環グループの経営権をウェイドに譲渡し、冬眠に入った。
    ――――――――――――――――――――――――
    程心が目覚めたのは62年後のことだった。
    目覚めた場所は木星の裏側にある「宇宙都市アジアⅠ」。そこでは抑止紀元よりもずっと前の、まるで西暦時代の町並みと暮らしぶりが広がっていた。人々は掩体計画に沿って、木星の裏側で生活を営んでいたのだ。

    掩体計画と対を成していた暗黒領域計画は、60年に及ぶ大規模な研究においてもなんの成果も出せなかった。真空中の光速度とは宇宙の基本原理のひとつであり、それが変わってしまうなら、宇宙の法則が変わることになる。60年にわたる基礎研究における実質的な成果は、唯一、環太陽加速器の建造だけだった。しかし、加速器の建造が、暗黒領域計画の中でも最大規模の研究プロジェクト「ブラックホール計画」の成功につながったのだった。

    トマス・ウェイドが経営を引き継いだあとの星環グループは、秘密裏に光速宇宙船開発のための基礎研究に精力を注いできた。連邦政府との関係も基本的に良好だった。しかし6年前、ウェイドは突如光速宇宙船の開発計画をオープンにする。この発表によって政府との間に軋轢が生まれ、連邦政府議会は、星環シティと環太陽加速器を連邦政府が接収することと、星環グループと空間曲率ドライブに関する理論研究や技術開発は全面的にこれを停止し、かつ星環グループの今後の活動について厳しく監督することを決議した。星環グループはそれを受けて、星環シティは太陽系連邦から独立し、連邦法の制約をいっさい受けないと宣言した。

    最終的に、星環グループは非合法組織であると宣告されて全資産が没収され、環太陽加速器も連邦政府に引き渡された。連邦宇宙軍は星環シティを長期にわたって占領し、星環科学院および星環技術院を解散すると宣言した。そして、ウェイドをはじめとする星環グループ上層部と、都市自衛隊の300名あまりが逮捕された。その後すぐに開かれた太陽系連邦裁判所の法廷で、トマス・ウェイドは、反人類罪、戦争罪および曲率技術禁止法違反の罪により死刑となった。

    ウェイドの死刑執行後、程心とAAは再び冬眠に入る。

    56年後の掩体紀元67年、程心とAAは目覚めさせられる。暗黒森林攻撃がついに襲ってきたのだ。
    しかし、人々は掩体域に身を隠そうとはしていない。誰もが生気のない目をして、ただ静かに座っている。それは掩体が役に立たないことがずっと昔に発覚していたからだった。

    太陽系早期警戒システムが発見したのは、他文明から発射された光粒ではなく、何者からも干渉を受けずに宇宙で静止する白い紙切れだった。
    その紙切れは物質ではなく、「二次元空間」であった。三次元空間が量子レベルに小さく折りたたまれ、吸い込まれるように二次元空間に落ちていく。最終的には太陽系全体が崩潰ゾーンに入り、厚さがゼロの絵と化す。
    プロセスが完了するまでの時間は8日から10日であり、次元崩潰宙域からの脱出速度は光速を要する。人類が保有するいかなる宇宙船の最高速度よりもはるかに大きいものであり、助かる望みはゼロだった。

    太陽系の最期を前に、程心とAAはルオ・ジーと一緒に、冥王星に保管されていた人類の収蔵品を宇宙に運び出す。二次元化されてぺしゃんこになった太陽系文明が、いつの日か誰かの手によって三次元に復元されることを祈って。
    地球が二次元化され、太陽が二次元化され、いよいよ3人のいる冥王星が二次元化され始めた。
    ルオ・ジーは二人を星環に乗せ、出発を告げる。「どこでもいい。天の川銀河のどこへでも、好きなところへ行くといい。寿命のあるうちには、たぶんアンドロメダ銀河にだってたどりつけるだろう。星環は光速航行できる。人類世界で唯一、曲率推進ドライブが搭載されている宇宙船だからね」

    連邦政府は光速航行の研究を秘密裏に認めていたのだ。ウェイドの死の35年後、レイ・ディアスが超大型水素爆弾で開けた水星の穴の中に基地が建てられ、空間曲率ドライブの研究が行われていた。
    曲率推進の航跡には、空間の構造そのものを変える力がある。折り紙の舟と同じく、第一の光速船の航跡に第二の光速船を置いても、ほとんど進むことができない。光速船の航跡の中で進もうと思ったら、さらに強力な空間曲率エンジンを使用しなければならない。それでもなお、空間曲率推進によって加速することは可能だが、その場合の最高速度は、一回目の航行で出した最高速度よりずっと遅くなる。言い換えれば、光速船の航跡内では、真空中の「光速が低下する」。すなわち、大量の曲率推進ドライブ船によって太陽系を包み込めば、光を秒速16.7キロメートルまで遅くし、暗黒領域を作ることができたのだ。

    程心は、いまになって理解した。地球文明生存の道は、掩体世界、暗黒領域、光速宇宙船の三つだった。このうち、光速宇宙船だけが正しいルートだった。
    もし程心がウェイドを止めていなければ、星環シティはおそらく独立を勝ちとっていただろう。たとえ短期間の暫定的な独立だったとしても、それが曲率推進航跡が持つ効果の発見につながり、光速宇宙船に対する連邦政府の態度を変えさせたかもしれない。また、それによって人類は、千隻以上の光速船を建造するじゅうぶんな時間を持てただろう。そして暗黒領域をつくりだし、この次元攻撃を回避できていたはずだ。
    あのとき、人類は二つに分かれることもできた。星々の彼方に向かって旅立つ者たちと、暗黒領域の中で静かに暮らす者たち。前者は光速宇宙船で太陽系を去り、後者は暗黒領域に留まる。そうしていれば、双方が求めるものを得られた。

    二度も神に次ぐ立場にいた程心は、二度とも愛を理由に世界を破滅の深淵へと押しやったのだ。

    太陽系全てが二次元に飲み込まれ、人類の生き残りは程心とAAのみだ。しかし、死ぬわけにはいかない。人類最後の生き残りとして、「彼」に会う必要がある。
    星環は恒星DX3906に向かって、光速航行を開始した。

    ――――――――――――――――――――――――
    DX3906で二人を待っていたのは、万有引力の乗員であるグァン・イーファンだった。DX3906は一世紀かけてテラフォーミングされており、宇宙服無しでも生活できるようになっている。ただ、この星系は外世界の生命体の航路になっているため、決して安全ではない。

    宇宙には数多の文明がある。中には技術的にほとんど無限の能力を持つ文明もある。そうした文明は、なんの躊躇もなく物理法則を武器として使用する。三次元を二次元に崩潰する技術。低光速ブラックホールを使って敵を永遠に閉じ込める技術。もはや宇宙の法則そのものが、戦争の焼け跡になり、歪められている。戦争前の楽園時代の宇宙は十次元であり、光速はいまよりもずっと速かった。その後次元がひとつずつミクロレベルに封じ込められ、光速も何度も何度も遅くなり、宇宙は今や死にかけている。

    そして、この宇宙には帰零者と呼ばれる存在がいる。彼らは宇宙をゼロ次元化し、宇宙をエデンの園に戻すことを望んでいる。

    天明との再開を前にして、グァンと程心は低光速ブラックホールに飲み込まれた。天明とAAに会うことは叶わなかった。ブラックホールを抜け出した二人はプラネット・ブルーに着陸する。ブラックホールに飲み込まれてから、1890万年の時間が経っていた。
    プラネット・ブルーで天明とAAの痕跡を探していた二人は、あるドアを見つける。そのドアの中は、別の小宇宙、「宇宙#647」だった。天明からのプレゼントだ。いずれ大宇宙が終末を迎えてビックバンが起こる。それをやりすごし、新宇宙のエデン時代を体験してほしいという天明の願いだった。三体世界はいまや、小宇宙を作れるまでに成長していたのだ。

    グァンと程心が小宇宙での生活を始めてから2年、大宇宙から各地の小宇宙あてにメッセージが届く。そこには三体語と地球語での翻訳も記されていた。

    回帰運動声明
    この宇宙の総質量の減少が臨界値を越えました。このままでは、閉じた宇宙は開いた宇宙へと変わり、永遠の膨張の中でゆっくりと死んでいくでしょう。それとともに、すべての生命と記憶も死ぬことになります。奪った質量を返還し、記憶だけを新宇宙に送ってください。

    グァンと程心はこれに応じた。小宇宙の物質のほとんどを大宇宙に返し、宇宙船に乗って大宇宙に飛び立っていった。

  • 中国のSF小説『三体』シリーズ第3巻の下、完結です。
    程心と艾AA、“万有引力”の民間人学者である関一帆がキーパーソンとなります。
    上巻における最大の問題は暗黒森林抑止の崩壊による三体人の侵略再開でしたが、下巻ではそれが些末な次元の出来事と思えてしまうほどの劇的な展開となります。
    もう人類が抱え込める範疇を逸脱した世界観となり、この上ない絶望を前に足が竦みました。
    私が程心だったら心が折れているところですが、彼女は博愛であると共に人間的に強いのです。
    読了後には濃厚な内容によるものなのか、彼らが生きた時間の重さを痛感することになりました。
    多くの謎と可能性を残したまま最期を迎えますが、人類を含む知的生命の足掻きが現実的かつ美しかったです。
    物理法則や時間や個人の能力には制約や限界がありますが、それはそうと今をより良く生きることが一番に重要なのだろうと考えさせられました。

  •  「死神ハ永ク生キル」とは、不穏なタイトルだと思った。読んでみたら「神ハ死ニ、(我ハ?)生キ永ラエル」ということかな。

     超時空的に広げた風呂敷を終盤になって、四畳半的に縮小?と思いきや、再生の物語になるとは。

     三部作を通じての共通の主人公は「宇宙」かも。宇宙とは「時」と「広がり」の意味だそうだが、「時空間」とも言い換えられる。

     ホラ話が繰り返されるのか。

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著者プロフィール

1963年、山西省陽泉生まれ。発電所でエンジニアとして働くかたわら、SF短篇を執筆。2008年に刊行された『三体』で人気に火が付き、“三体”三部作(『三体』『黒暗森林』『死神永生』)は中国で2100万部以上を売り上げた。2014年にはケン・リュウ訳の英訳版が刊行され、2015年、アジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。2019年には日本語訳版が刊行され、11万部を超える大ヒット。

「2023年 『神様の介護係』 で使われていた紹介文から引用しています。」

劉慈欣の作品

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