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本 ・本 (424ページ) / ISBN・EAN: 9784152102393
作品紹介・あらすじ
ベルリンで同性の恋人を殺した陳天宏は、刑期を終えて台湾の永靖に戻って来る。折しも中元節を迎えていた故郷では、死者の霊も舞い戻る。天宏の六人の姉と兄、両親や近隣の住民。生者と死者が台湾現代史と共に生の苦悩を語る、台湾文学賞、金鼎賞受賞の長篇
感想・レビュー・書評
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おっっっっっもしろかった!!!
台湾のある家族の末っ子が、ドイツで同性の恋人を殺して服役した後に帰って来る。
帰って来る、のだけど末っ子だけでなく他の家族の語りがガシガシ入って、冒頭で最寄駅辺りにはいるはずなのに全然家に着かない。
最初は視点があっちこっちに行くので困惑したが、渦が中心に向かって巻いていくように、次第にそれらの語りが繋がっていき、家族の過去に隠されたものが見えて来る。
途中からはのめり込んで読んでいた。
超自然的なところもありつつも、様々な差別や偏見も織り込まれ、とてもリアルな手触りだった。
ラスト付近は思わず何度か声が出そうになった。
圧巻。
今年のマイベスト入り間違いなし! -
台湾中部永青に住む(住んでいた)一家の歴史が、陳家の各人(うち2人は幽霊)、及び関係者によって語られる。幸せな人は誰ひとりとしていない。最初から最後まで不幸のオンパレードである。
女児4人の後に生まれた男児2人が収監され、悲嘆にくれる母親。そんな母に理不尽な扱いを受けてきた娘たち。世間の偏見を逃れるように海外で生活していた彼が、中元節に帰郷する。彼らの周りに渦巻いていた謎が、徐々に解き明かされていく。まず真相を知りたかったのが五女が亡くなった経緯だが、かなりじらされた。
終盤で父親の謎も明かされ呆然としてしまった。最後の最後であっけにとられた。まさに「ホラー・ミステリー」。優れた小説だと思うがもう読みたくない。 -
またひとつすさまじく、すばらしく力強い物語に出会えた…。
台湾ではおととい鬼月がおわり、門が閉じたという。中元節の時分に出版社の方が紹介されていたこの本の装丁にひとめぼれし、『亡霊の地』(原題『鬼地方』)というタイトルに震えながら(ホラーが大好きだけど苦手なので)手に取った。
あとがきで知ったが、『台湾文学ブックカフェ プールサイド』の、「ぺちゃんこな いびつな まっすぐな」と同著者の著作であるとのこと。もう治っているけどたまにしくしくと痛むような、そんなたまらない小説。
何度もなんども、涙を流した。つらく苦しい思い出、いや思い出ではなく 記憶、忘れ去りたい過去、しかし自分を確かに形作った、その場所、故郷を忘れたい、そこから去りたい、もう戻ってくることもない。そう思わせた出来事。天宏が記憶に潜っていくなかでわたしもその傷を負い、嗚咽し、諦め、しかし愛し、追体験はとてもつらいものだった。つらい。ただつらい。けれど生きている。死のうとしたが、生きている。そしてここへ帰ってきた。
かれら一家は皆傷を背負い、しかし生きて、(ひとりは生き抜いて死に、)まだこの「亡霊の地」に縛りつけられている。去ったはずの、帰ってくるなといわれ送り出された彼も、引き寄せられるように戻ってきてしまう、故郷というにはあまりにも残酷な場所 現在の、実際の永靖と、フィクションの永靖がかさなり、呼応し、一方は消えて、また立ち現れ 幽鬼のように あとがき、訳者によるあとがきまで気を抜けない。しかし不思議に後味のよいさわやかな、なんだか軽くなるような…不思議な小説だった。
あっけらかんとした、最後のふたりがなんだか微笑ましく、恨みが、灰が連れ去ったはずのふたりが、寄り添い、しかし一方は死に…最後の二通の手紙は…もう…
時代が、といえばそれまでだけれど、
隣の島国の、私たちが望む未来、その輝かしい未来の過去に、確かに生きていた、そして命の限り生き抜いた人々がいたということ。
私たちは、私たちの場所を、土地を、「亡霊の地」と呼ばなくてもよいように、なにを守っていったらいいのか なにを残していけるのか。
母の母は、祖母は、母に呪いをかけた。女はこうであるべきだと。母は女の私に、その呪いをかけなかった。そのことを、呪いの連鎖を断ち切ってくれた、母を。となりで寝る母を思い、祝福と、呪いと、幸せと、泣かないで、という言葉を思う。 -
ちょっとこれはヤバいやつを読んでしまったのかもしれない。台湾出身の作者の描く、日本で言えば恐らく昭和後半から現代に至る(と思われる)台湾のとある地方における五女二男の子供とその父親、母親の“家族”とその周囲の人々による数十頁のモノローグが積み重なっていく形式で物語は進んでいく。
まずとにかく誰一人として幸せな人間がいない。そして、家族というどうにもならない存在がそれぞれに秘密を抱えて、積み重なり、次第にその重みに底が抜けて、様々な真実が明らかになっていく。
その余りの重苦しさに、最初の50ページでもう読むのやめようと思ったが、いつの間にかやめられなくなってしまっていた。濃厚すぎる台湾の情景描写と、執拗なまでのディティール描写で当時の時代感が鮮明に浮かび上がり、正直、田舎から出てきて、残してきた家族の重みを知る人々ほど読むのが辛くなるかもしれない。しかし、そこは徐々に物語をシラケさせない絶妙な塩梅の謎解きの面白さをちりばめることで、読み進めやすくなってくる。
個人的にはラストが狙いすぎた感があったので星4つとしたが、小説として体内に残るヤバさとしては文句なしに5つ星だ。 -
台湾の青年がドイツで殺人の刑期を終えて、故郷の村に帰ってくる所から物語は始まる。折しも中元節で死者の霊が帰ってくる、そこから生者や死者の語りが始まる。それぞれの語りの中から貧困、DV、あらゆる差別等が浮き彫りになる。超自然の手法で、青年の家族の歴史、日本統治やドイツの非人間的な歴史が明るみにでる。凄い作品だが、台湾名前の読み難さで疲れた。
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作家である天宏は故郷を離れベルリンに。そこで出逢った青年と恋人になるも殺してしまい牢獄へ。釈放されたあと、もう帰ってはこないと思っていた故郷へ帰る。
弟である天宏と兄、5人の姉妹、母親、父親の視点が交互に描かれ、若かりし頃から今に至るまでを物語る。最後、家族全員が抱えてきた秘密が明かされるとき、これまでそれぞれが背負ってきた重みを思って泣きそうになって、「泣かないで」の一言でより泣きたくなった。
長女、次女、三女、四女、五女はまったく違う人生を辿る。長女は台北で出て工場で働くも妊娠し田舎へ出戻り。次女は勉強し台北で役所の仕事に就き平凡な生活を送る。三女は有名なキャスターの妻となり優雅な生活を送り、四女は貿易やクッキーで成り上がった富豪の家へ嫁いだ。が、それぞれが様々な過去の重みや今の生活の苦しい状況があり、お金があるからといって精神が健やかかといったらまったくそうではない現実があって。外からは見えない一つ一つの家の内情が、全てとは言わないけれど小さな部分で身につまされるといったことが多くて胸が痛くなる。
時代や風習で縛られてしまう理不尽さ。そこからなかなか抜け出せないやるせなさ。どうしようもなさ。自分の胸のうちを話せない閉塞空間。過去に縛られ、身動きのとれない、気力がでないような気持ちが、雨がまったく降らず茹だるような暑さに停滞している田舎の風景とだぶる。
言いたいこと、感じたことが多すぎてまったく整理できない。天宏とTのこと、四女と五女のこと、長男のこと、母親のこと、父親のこと。
すごく良い本を読んだという気持ちでいっぱい。
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どこから感想を書けばいいかわからないくらい強烈な一作だった。アジアを舞台にしたマルケス的マジックリアリズム小説であり、主人公が一度は捨てた故郷に戻る帰郷小説であり、台湾の政治と社会の暗部を描いた社会派小説でもある。今までの人生で、こんな小説は読んだことがない。
この小説では、人間も亡霊も一緒になって自分の人生を語りだす。すると家族の秘密、辺境の村の閉塞性、そして政治のむごさが一つ一つ明かされていく。そんな展開をすんなりと受け入れてしまえるのは、台湾の鬼月、中元節という時期の魔力だろうと思う。
唯一難点を挙げるとすれば、主人公の恋人に関する言及はやや表層的というか、もう少し掘り下げてほしいと思った。「いかにも」な社会的理由が語られるが、若干消化不良だったのは否めない。
陳思宏の作品





