スラッジ 不合理をもたらすぬかるみ

  • 早川書房 (2023年1月24日発売)
3.10
  • (3)
  • (7)
  • (11)
  • (6)
  • (2)
本棚登録 : 153
感想 : 12
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152102041

作品紹介・あらすじ

ナッジとは、より良い行動を促すことであったが、スラッジとは、理性的な意思決定を妨げるような「悪いナッジ」を表す。ビザの申請や年金給付などの場面で、申請者にとって合理的な選択を阻むものが生じるのはなぜか。スラッジ発生の仕組みと削減について解説

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • In "Sludge," Sunstein Shines a Light in the Bureaucratic Darkness - Education Next
    https://www.educationnext.org/in-sludge-sunstein-shines-a-light-in-the-bureaucratic-darkness/

    選択や行動を阻害、社会的弱者を襲う「ぬかるみ」 『スラッジ 不合理をもたらすぬかるみ』など書評4冊 | ブックレビュー | 東洋経済オンライン(2023/04/01)
    https://toyokeizai.net/articles/-/663173

    『スラッジ: 不合理をもたらすぬかるみ』|感想・レビュー・試し読み - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/20456418

    Cass R. Sunstein - Harvard Law School | Harvard Law School
    https://hls.harvard.edu/faculty/cass-r-sunstein/

    行動経済学の新概念『スラッジ』「面倒だからやめておこう…」が生む経済損失とは?|Hayakawa Books & Magazines(β)(2023年1月27日)
    https://www.hayakawabooks.com/n/neb1cef47baf8

    スラッジ──不合理をもたらすぬかるみ | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015329/

  • スラッジは、手続きをやりづらくさせ、不当な利益を得させないようにする取組み。一方で本来、恩恵にさずかる人が得られないこともある。真面目にやれ、努力しろ、さすれば恩恵を得られる、得られないのは怠慢だから。と言われそうだが、人は惰性に傾くし、楽観的に捉えるものだ。スラッジの使い方、考えてみる必要がある。

  • スラッジは基本余計なものだが、全部なくすものでもなく、役に立つ使い方もある
    使い方次第の諸刃の剣

  • 著者がアメリカ人なので、アメリカの事例を取り扱っています。
    が、公共政策としてのあるべき姿に大きな差はないのでそんなに読みにくくもないと思います。

    ナッジとスラッジの用語に厳格な定義がないので、取り扱いに困るところですが、こういう考え方が出てきたくらいの認識でよいのだと思います。
    書籍によってはナッジの中にスラッジを含めて説明しているものあるので…

    意図的で悪質なスラッジとしては保険金の支払い手続きが思い浮かびました。

  • "ナッジ"とは、行動変容や特定の望ましい行為を容易にするためのツールのこと。
    一方で"スラッジ"は、「魔のぬかるみ」や障害など、何かしようとする人の妨げになるものを取り除くためのツールである。
    高齢者や貧困層にとって書類作成の負担は相当に重い。
    申請すれば援助を受けられる権利があるのに諦めてしまう。
    長い待ち時間に複雑な承認プロセスなど、どれほどの弊害か、経済成長を阻害し、イノベーションの芽も摘んでいる。
    さらには人権も侵害し、犠牲者も実際に生んでいることを考えると、どれほど社会全体に不公平をまき散らしているか。

    スラッジの有害さを助長する要因としては3つ、「惰性や無気力(面倒なことは先延ばしにする傾向)」に「現状バイアス」、そして「認知的欠乏」がある。
    特に3番目の「認知的欠乏」は重要で、筆者が特に強調しているところ。

    「欠乏感を抱いている人は、認知的トンネルにはまった状態にあり、視野が狭くなる。その結果、自制心が低下し、より衝動的に、そして時として愚かになる。また欠乏感で頭がいっぱいになると、スラッジを含めて周囲のさまざまなことに注意を向けられなくなる。頭がいっぱいなときには、新たな材料を処理するのが難しくなる」

    例えば、車が故障し、修理費用が10万円と告げられた時と、100万円と告げられた時では、被験者の経済状態によって、その後の一般知能検査に明らかな差異が生じることが実験でわかった。
    簡単に言うと、経済的に余裕のない人にとって、手に余る修理費用は、その工面で頭がいっぱいになって消耗するため、知能検査の結果も悪くなってしまうのだ。
    処理能力が不足すれば、自制心も阻害され、衝動に屈しやすくなる。
    年金受け取りでごった返した銀行で、職員に罵詈雑言を浴びせている人、スーパーやコンビニのレジで無礼な態度を取っている人など、すぐに頭に浮かぶはずだ。

    「私達が個人的属性とみなしている問題のなかには(意欲の欠如、集中力のなさなど)、処理能力の制約に起因するものがあるかもしれない。人格の問題ではなく、欠乏が問題だ。背景でたくさんのプログラムが作動しているために、動作が遅くなっているコンピュータを想像してみてほしい。コンピュータに問題があるのではなく、いくつかプログラムを停止すればよいだけだ」

    病気の人、貧しい人、障害を持つ人にとって、認知的欠乏の問題は大きい。
    スラッジの弊害を最も受けやすいのは彼らだ。
    スラッジ削減の取り組みは、社会的不平等の是正につながり、その効果は日常生活の様々な領域に波及する。
    不必要なコストを抑え、本当に資格のある人だけが許認可を受け、本当に支援されるべき人だけが給付を受けられるようにすべきだ。

    アメリカでは国民が、連邦政府のための書類作成に費やす時間はなんと114時間にのぼるらしい。
    例えば、アメリカでの空港での保安検査の迅速化や、多くの有色人種の貧困層への大学進学の機会を与えるため、出願も受験も一切なく、無条件な大学進学を認めたサクラメント市の例などが紹介されている。

    公共分野だけでなく、民間企業もそうだ。
    よく知られているようにアメリカでは購入商品の返品が自由で、詳細情報の提出もほとんどの場合、不要である。
    あと「選択の設計」によって、タバコや酒の購入に際し、身分証明書の呈示や口頭での確認を求めていたのを、単に画面をタッチさせるだけにするなど、簡便化も計られている。
    しかしワンクリックなどで、とことん簡単にする戦略は、企業側の思う壷の側面も。
    顧客にとって重要な取引条件を、わかりにくくするためにスラッジが仕込まれることもある。
    あるいはサブスクリプション(定期購入)契約の解除をしにくくするなど、あの手この手が考えられている。
    つい先日(2023年6月)も、米連邦取引委員会が、アマゾンプライムについて、承知の上で解約しにくくしているとAmazonを訴えている。

    スラッジを埋め込むのは役人や企業ばかりではなく、法律家もそうだ。
    彼らは、びっしりと文字の書かれた書類を何ページも読んでサインするのは雑作もないことと考えている連中で、心の中では不利益を被っている人を助けようとも思っていても、実際には救えていないのが現状だろう。

    しかし意図的なスラッジでも、悪意あるものばかりではなく、中には有益なものもある。
    つまり、面倒な手続きをあえて強いることで、あるいはあえて敷居を設けることで、某かの弊害を回避できることがある。
    正当化できるスラッジの良い側面としては、面倒な書類手続きのおかげで受給資格の審査が徹底できたり、不正受給の防止や衝動的なズルの発生を防止できる。
    記録管理の徹底や軽率な行為を防ぐための仕掛けとしての側面も。
    このような意味のある負担は、熟慮を促進する摩擦とも考えられ、「本当に○○してよろしいか」という問いかけは、時に有用なものとして機能する。

    しかし、スラッジを増やせば不正受給は減らせるかもしれないが、資格があるのに給付を受けられない人が一定数出てしまう。
    逆にスラッジを減らせば、資格がないのに給付を受けられる人が一定数出てしまう。
    このジレンマは厄介で、不正給付防止が重要だと考えるなら、納税者のお金の使途には制限があるべきだろうし、迅速な給付を重要と考え、ほぼ条件を満たすのであれば幅広く給付を届けた方がいいとするなら、その逆になる。
    現在、持続化給付金の不正請求や、近畿日本ツーリストによるワクチン接種業務での過大請求問題など、検討すべき課題は多い。

    いま国や自治体では、行政文書の作成にChatGPTを活用しようと検討がなされているが、これなどもスラッジの取り組みと考えていいだろう。

    しかし何がスラッジで、何がそうでないかの基準は曖昧で、ただの手間なのか、それとも正当な手続きなのか、本当に社会にとって害悪なのか、それとも歓迎すべきものなのかは、よくよく熟慮が必要とされる。
    著者は実際にオバマ政権下で、スラッジ監査の担当責任者となり、「失敗した」という述懐から本書は始まっているが、読んでてさもありなんと感じた。
    高名な社会科学者を登用してもこのザマなのだ。

    何に失敗したか。
    ことほど左様にスラッジの線引きは曖昧なのに、その洗い出しを各省庁に押しつけ、それが厖大な手間を発生させスラッジと化したこと。
    それでもスラッジ削減という方向性は間違っていないと、対象機関に一律で、年間の書類作成負担を200万時間以上削減するよう号令をかけるなど。
    官僚からはずいぶん煙たがられただろうし、面従腹背で格好だけ実践している風を装い、退任と同時に深い安堵の息をついたことだろう。

    皮肉なことにスラッジ撲滅が本当に進展したのは、彼女の在任時より、コロナ禍の方が、実際の行政手続きの簡素化は大いに進んでいる。
    パンデミック禍であれだけの死人と混乱があってはじめて、必要なものを迅速に届ける必要性が生じ、簡素化なり、免除なり、自動化によって、スラッジ撲滅が真に進展したのである。
    平時にアメリカのような分断国家で、何らかの政治的コンセンサスが得られただろうか。
    左派でこの分野の専門家と言われる第一人者がトップにある時には進まず、コロナの影響なんて大したことないと嘯いていたトランプ政権下で、事態は進展するという皮肉。
    本当に頭でっかちな先生の講釈がいかに社会を動かす推進力となりえないかをまざまざと見せつけている。

    例えば、アメリカでは人工妊娠中絶の権利を巡る規制は各州ごとに異なっていて、中絶の権利の行使を思いとどまらせる様々なスラッジが用意されている。
    中絶の危険性を説いたビデオ視聴を夫婦に義務づけ、胎児が感じる痛みなと説明するカウンセリングまで受けさせる。
    これは熟慮を促すための合理的なナッジととらえるべきか、女性の基本的な権利を侵害するような過剰なスラッジととらえるべきか。
    著者の視点から言えば、明らかに後者だろう。
    オバマケア(医療費負担適正化法)を巡っても、簡単に誰もが医療保険に加入できるようになるはずが、後でたっぷりとスラッジを仕込まれ、形骸化し機能不全となってしまっている。

  • とりあえず、訳が下手くそ過ぎて絶望的に読みにくいです。google翻訳のような不自然な日本語で、主語がない、対応関係がおかしい・・・など具体例をあげればきりがありません。非常にストレスフルな読書でした。

    内容は真っ当ではありますが、スラッジとして挙げられている例がアメリカの制度であり、理解がなかなか難しく感じました。そもそも、真新しい内容でもないとも感じられました。
    100ページ程度の本で2500円弱することを考えると、図書館で借りてよかったと心の底から思えた1冊です。まあ800円くらいの新書レベルの内容と思います。

    本文の後ろについている「解説」はわかりやすかったので、興味がある方はまずはそこから読めばよいかと。

  • 社会を停滞させる障害物としての煩雑な手続きや制度に『スラッジ』という言葉を与えて可視化したのは有用だと思う。
    だが冗長に例が並べてある
    ので、要約すれば20ページくらいで十分な気がした。

  • 読みやすく、面白かったです。
    スラッジ=悪ではなく、熟慮促進ナッジの悪性であるという理解

  • 【書誌情報】
    原書名:Sludge: What Stops Us from Getting Things Done and What to Do about It(The MIT Press 2021)
    著者:Cass Sunstein
    訳者:土方 奈美
    価格:2,420 円(税込)
    ISBN:9784152102041
    刊行日:2023/01/24

    行動経済学の泰斗が、悪いナッジ=「スラッジ」を解説
     ナッジとは、より良い行動を促すことであったが、スラッジとは、理性的な意思決定を妨げるような「悪いナッジ」を表す。ビザの申請や年金給付などの場面で、申請者にとって合理的な選択を阻むものが生じるのはなぜか。スラッジ発生の仕組みと削減について解説
    https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015329/

  • ナッジの反対のスラッジ。サブスクサービスの解約しにくい仕組みとか。良い意味での意図的なものもある的な。

全12件中 1 - 10件を表示

キャス・R・サンスティーンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×