- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152103567
作品紹介・あらすじ
2029年、パリで「新革命」が起きた。暴力の可視化と予防のため、あらゆる建物をガラス張りに改装し市民が監視し合う都市計画が締結されたのだ。――20年後、犯罪が激減したパリで裕福な一家3人が忽然と消えた。理想都市で起きた奇怪な事件の裏に潜む真実とは
感想・レビュー・書評
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建物すべてがガラス張り透明化? いきすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF #透明都市
■あらすじ
2029年フランスで暴力事件の未解決と民衆の意見によって新たな法律ができた。事件の予防と可視化を目的として、すべての建物をガラス張りにして、市民がお互いに監視し合うという社会を成立させたのだ。
20年後… 犯罪が少なくなった透明都市であったが、ある裕福な家族が行方不明になってしまう。街の治安を守る安全管理人であるエレーヌ・デュベルヌは、一家の捜索を始めることになった…
■きっと読みたくなるレビュー
やりすぎた監視社会をテーマにした近未来ディストピアSF。透明な建物で暮らすなんて、こんな世界が本当にあったらどうなってしまうのか。正直読むのが怖かったのですが、勇気を出して手に取りました。
この世界は犯罪をなくすために完全な可視化を目指した社会づくりが目的。そのため単に建物だけが透明というだけでなく、全ての個人情報もオープンになっている。名前、住所、学歴、職業、年収、病歴などセンシティブな情報でさえ分かってしまうんです。
こわっ!超イヤなんですけど。
でも確かに全員がオープンだとすると、プライバシーはなくなっちゃうけど、互いに知り尽くしているため妬み嫉みがなくなって安全性は高まるかもしれない… いや、そうかぁ? うーん、どうなるんだろう。
そんな疑問を持ちながら本作を読み進めるのですが、まぁ何より発想力がスゴイ。2020年代のネット社会から発展していったように未来が描かれていて、妙にリアルなんですよ。かつてのインフルエンサーは透明建物だからこそ広告にも利用していたり。また透明化になっていないスラムのような街も存在し、透明社会に馴染めない市民の場所になっていたり。うんうん、ありそうで怖い。
SFやファンタジーは、どう読み手に想像力を膨らませることができるかが肝だと思っていて、そういう意味では豊潤な筆致で、この透明社会の世界観に引き入れてくれます。
さてこの社会で人々の安全性は保たれるのか、そしてどんな思いで日々を暮らしているのか? 本作では元警察官の安全管理人であるエレーヌを視点に物語は進行していく。近未来でありながらも彼女は我々と同じように自分らしく生きることに日々葛藤して生きている。自身の過去と現在、恋人との関係性、上司や同僚との軋轢、社会への疑問。結局はどんな世の中でも人間は苦悶しているのだ。
果たして行方不明になった家族は見つかるのか、事件の真相は? 謎解きとしての厚みは軽めですが、真相は目をそむけたくなる。透明化がもたらした結果どうなったのか… どんな結末になるかは、ぜひ読んで体験してください。
■ぜっさん推しポイント
ある意味現代でも一億総監視社会です、透明化を突き詰めるとどんなことになってしまうのでしょうか。この物語に暗示がされていると思います。
安全に生活できるよう、日々改善をしていくことは必要です。しかし最優先に考えることは、子どもたちが希望をもって生きられる社会にすることではないでしょうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
個人の生活、プライバシーがすべてガラス張りの建物によって可視化された近未来のフランスの話。すべてをさらけ出すことと引き換えに犯罪は激減したが、透明化した富裕地区である日一家三人が忽然と消える。犯罪が減り、警察官から「安全管理人」となったエレーヌという女性の視点で、一家失踪の謎を追っていく。
家やあらゆる建物がガラス製。市民はお互い何も隠し事をせず、安全のため互いに監視することが当たり前の社会。
何より平和と安全を優先した結果の町で起きるはずのない事件が不穏な匂いを漂わせ、行き過ぎた透明性への疑問が滲み出す。
理不尽な暴力や犯罪をなくしたい。その思いは間違っていないし、安全に暮らせる社会を実現は多くの人が望むものだろう。だけどそのためにプライバシーをすべて犠牲にすることを自発的に選んだという設定が恐ろしい。少なくとも自分はガラス張りの家に住みたいと思わない。
でも確かに現代のSNSだってプライバシーの公表で、それをみんな自発的にやっている。それが近未来でガラス越しのリアル広告という形をとるのも時間の問題なのかも…
犯罪のない社会は一見ユートピアだ。だけどそのために犠牲となるものがあまりに多く、透明でクリーンな社会も決して生きやすくはないと教えてくれる。正義は必ずしも人を救わないし、他人の視線が常につきまとうことで正しく生きられるとも限らない。 -
潔癖症と監視社会の行き着く先。
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ガラス張りの透明の家が立ち並び、家の中で住民が何をしているかはっきりと分かる。外から丸見えなのだ。犯罪は人目のない隠れた場所で起こるから、衆人環視がいき渡る透明の世界を作ってしまったのがこの小説の世界である。プライバシーを徹底的に犠牲にしてまで犯罪のない社会を作ろうなんて、私には狂気の沙汰としか思えないが、でも今のこの世界、このような極端な方向を安易に受け入れてしまう怖さがあると思う。中庸は良しとせず、問題を解決できるのであれば、度を越した方法でもいいと考える人が多くなったと思う。そこまでしないと解決ができないほど問題はからみあっていると考えるのだ。この小説の恐ろしいところは、司法制度が否定され一般市民が司法を担っていることだ。昨今のsnsの炎上のように、根拠のない噂や一時の感情に市民は突き動かされ、自分の信じたいことだけを信じ、それを根拠に有罪無罪、犯罪の裁量を決めてしまう。全責任が個人に集約され、それを負うという社会は、前近代的で社会の退化だと思う。未来は、テクノロジーと一緒に社会制度も進歩して、『昨日より明日はいい社会になる』という考えは、夢物語になったようだ。経年劣化によって社会はきっと、衰退の道を歩んでいくのだ。
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設定が面白い。全ての都市が透明化されたのかと思ったら、壁のある街もあり、その人のライフスタイルでいろいろ選べるのは楽しそう。私は透明都市は選びたくないなぁ
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透明な街の不自由を噛み締める第一部を読み終えるまでがしんどかったが、第二部以降はストーリーが動き出して面白かった。
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思いのほかサクサク読めた。
設定は面白かった。