夜の少年

  • 早川書房 (2022年5月24日発売)
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本 ・本 (176ページ) / ISBN・EAN: 9784152101341

作品紹介・あらすじ

フランス北東部。妻亡き後、わたしは息子二人を男手一つで育ててきた。長男のフスは小さい頃は素直だったのに、反抗期を迎え地元の不良とつるむようになったが、いつかは分かり合えると思っていた。あの日、あの事件を起こすまでは――。不器用な父子の感動物語

感想・レビュー・書評

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  • 父親の苦悩と悲しみが波のように襲ってくるように感じた。
    ひとことで言うと辛い、だろうか。

    妻を病気で亡くした後、二人の息子を育てる私、というように父親のひとり語りで始まる。

    父親の気持ちが切々と綴られていて、父親の視点でしか知り得ない物語だったが、ラストの父さんへというフスの手紙で胸を締めつけられた。

  • 父親の気持ちが痛いほど伝わり苦しくなる。息子とどう接したら良いのか分からない父親の葛藤、逡巡が手に取るように分かる。
    子どもと一心同体の蜜月時期を過ごした経験のある者ならば、子どもが見知らぬ他人のように理解できない存在になってしまう哀しみ、寂しさに共感してしまう。
    子どもが親の求める姿の許容範囲を越えた時、失望し言葉を失う、会話は途絶え、沈黙…けれど見捨てることなどできない。親だから、子どもだから。
    その関係は哀しい、けれど愛しい。

  • 舞台はフランス北東部メス。
    とある一家の父親の語りで進んでいく物語。
    朴訥で不器用な父親の語りのせいか、小説ながら切実なノンフィクションの手記を読んでいるような感覚になる。

    優しくて弟思いの長男フス(フスは愛称。本名はフレデリック)は、スポーツが好きな明るい子で、母親が病に倒れたときも、思春期の時期を犠牲にして家族をフォローし、家事を積極的にする、とてもいい子だった。
    病に倒れた妻を見舞い、看取り、妻の死後どう子どもたちを食べさせていくかに必死で、家族のフォローにたち回ってきたフスに「ありがとう」の一つもいえなかったことに、父親は後悔の念を綴る。

    そしてフスは高校に入ったころ、家族よりも友達とつるむようになってから、父親が支持する政党とは真逆のファシズム…極右の仲間たちとつるむようになった。
    寡黙だった父親は、フスがつけているバンダナに、ケルト十字が描かれているのを見て、初めて声を荒げる。
    そういった経緯を機に、父親はフスのことが許せなくなり、親子は話をしなくなっていく…
    そして凄惨な事件が起こる…。フスが人を殺してしまったのだ。

    読みながらどんどんつらくなっていった。
    文章を読むだけでも、父親が憔悴していくところが痛々しい。
    また父親と本当は仲良くいたいのだろうフスとの不器用な関係を見ていると、ますます見ていて胸が痛い。
    完全な父親のみの視点から書かれているせいか、ところどころ展開が急なところがあって理解がしばし追いつかなくなることもあったが、そういった描写の仕方が生々しさに拍車をかけていた。
    もっと話し合えていたら…あの時あんなことがなければ…数々の避けられていたらと思わざるをえない分岐点たち。
    本書で父親が述べていたように、「すべてのひとの人生は一見、敷かれたレールの上をひたすら走っているように見えるが、実はアクシデントと偶然、そして反故にされた約束の積み重ね」なのだ。
    フスとのコミュニケーションを避け続けた結果、父親視点で語られるこの物語は、どんどんフスがどういう考えになっていったのか、どんな人間になっていったのかがぼんやりとしていく。
    …けれど、その分、最後の2ページは抱きしめたくなる。
    フスもまた、優しすぎたのだろうか、不器用だったのだと思った。
    なぜフスが極右とつるむことになったのかなど諸々は最後まではっきり分からないが、人生周りのどんな人が(自分自身でさえも)何に傾倒しどんな考えを持つに至り、どんな行動を起こすかはわからないので、そんなものだよなぁと思うところもある。

    家族間でさえ、考え方が違うからこそ、距離を置きたい、置かねばならない時もある。
    でも、逆に考え方が違うからこそ、時には分かりあう努力をする必要があるのだ、それにより事態が好転したり救われたりすることがあるのだと、本書を読んで思った。

    本書は「夜の少年」というタイトルだが、原題は「どれほどの夜が必要か」であるらしい。
    原題の由来を聞くと尚更この物語の重みが増してくる。
    この物語のような出来事は、悲しいかな、少なからずよくあることだろう。
    そう思うと、全ての"夜"に留まらざるをえない人たちに響く物語ではないかと思う。

  • 子ども、家族と「向き合う」とは何か。正しさとは何か。過干渉、放任、自立・・・とてもとても考えさせられる本。読んで良かったのだが読後がキツい。

  • なかなか重い。

    日本では政治信条で親子関係がこじれるとかあまりないことかとは思うけど、自分の子がファシズムとか曰く的な新興宗教に執心してたら、この父親と同じようにどう関わったらいいのか分からなくなるかもしれない。

    じゃあ何が正解なのか。正解なんてないんだろうな。

    子が大人になった時点で、それは子ども自身の問題だと割り切って考えられればいいのかな。無理だろうな。親ができるのはどこまでいっても子どもを守ることだけだろうな。

    子どもが道を誤っていると感じたとき、暴行されたとき、何があっても味方だから、人を殺めることだけはやめようと言い切れるか。

    ちゃんとできなくても、そこだけは子どもに言い続けられる人間でありたい。

  • フランス北東部の町に住む主人公は、国鉄に技術者として働いている。男の子2人の父親であるが、妻を癌で亡くした。左派の団体を支持し、息子のサッカーを見に行く平凡な日々だったが、高校生になった長男は右翼系の少年たちとつきあうようになり、家での口数も減った。兄弟の仲は良く、弟は兄を慕っている。弟は兄より勉強ができ、パリの進学校へと進む。父親と兄とのぎくしゃくした関係の続く中、兄が血まみれで帰宅する。仲間を殺してしまったのだ。

    終始父親の目線で語られる。思春期を迎え、自分と違う価値観で進み始める息子。息子やその仲間の行動をSNSで追う姿が危うい。最後のページの獄中から父へ宛てた手紙で、読者は初めて息子の心中を知る。
    重い話だった。一気に読ませる話なのだが、読後はしばらくモヤモヤが心に渦巻いていた。

  • 些細な出来事の連続の先は夜だった。

    ささやかに生きてきた真面目で朴訥な男性が、病気で妻を失い優しい長男との関係が少しずつ狂っていく。

    毎日が「あのときこうしていたら」「ああしたほうがよかった」の連続で生きている。どこに生まれ生きていてもそれは不変なのかも。

    フランスは政治が日常生活に密着していますね。読み始めは面くらいました。

    帯文は重松清さん、重松作品が好きな人に読んでもらって感想を聞いてみたいなぁ。

  • 病気で妻を亡くし、幼い息子2人と懸命に生きる父親が物語の語り手だ。
    内に不安や怒りを溜め込みつつも、やること全てが不器用で、周りが見かねていろいろと救いの手を入れるほどのもどかしさ。
    彼の視点とシンクロさせているのか、本書は驚くほど改行が少なく、会話も本文に織り込まれている。
    数えてみると約160ページ中に改行はわずか70以下という少なさで、先日読んだ日本の小説なんか5〜6ページで達してしまうほど。
    自らが傾倒する政党とは真逆の連中とつるむ長男に対し、頭の中ではとんでもない折檻を想像するのだが、実行には移さない。

    家族の間でお互いに距離を保つ様がいじらしい。

    「フスとわたしはまともに話すことなく伝えるべきことだけ伝えて、あとは息をつめてじっとしていた。足の置き場が残っているところにおそるおそる足をつくという状態だった」

    「まるで舞台の上で演技をしているようだった。距離を保ち、同じ廊下ですれ違わないように、出かける時間、帰宅のタイミングを調整していた。バスルームの小さな洗面台の前に所狭しと集まって、押し合いへし合いしながら歯を磨いていた時代はもう終わっていた。わざと邪魔し合ったり、触れ合ったり、やさしく小突き合ったりしながら手っ取り早く皿洗いを済ませていたのは過去のことになってしまった。今ではわたしたちの動きは用心することがたくさんありすぎて重苦しく、ぎこちないものになっていた。余白をたっぷりと残しておかなければならなかった。一人が入ってくる前に、できれば、もう一人が出ていって場所を空けられるように。ずっしりと重い潜水服でも身につけて忌々しい放射能ゾーンの上でも歩いているかのように」

    田舎に暮らしながら勉強を頑張り晴れて中央を目指そうとする弟が、家計を案じ下宿先を地方に決めようとすると、すぐさま「ふざけんな、高いところを目指せ!パリに行くチャンスがあるんだから、パリを選べよ。父さんとおれでおまえの寝床くらいどうにかするさ」と励ます兄のフス。
    一瞬の逡巡を恥じる間もなく、一気に涙腺が崩壊する父親の描写がたまらなくいい。

    「頭のてっぺんまで満潮になって、しなびた鼓膜がズキズキして、大きな玉のような涙がこぼれた。車を走らせながら泣けるだけ泣いて、墓地に着くとベンチに腰かけてまた泣いた。妻の墓のすぐ側ではなかったけれど、そんなことはどうでもいい、墓地にいることが大事だった」

    原題は、「(人生の彩りを再び見出すために)どれほどの夜が必要か」で、詩の一節から取られている。
    訳者は勘違いしているのか、この"夜"を、人生の"闇"や"トンネル"と解釈してしまっているが、本文にも出てくるように"記憶"や"夢"、"逡巡"や"後悔"など、"身悶えつつも乗り越えていく時間"を象徴しているように思う。
    だから、『夜の少年』というタイトルよりはそのまま、『どれほどの夜が必要か』でも良かったんじゃないかと感じた。

  • 結局フスはどうなった?
    普通に考えて自殺?
    所々、時間が飛ぶところが。

  • 父親も長男も不器用でなんだか切なかった。ちょっとずつ道を逸れていった結果あんな大事になるなんて。みんながジルーやジェレミーのように生きられるわけじゃないから…

  • フランスの文化もわからんし
    とにかく親父の考え方が
    全く1ミリも共感できなかった
    なんじゃこの親父は…
    って腹立ったし
    とにかく読むのがめんどくさかった
    うちのとーちゃんと
    全然ちがうからか
    謎すぎてストレスたまった

    人にオススメすることはないから
    星1つか?と思ったけど
    読み終わったから2つにしとく

  • 読みごたえのある本。
    幸せに暮らしていた四人家族が、母親が癌で亡くなってから、長男に変化が起こる。
    3年の間、休みは母親の見舞いで過ごし、成績も下降し、苦労している父親に迷惑をかけないように、地域の短期大学に進学する。極右の仲間と付き合い、父親とも距離を置く。
    ある日事件が起こる。彼が殺人を犯してしまう。
    裁判、判決と、父親の心は揺れ動く。どうすれば良かったのか、どう子どもと向き合えばいいのか、父親の心理を詳細に描写している。

  • 男手ひとつで兄弟を育ててきた父。思春期を迎えた兄はなにやら悪いやつらとつるんでいる。そして事件は起こってしまった。なかなかに重たい。兄だけが悪い訳じゃないのにね。

  • みんな善良な人達なのに
    誰もが幸せじゃない
    ちょっとづつ違って来たのかなあ

  • 大切に思っている人と会話する重要性について考えさせられる。私もこの父親と同じように、会話しないで済むならそうしないようにするからだ。
    きつい結末でだった。

  • もっと話しておけば。
    いつからそうなってしまったのか。
    あの時の選択が違っていれば現在は全く別の環境の中にいたのではないか。
    自分の親に対して、息子に対して、付き合ってきた彼女に対して。
    そんなことを考えさせられる作品でした。
    どの辺か夜の少年なのかは不明。

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