千個の青

  • 早川書房 (2021年10月19日発売)
4.28
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感想 : 35
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  • 本 ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100566

作品紹介・あらすじ

故障のため安楽死の危機に瀕した競走馬"トゥデイ"と、下半身が壊れたまま廃棄が決まったヒューマノイド騎手"コリー"。社会の片隅で懸命に生きるさまざまな弱者たちに支援され、もう一度レースの表舞台に戻ってきた彼らの挑戦が、人々の心に奇跡を起こす!

感想・レビュー・書評

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  • 人は幸せを夢見て、誰よりも速く、高く、そして遠くへと進む世界に意義を見出だしてきた。
    そして今、そんな世界からぽろぽろとこぼれ落ちていった独りぼっちの気持ちが空を見上げている……。
    キム・チョヨプさんの『わたしたちが光の速さで進めないなら』を読んだときの感想。  

    『千個の青』は、そんな空を見上げるしかできなかった独りぼっち側の地上で、小さな希望の光が生まれた、そんな世界だ。
    もちろん2作品はまったく別の物語なんだけど、根底に流れるものは繋がってるんじゃないかなと、そんなふうに思えたの。
    ゆっくりと静かに星の見えなかった夜が明けていく。傷だらけのガラス窓に明るい日差しが差し込みはじめ、ガラスの傷がキラキラと眩しく反射する、そんな物語だった。

    「幸せだけが過去に勝てる」

    たとえば、こんなことを自問自答したことはない?
    「この世に絶えず新しいものが、それぞれの値打ちをもって誕生した。それらは本当に必要だから生まれたのか、生まれたから必要になったのか」

    ロボット研究者の夢に挫折した15歳のヨンジェには区別がつかなかったように、わたしにもはっきりと区別することはできない。
    でも、もしもそれらが生まれることがなかったとしても、本当に困ることは意外と少ないのかもしれない。だってわたしたちは時間や手間は掛かったけれども、それら大半がなかった時代もちゃんと生きてこられたのだから。

    小児麻痺で車椅子に乗る17歳のウネ。ウネは時に、自分は“普通”の枠から外れているのだと思い知らされる。

    「歩けなかった人々が車椅子のおかげで動けるようになった裏で、バスや地下鉄、歩道、階段、エスカレーターに移動を制限されているのだと。技術が発達していく一方で、ウネは徹底的にはぶかれた。」

    技術が発達すれば誰もが住みやすい社会になる、そんな固定観念にとらわれていたのは、わたしだけだろうか。
    そんな凝り固まった考え方を捨て去らないと、「この技術があなたを救った」と平然と言ってのける浅はかさに気がつかない。
    車椅子のウネは、サイボーグの完全な脚が欲しいのか、それとも車椅子で行こうと思えばどこへでも行ける自由が欲しいのか。
    口にしたひと言の残酷さに気づけない人にはなりたくない。


    故障のため安楽死させられる競走馬・トゥデイと、廃棄直前のロボット騎手・コリー。
    深い諦念を抱えつつ生きるウネとヨンジェの姉妹は、たった千個の単語しか知らないコリーと出会い話をするうちに自分たちの本当の望みと向き合うことになる。
    トゥデイの幸せを願うコリー。
    そんなコリーに心を動かされた少女たち。

    「大丈夫、気にしないで。彼らの言葉に耳を貸さなくていい。きみにはきみの走る道があるんだから、それだけを見つめて走ればいい。自分のスピードで。」

    1頭と1体を救おうとする、少女たちの物語。
    とくにヤングアダルト世代におすすめかな。

    • 地球っこさん
      あらっ、途中で切れちゃいました〰️

      そう、私たちは“開き直り”チームとなってブォンブォン飛ばしていきましょう!(あ、私は妄想族と掛け持ちし...
      あらっ、途中で切れちゃいました〰️

      そう、私たちは“開き直り”チームとなってブォンブォン飛ばしていきましょう!(あ、私は妄想族と掛け持ちしますがお許しを 笑)

      思い返すと、私の世界を広がるきっかけを与えてくださったのはnejidonさんでした。
      nejidonさんに平安時代の頃の本をおすすめしていただいたりして、そこから私の興味は広がり続けました。
      全く繋がりのない、韓国時代劇やらシルクロードやら人類学やら、どこまで行くのか自分でも笑っちゃうほどです。
      本当にnejidonさんには感謝です。

      私もhiromida2さんと、これからもたくさんおしゃべりしたいです。
      どうぞよろしくお願いいします(*^^*)


      2022/04/04
    • hiromida2さん
      地球っこさん、おはようございます。
      度々失礼(^_^;)

      「クールに生きることがポリシー」なんてカッコつけて言っちゃたけど、クルーに出来る...
      地球っこさん、おはようございます。
      度々失礼(^_^;)

      「クールに生きることがポリシー」なんてカッコつけて言っちゃたけど、クルーに出来るかどうかは、また別の話です(^^;;
      お互い、弱さを隠して開き直りチームで、
      ブォンブォン飛ばして行きましょう٩( 'ω' )و

      また、長くなっちゃうけどゴメンナサイ。

      ブクログ登録されてる方はnejidonさんに少なからず影響を受けたのではないかしら…と思います。
      地球っこさん然り、私もその一人です!
      『”nejidonさんのいないブクログなんて、気の抜けたサイダーみたい!”』って…
      まことさん(お名前出してごめんなさい)のコメント欄で沢山の方が「そうだ、そうだ」
      とシュプレヒコールをあげてた!
      ︎そのくらい存在感が大きくて尊敬出来る人。
      私のような頭の悪さではついてゆけそうもない高尚で頭脳明晰な書評とともに、とても憧れて読んだこともない古書を本棚で沢山紹介してくれましたよね。レビューを読むだけで背筋が伸びる思いがして一冊の本を読むように夢中で読んでました。
      あのキリッとした佇まいが頼り甲斐あって、私が眠れない日々の明け方に拙いレビューを書いた時も、いつも真っ先に、いいね!をしてくれた優しさを思い出します。
      本当にnejidon さんには感謝です。
      地球っこさんもnejidonさんの繋がりから多くのことに興味の範囲を広げられていて、
      とても素晴らしい!またまた、そんな興味の世界を広げられたその先のレビューも楽しみにしています(^O^☆♪
      2022/04/05
    • 地球っこさん
      hiromida2さん
      おはようございます♪

      私のほうこそ度々失礼します。

      眠れない日々の明け方に、真っ先に「いいね!」してくださったと...
      hiromida2さん
      おはようございます♪

      私のほうこそ度々失礼します。

      眠れない日々の明け方に、真っ先に「いいね!」してくださったというnejidonさんの優しさ、すごくわかります。

      最後にひと言伝えたくて。
      nejidonさんのことお話できて嬉しかったです(*^^*)
      2022/04/05
  • 故障した競走馬のトゥデイとその騎手である欠陥アンドロイドのコリーはともに廃棄予定だが、出会った少女たちとコリーはトゥデイをもう一度走らせようと奮闘する。

    透明感のある美しいお話でした。また、使い捨ての消費社会、経済動物問題、障害者問題など、多くの社会問題について考えさせられる本でもありました。
    お隣の国ながら、うっすらとしかその内実を知らない韓国、そこでも日本と同じような社会問題があるのだなあ、と知りました。主人公の一人がポリオだったりしたこともあるのか(おそらく日本では根絶。韓国でも相当少ないのじゃないかと思うのですが、よくわかりません)、何となくレトロフューチャー漂う世界観で透明感のある秋の空気が感じられる文章で、切ない雰囲気がよかったです。
    韓国のSFというのはまたあまり出会いがないのですが、近年の中国発SFと同じように盛り上がってきているのでしょうか。いろんな国のいろんなSFが読めるといいな。

  • もう、めっちゃよかった。大事に、時間をかけて読んだのだけど、ずっと良い。

    近未来。騎手ヒューマノイドとして生まれたコリーと、相棒の競走馬トゥデイ。コリーは、ちょっとしたミス?から他のヒューマノイドとは違う感覚、感情を持っている。ある日、コリーは、空を見てた、という理由で落馬、トゥデイも脚を故障したために安楽死、処分されることが決まってしまう。そこに、ヨンジェ、ウネの姉妹、姉妹の母ポキョン、友人のジス等の出会いがあり…。

    めっちゃおすすめ、みんな読んで。

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    https://www.mdn.co.jp/design/DESIGNDIGEST/1708

    千個の青 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000014946

  • 科学の発展によって多くの人がより便利に、安全に暮らせるようになった近未来。
    しかし車椅子で出歩く不自由さは全然解消されず、後回しにされたまま。
    物理的な危険や不便さに加えて、善意の人々に対して丁寧に対応しないといけない精神的負担もある。
    この進歩のなさ、最悪だけどすごく現実味を感じる。
    社会が声を聞いていない。

    ミスから生まれた人間味のあるヒューマノイド、コリー。
    子どものような純粋さで、命について、感情について、空について問う。
    「人間味のある」って言葉以外だと、何だろう。「優しい」かな。
    相手の言葉を遮らずに聞くのは、人間の命令に従うロボットだから当たり前なんだけど、その尊重されてる感じに救われる。
    言葉を多く知っていることよりも、相手の声を聞いて、丸ごと見つめることの方がずっと重要。

  • いやー、なんだろうこれ。よかった。SF枠の青春小説とでも言うべきか。
    千個の単語しか知らないロボットのコリー。この切なさはなんだ。小さい小さいSFの中に、悲しみとか暖かさとか切なさとかがたくさん詰まっている。

  • 小学校高学年くらいから読めると思う。作者の方自身の優しさが、全体に染み渡っている。

  • 最後まで読んでから冒頭を読み直し、深く息をつきました。良い物語です。掃除用ロボットにスカーフが巻き込まれているのを直す場面が好きです。

  • 恋しさを越えるものは瞬間の幸せしかないとは、たしかに…。振動を感じました。

  • 何度も読みたくなるような、とても良い小説でした。
    「インクルージョン」や「SDGs」というようなキーワードが浮かびますが、大きなテーマはやはり「生きることとは?」ということなんだと思います。
    主人公の母親の存在が、物語に深みをもたらしています。

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