ひとりの双子

  • 早川書房 (2022年3月26日発売)
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本 ・本 (480ページ) / ISBN・EAN: 9784152100900

作品紹介・あらすじ

米国南部の小さな町。16歳の双子は一緒に都会へとびだした。やがて姉は故郷に帰るが、その何年も前に妹は姿を消していた。いまは素性を偽り、裕福に暮らしているという。つながりは切れたかに見えた。あの日までは――。米国170万部突破、西加奈子氏推薦

感想・レビュー・書評

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  • ルイジアナの小さな町マラードで黒人夫婦の家で生まれたクリーム色の肌と、はしばみ色の目と、緩やかに波打つ髪を持った双子のステラとデジレーとその娘の物語。父親がリンチで殺されるのを目撃したステラとデジレーは16 歳で母親のアデルを一人残してマラードを去り、ニューオリンズで新しい生活を始める。10年後、デジレーは不幸な結婚生活から逃れる為、黒い肌の娘ジュードを連れて実家に戻り、ステラは母親とデジレーとの家族の絆を断ち、白人と結婚して白い肌の娘ケネディと白人として暮らす。外見が白人でも黒人の血が一滴でも混ざっている者は全て差別の対象とする血の一滴の掟(one-drop rule)。デジレーはありのままの自分をアイデンティティとして受け入れ、ステラは出自を伏せ白人になりすますPassingとして生きることを選択する。ステラはその選択の代償に母親やデジレーとの絆を失い、ペルソナとアイデンティティの葛藤に苦しみ、秘密が暴かれることに脅かされる日々をおくる。タールベイビー “tar baby”とイジメを受けながらも未来に向かい着実に進むジュードと、母親の秘密を知らされアイデンティティの一部が剥離するケネディの二人の従姉妹の物語も切ない。
    有色人種の日本人でありながら「美白」とか「色の白いは七難隠す」とか白人の美の基準によるカラリズム(Colorism)に汚染された社会に気付かされたり、あらゆる属性の共存を目指す「ダイバーシティ」を宣伝用に虚しく叫ぶ企業や政治家を思い浮かべたり、その実、自分自身はそれらを非難する資格もない傍観者であることを自嘲するなど色々と啓発させられる一冊でした。

    「私に言い訳する必要はないわ」彼女が言う。「あなたの人生なんだから」「でも、私の人生じゃない」ステラは言う。「私のものなんてひとつもないの」「あなたが選んだんじゃない」ロレッタが告げる。「だったら、あなたのものなのよ」 “You don’t have to explain anything to me,” she would say. “It’s your life.” “But it’s not,” Stella would say. “None of it belongs to me.” “Well, you chose it,” Loretta would tell her. “So that makes it yours.”

    初めのうちは、なりすましはとても単純な行為に思え、なぜ両親がその道を選ばなかったのか理解できなかった。だが、当時のステラはまだ若かった。自分ではない人間になるのはどれほど時間のかかることか、自分の居場所ではない世界で生きるのがどれほど孤独なものか、まだ気づいていなかったのだ。At first, passing seemed so simple, she couldn’t understand why her parents hadn’t done it. But she was young then. She hadn’t realized how long it takes to become somebody else, or how lonely it can be living in a world not meant for you.

  • アメリカ南部、肌の色の薄い黒人ばかりが住む町マラード。16歳の双子、姉のデジレーと妹のステラは、母をひとり残して家を出た。14年後、姉デジレーは娘を連れて故郷に戻る。妹ステラはその何年も前にデジレーのもとから姿を消していた。いまは、白人として生きている。


    ー人種の問題ではなかった。ただ自分がなにものであるべきかを人に指図されることが気にくわなかったのだ。その意味ではケネディも母親と同じだった。ー

    ー“自分を探しに旅に出ました”と娘は書いていた。“元気にしてます。心配しないでください”
    ステラが何よりも引っかかったのは、そこに記された言葉だった。自分というのは、どこかへ行けば見つかるようなものではないー自分は自分でつくるものだろう。こんな人間になりたいと思ったら、自分でそういう自分をつくり上げるべきなのだ。ー


    いつも一緒だった双子の姉と妹、わかれた後のそれぞれの人生。その娘たち、ジュードとケネディ。そして、双子の母親アデル。
    自分が自分として生きること、暴力や差別から逃れることがなぜこんなにも困難なのだろうか。
    双子の姉デジレーの娘のジュード。彼女のひたむきさが強く印象に残っている。

  • 地図にも載らないような小さな田舎町。肌の色が薄い黒人が暮らす町で生まれ育った2人は年頃になるとそこを飛び出して都会に向かった。1人は結婚に破れて娘を連れて故郷に戻り、もう1人は自分を偽って白人と結婚して娘をもうけ、家族や隣人を欺いて生きている。互いがどこにいるのか知らないまま、それぞれの娘同士が偶然出会ったことから、再び結びつけられる---
    苦しみながらも自分に向き合って生きてきた姉と家族だけでなく自分をも騙して生きる妹。
    私は肌の色による差別の本当のところを知らないので何とも言えないけど、アメリカでは根深いものがあって、それがこんな小説を生み出すほどのものなんだということが、何だかやるせない気持ちになりました。同じホモサピエンスなのに。

  • 日本に生まれ育った人は、大抵見た目で人種を判断している。白人に見えれば白人だと思う。しかし人種というものに科学的根拠はなく、人間を人種で分けることは意味がないどころか危険なことだと考える人も増えている。アメリカでも現在はそうだろう。
    しかし、ほんの少し前まではそうではなかった。
    ジム・クロウ法(ワンドロップルール)により、一滴でも黒人の血が入れば、黒人と決まっていた。それがいかに個人や社会に浸透していて、人々を苦しめ、混乱させたかをリアルに感じられる物語だった。
    見た目はそっくり、ということは見た目はほぼ白人だった双子が一人は白人(に成りすました、と描かれる)、一人は黒人のまま生きる。それが、彼女たちだけでなく、子どもたちの人生にも影響していく。
    この小説が双子のデジレーとステラを描いただけだったらありきたりなものになったかもしれない。しかし、その子どもたちまでを描いたから、深みのあるものとなっている。一人は「タールベイビー」と呼ばれるほど黒く、一人はブロンドでスミレ色の瞳を持つ。この二人の人生が何度か交わるところが妙味となっている。
    黒人同士で色が薄い方が価値があると考える、なんて聞いたらバカバカしいと感じるかもしれない。しかし、じゃあ私たちの中にそういう感覚はないか?あるだろう。私たちだけでなく世界のあらゆる時と場所でも。そんな差別意識を炙り出す作品でもあった。

  • アメリカ南部のマラードは、白人のように色の白い黒人が住む町だった。地図にも載らないほど小さなその町に住む美しい双子の姉妹デジレーとステラは、16歳のとき町が記念日の行事に浮かれている間に二人で家出をする。決して戻ることはないと思っていたが数年後、姉のデジレーは幼い子どもを連れて町へ帰ってくる。その子はデジレーには似ず、黒い肌の娘だった。
    妹のステラは、白人として生きようと姉も過去の一切も捨て金持ちの白人男性と結婚していた。互いの今を知らずに、それぞれの場所で生きる双子だったが、その娘たちが偶然に出会う。

    アメリカ建国以降続く人種の問題だけでなく、性同一性障害やDVなど、さまざまな社会問題をバックボーンに双子のファミリーヒストリーとして展開していく。偶然性に頼るシーンもない訳では無いが、ドラマチックな展開だった。

  • 「色の薄い黒人たちが暮らす町」で生まれ育った双子の少女。
    自由を求め家出同然に都会に出る。
    「白人」として生きる2人の道はやがて分かれ、全く別の生き方を始めるー。
    黒人差別があまりにも染み付いてしまっているアメリカ。差別があらゆる場面で顔を出す。
    『ビラヴド』と比肩する傑作。

  • 静かな場所でゆっくり読みたい本。読後は読書を満喫したーという充足感に満たされた。
    白人と黒人の混血により、肌の色の薄い黒人一家に生まれたデジレーとステラの双子の半生を縦軸に、人種や貧富、性差といったテーマを横軸に自分らしく生きることとは?を鮮やかに描き出した作品だ。
    見た目がそっくりの双子だが、共に都会に出た後で姉は黒人と結婚し、肌の黒い娘と故郷に戻り、妹は白人と結婚して白人として裕福な生活を送る。全く異なる人生を歩む双子だが、やがて二人の娘を通して交錯し始める。
    明らかな人種差別や暴力の描写は多くないが、白人になりすますステラの場合は、一見恵まれた生活を送っていても、自分や父の悲惨な最期の記憶とともに忘れ去ったはずの黒人としての過去に恐れや苦悩を抱いている。
    明らかな暴力や差別の形をとるその水面下では、こうした断絶に苦しむ人々がいるのかもしれないと、そしてそれは今も複雑化して続いているのだろうと感じた。

  • なんというかクラシックな、小説らしい小説、小説の善さみたいなものがつまった小説だった。
    色の白い黒人が白人になりすます「パッシング」という行為がキーとなるのだが、人種差別を描いた作品にしては、そこまで過酷な展開にならず(それでほっとするのがいいことなのかはわからないけど)、二組の母娘、それを取り巻く人々の喜びや悲しみ、希望や挫折が丁寧に描かれる。トランスジェンダーのリースとジュードの恋も、ステラとケネディのすれ違いながら求め合う母娘関係も、良かったなあ…。ザリガニの友廣純さんのしっとりとした訳が合っていた。
    終盤、ケネディから「自分を探しに旅に出ました」という絵葉書が届いて、ステラが「自分というのは、どこかへ行けば見つかるようなものではない―ー自分は自分でつくるものだろう。こんな人間になりたいと思ったら、自分でそういう自分をつくり上げるべきなのだ」って思うところが印象に残った。これは「そして、娘はすでにそうしていたのではなかったか?」と続くんだけど、ケネディだけじゃなくステラも、というかこの作品に登場する人たちはみんな、必死にそうやって生きていたんだよね。

  • 4.19/387
    『自分らしくいるために嘘をついた。
    それは、許されない罪なのか。

    アメリカ南部、肌の色の薄い黒人ばかりが住む小さな町。自由をもとめて、16歳の双子は都会をめざした。より多くを望んだ姉のデジレーは、失意のうちに都会を離れ、
    みなが自分を知る故郷に帰った。妹のステラは、その何年も前に、デジレーのもとから姿を消していた。いまは、誰も自分を知らない場所で、裕福に暮らしているという。白人になりすまして。

    いつもいっしょだった、よく似た2人は、分断された世界に生きる。だが、切れたように見えたつながりが、ふいに彼女たちの人生を揺さぶる。

    人種、貧富、性差――社会の束縛のなかで、懸命に生きる女性たちを描く感動長篇。』(ブックカバー解説より)


    冒頭
    『消えた双子のひとりがマラードの町に戻った朝、ルー・ルボンは一刻も早くそのニュースを知らせるべく、食堂へと駆け込んだ。このときのルーの慌てっぷりは、それから何年も経ったいまでも人々の記憶に残っている。』


    原書名:『The Vanishing Half』
    著者:ブリット・ベネット (Brit Bennett)
    訳者:友廣 純
    出版社 ‏: ‎早川書房
    単行本 ‏: ‎480ページ
    ISBN‏ : ‎9784152100900

  • 本作で「パッシング」(白人なりすまし行為)というものを初めて知る。そして比較的肌の色が白いことや教養を誇りとする黒人エリート集団がおり、選民意識をもって黒い同胞を蔑むが、白人視点では彼らも差別対象であることに変わり無いのが現実。ルーツの否定や自己欺瞞の必要性を感じさせる社会的土壌が丁寧な描写で伝えられる。

    人種やアイデンティティを深く掘り下げた物語と、解説で取り上げられたオバマ元大統領のリベラリズムの上滑り感の説明を読んで、オバマ後の分断の潮流を納得。そうか、リベラルな人たちはオバマを見ることで、下層に属する人々の過酷な実態を見ずに済むと思い違いしているゆえ、そんな欺瞞に対するカウンターがトランプだったのか。(いまさらの理解)

    そしてこれはアメリカに限った問題なのだろうか。日本で生まれ育って日本語を話すのに、見た目や親の出生で判断される人々の存在を思うと、他国の物語というだけでは割り切れない。また、自分がマジョリティであってもマイノリティであっても、差別する側になりかねないという加害性の内在を改めて思わされた。

    蛇足だが、さまざまな登場人物たちはどんな容姿イメージなのだろう…と調べたら、myCastというサイトでファン投票による理想のキャスティングリストがあり、アップされた俳優たちの写真で脳内キャスティングを楽しめたので、興味ある方はぜひチェックを。

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