地球の果ての温室で

  • 早川書房 (2023年1月24日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784152102010

作品紹介・あらすじ

謎の蔓草モスバナの異常繁殖地を調査する植物学者のアヨンは、そこで青い光が見えたという噂に心惹かれる。幼い日に不思議な老婆の温室で見た記憶と一致したからだ。アヨンはモスバナの正体を追ううち、かつての世界的大厄災時代を生き抜いた女性の存在を知る

感想・レビュー・書評

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  • SFのいいところを凝縮した、素晴らしい作品でした。著者のキム・チョヨプさんは、作家ともう一つ物理学者という側面も持っているので、作品の
    中にも化学用語とかがよく文章に投影されています。未来の世界を舞台に、ダストという毒物が蔓延された世界で、人々は外に出られない状況で、ドームシティーを創り出し密閉された世界で生きている。そんな蔓延された外の世界に、憧れを抱き、生きれる場所を探す姉妹がいた。
    森の奥にダストに対応できる環境があると、植物の持つ再生と破壊が鮮やかな目線で描かれています。

  • ダストという毒によって動植物が死ぬ大災厄から復興して60年。生態学者のアヨンは、謎の蔓(つる)草モスバナの異常繁殖を調査する内に、自分が学者を志すきっかけになったある人との繋がりを思い出す──。

    青い光を放つ謎の植物モスバナ。そこからアヨンの物語は始まった。復興後の世界を生きる彼女は、モスバナを調査する中で大災厄を生き抜いた者たちの物語へとたどり着く。街も道徳も失われた世界を生きてきた姉妹アマラとナオミ。さらに、彼女たちが出会った謎の女性ジスとレイチェルの物語が時を越えて交差していく。モスバナが蔓を伸ばしていくようにただひたすらに生き続けた人生は、この世界の歴史を絡め取って暴いていく。

    荒廃した世界の描写が魅力的。死と悪意で混沌とした大災厄時代も、そこから復興してきつつある世界のちぐはぐさも好き。アヨンが夜の庭で見た青い光のシーンは、自分も見ているように錯覚したほど美しかった。世界の匂いが伝わってくる文章が際立つ。そこにモスバナという植物の生命力が瑞々しく、ある意味では禍々しく映り込んでくるのも絶妙。

    人と植物の対比も鮮やかだった。ダストから逃げた先のドームで、人間同士で殺し合いをしてしまう無常さ。利他的な者から死んで奪われ、利己的な者が奪って生き残った世界。一方の植物モスバナも、人が生きられない死した大地から栄養を得て繁茂していく。人と同じようで全く違う植物の精密で機械的な生命力に気高さすら感じた。しかし、人は利己的で矛盾を抱える存在だからこそ、そこから花開く奇跡があるというのも素敵だった。地球の果ての温室で生まれたすべては、その境界をなくして世界そのものになった。すべて等しき生命として、同じ地球で生きていくのだ。


    p.62,63
    「ダスト時代は、利他的な人ほど生き残ることが難しかった。わたしたちは生き延びた人たちの子孫なんだから、わたしたちの親や祖父母の世代のなかにもっぱら善良に生きた人を見つけるのは難しいでしょうね。みんな少しずつ、ほかの人の死を踏み台にして生き残ったのよ。ところが、そのなかでも進んで人を踏みにじっていた人たちが貢献者として尊敬されてる。そんなことは断じて認められないと主張する人たちがいる。アヨン、あなたにはまだ難しいわよね」
    じっくり考えてみた。理解できそうな気がする一方で、頭がこんがらがりもした。命が懸かっていれば、死を目前にして誰もが利己的な選択をするはずだ。こう思うのも、スヨンの言うように、自分が“利他的でない人の子孫”だからなのだろうか。すると、一度も会ったことのないおじいさんやおばあさんの代までたどることになり、けっきょくはダスト時代以降に生まれた全員が原罪をもつのではないか、そんな思いに至ってしまった。

    p.76
    「わたしもあるとき気づいたんだ。嫌いなやつらが滅びるべきであって、世界が滅びる必要はないって。それからは、長生きしよう。死んでたまるもんかって心に決めたんだ。そうして嫌いなやつらが滅びていくのをとくと見届けてやろうってね」

    p.228,229
    青く光る塵がゆっくりと宙を舞っていた。わたしは、青い光で森を染めるその植物を見ながら、苦しみはいつも美しさと共に訪れるのだと思うようになった。あるいは、美しさがいつも苦しみを伴うのか。

  • ダストという毒物の蔓延により、動植物が死に絶え、滅亡の危機に立たされた時代を生き抜いた幼い姉妹・アマラとナオミ、そして謎の女性・ジスとレイチェルの物語。
    過酷な状況の中、アマラとナオミが辿り着いたフリムビレッジでの生活は、束の間の平穏と、徐々に追い詰められていくことで破綻していく人間関係が上手く描かれていました。そんな中でも、“明日“を迎える希望を胸に、生き抜こうととする力強さがとても良かった。
    ジスとレイチェルは、キム・チョヨプさんが作品のテーマとしている、分かり合えないものだとしても共生したいという関係性を感じました。
    キム・チョヨプさんの、切なく物悲しい世界の中に、かすかな温かさを感じる眼差しがとても心に沁みる作品でした。

  • キム・チョヨプのSF2作品目。こちらは長編で結構過酷なディストピア世界を描いているのに、どこか幻想的で温かい雰囲気を持つ物語。没頭して読み進めた。

    ダストという毒物が地球規模で蔓延し、あらゆる動植物が死に絶えた世界。復興から60年、異常繁殖する謎の植物モスバナの調査を行うアヨン。アヨンが調査の中でたどり着いた、世界の復興に貢献したとされるナオミ。そしてナオミとその姉アマラが幼かった頃に出会ったジスとレイチェル。それぞれの女性の視点で複層的にストーリーが編まれ、大厄災から復興までの時代の変遷とその裏に埋もれた女性たちの物語が浮かび上がってくる。

    ダストの時代に利己的な人間はドームシティで生き延び、そこに入れない者たちは容赦なく殺害されてしまう。そんな人類の残酷かつ醜悪な一面が浮き彫りにされながらも、ドームの外で何とか生き延び、再興を図ろうとするのはほとんどが女性。これは現状の行き詰まった社会や滅亡が迫る世界で、それでも未来を切り開く力を女性に託したいという著者の思いの表れなのだろうか。

    地球が滅びるとしても、植物の生命力は人類を凌駕して生き延びるだろうな。だけどどんなに過酷でどうしようもない世界でも、何とか生きようとする人間も、だれかを思う心も捨てたものではないはず。
    植物がいっぱいの温室の光景を思い描きながら読むのが楽しかった。

  • 지구 끝의 온실(地球の果ての温室) - CHEKCCORI BOOK HOUSE
    https://bit.ly/3VVtUpC

    김초엽 - YES24 작가파일
    http://www.yes24.com/24/AuthorFile/Author/208250

    地球の果ての温室で | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015336/pc_detail/

  • 巷に繁茂し出した雑草の謎を追ううちに、ひとりの植物学者はかつて滅びかけた世界の真実と、その時代を潜り抜けた女性たちの半生を知っていく。

    途方もない災厄の中で醜く争う人類たちと、その中でも親愛を失わず、未来への希望も捨てきれずに生きる人々をやわらかく繊細に描き出し、やがて一人の科学者と整備士の深い絆を思い知ることになる。複雑な事情の絡んだ彼女たちのあいだにあった真実が明かされる終盤は、抒情的で切なく、とても素敵でした。

    そして世界の危機に瀕した人々が、生きることに汲々としてわだかまりもあった彼らが、実は共通の行動を起こして未来を作っていた。そんな、どこか理想的だけれど、こんな善性を信じてみたいと思わせる真実に作者のやさしい視線を感じました。

    ディストピアSFに区分される物語なのでしょうが、破滅や諍いだけでなく、その中で生きる人々の、愚かしくもいとおしい姿を繊細に描いた作品だと思いました。

    すごく良かったです。

  • ポストアポカリプスでアフターコロナを感じるけど、著者はいつこのストーリーを思いついたのだろう。

    蔓植物が世界に伝播していってたところは、「トップをねらえ!」のラストシーンの音楽が流れた。

  • 前作の「わたしたちが光の速さで進めないなら」が好きだったので期待していたキム・チョヨプの新作。前作は短編であり物語を通じた社会に対するいろんな彼女の視点を感じた。一方で本作ではミステリー仕立てになっている点もあいまってストレートな物語の面白さがあった。
     ポストアポカリプスものはSci-fiのテーマとしては王道だけども、その原因がミクロな物質および気候変動とという設定が興味深い。本作における「ダスト」はミクロかつフィジカルに人間を攻撃する厄介なもの。(黄砂が毒性持つイメージ)本著はコロナ禍で書かれたそうで、ミクロな物質の王道としてよく使われるウイルスだと現実からの飛躍が少ないからか「ダスト」という設定なのかもしれない。その暗澹たる環境の中で世代、国籍の異なる女性たちがストラグルする話がメインで、それを追いかける韓国の現代パートという構成になっている。
     前半はダスト事変以後の世界でダストの研究を続ける韓国サイドの研究者の話が中心で、そこでは「研究」することの是非が描かれていた。日本だけに限らずCP、TP的な価値観の跋扈は進んでいるのだろうか。特に「研究」というのはすぐに結果が出るものではなく、時間をかけてこそ意味があることをにじませていた。後半にかけてはタイトルにもある本作最大のキーワード「温室」およびそこで育てている植物の謎へフォーカスしていく。ここが完全にミステリー仕立てでエンタメとして単純にオモシロかった。人間のコントロールによる結果とはいえ起死回生の一打が植物にあるというのは2023の今だと現実味を感じられた。ポストアポカリプスものに共通する「人間は己の驕りを知るべし」という教訓がそこかしこにあってコロナ禍を経た今だと考えさせられることも多い。そしてまさかの恋物語も切ない話だった…あと全体に著者の語り口の柔らかさでまろやかになっている気もした。セリフではあるもののたとえばこんなラインなど。対談本が出ているそうなので、そちらも読んでみたい。

    *懐かしさと痛みは、いつも同時に訪れる。みんながみんな、それに耐える必要はないものね。*

    *心も感情も物質的なもので、時の流れを浴びるうちにその表面は徐々に削られていきますが、それでも最後にはある核心が残りますよね。そうして残ったものは、あなたの抱いていた気持ちに違いないと。時間でさえもその気持ちを消すことはできなかったのだから*

  • とつぜん繁殖した雑草の秘密をめぐってほどかれてゆく世界の歴史と、そこに生きた女性たちの物語。
    どこか懐かしくて柔らかい、ロマンチックなSF物語。この世界はどうしようもなくても、もう立て直せないと思っても、それでも守る価値のあるものは存在する。世界がどんな形に変わろうともそれでも愛はそこにあるのだと、穏やかな文体が静かな力で描き出す。
    出てくるモチーフひとつひとつがとても魅力的で知的好奇心をくすぐられるのと同時に、儚くも美しい光景が頭の中に広がっていく。
    そして登場人物も。かつての機械整備士と植物学者がたどり着いた夢の果ては決して哀しいものではなかったのだと信じたい。

    前作が好きだったので今作も購入。変わらずノスタルジーとロマンチックが溶け合った、静かに染み入る物語だった。

  • 「わたしたちが光の速さで進めないなら」
    の抒情性はうすめられていた
    しかし植物はなんにでもなれる
    人をピラミッドの頂点とし、その下に動物、植物はさらにその下とされてる見方を真っ向から否定する目からうろこの近未来SFだった
    『地球という生態系において、人間はつかの間の招待客にすぎません』のことばに心が揺り動かされた

  • ダストという毒物の蔓延時代を生き抜いた人々と、アマラとナオミの姉妹、レイチェルとジスの物語、そしてダストと謎の蔓草モスバナがたどる道。

    滅亡寸前の悲惨な時代から、ようやく復興した地球。あのとき世界を救った、二人と二人の真実とは…。

    コロナを彷彿させる描写ですが、私は最初なかなか読み進められなかった。第一章(100ページ)が終わってから段々と物語は加速しだすんだけどゆっくり語られていくような感じ。第二章のアマラとナオミの話が面白かった。第三章のレイチェルとジスの関係性には興味深かった。

    ダスト終息はテクノロジーと全人類的な協力による勝利と受け止められてきたけど、本当はそれだけではなかった。
    ダストを取り除く効果があるモスバナを各地に植え育てたナオミ、ジス、フリムビレッジにいた人たち、そしてレイチェルのお陰で人類は救われてたいた。

    キム・チョヨプを読むのは「わたしたちが光の速さで進めないなら」から2作目。難しかったけど再生していく姿は清々しくもあって希望がもてた。

  • この地球は植物のもの……人間その他の動物は植物に依存して生きている。

    SFしかもディストピア小説で、人類自らの過ちから地球上の生物滅亡の危機という設定にも関わらず、健気でひたむきな主人公たちのようすが、素直に心に響く。

    過去と現在を交互に描いているが、混乱もなくすんなり頭に入っていき、没頭してしまった。

    ただ……
    ほぼ、女性しか登場しない。なぜ?意図的?
    もう一つ、
    舞台はほぼ、韓国、マレーシア、エチオピア。
    これもなにか……。

  • 短編集「わたしたちが光の速さで進めないなら」が印象的だった、韓国の新鋭SF作家さんの長編作。品のある文体というか、静かで丁寧な文章は読んでてとても心地よい。途中それだけに短編集では感じなかった会話や描写が冗長に感じる場面もなくはなかったが、構成がしっかりしているので着実に読み進めることができた。ちょっとあの日本で有名なアニメの設定を連想させなくはないが、そこは気にせず読むのがよいでしょう。

  • 起きている事態に対して人間(じゃないのか)の情緒の発達段階が13歳で拍子抜け。『りぼん』とかで漫画化するとよいのではないかと思う。そこで『りぼん』読者がおもしろく読むならそれでよいと思う。

  • 著者の短編集である「この世界からは出ていくけれど」、「わたしたちが光の速さで進めないなら」がとても面白くて、長編も読んでみたいと思い手に取った。

    私はキムチョヨプさんの描く文章や世界観、人の心の温かさや愛情深さがとても好きなので、この本も総じて好きだし、好きな作家さんだと思った。

    物語は3人の視点で描かれており、3つの物語が繋がって一つのストーリーになっている。それぞれ短編を読んでいるようでもあり、とても読みやすく一気に読める。

    ナオミとアマラ、ジスとレイチェルのお話は、特に面白くて引き込まれた。著者は温かくて切なくてどこか悲しい人の感情を書くのが上手だと思う。

    あと、著者あとがきの中の「わたしたちがすでに深く介入してしまった、後戻りできない、けれど今後も住み続けなければならないこの地球」、「とうてい愛せそうにない世界を前にしながらも、最後にはこれを立て直そうと決心する人々」という表現が心に刺さった。

    ただ短編集にはあった、簡潔で無駄がないのに起承転結がはっきりしている点や、SFならではのワクワクする設定や気持ち、驚きが詰まっている点などの長所が損なわれてしまっていたと感じ、少し残念だった。
    丁寧に全ての伏線を回収しようとしすぎて、終盤が冗長になってしまっている感じがした。

  • めちゃくちゃ面白い小説だった……!!!
    翻訳小説は独特の文体があると思うのだけど、韓国語は文法が似ているからかこの作品ではその感じもおぼえず、本当に読みやすい文体でするする読めた。

    するする読み進めたのはもちろん内容がめちゃくちゃよかったのもあって、SFって謎が解けたり時空を超えて何かが繋がったときに自分の脳内で小爆発が起きて面白さが加速する瞬間が好きなんだけど、そういう瞬間を1回だけでなく味わえた作品だった。

    植物がキーとなるディストピアの舞台も魅力的だったけど、個人的に魅力的だったのはキャラクターの描き方で、アヨンの周りの人間関係もよかったし、後半核心に迫って描かれたジスとレイチェルが本当に……切なくて切なくて……胸がずっとギュッと掴まれてた……。
    時系列や視点が入れ替わりながら進むのであとからじわじわあの人は……あの二人は……と想わされることも多かった気がする。

    大人と子供の描き方も魅力的でよかった、ナオミ視点は児童書を読んでるみたいなワクワク感があったなあ。
    ナオミとジス、アヨンとヒス(ジス)の交流の場面好きでした。
    あとアマラとナオミがいっとき緩い連帯を持っていた女性たちもよかった。

    絶望だらけで、人間がいかに脆いかを描きながらも希望の欠片を積み重ねて前向きな終わり方をしているのが素晴らしかった。勇気とか努力とか忍耐をもって希望の欠片を積み重ねているのが素晴らしかった……。

    でもやっぱり一番はジスとレイチェルのことがしばらく心に残りそうだ〜。。。

  • 前作の短編集が良かったのでこちらも読んでみた。SF感満載の設定と人と人(特に女性)のつながりを紡ぐエモーショナルな筆致が作者の持ち味なのかなと思う。淡々としつつもドラマチック。
    今作では、毒霧に世界が覆われ地上が荒廃したディストピアで、必死に生き残る幼い姉妹と彼女たちが行き着いたいっときの安住の地、そのコミュニティの心臓部とも言える温室で謎の研究をしている姿を見せない植物学者と彼女を支え諭しながら村を守ってきた整備士、復興後の世界でふとしたきっかけで彼女たちのことを知ることになり真相に迫る後世の研究員が描かれる。
    近未来のディストピアを描くSFの醍醐味もありハラハラドキドキする展開もあるのだが、やはり読後に感じるのは、「心の中に残り続けるあの人」「心の中に残り続けるあの風景」に対する、切なくて寂しくて懐かしくて愛おしい、胸がキュッとなる感情だ。エモSF……。各世代のシスターフッドが描かれているのも良い。ユンジェ先輩(主人公である研究員の先輩)良い先輩!

  • ダストフォールという地球規模での災害が発生した後の世界。ドームに逃げ込むことができた人と、耐性を持っていた人が生き残って、世界を再建した。ダストの時期に、地球を覆っていた植物、モスバナが、今頃になって再発生したことから始まった調査だが、主人公アヨンの思い出につながる点があり詳しく調べていく中で、ダスト時代の人々の行動が明らかになっていく。
    序文で作者本人が書いているのだが、この本の執筆時期がCOVID-19が最も深刻だった時期に重なっていたとのこと。小説の中のダストフォールが、現実のパンデミックと重なる部分もある。
    とても面白かった。おすすめです。

  • デビュー作でもある前作の短編集から一気に大ファンになった作家さん。
    待ちに待った新刊でウキウキしてあらすじを見るとどうやら今回は長編とのこと。
    それもあってか前作よりも展開はゆったりとした流れ。
    それでも中盤から終盤にかけて過去と現在が交差し運命が紐解かれていく様は圧巻だった。
    終末という救いようのない世界を描きながら、まるで陽だまりの中に包まれるような安堵感を覚えるのは、やはり作者の優しい眼差し故なのかな。

    前作から共通する、好奇心が揺さぶられるSF設定の楽しさと「あなたを知りたい」という人間的な願いの尊さが、引き続き素晴らしかった。
    早くも次作が待ち遠しい。

  • かつて地球は“ダスト”と呼ばれる物質により滅亡の危機に瀕しており、復興が果たされた時代と、先の見えない絶望に溢れた時代の出来事が交互に語られ、ダストによる災害を終息に向かわせたとされる定説に隠された真相が明らかになる話
    だけどこの作品に描かれるのは、いくつもの、たったふたりの特別な関係であり、肉親、友人、恋人とラベリングすることの出来ない、かけがえのないあなた、を想い続ける心
    植物に覆われた終末期の風景の中を行く、ふたりの姿を思うと、それこそ蔓草の棘が刺さる心地がする

    キム・チョヨプさんの作品はいつも、感想を上手く書くことが出来ない
    『わたしたちが光の速さで進めないなら』も『この世界からは出ていくけど』も、好きだけど辛い、読めて良かったけど、しんどい 知りたくなかったなんてちっとも思わないけど、心を裂かれて奪われたような、苛立ちも共にある

    この作品の執筆はまさにコロナ禍の中で行われ、それにリンクする内容でもある
    2019年の春ごろから世界規模で起きたあの出来事は、すでに終息を迎えてしまったかのような空気がある
    災禍がありその記憶が薄れつつある今と、復興が果たされた作中の世界も繋がって読める もっと先の時代で読み返したら、ただ懐古するだけの読書になってしまうのだろうか
    人間の記憶も感情も、己ではコントロールできない歯がゆさや、それに干渉してしまった後悔なども共に書かれていた やっぱり辛い でも好き

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著者プロフィール

岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー、同院アトリエなどで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞。和訳書にペク・スリン『惨憺たる光』『夏のヴィラ』、チョン・ユジョン『七年の夜』『種の起源』、キム・チョヨプ『地球の果ての温室で』『派遣者たち』『惑星語書店』など。児童書の韓訳も手掛ける。著書に『일본어 번역 스킬(日本語翻訳スキル)』(共著)。

「2025年 『まぶしい便り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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