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本 ・本 (296ページ) / ISBN・EAN: 9784152102683
作品紹介・あらすじ
人より何十倍も遅い時間の中で生きる姉への苛立ちを抑えられない妹の葛藤を描く「キャビン方程式」、幻肢に悩まされ三本目の腕の移植を望む恋人を理解したい男の旅路を追う「ローラ」――社会の多数派とそうなれない者とが、理解と共存を試みる人生の選択7篇
感想・レビュー・書評
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本当に発想力が素晴らしい!
感覚補助装置フルイド「マリのダンス」
意味合成機、粒子言語「ブレスシャドー」
認知空間=スフィア「認知空間」
などなど、夢のような技術が登場するが「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というから、地球と惑星を行き来し異星人と交流する未来がそう遠くない将来にやってくるかもしれない。
何かが原因で荒廃した地球…。そんな未来にだけはなって欲しくない。
カシワイさんのカバーイラストが素敵です。 -
「わたしたちが光の速さで進めないなら」に続くキム・チョヨプのSF短編集。こちらのタイトル「この世界からは出ていくけれど」もいい。今回も多数派や常識の外にある世界との邂逅をどこか切なく、温かく描く7編の物語を堪能した。
それぞれの世界観に入るまでしばらく時間はかかるけれど、だんだんその世界観が見えてくると登場人物たちの心の動きと情景が印象に残る。
見え方や感じ方、考え方が異なる他者との共存は難しい。すれ違い、傷つけ、傷つけられ、理解できない。自分は本当はとても孤独な存在かもしれない。でもふと異なる世界や他者を思うとき、きっと孤独ではない。
あまりに広大で暗い宇宙の中で出会う他者の存在やここではない何処かに思いを馳せる。どれも今の社会に通じる内容でありながら、SFだからこそ描ける世界観を通して、感情や目に見えないものの価値に触れられる。
今回の7編の中では「マリのダンス」「ブレスシャドー」「キャビン方程式」が好きだった。 -
著者の作品を読むのは2冊目。
前回読んだ『わたしたちが光の速さで進めないなら』から読みやすさや、主旨の明快さと共に面白さも増している印象。どれも面白かったけど『マリのダンス』『ローラ』が印象的。
ほとんどが現在の地球とは別の星、別の文明の物語だが、最後に収録されている『キャビン方程式』は現代韓国に近しい舞台だった。韓国にも日本同様の漫画や怪談があるんだろうか。それとも翻訳時に日本文化に併せた表現になってるのかな? -
ブレスシャドーが好き。 難しい言葉が沢山出てくるけれど、何を伝えたいのか最後にパズルのピースがぴったりハマって温かい気持ちになれるキム・チョヨプさんの小説が好きです。
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宇垣アナのおすすめで読んだ。
まず、日本語版タイトルの「この世界からは出ていくけれど」もセンスがあって良いと思うが、実際に作品を読んだ後だと韓国語版タイトルの「さっき去ってきた世界」の方が、やはりしっくり来るなと感じた。
自分が属している世界に馴染めないマイノリティの人々について描かれた短編集。SF小説は読み慣れておらず、最初は戸惑ったが、各物語の共通のテーマがはっきりとしていること、自分の世界に当てはめて共感できる部分が多いこと、起承転結が明快なことから、とても読みやすく直ぐに読了できた。
人は全て異なる感覚の中で生きている。ただ、大多数の人々が感じる世界と、あまりに異なる感覚の中で生きていくのは苦しく、この世界から出ていく選択をする主人公やそれを見守る人。その間に確かに存在する愛について描かれている。
「ローラ」という物語の中で、彼女の理解できない部分も含めて自分は彼女を愛している。だけど、彼女のどうしても理解できない部分によって、いつか彼女のことを愛せなくなってしまうことが怖い。という感覚には特に共感した。
淡々とした文章の中で、繊細な感情や愛について、多くの人が共感できる形で丁寧に描いており、素晴らしい作家さんだと思った。他の作品も読みたい。 -
姿は仲間とそっくりでも、鋳型に性格的弱点があって任務遂行に苦戦するクローン。
ダンスを習いにきたマリは、視知覚刺激の認知の仕方が異なるため、美しさを目で見ることができない。
呼吸から意味を読み取るブレスシャドーの人々は、空間に粒子を残しておくことで時間差を置いた会話が可能。ただひとり、音声言語話者のダンヒを除いて。
さまざまなマイノリティの人を想起させる設定が並ぶ。
キム・チョヨプさん、なんて賢く、想像力豊かで、思慮深いSF作家なのだろう。
ひとりひとりの違いを尊重して、共生するための補助線をそっと引いてくれる、そんな物語集。動揺してしまうほどグッときた。
未来に開かれたSFの可能性が眩しい。
どれも大好きな中、いちばんは「マリのダンス」
視知覚刺激を具体的な形象ではなく抽象的に組み立てるモーグの存在が鮮烈だった。
目が見える・見えないの二択のみと思ってた自分は世界が狭すぎる。また主人公のわたしは世代によっては人口の5%をも占めるモーグに今まで出会ったことがなく、その不自然さに気付かないところも居た堪れなかった。
モーグのマリと、そうじゃないわたし。互いが自分の感覚についていくら説明してもまるで分かり合えない。
それでも関わっていたいのは、好奇心という、不純かもしれない動機から。
混乱してもがいている二人が見せる切実さに、未来が少しずつ変わっていく予感がした。 -
七編からなるSF短編集。相変わらず独特の緩やかな文体だけど、よりシンプルにわかりやすくなって、心地よさが増した気がする。全体的にはすれ違いや、ずれ、無理解、断絶、などなどにより、理解し合えなくなった関係性の中で物語は展開していく。その落とし込みは基本ほろ苦いが、どこか温かみを感じるのは、この作家さんの特徴だろう。次回作も楽しみ。
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こんな、ストレスなくスーッと飲み込めるようなSF、はじめてかもしれない。
SFは、如何に現実から離れた、陳腐では無いユニークな設定ができるのかがおもしろさの1つの鍵だけど、やりすぎると一気に置いてけぼりになる。
この二者のバランスを、短い文章の中で何回も完結させなければいけない、SF x 短編小説というのはかなり難易度が高いと思う。
この本は、全ての編でそのハードルを悠々に達成していた。各編で様々な設定、現実世界寄りのもあれば、ぶっ飛んだものあり、ユニークさが際立っていた。
だけど、どの話も今いるこの世界の延長にあるような、共通した雰囲気を纏っている。それは、全登場人物に感じた親しみやすさによる物だと思う。
彼ら彼女らが持っている価値観の中に、今の私が持っている感性を見出したからかもしれない。
著者プロフィール
キム・チョヨプの作品






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