ここはすべての夜明けまえ

  • 早川書房
3.53
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本棚登録 : 4219
感想 : 339
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152103147

作品紹介・あらすじ

2123年10月1日、九州の山奥の小さな家に1人住む、おしゃべりが大好きな「わたし」は、これまでの人生と家族について振り返るため、自己流で家族史を書き始める。それは約100年前、身体が永遠に老化しなくなる手術を受けるときに提案されたことだった。

感想・レビュー・書評

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  • はぁ〜色んなことが詰め込まれた一冊だったなぁ。
    さすがデビュー作です。間宮改衣さんの言いたいことが全部詰め込まれていたような気がします。

    まず、表紙がズルいですね。表紙に本文がそのまま書かれているのですが、いきなりの2123年。そして、漢字と平仮名の入り交じった文章を読み進めるとどうも主人公は、“ゆう合手じゅつ“というのを受けていて少なくとも101年前から存在しているらしい。そして裏表紙を読んでみると主人公は“ゆう合手じゅつ“を受けてから暑さ寒さなどの感覚もなく快適に過ごしているということが分かります。そして、どうも“シンちゃん“という特別な存在の人がいるらしい。

    想像力が膨らんで読みたくなりますよねー。
    漢字と平仮名の入り交じった文章が『アルジャーノンに花束を』を思い出させますが、本作でも漢字と平仮名の割合はその都度変わってきます。
    本作では人間と機械が融合されていて、記憶は思い出というよりも、バックアップされたデータといった感じです。人間には思い出したくないこと、都合の悪いことは忘れる……という便利な機能があるけれど、機械にはそれができないわけで、便利なんだか不便なんだか。
    でもその先を行けば、不必要なデータは消去したり書き換えたりもできるわけですね。
    主人公が選択したものとは……。
    単なるSF小説だと思って読んでいたら、終盤は心を捕まれっぱなしでした。
    とても良かった!


  •  SFか幻想かディストピアか、はたまた哲学小説か、一括りにはできないかも…。内容が深過ぎて、賛否や好みが分かれる小説と感じました。

     一人称「わたし」の視点で語られるのは家族史です。父からの性的虐待、兄姉との不和で食も睡眠も拒む身体…。自殺措置を望むも受け入れられず、永遠に老化しない身体への融合手術を受けます。

     句読点が曖昧で、ひらがなだらけの文章は、少々読み難いものがあります。どこか幼稚で他人事のような文体で、その話し言葉の記述からは、感情が抑圧された無機質な印象を受けます。歪な家族関係と淡々とした描写を、違和感と取るか絶妙なバランスと取るかは読み手次第でしょう。

     彼女の興味対象として、ボカロ曲、プロ棋士とAIソフトとの対戦、映画『The Whale』の男優の名演が登場しますが、AIの素晴らしさだけでなく、人間ならではのよさを捨てず認めている点が絶妙です。

     100年経過して家族が死に絶え、独りぼっちになった彼女が、家族史を"おしゃべり"のように書くこと、そして新たなコミュニティで住民と話すことを通して、自分を見つめていきます。
     搾取から逃れるための融合手術が、知らぬ間に甥の人生を搾取していた過ちに苛むことになった彼女は、被害者? 加害者?

     重いテーマを内に秘めながら、限りある命とは? 人間とは? 幸せとは? と根源的な問題を考えざるを得ない展開に引き込まれます。
     初めて自分の進む道を選択した現在地の「ここ」。きれいだと思える赤く染まる空を見つめながら、新たな自分と「夜明け前」を重ねたのでしょうか…。
     最後まで主人公の名が伏せられたままなのも、過去への決別の表れと苦しい思いをしている読み手へのメッセージなのかなと思いました。
     決して面白いとかいい話ではないのですが、思いの外、読後感は爽やかでした。

  • 哲学書やん

    まず最初に来たのがこれ

    まぁ、私前々から繰り返し言ってますけど、SFって結局哲学なんですよ(自分自身が初耳)
    なのでまず「哲学」って何よ?ってところから始める

    「哲学」ってのはね、要するに「人が幸せに生きるためにはどうするか」を考える学問なんです

    つまりこの本を読んで、これは「人が幸せに生きるためにはどうするか」を書いた物語だと感じた
    ということになるわけ

    でね、何を「幸せ」とするかって結局人によって違うわけじゃん?
    なのでこの本を面白く感じるかどうかってのも人によって違うわけ

    そしてものすごい当たり前のことを書いている自己認識はある
    かろうじてある

  • ブクログ内で話題であってため、本作を手に取りました。設定が人工生命ということでSFでありながらも、すごく人間的な内容であったと思います。

    物語の内容としては、幼少期に融合手術を受け、人工生命体となり老いない体を手にした少女の手記の物語。その手記には、彼女を取り巻く家族史が描かれているといったストーリー。

    まず本作を取り上げる上での注目ポイントとしては文章です。手記の文章がひらがな主体で書かれており、本当に人工生命体が書いたような違和感が感じられ、手記にリアリティを感じさせていて、読んでて面白いです。

    しかし、少女の目線で手記が書かれている割には書いてる内容がとても重くて驚きでした。特に、少女が手術を受けた経緯や、彼女の恋愛事情なんかは、倫理観を度外視してることばっかりで、正直嫌な気持ちにさせられました。まぁこの部分があるからこそ、「人間らしさ」が逆説的に語られているので、本作の魅力であることには間違い無いのですが、個人的には好みではなかったかなと…

    読んだ総括としてはこの作品は、どっちかというと純文学とかに近いかなと思うので、好きな人は本当に好きな作品なんだろうなって思います。

  • 2123年10月1日におしゃべりな私が話す家族の話。
    身体が永遠に老化しなくなる手術を受けた私の人生は、快適だったのかそうでなかったのか。
    感情があるようで、だけど感じられないのは手術を受けたからなのか?
    ひらがなから始まる文章に戸惑いを感じながらも次第に慣れるのだが、不思議さは慣れない。
    どうにも把握しきれない感が残る。

  •  ほとんどひらがなの文章が「アルジャーノンに花束を」を彷彿させる。第十一回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作。
     
     父親から肉体的、精神的虐待を受けてきた女性が脳を機械の体に移植し、ほぼ不老不死の体になる。そして自分が受けてきた虐待を、それと気づかずに甥に対してしてしまう。その後、地球は人間の住める環境でなくなる。彼女は他星への移住ではなく、地球に残ることにする。本作は彼女「家族史」として書かれたという形をとっている。

     ストーリー性があり、小説としても完成度も高いと思うのだが、SFとしての「面白み」ない。SFコンテストに応募する必然もない。ここが大賞受賞作の「ホライズン・ゲート 事象の狩人」と大きく違うところ。☆の数もそこを考慮した評価です。

     なお読んだのは単行本ではなく、SFマガジンに掲載されたものです。

  • 2123年、九州の奥地、人類は終末。
    25歳のとき融合手術を受け、半不老不死ともいえる身体を得た主人公。
    長年連れ添ってきた恋人「シンちゃん」を亡くしたことで、おしゃべりをする相手もいなくなり、かつて父から示唆された家族史をしたためることに。
    SFかつディストピア設定の物語。

    これは人によって想うことが様々ありそうな一冊。

    例えば主人公の名前。
    何度となく呼びかけられる場面があるものの、終始「ーーちゃん」とか「ーーさん」とか「ーー」と伏せられている。
    これは、読者がこの主人公の立場に身をおいてこの世界を体感させることを狙っているのか。
    だとするとなかなかにしんどい。
    はたまた、固有名詞を持たせないことにより漂う、誰のものでもない、時と共に忘れ去られてゆく呟きのような印象を狙ってのことか。

    自分がこの本で最も感じたのは孤独。
    淡々とここまでの道のりを語る主人公。
    背負った十字架、恥辱、喪失、欺瞞、贖罪すべてを飲み込む孤独。

    30代の入口にして、この境地を描ける著者。
    こういう人って日常どのような心持ちで過ごしているのだろうか。

    • ☆ベルガモット☆さん
      九州の奥地?!
      人類は終末、半不老不死、背負った十字架、などなど
      不穏な言葉がならぶけれど読後感は眠れない感じでしょうか…
      九州の奥地?!
      人類は終末、半不老不死、背負った十字架、などなど
      不穏な言葉がならぶけれど読後感は眠れない感じでしょうか…
      2024/06/14
    • fukayanegiさん
      どうも九州は終末にも生き存えるようで(史上最年少乱歩賞『この世の果ての殺人』でも舞台は福岡でした)、ちょつぴり安心ですねw

      不穏な言葉並べ...
      どうも九州は終末にも生き存えるようで(史上最年少乱歩賞『この世の果ての殺人』でも舞台は福岡でした)、ちょつぴり安心ですねw

      不穏な言葉並べて過ぎてしまいましたが、実は中身の雰囲気はそこまで深刻ではなく、どちらかというとほんわかと進んでいく感じなのです。
      ただ、描かれている事の芯とのギャップを逆に感じ、こんなレビューになってしまいました。
      一部では、これが「エモい」と評されているようですが、自分はそういう感じにはなりませんでした。

      ただ、何か色んな感じ方ができるのだろうなぁという作品でした。

      2024/06/14
    • ☆ベルガモット☆さん
      お返事ありがとうございます。話題作もちゃんと読了されて凄いなあと思います。ほんわかと進むとは、ギャップがいろいろありそうですね。
      九州はなぜ...
      お返事ありがとうございます。話題作もちゃんと読了されて凄いなあと思います。ほんわかと進むとは、ギャップがいろいろありそうですね。
      九州はなぜに生きながらえるのかしらん?!他の国になっていそうな予感もあります…
      2024/06/15
  •  賛否が分かれる話題作のようで、気になって読んでみた。奇を衒った話題になりたいだけの本の可能性もあるな、と斜に構えて読み始めた。

    すると、時々語られる主人公の素の考えの部分が、あまりに自分と同じでびっくりした。進化して才能を得て若返った自分がこれを書いているんじゃないかと思うほどに…

    そして、だんだん引き込まれ、106ページからが素晴らしかった。最後の方は、もう融合手術を受けた設定がどこか行ってしまったのではと思うほど人間味があった。

    1章は漢字がたまに混ざる程度のほぼひらがなだった文が、2章では読みやすい書き方へ、3章は全部ひらがな。この移り変わりの意味や、そこから読み取れる主人公の移り変わりを考えてみるのも読後の楽しい作業だった。

    ○融合手術を受けて、いろんなものがわたしから消えていったのに、他人からちゃんと愛されてみたかったっていうのは、どうして消えてくれなかったんでしょうか、…

    ○人間から人間へ、罹って罹らせて繰り返してしまう何か、自分の力だけではどうしようもない何かが、生まれて生きるの中にあるんでしょうか、わたしにはどうにもできなかったんでしょうか…

    この心の叫びのような二つの文章がとても心に残った。

    主人公がこれからしたいことまで自分と同じで、作者に会ってみたくなった。

    子供が大好きなプロ棋士の永瀬拓矢さんの話がたくさん出てきたのも嬉しく、より親しみを感じた。

    私にとっては心が通じ合える友達に出会ったような、特別な一冊になりました。

  • 最初はひらがなの多さに戸惑って
    このままこのペースなのか?と不安になるけど
    読めば読むほどその世界に惹き込まれて
    気づいたら後半にきている、そんな小説だった。

    永遠に老化しない手術…
    私は残酷に感じました。

  • ここは、100年後と聞いて想像する、
    こわい方の未来。
    人間じゃなくなれた「わたし」のお話。

    ものすごーくよかった!!!!!
    いろんなことが強烈すぎて、
    この作品について考え出すと止まらなくなってしまう。

    人の、心と体と命のあり方は、
    科学とともに進化できるのかな。
    そして愛することは。
    全部ゆがんでしまった。
    人のあり方がこうなってしまう未来は
    もうそこまで迫っている気がして、
    でも愛を語る苦悩は普遍のものな気がして、
    社会と個人のバランスがまもなく破滅を迎えてしまいそうで、こわい。

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