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本 ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784152103017
感想・レビュー・書評
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上巻を読み終えてから、下巻のレビューを書くまでに時間が空いてしまった。読むのに時間がかかったのではなく、単に私がサボっていただけだ。下巻も面白い。生命を「分割可能な最小の単位=細胞」として捉えたとき、身体という複雑な現象をどこまで理解できるのだろうか。引き続き、そんな問いに挑んでいく。
CAR-T療法やiPS細胞の可能性と限界、CRISPRを用いた遺伝子編集技術など、「細胞」における最先端の医療事情に触れながら、他方でテクノロジーへの盲目的な礼賛に陥らず、倫理的な側面との葛藤を描く。ここからメモ書きを振り返りながらとしたい(期間があくと記憶が曖昧になるので)。
― 生物学では、「器官」とは構造的・解剖学的な単位であり、共通の目的を果たすために集まった細胞で構成されると定義されている。多くの生物学者の研究対象である虫の一種、Cエレガンスの神経系は302個の神経細胞からなる。その数は、ヒトの脳のおよそ3億分の1だ。生物の個体がより大きく、複雑になるにつれ、その器官も必然的により大きく、複雑になっていく。しかし、器官を定義づける根本的な特徴を持つことや、ウィルヒョウが想像したように、それらを構成する細胞が「市民」として機能する点はそのままであり、変わることはない。動物では、器官は構造によって定義される。器官を構成する細胞が市民細胞として協調し合い、器官の生理機能を生み出せるような構造だ。後述するように、器官を構成する細胞もやはり、細胞生物学の基本原理(タンパク質合成や代謝、老廃物の排出、自律性)を利用している。その一方で、各器官の各細胞はスペシャリストでもある。それらは器官の機能に役立つ特殊機能を獲得し、最終的に、ヒトの生理機能を連携させる。つまり、ヒトの器官や、器官を構成する細胞は、より特殊な機能を獲得しなければならないのだ。
― 脳深部刺激療法は強迫性障害や依存症をはじめとするさまざまな神経精神疾患や神経疾患に対する試験的な治療として使われつつある。細胞回路に対する電気刺激を新しい医療にしようと、努力が積み重ねられている。そうした試みの中には、成功するものもあれば、失敗するものもあるだろう。しかし、もしこうした試みがある一定の成功をおさめたなら、それらの試みは新しいタイプの人間(そして人間性)を生み出すことになる。細胞回路を調節する「脳のペースメーカー」を埋め込まれた人間だ。そうした人間は再充電式バッテリーの入ったバッグを腰につけて歩き、空港のセキュリティを通過する際には、きっとこう言うことだろう。「身体にバッテリーがついていて、頭蓋骨から脳の中に電極が入っています。その電極から脳の細胞に電気刺激が送られて、気分の調節がおこなわれているんです」。もしかしたら、私もそのひとりになるかもしれない。
ここ。心臓ペースメーカーではなく、脳の“感情”ペースメーカーとも言えるような発想にハッとした。幾つかの論点がありそうだが、この発想の一つは、「感情」は、歓迎されない自律神経の不安定要素、として捉える事もできるという事だ。人間が自らの感情をコントロールしてロボット化していく事が示唆される。そしてその端緒となるのは、「不安定な人間から」。AIのシンギュラリティで人間の役割が変わって暇を持て余したり、精神不安定になった後、人間自ら感情統制をする方向へ進めば、その地平でもAIと人間の境界は曖昧になっていくのだろうか。
著者ムカジーの語り口は、科学的であると同時に詩的だ。本書は、医療や生命科学だけでなく、「人間とは何か」「生きるとはどういうことか」に問いを抱えるあらゆる人に開かれている。人体の最小単位である細胞を通じ、駆動源となる感情について考えさせられる。スリリングな本でもあった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
シッダールタ・ムカジー「細胞(下)」読了。細胞に対する見方が大きく変わったように思う。医師でありインド出身である著者の合理性と東洋思想が融合した細胞理解への見解に関心したからだ。細胞だけでなく環境問題等現代の複雑な課題にも当てはまる今後の新しい科学のあり方が説かれているとも思った。
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人間とは、細胞という生命の単位が形作る生態系であるという。その、細胞の物語。
細胞の発見から、最新の細胞治療の研究成果に至るまで、実に興味深い内容が語られる。そこには、科学者、医師、そして患者の織りなす壮大な歴史が紡がれる。
また、本書を読むことによって、実に多彩な細胞の性質について理解することができる。特に自律や生殖、代謝といった観点から細胞(系)の仕組みが、その解明に至る物語とともに語られる。
そして、「私のよりよいバージョン」。病気(例えば極端な低身長や筋肉量の減少)からの解放と、人間の特質の強化(身長を伸ばしたり筋肉量を増やす)の境界線は曖昧になっているという。医療とエンハンスメン境界が曖昧になるにことにより、私たちの道徳のあり方も否応なしに変わっていく。
細胞という極小の世界の物語から生命とは何かを問う名著と思う。 -
下巻になるとよりオモシロイ!
生物学の全般的な勉強にもなる。 -
信州大学附属図書館の所蔵はこちら→ https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BD05520670
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#科学ノンフィクションを読む
金沢大学附属図書館所在情報
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https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BD05520670?caller=xc-search -
医学部分館2階書架 : 463/MUK/(2) : https://opac.lib.kagawa-u.ac.jp/opac/search?barcode=3410171417
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女子栄養大学図書館OPAC▼https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000069677
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シッダールタ・ムカジーの作品





