- 本 ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152102935
作品紹介・あらすじ
作家ルーシー・バートンの前夫ウィリアムは、71歳にして人生の荒波に翻弄されている。彼の亡母ゆかりの土地を訪ねる旅に同行することになったルーシーは、結婚生活を振り返りながら、これまでの人生に思いをめぐらせる。『私の名前はルーシー・バートン』姉妹篇
感想・レビュー・書評
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ルーシー・バートン シリーズの第3作。ルーシーと元夫 ウィリアムの物語。ルーシーは60代。ウィリアムに頼まれて、彼の異父姉を訪ねる旅に同行する。ルーシーの回想より、小さながエピソードが重なっていく。静かな感動。ブッカー賞最終候補(2022)。
オリーヴ・キタリッジ シリーズは、主人公が86歳になっているので、続編はないと寂しく感じていましたが、このルーシー・バートン シリーズは続編 Lucy by the Sea (2022)が出版されているので、日本語訳を読むのが楽しみです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
不思議な魅力に満ちた本。
ミセス・ナッシュがルーシーに一揃えの服を買ってくれるエピソードや、パーティで出会った53歳くらいの女が出会い系サイトで人生が変わったという話を見ず知らずのルーシーに話す場面とか、淡々とした語り口の中に、深く刺さるシーンが同じ温度で差し込まれ、ハッとさせられることしばしば。
訳者の語り口なのか、エリザベス・ストラウトの本来の語り口なのか、わからないのだが。
繰り返される、「ああ、ウィリアム!」
という呟きは作者本来のものなので、きっとストラウト自身の語り口をうまく訳者が翻訳したということかな。
ルーシーシリーズの、順番的には3番目の本なのだが、他の2冊が短編集の形式で、それぞれの最初の短編をつまみ読みしてるせいで(笑)、ルーシーのことなんとなく知ってるから問題なく読めてしまった。
でも、大方の人間関係はわかるようにした上で、パズルの隙間を埋めていくような書き方をしてくれているので、どの本から読んでも大丈夫だと思う。
3冊(すぐに4冊目が出るらしいが)全部読んでパズルがハマるのを楽しみに次々と読んでいくことにしよう。 -
エリザベス・ストラウトが作り出した作家“ルーシー・バートン”(愛称はボタン)の作風は本作でも全開で、一人称によるストーリーの語りの中にルーシーの脳内コメントがビシバシと差し込まれ、記憶の連鎖と浮かび上がる追憶がおもむくままに、あちらこちらへ回想が飛び回る。
その辛辣な観察眼と人物評は、ときに嫌味や意地悪な視線でもある一方で、その鋭さと深さが胸の奥まで届く瞬間があってハッと心を揺さぶられる。
それはまるで、手練れのボクサーがジャブで翻弄しながらリズムを作ったところで、ストレートパンチを鮮やかに差し込むかのよう。
その言葉は、ラウンドを重ねていくにつれて、けっこう、効く。
しかしなんとも一筋縄ではいかない作家だ。
『私の名前はルーシー・バートン』と同じく、本書も現在地から過去を回想する形式なのだが、回想の中で、更に過去の様々な断片が思い出されていき、前作『私の名前は…』と『何があってもおかしくない』で埋まっていなかったピースがはまっていく様は見事。
記憶の螺旋階段をぐるぐると降りて、ルーシーの意識の深部へと巧みにいざなわれていくかのようであり、終盤にかけてはルーシーの独白による心の流れ取り込まれて、共にたゆたってゆく体験となる。
そしてふと気づくと、ルーシーの想いが自分の記憶の呼び水となる。両親のこと、結婚して築いた家庭のこと、いつでも周囲との間にうっすらと薄い膜があるように感じていた気持ち、大切な人を傷つけたこと。
ルーシーの想いと僕の想いが、ぼんやりと交互に浮かんで流れてゆく。
ルーシーの心の流れと共にたどり着く地点は、いわば数多の作家が書き、誰しもが一度は思うこと。
しかし、言葉に込められた想いの信頼度が違う。
ここにいたるまで長い旅路があったのだと、作りごとではないのだと、そう信じさせてくれる確かなつよさがある。
ああルーシー。あぁエリザベス! 読み終わるとそう嘆息したくなる。
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人の心など、容易に解りはしない、そんな事を教えてくれた作品だった。
自分がある人物に対して抱く印象というのは、外から見た様子やうわべで判断するものが多い。外観やうわべというのは勿論当人が今に至るまでに身についたものなのだろうが、ましてやどうしても隠したかったこと、伏せたいことがある場合は、その人に近づく妨げになる。どんな人だってそんなことのひとつやふたつあるのではないだろうか?
この作品でもうひとつ作者が描きたかったのは、人が成長していくうえで、子供の頃に育った環境ーあたりまえの文化を何も知らないーが与える影響について、ではないだろうか。これらを微妙に絡ませたこの作品を読んでいくうち、私は作者ストラウトが主人公ルーシー・バートンに自身を投影しているように思えてならなかった。
訳者あとがきのとおり、作者の作品が二つの系列に分かれているとするならば、私は「オリーブ系」に理屈抜きでより惹かれる。読んでいて、作品の中には適度な湿度のようなものが感じられ、心地よいのだ。この作品の主な舞台がメイン州ということもあり、どことなく「オリーブ系」感じた感覚に少しずつ近づいていくような気がしたが、翻訳者が、
これまでの「ルーシー系」に比べると、いくらか「オリーブ系」めいた…
と書いておられるのを見て、自分の直感に少なからずホッとした。
これが現時点ではストラウトの最新作であり、次作を味わえないのを残念に思っていたら、早々にこの下巻のような作品が発表されるよう、こちらも楽しみにしたい。
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ルーシーは、別れた夫のウィリアムとウィリアムの父親違いの姉を訪ねるたびに出る。結婚していた頃、気の合っていた姑のキャサリンが小さな娘を置いて、ウィリアムの父となるドイツ人捕虜と駆け落ちしたという事実を知る。ウィリアムもサブスクを使ってネットで調べて初めての知ったのである。
離婚し、それぞれに再婚もしている二人がそれぞれのルーツを思い、なぜ二人で旅をするのかを考える。不思議な関係に思えるが、読み終わって良い関係だなぁと思えた。 -
なにを見てもなにかを思い出す、というのは良く言ったもので主人公も日常の出来事からいろいろなことを思い出す、回想する。それらが著者自身の身から直接出てきたものなのかもしれないが物語のリアルさを産む。リアルなことがリアルである、ということではなく非現実的なことであってもリアルであるのは言うまでもないことでもあるのだけれど、作者の語りはリアルであり、駄目な物語にありがちな嘘くささがない。それだけでも読む価値がある。実は前作も読んでいたのだけれどその時はあまりピンとこなくて、なんてミニマルな事象を描く作家だろうというくらいの評価しかしていなかったのはご愛嬌。でもどのくらいこの作中人物と著者自身が重なっているのか、私小説的部分の占める割合が気になるところではあるのだけれど。秀作!80
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ああ、感動的だった。
散文的に、言葉少ないのに、こんなにも感動的でよく出来た話を、よくも書けるな。
そのこともまた感動的、奇跡的だ。
これは映画化しても描ききれない、この作家でないと書けない世界だ、と思う。
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合わなかった。得るものがない。
内面をつらつら綴ってるだけだ、と思ってしまった。でもよく考えたら本てそういうの多いのに。 -
面白い。
エリザベス・ストラウトの作品





