もうやってらんない

  • 早川書房 (2022年4月5日発売)
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本 ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784152100986

作品紹介・あらすじ

ある日、アフリカ系アメリカ人のベビーシッター、エミラは、誘拐犯に間違えられてしまう。黒人差別だと怒る白人の雇い主アリックスは、抗議するようエミラを焚きつけるが、そのいっぽうで名誉黒人気取りの恋人がアリックスの元カレだと知ったエミラは――。

感想・レビュー・書評

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  • 物語の序盤にフィラデルフィアのスーパーマーケットの近くを白人の子供ブライヤーと歩く黒人のベビーシッターのエミラ・タッカーに、警備員が誘拐を疑い声をかけるエピソードが描かれ、人種、特権階級、ジェンダーに対するマイクロアグレッション、無意識の偏見(unconscious bias)を体験させられる。雇い主である白人のアリックス・チェンバレンのように善意の持ち主だと信じる教養ある白人が最も多く行っている「自分でも気づいていない日常の家庭内偏見」(everyday domestic biases that we don’t even know we have.)が物語の各所に描かれる。

  • 舞台はアメリカのフィラデルフィア。
    ニューヨークから引っ越して来たばかりの裕福な共働き夫婦と3歳と0歳の娘。
    母親は執筆活動のために黒人の26歳ベビーシッターを雇う。
    父親の職場でのいざこざから自宅に警察が来ることに…
    長女を自宅から避難させたい夫婦は、深夜にも関わらずベビーシッターに連絡し、近くのスーパーマーケットまで行って来て欲しいと頼む。
    そこで、彼女は警備員に誘拐を疑われ、その事がこの夫婦とベビーシッター、更にはその時に出会う白人の男性(後にベビーシッターの恋人になるひと)との関係を複雑なものにして行く…

    まず、私は翻訳の本を読むのは少し苦手だ。
    翻訳家さんにもよるのだろうと思うけど。
    それと、人種差別を考える時、どうしても自分には知識が無さすぎる…
    勉強不足なだけなのだけど。
    なので、人種差別のもっと深いところを知っていれば、もっと理解できたようにも思う。
    でも、、、難しいのかな。
    例えば、白人の恋人が黒人の彼女を連れて夜中に入ったバーの描写。
    「白人の男性が何人かカウンターで飲んでいて、壁にはジョンウェインとカウボーイの写真が飾られている。」
    この場所に来た事を、後で彼女は「2度とあそこには連れて行かないで」と激怒する。
    初めのお店の描写の時に、私は彼女が嫌がるだろうなと想像できなかった。
    そのため、また戻って読み返すことになった。

    それに、度々出てくるベビーシッターであるエミラと友達たちが集まるお店やバー、それから頼む食べ物。
    きっと黒人の好きなテイストで、それが好きな人たちが集まる場所として描写されていると思うのだけど、自分にはイマイチ「ピン」と来てない。
    これもまた後から読み戻って、なるほどそうなのかなと思う。。

    エミラが友達とシッター宅へ行った時、友達が放った言葉。
    「この家プランテーションの雰囲気があるね」
    きっとこの言葉も、差別的な何かを感じ取った友達の言葉なのだろう。

    そんな細かな「もっと理解できたら」な点があっても、この本の内容は刺さるものがある。
    この本には、潜在的な差別、それは人種だけでなく貧富の差や、都会と田舎の差だったり、親の子供達への愛情の偏り、そういった差別が描かれていて、
    かつ親からの自立や、自分の将来への展望、労働環境、、、様々な問題が描かれている。

    それにしても、、
    雇い主であるミセス・チェンバレンも、エミラの白人の恋人も、無意識にいつも上から目線だ。
    私達はあなたの味方よ、家族と思っているのよ、君のためを思って言ってるんだよ、そんな感じが満載。
    白人が黒人を救ったり敬ったりする事に対して、もちろんそれはとても良い事だけど、この人たちの場合、それを自分の為の道具としている感じにも受ける。

    あぁ。なんて難しい問題。
    だけど、その問題をダイレクトに書いたこの作品だから、様々な賞を受賞したのだと思う。

    日本は日本で島国であるが故の差別や偏見がある。
    自分の中にもあるだろう潜在的偏見や差別を考えざるおえない内容だった。

  • フィラデルフィアで暮らす25歳のアフリカ系アメリカ人女性のエミラ・タッカーは、大学卒業後も定職に就いていない。かといってやりたいことも見つからず、ベビーシッターのアルバイトで何とか生計を立てながら曖昧な日々を過ごしている。
    ある日エミラが友人の誕生日パーティーに参加していたところ、突然雇い主のミセス・チェンバレンから、いつも面倒を見ている2歳のブライアーを連れ出すよう依頼を受ける。ブライアーを連れて夜のスーパーマーケットで時間を潰すエミラは、パーティー向けの服装だったこと、そして黒人だという理由から不審者として警備員に幼児誘拐の容疑を受けてしまう。毅然とした態度で警備員に反論するエミラだったが信用されず、結局雇い主の夫に頼んでようやく事なきをえる。偶然居合わせて一部始終を動画で撮影していた白人男性のケリーは、警備員の扱いを人種差別として告発するよう、エミラに強く勧めるのだった。

    本文約420ページ、4パート、全28章からなる。
    本作の語り手はエミラとアリックス(ミセス)・チェンバレンの二人であり、章ごとに交互して進行する。語り手ではないものの二人と並ぶ主人公格の人物として、スーパーマーケットでの騒動の一部始終を撮影していた白人男性のケリー・コープランドが挙げられる。偶然にも再開したエミラとケリーは、その後交際することになるのだが、実はケリーとアリックスが旧知の仲だったという事実が前半の山場へとつながっていく。

    エミラの日常を通してアメリカの人種差別をテーマに描いた小説だが、直接的な暴力表現などは一切描かれない。そして、エミラと深く接することになる雇用主のアリックス・チェンバレン、恋人のケリー・コープランドのいずれも、エミラに対して強い好意を抱き、彼女の力になることを願っている。二人をはじめ、本作で登場する白人のキャラクターたちは、人種差別に公に反対する「意識が高い」人たちといって差し支えないだろう。そのうえで、作中のハプニングや登場人物たちの反応を通して、本人も気づかないような差別に関する微妙な意識を浮かび上がらせようというのが本作の趣旨といえそうだ。

    テーマの重さに捉われることのない軽妙なタッチの作品で、エミラとアリックスという境遇の異なる女性二人を通して今日的なアメリカ社会の一部を見せてくれる。読後感はアメリカのTVドラマを鑑賞したような気楽さや爽やかさを味わった。これには登場人物たちの気の利いた掛け合いのほか、幼児として終始愛らしく描かれているブライアーの言動が全体の雰囲気を和ませている点も大きいだろう。小説としてのスケールはこじんまりとしているが、おそらく著者もその点には意識的で、出来事や登場人物たちの反応の描き方に不自然さを感じることは少なく、終局も含めてまとまった作品だと思えた。

    見た目から受けるような人種差別というと日本ではそこまで日常的ではないかもしれないが、本作で提示されるような当事者が意識しない類いの差別は、例えば性差や障害者のような身近な関係性のなかでも頻繁に起きている普遍的な問題だと思える。潜在的な差別意識を描こうとする本作は、死を扱うようなわかりやすい事件よりも、差別を他人事としてではなく受けとめる機会を提供することに適しているとも思える。本作を通して、差別の本質には対象となる他人の主体性を無視した傲慢さが根付いているのではないかと、改めて考えさせられた。

  • Kiley Reid
    https://kileyreid.com/

    もうやってらんない | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015094/

  • 私の読み方が悪かったのか、アリックスがエミラに執着(恋?)しはじめるのが、急に思えた

    アリックスやケリーは、エミラをとても気に入っているし、黒人差別をしていると直接的には言い難い。
    しかし、本当に些細な、微妙なところで認識や行動に引っかかりを感じる。最後の方、アリックスは、自分のキャリアのためにエミラを利用しているように感じられたし、そもそも無断で動画をばら撒き、それでいてエミラのためを思ってのことだとその行為を正当化している時点で独りよがりであるのは間違いない。

    アリックスの過去のケリーに関する事実を曲げての正当化もそうだけど、自分の都合のいいように物事を解釈し、歪めていっている様がちょっと気持ち悪かった。

    あとがきで、差別に関して意識が高い人でも、無意識の偏見や行動の現れを完全に無くすことは難しいといっていたが、その通りであるし、それを鮮明にユーモアを交えて描いてくれたこの作品が好きだなと思う。

    最後のテレビの生放送のシーン、スカッとしたし、ケリーとよりを戻さなかったことも含め、エミラの聡明さ、最後の自立した彼女の姿を心地よく思える物語だった。

  • おもしろかった!こんなにポップにレイシズムのこと書けるなんて






  • 黒人だからと誘拐犯に疑われたベビーシッターのエミラに、犯人を告発すべきだと主張する白人の雇い主。エミラと付き合う白人の彼は、元カノ全員黒人だった。
    黒人差別という問題がカジュアルな日常でも永遠に意識にあるアメリカの社会の物語。
    現代の差別は、差別の顔をしていない。だからこそ怖いし、モヤモヤする。


    終盤、主人公と親友がお風呂場に隠れ、今いる勤め先と新しく口がもらえそうな職場とを比べ、電話で交渉する場面がある。切羽詰まった状況の中で、価格や福利厚生についてああでもないこうでもないといいながら、価格交渉をするという流れは、その社会でその色の肌で生きていかなければならない現実を最も現代的な戦いとして描いている場面に感じた。

    カバーを外した時、主人公の肌色が際立つデザインがハッとする。






  • OPACへのリンク:https://op.lib.kobe-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2002313242【推薦コメント:海外でのベストセラー本 アメリカでの人種差別を描く】

  • 「もうやってらんない」のタイトルに興味を持って、図書館で借りました。白人と黒人の話だけで無く、労働環境や偏見などさまざまな内容があり、とても興味深く読みました。

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