ペストの夜 (下)

  • 早川書房 (2022年11月16日発売)
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本 ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784152101860

感想・レビュー・書評

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  • ノーベル賞作家オルハン・パムクが語る「トルコで反体制派の作家として生きるということ」 | 新作『ペストの夜』で再びトラブルに | クーリエ・ジャポン
    https://courrier.jp/news/archives/302377/

    ペストの夜 下 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015271/pc_detail/

  • 〝ペストは個々の人間に感染し、その肉体と精神を冒し、生命を奪うのに飽き足らず、どうやら人間社会そのものにも感染して変異させ、結果として革命という名の大いなる病変/抗体反応を導いた〟・・・実在した歴史上の人物、小説に登場する架空の人物たち・・・ペスト禍と革命によって命を落とす人間の数の大きさに唖然となる、過酷で冷酷非情な歴史叙情物語。

  • パムクが偏執的なまでに追求し続けてきた「視点」と「色彩」へのこだわりが極まった大作。 
    彼の永遠の主題とも言える「西欧との対立」が、過去作のような「概念」や「思想」にとどまらず、「実生活における対立」ひいては「コミュニティの変容」として落とし込まれている点も、この作品を特徴付けている。 

    かつては栄耀栄華を誇ったオスマントルコ帝国が、その広大な領土を失いつつあり、まるで末端の手足から腐食して切り落とされていくかのような様から、「瀕死の病人」と囁かれていた1901年。
    辺境領土の東地中海に浮かぶミンゲル島にて、ペストが発生する。

    皇帝アブデュルハミト二世は、疫病鎮静のため、キリスト教徒ながら疫学の権威で実績も充分にある臣下のボンコウスキーを現地に派遣するが、すぐに何者かに殺害されてしまう。
    皇帝の姪パーキーゼ姫と結婚したばかりの疫学者ヌーリー医師は、彼の後任として現地に派遣され、疫病鎮静とボンコウスキー殺害犯を見つけるように命を受けるが…。

    ミンゲル島は、支配層ながら教育水準が低く貧者の多いイスラム教徒と、教育水準が高く富裕層の多いギリシア正教徒の人口が拮抗し、長年様々な対立と火種を抱えている地。
    イスラム教徒であるヌーリーや現地総督・官吏たちと、ギリシア正教徒が大多数を占める医師たちが、協力して感染防止対策を講じようとするも、従わない者も多く、感染は拡大し、死者は増加の一途を辿る。
    そして、そんな混乱期の中、燻っていた複数の火種に火がついて…。

    群像劇の中で描かれる、疫病対策と混迷、コミュニティの変容の描写は、2020年来のコロナ禍を経験した者としては、かなりリアルに身に迫ってきます(原書は2021年刊行、訳書は2022年刊行)

    でも、時勢に乗ったシンプルなパンデミック小説では終わらないのが、やはりパムク。

    実はこの小説、『東地中海に浮かぶ架空の島で起きた壮絶なペスト禍と連鎖的に発生した怒涛の民族問題による混迷の六カ月間を、膨大な資料をもとに、緻密に、けれど、史書と小説の相半ばする形の史劇として、120年後の現代に生きる架空の歴史家が綴った』設定の物語。

    パムクの過去作にみられるような内省・自叙に力点を置いた視点は一旦わきに置かれ。
    資料引用表現等を駆使して冒頭から徹底した外的・客観視点から記述をしている…ように見せかけ、最終的には、完全なる自叙・主観の視点に集約されるという構成になっています。
    この視点の変遷…グラデーション具合が、個人的には面白かったです。

    いや、ミンゲルが架空の島とは思えない程に、その歴史、地形、人物、年代他ありとあらゆる設定と描写が細かすぎて…。
    偏執的なんて言葉では収まらない、もはや、ド変態の域の細かさです。
    (とはいえ、ミンゲルの辿った架空の歴史は、ケマル・アタテュルクとトルコ革命が一大モチーフとのこと)

    また、パムクの過去作の女性たちは、個人的に魅力が理解できなかったのですが、今回の作品においては、「女性」に大きな意味と相応の魅力があった点は新鮮でした。

    そして、パムクの作品には、それぞれに色彩的なイメージがあると勝手に思っているのですが、本作の色彩は、「黒」。
    タイトルにもなっている「夜」は、ラストシーンだけでなく、要所要所で、意味を持つ。
    オスマン帝国が黄昏どころか崩壊寸前の「前夜」であることに加え、ペストの異名とされる「黒死病」といった象徴性も相まっています。

    パムクの過去作を読んでいるからこそ面白く感じる作品のような気もするけど、パムクが嫌いじゃなければ読んで欲しい。そんな作品。

  • 著者オルハン・パムクの熱量に圧されて読了した
    オスマン帝国末期の世界史にもっと詳しければなお面白かったかもしれない
    センチメンタルな部分も多い
    パーキーゼとヌーリーがミンゲル島を離れてからの「何年ものちのこと」は物語としての面白さがなく蛇足でしかない

  • とんでもない面白さだった…!!
    下巻はまさに圧巻で、ページをめくる1秒ももどかしいほど。
    舞台はオスマン帝国領なのだけど架空の島、ミンゲル島。
    ペストの感染拡大に、宗教や民族主義、個人の野望やら恋愛やらも絡んで、思いがけない方へと突き進んでいく。
    架空の歴史だけれど、今現実で目にしているものと重ねずにはいられず、何重にも面白かった。
    解説もとてもわかりやすく、一層理解を深められる。
    オルハン・パムクは今回初めて読んだのだけど、他の作品もぜひ読みたい。

  • オスマン帝国の終焉に、架空のミンゲル島での激動の歴史やペストとの闘いを寄り添わせる。このミンゲル島の緻密な設定、架空と思えないほど解像度が高く書き込まれている。地中海の島で住民はギリシャ正教徒とイスラム教徒が半々の宗教や文化の違いがあり、市井の人々の生活や島の地理まで、今も世界で最も小さい独立国の一つとして旅行できそうなリアルさだ。ペストという疫病が島を襲う。「本書に記されたさまざまなことが(略)どことなく見覚えがあるように感じられたのだとしたら、それは偶然ではない、意図されたことである。」もちろん2023年の読者は世界を襲ったコロナウィルス、世界の混乱やロックダウンを想起する。2019年以前ならできなかったレベルで共感できる。パンデミック鎮圧に奮闘するヌーリー医師とパーキーゼ姫の、リアルなようでファンタジックな波乱万丈の一生にも引き込まれる。パムクの新たな名作。

  • 下巻を読み終えた。上巻と違い、下巻では作者であるオルハン・パムクが作り上げた壮大なフィクションが一気に進む。思わぬ展開に戸惑いを感じながら、何とか読み進めるが、なかなか捗らなかった。何が原因だったのか。

    上巻では、作者の描く、パンデミックがもたらした混乱や人間の心の葛藤に共感できたので、そういった描写をじっくり読み続けることが出来た。ところが下巻では話が急展開し、民族主義の内容にぐっとシフトする。もちろん、パンデミックが国内の政治体制を変えることだってあり得ないではない。が、話が広がりすぎて焦点がぼやけ、ストーリー展開や、やがて登場人物にさえも共感が持てなくなり、そういった自分の感じ方を最後まで修正できずに読み終えてしまった。

    ただ、訳者あとがきに「ミンゲル島の随所に凝らされた現実を戯画化したと思しきさまざまな仕掛けは、…あくまで読者を愉しませるのが主な目的であるようだけれど、ミンゲル革命に関してはその限りではない。それが否応なくトルコ革命を想起させずにはおかないよう作りこまれているからだ。」とあるので、私が感じた違和感は、もしかしてパムク一流の皮肉(批判)として描かれたものか?と、考えてしまった。ならば、やっぱりパムクはすごい!と同時に、作者は母国で安寧に過ごしていけるのだろうか、と懸念される。
    それを判断できないし、『わたしの名は赤』『僕の違和感』のような感激はなかったので、今回はあえて『評価なし』を選んだ。

  • 地中海の架空の島、ミンゲル島でのペストの流行。封じ込めのために各国に海上封鎖されて閉じ込められた中で毎日死者が増えていく。八方塞がりの中で有効な手を打てないオスマン帝国からの島の独立というもう一つの大きな動きがあり、しかし、その主役たちも次々にペストや政争に倒れていきます。スケールの大きな歴史小説のようなのですが、残念なことに末期頃のオスマン帝国の歴史に詳しくなく、小説がどういうふうに史実とオーバーラップしているのか分からなくて、その知識があればさらに面白く読めたような気がします。

  • オスマン帝国末期の架空の島を舞台に、ペストの惨禍と島の独立が描かれる。語り手は女性の歴史家という想定なんだけれど、下巻を読む頃には、私の中では語り手がオルハン・パムクになっていた。
    疫病をめぐる諸々については、20世紀初頭の物語ではあるけれど、コロナ禍を経験した21世紀の読者にはとても身近に感じられるかもしれない。消毒と隔離、外出禁止という政策はまったく同じ。イスラム教とギリシャ正教の対立という宗教的な要素や、クレタ難民、欧州諸国の海上封鎖、帝国からの独立という筋書きがトルコらしいところ。
    個人的にトルコの歴史には疎いので、どのあたりが史実とフィクションの境目なのかよくわからないまま読み進んだけれど、大まかに、帝国末期の様子が反映されているのだろうと思いつつ楽しんだ。

  • 率直に言ってまったく合わなかった。架空の島と架空の民族、架空の歴史を題材にした物語であることに全く抵抗はないが、繰り返される後世の架空の史家や民衆からの視点の描写、しっくり来ればディティールのリアリティを際立たせてくれるはずの言葉の一つ一つが、私には逆に「つくりもの」感を際立たせ、読んでいて虚しくなってしまった。登場人物たちの行動もピュアでナイーブにすぎると感じてしまい、貴賤を問わずその生まれや立場、職業に見合った生々しさがほとんど感じられなかった。といってもノーベル賞作家、私個人の感じ方の問題ではあろうが…楽しめず残念。

  • 面白そうで全く入れず

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著者プロフィール

オルハン・パムク(Orhan Pamuk, 1952-)1952年イスタンブール生。3年間のニューヨーク滞在を除いてイスタンブールに住む。処女作『ジェヴデット氏と息子たち』(1982)でトルコで最も権威のあるオルハン・ケマル小説賞を受賞。以後,『静かな家』(1983)『白い城』(1985,邦訳藤原書店)『黒い本』(1990,本書)『新しい人生』(1994,邦訳藤原書店)等の話題作を発表し,国内外で高い評価を獲得する。1998年刊の『わたしの名は紅(あか)』(邦訳藤原書店)は,国際IMPACダブリン文学賞,フランスの最優秀海外文学賞,イタリアのグリンザーネ・カヴール市外国語文学賞等を受賞,世界32か国で版権が取得され,すでに23か国で出版された。2002年刊の『雪』(邦訳藤原書店)は「9.11」事件後のイスラームをめぐる状況を予見した作品として世界的ベストセラーとなっている。また,自身の記憶と歴史とを織り合わせて描いた2003年刊『イスタンブール』(邦訳藤原書店)は都市論としても文学作品としても高い評価を得ている。2006年度ノーベル文学賞受賞。ノーベル文学賞としては何十年ぶりかという

「2016年 『黒い本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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