老いぼれを燃やせ

  • 早川書房 (2024年9月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784152103611

作品紹介・あらすじ

高齢者を口減らしすべく介護施設をつぎつぎ襲撃する若者と、待ち受ける老婦人を描く表題作。4人の夫を看取ってきた女性と、"運命の相手"との再会を描く「岩のマットレス」。復讐譚、ゴシックホラー、社会批評など、バラエティに富んだ9篇を収めた傑作短篇集

みんなの感想まとめ

老いをテーマにした短編集は、シニカルで棘のある笑いを交えながら、女性視点で描かれた多様な物語が魅力です。各短編は初めはわかりにくいものの、読み進めるうちにその面白さに気づくことでしょう。特に、年齢を重...

感想・レビュー・書評

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  • マーガレット・アトウッドの本を読むのはこれが3冊目。
    以前読んだディストピア小説の『侍女の物語』や『誓願』と違って、この短編集『老いぼれを燃やせ』はとてもユーモアにあふれてた。
    主人公による語りにも登場人物たちの会話にも、さりげない皮肉や自虐が散りばめられていて、ずっとニヤニヤしながら読んでいた気がする。

    以下、いくつか印象に残った作品やテーマについて。

    ■「岩のマットレス」
    理学療法士の仕事をリタイアした女性がひとり旅をしているとき、十代のころに性暴力をされた男性と再会する。彼女は復讐を企てる。
    完全犯罪を計画するが、それを実行する直前に主人公は迷う。当時はその男も若かったのだから許すべきではないか。過去のことは水に流すべきではないかと。
    正体を隠しながら相手に近づきつつ、相手がその後の数十年間をどのように生きてきたのかを見極める場面がよかった。

    ■「死者の手はあなたを愛す」
    小説家を目指す学生ジャックは、学生3人(男2、女1)とルームシェアをしている。
    彼は滞納した家賃をチャラにするために「執筆中の小説の印税収入を4等分する」という契約書にサインしてしまう。しかし、予想に反してそのデビュー作はベストセラーになる。

    数十年後、ジャックは作家として生き残っているが、デビュー作の成功をしのぐ作品は書けていない。
    若手作家たちが書く暴力的な作品と比べると、どうしても刺激が足りないし、年をとったため粗製乱造もできなくなった。
    若いころの契約に縛られ続ける彼は、ついに3人の殺害を計画する。

    語り手はジャックだが、この物語の主役はルームシェア仲間のうち唯一の女性であるイレーナだと思う。
    数十年間にわたる4人の人生において、常に彼女は中心にいた。他の仲間をコントロールし、少なくとも表面上は関係を破綻させることなく、付かず離れずの関係を保持し続けた。

    終盤の会話はどう読み取ればいいのかわからなかった。
    イレーナがジェフリーやロッドに伝えた言葉の真意は本心なのか。それとも、まだコントロールし続けようと企んでいるのか。
    ラストシーンでのジャックとの会話についても、何か裏があるのではないかと疑ってしまう。
    ひねくれた読み方をしないで、素直に言葉通りに読み取るべきなのだろうか。他の読者がどのように読んだのか気になってしまった。

    ■「老いぼれを燃やせ」
    老人ホームに入居するおばあちゃんウィルマはほとんど視力を失っていて、ひとりでは何もできない。さらには「シャルル・ボネ症候群」も患っていて、大勢の小人たちの幻覚が現れる。

    ウィルマは親友トバイアスに食事や移動のケアを委ねているが、彼とのマンネリ化した会話にはウンザリしている。関係を切ろうにも切れない立場にいる。
    これは老人ホームに限った話ではなく、身体が不自由になり行動範囲の限られた高齢者たちにとっては、共通する現実だと思う。

    ある日、ウィルマたちが入居する老人ホームに、暴徒の集団がやってくる。彼らは「老いぼれを燃やせ」というプラカードを掲げて高齢者の排除を主張している。
    端的にいえば、高齢者は社会や地球環境のお荷物になっているからさっさと死ねということだ。
    この暴徒たちの組織は国際的にネットワークを広げている。各地の老人ホームは次々と暴徒に襲われ放火されている。

    日本でもここ十数年で、高齢者や障害者をお荷物扱いする主張が増えた。
    彼らはカッコつきの「経済合理性」を理由に社会福祉を削減しろと叫ぶ。中には高齢者や重病者に「退場」を迫る人もいる。
    自分が高齢者になったときは、どうなっているのだろうか。ちょっと恐ろしい。

    ■知人を文芸作品の中に登場させること
    この短編集には小説家や詩人が何人か出てくる。そして、その書き手たちは自分の作品の中に知人を登場させる。
    詩の中に愛する人を登場させることもあれば、嫌いな人を醜いキャラクターとして描いたり、あるいは「おしおき」をしたり、特定の空間に閉じ込めたりもする。
    もちろん人物の名前は変えてあるが、「このキャラクターはあの人のことだろう」とすぐに気づかれることもある。

    「死者の手はあなたを愛す」
    B級ホラー小説作家のジャックは、ルームシェアをしている仲間3人をわかりやすい形で小説の中に登場させてしまう。そのせいで恨みを買って、長きに渡って自分自身を苦しめることになる。

    「アルフィンランド」
    ファンタジー小説「アルフィンランド」を書いた作家コンスタンスは、知人をわかりやすい形で登場させることはない。ひとひねりして小説の中に落とし込んでいる。
    誰をどのキャラクターとして登場させているのかがわかりにくいので、これはこれでひとつの謎解きとしても楽しめる。
    コンスタンスの作品を研究している大学院生ナヴィーナは、この謎解きに夢中になった結果、作家の周辺を引っかきまわしてしまう。

    一方、詩人のギャヴィンは、恋人が替わる度に作中の「かの人」や「真愛の人」の人物描写が変化する。恋人の外見的な特徴をはっきりと書いているので、こちらは当人たちにすぐばれる。
    ギャヴィンの私生活を知らない第三者でも、「かの人」や「真愛の人」の描写を読み比べれば、どのタイミングで恋人が替わったのか気づくだろう。

    文芸作品の中に知人を取り込むことは、描いた相手への愛情表現にもなるし、トラブルの原因にもなる。ときとして謎解きの対象にもなる。

    ■魅力的なおばあちゃん
    この短編集では、9つある短編のほとんどに素敵なおばあちゃんが出てくる。
    復讐する人、赦す人、過去を引きずる人、被害者同士の結束、年老いてからの友情関係など。
    おばあちゃん短編集としても楽しめる。

  • 鴻巣友季子が語る、マーガレット・アトウッド作品の魅力 「『侍女の物語』は警告の書だったのに対し、『誓願』は現実を映す鏡」|Real Sound|リアルサウンド ブック(2020.11.09)
    https://realsound.jp/book/2020/11/post-650531.html

    『覚醒するシスターフッド』河出書房新社|みも(2021年11月25日)
    https://note.com/mimotakishi2021/n/n4fadf28d8732

    読書感想文『覚醒するシスターフッド』|ごまばなな(2023年4月16日)
    https://note.com/gomabananachan/n/n9c37787f1e0c

    老いぼれを燃やせ マーガレット・アトウッド(著/文) - 早川書房 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784152103611

  • どの話も出だしはちょっとわかりにくいかもと思いつつ読み進めていくうちに、あれ?面白いぞとなる。文字通りNine Wicked Tales でした。

    描写もゴスで、さがなしで、アティテュードはパンクでよかったな。オススメです。

  • 面白かった。アトウッドの意地悪炸裂で頼もしい。愉快。

  • 老いをテーマにした短編が9話入っている。女性視点で書かれている作品が多く、シニカルで棘のある笑いを含む。なんだかよくわからない話もあった。

    年齢をとると心穏やかに静かに暮らせるというのは幻想で、私は一生私のままなんだと思った。

  • アトウッドは鴻巣さんで間違いないが、クレア・キーガンも。鴻巣さんの翻訳が続いているがハズレなし。
    老いをテーマにした短編集。ティーンエイジャーが読んでどう思うかはわからないが、一般に、年寄りを主人公にしたフィクションは足りないしアトウッドが書いてくれて嬉しい。コミカルで、風刺とひねりが効いている。自分が中年になるリアルに感じられていっそう面白い。「アルフィンランド」「蘇りし者」「ダークレディ」は、昔の恋愛や関係のもつれをユニークで様々な視点で立体的に描いてみせ、アトウッドの三部作にもハズレなしだと思った。

  • おっさんおばさんはみんな読むと良いと思う。単なる懐古趣味や昔は良かったではなく、痛快で小気味良いのにしみじみと時の流れの恐ろしさを感じてしまう不思議な読後感を味わえる。
    かなり好き嫌いが出る作品がほとんどだと思うが、おっさんである私は十分楽しめた。

  • どれも練られた短編で、最初はちょっととっつきにくいけど、アトウッドだから、このくらい読めなきゃとちょっと我慢してるとじわっと面白くなってきて、「ダークレディ」でレールに乗れた感じ
    にやにやしたり

    文学の素養があるともっと楽しめるんだろうとひしひしと感じられ、改めて古典も勉強したいと思わせてもらいました

    という真面目な話ではなく、軽いノリだと、老いぼれってこのくらい意地悪でもいいのね〜、とちょっと嬉しくなったりも

  • 9つの短編はまったく異なる内容だけれど、共通しているのは、(2編を除いて)主人公が老人だということ。それぞれ順風満帆とはいいがた経験をしているのに、人生に対する恨みつらみ・怒りを覚えるような年代はとっくに過ぎ、どこか達観とユーモアを醸し出している。ホラー要素のある話もあるけれど、個人的には、どこかほんわかしながら全編楽しんで読めました。それにしても、アトウッドの引き出しの多さと語りの上手さときたら。。

  • ユーモア混じりで風刺が効いてて好き。

  • 表題の『老いぼれを燃やせ』がなんというか非常にタイムリーで、鴻巣さんがよく言っている「予言する作家」としてのアトウッドの凄さがよくわかる。
    他の短編はまあまあ、突き抜けておもしろい作品があるわけでもなかった。

    一箇所気になったのが、カベルネソーヴィニヨンの白が出てくるところがあって、そんなのあるの?と思った。調べたら一応あるらしいけど、そんな珍しいワインを登場させる意味があったんだろうか。

  • 軽くてユーモアがあって読みやすかったです。
    フリーズドライ花婿と死者の手はあなたを愛すが面白かった。
    アルフィンランド3部作はよく分からんかった…あのダメ男を愛する価値が笑

  • 主に、老齢の女が視点人物の、短編九篇。過去を回想し、怒りを燃やしたり、自虐的に笑ったり。かつては芸術周辺にいた、今はただの老人になっていることが我慢がならない感じか。気になったのを、いくつか。

    『ダークレディ』
    70歳の男女の双子が、新聞の訃報欄をさかなに、ぐだぐだ言い合って暮らしている。どちらも口が悪くて、互いをくさす。女のジョリーは過去に性被害をうけたことがあり、男のティンは助けられなかったことを悔いている。二人とも、恋愛関連に問題がある。ジョリーは詩人のミューズだったことがある。

    『変わり種』
    とある家に生まれた、変わった娘。呪いだろうか、病気だろうか。家族にも忌避されて生きている娘自信が語る、寓話のような、短い、不思議な話。

    『フリーズドライ花婿』
    妻に離婚を切り出された、インチキヴィンテージ家具の販売をしているクズ男が、オークションで手に入れた倉庫の中に入っていたものは。このクズ男が、しじゅう、自分が殺害された時、刑事が聞き込みにきてこの人と話す、などという想像をめぐらしているのも面白かったし、倉庫の中身についての驚きも。長期間支払いがない倉庫の中身を明かさないままかけるオークションというもの自体にも興味を持った。

    『老いぼれを燃やせ』
    養老院に暮らしている、視力を失いかけている女。別室に暮らす男と、男女の駆け引きがあることにうんざりしつつも、過去を懐古しながら、自分の部屋で共に過ごし、外の様子を探らせている。と、プラカードを持って、院を囲む若者の団体が現れる。全国で広がっている「老いぼれを燃やせ」運動。老人がいるから自分たちの番が回ってこないと主張する団体で、本当に火をつけられてしまう。

  • 読み進める
    なかなか読めなかったのですが高評価で読み進める
    難解な話もあれば読みやすい話もあり
    感情の波を感じました
    面白い話もあり達成感がありました

  • 【本学OPACへのリンク☟】
    https://opac123.tsuda.ac.jp/opac/volume/733234

  • 初めての作家さん。
    最初余り品が良いという内容ではなかったので、ちょっと辟易しながら読み進めていたのだけど、途中何故か面白くなって来て、読了後には別の本も読んでみたくなった。
    ウィットの効いたブラックジョークというか、なかなか刺激的で珍しい読書となった。
    日本人には余りない感覚。

  • ふむ

  •  面白いけど、自分の知識や経験が足りず、良さを全て読み取る事ができていない気がする、、

  • あああ。私も高齢者に近づいているんだな。という実感。
    登場人物の心情がわかりやすかった。

    訳がよいと思う。鴻巣 友季子(訳)

  • 自分自身も燃やされる方になりました。

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著者プロフィール

マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood):1939年カナダ生まれ、トロント大学卒業。66年にデビュー作『サークル・ゲーム』(詩集)でカナダ総督文学賞受賞ののち、69年に『食べられる女』(小説)を発表。87年に『侍女の物語』でアーサー・C・クラーク賞及び再度カナダ総督文学賞、96年に『またの名をグレイス』でギラー賞、2000年に『昏き目の暗殺者』でブッカー賞及びハメット賞、19年に『誓願』で再度ブッカー賞を受賞。ほか著作・受賞歴多数。

「2022年 『青ひげの卵』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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