「失われた30年」に誰がした 日本経済の分岐点

  • 早川書房 (2025年3月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (488ページ) / ISBN・EAN: 9784152104168

作品紹介・あらすじ

日本でイノベーションが起きない根本原因は、起業の数が圧倒的に少ないことに求められる。ではなぜ、硬直化した大企業が幅を利かせ続けるのか? ベテラン知日派ジャーナリストが多彩なデータや若手起業家たちへの取材から徹底分析し、日本経済復活の道を示す

感想・レビュー・書評

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  • 『#「失われた30年」に誰がした』

    ほぼ日書評 Day940

    原著は2024年刊の "The contest for Japan’s economic future"。邦題が見かけ倒しなのはいつものことだが、内容がここまで無い翻訳本も珍しい。

    評者も上げている「ブクログ」(個人の書評サイト)で本書について「日本人が書いているよう」としたものがあったが、ある意味その通りで、あたかも海外好きな「ではのかみ」氏が書いたものと見分けが付かないのだ。

    唯一面白かったのが "水に浮く電気自動車" の話。水害の多いタイの洪水に耐えられるように考案されたもの。部品点数を極限まで絞り込むことで小規模な生産者でも供給を可能にしたことと合わせ、興味深い着想と思うが、別に著者が発明した技術というわけでもないので、そこまで。

    で、本題であるが、企業を、小回りのきくガゼルと、巨大だが動きの鈍いエレファントに分類し、日本はガゼルが少ないことから説き起こす。
    アメリカなどに比べ、新規創業の少ないことを知らぬ人の方が少ない現代、このネーミングだけで何かの意味があるのだろうか?

    銀行融資時の個人保証を課題とする指摘。エンジェル投資家や財政投融資機構等がもっと活躍できる基盤があれば、廃業・創業がなくても、経営者の新陳代謝によって、既存企業にあらたな風を吹き込むことができる。おっしゃる通り。

    一方で労働力の流動性。本書p.246 山本勲と黒田祥子の研究(2016年)の引用によれば、日本企業で利益が最大になる労働移動率は20%で、現在の実績値は6.7%にすぎないのだとか。
    評者はいわゆる外資IT勤務で、この業界の離職率は20%程度が平均(精緻な分析というより感覚値で言われることが多い)とされるが、多くの場合、諸々の離職率低下施策が講じられている。20%が適切ならば、そうした策は不要なはず。データのみで議論する弊害だ。

    終盤で紹介される「フレクシキュリティ」なる用語。フレキシビリティとセキュリティ(雇用を奪われないという意味で)を組み合わせた造語で、同一労働(職種)同一賃金を徹底することで、生産性の低い業種・企業から高い方へ人が移動することを促す仕組みだそうだ。
    著者によれば、実際に施行され、既に実績を上げているとのことだが、その一方でデンマークでは1/3が年間で職を変わるとの記載もあり、そのことによる不経済が生じないことへの検証は全くなされていない。

    そもそも、北欧型を成功モデルとするにしても、同一労働における賃金格差の縮小が、単なら収入水準の平均化(あるいは下の水準への収斂)となることはないのか、移民問題や性犯罪大国化の問題なども伝え聞くが、移民雇用による賃金水準押し下げ等とのバランスは取れているのか等も論ぜられぬままだ。

    余談だが、我が国でも四半世紀前に、非正規雇用の問題を知りつつ、無理くりに導入した手合いも、この筋だったのを思い出させる。

    大手電力会社が太陽光や風力を主要な送電線と繋げようとせず、一方で新たな石炭火力発電所建設を進めようとしていることに警鐘を鳴らす。
    フランスでは、直近15年ほどでベンチャーキャピタル投資が4倍になり、2023年には36のユニコーン企業が生まれた(日本は6社のみ)と、その成功を絶賛するが、そもそもフランス経済は現在好調なのだったか。
    などなど、疑問ばかり残る内容で、そもそもなぜに "かの早川書房" が何を勘違いしてこんな本を出したのか、その見識が疑われるものであった。

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  • 著者であるカッツ氏の座談会を拝聴する機会が先日ありましたことから、本書を手にとりました。日本の経済がなぜ近年低迷しているのか、産業の新陳代謝という観点から明解に断じておられます。
    シュンペーターの言う「創造的破壊」が、1970年代後半以降の日本の産業で機能せず、急速に発展するガゼルのような米国の企業、アップル、マイクロソフト、近年ではテスラ、などのような企業が日本で出現せず、収益性の低いゾンビ企業が生き残り、雇用の安定を至上命題とする政界と財界の結託から、企業の新陳代謝が進んでいないことに大きな問題あることを著者は指摘します。一例として、2015年時点で日本では1990年以降の25年間に設立された企業はわずか5%であったが、米国では半数近くに上ると言います。
    また日本の資本生産性(資本投入による追加的GDP増加額)の低さが、長年の低金利に反映される一方、間接金融が大きなシェアを占める日本で、銀行が担保を重視する与信方針をとるため、起業家が大きな資本を調達することが困難であることから、新興企業が大きく羽ばたく素地が得られていないこと、起業家自身がグローバル視点を持っていないことなどを問題として挙げておられます。
    一方、日本が米国のようなモデルを採用することが現実的でないことを踏まえ、筆者は、北欧のフレクシキュリティモデルを提唱しています。これは、1990年代にデンマークで実施された、FlexibilityとSecurityを組み合わせたモデルで、市場経済を重視しつつ、所得安定と平等を図る政策です。
    日本に長年住まわれるカッツ氏の、日本経済、そして若い世代への熱い期待を感じさせる本でした。

  • 日本人が書いているんじゃないかと思うぐらいの描写。

    分厚いが結構サクサク読める。

  • 日本は創業と廃業が少なく新陳代謝が進まない。
    スタートアップへの税制優遇など国ができることも多いという内容

    ニッチのシェアは高くても市場の大きい製品のシェアがとれない

  • 雇用の流動化は進んだものの不十分、成長分野への人材移動が進まないと言われて久しいが、さて日本の雇用制度が変われば日本人のマインドが変わるのかどうかは分からない。ボーダレスな世界に生きる私たちが、起業家マインドをもった国民に生まれ変わるためには、また子どもの頃からの経験にまで遡って時間をかけて変わっていかないと大きな変化にはならないかもしれないと感じた。

  • 東2法経図・6F開架:332.107A/Ka88u//K

  • 序章:一世代に一度のチャンス
    日本は経済成長の停滞による政治的緊張の中で変革のチャンスを迎えている
    大企業中心の経済構造から起業家精神を持つ小規模企業(ガゼル)の重要性へ
    第1章:起業家精神―高揚から硬直へ
    戦後日本の成功モデルは大企業育成と輸入技術活用
    その成功モデルが硬直化を招き、創造的破壊を阻害
    第2章:デジタル世界のアナログなマインドセット
    垂直統合型企業体制はデジタル時代に非効率
    日本企業はオープンイノベーションや協調的ネットワークへの対応が遅れている
    第3-6章:生産性と競争
    生産性向上の重要性とICT活用の必要性
    「大企業病」:固定観念、変化への抵抗、過去の成功体験への固執
    アベノミクスは金融刺激策に偏り、構造改革が不十分だった
    第7-14章:日本の社会・企業風土の問題
    減点主義的な人事評価がリスクテイクを阻害
    女性活躍を阻む差別的慣行の存続
    起業家コミュニティの不足
    失敗から学ぶ文化の欠如
    第15-20章:構造的問題
    終身雇用と年功賃金制度が労働流動性を阻害
    個人保証の慣行が起業の障壁に
    公的セーフティネットの脆弱性
    系列企業間の取引慣行が新規参入を阻害
    EC市場における大企業の独占的行為
    第21-27章:改革の方向性
    「ガゼル」企業の育成とグローバル視点の重要性
    対内直接投資拡大の必要性
    スウェーデンのフレキシキュリティ制度からの学び
    創造的破壊へのポピュリスト的反動への警戒
    最終章:改革への道
    税制改革、エンジェル投資家優遇、大学と新規企業連携支援
    改革には政治的リーダーシップと国民理解が不可欠
    労働市場改革の必要性

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著者プロフィール

リチャード・カッツ(Richard S. Katz)
ジョンズ・ホプキンズ大学政治学部教授。Ph. D.元European Journal of Political Research共同編集長(2006─2012)。著書にThe Challenges of Intra-Party Democracy (co-edited with William P. Cross, Oxford University Press, 2013)、Political Institutions in the United States (Oxford University Press, 2007)がある。

「2023年 『カルテル化する政党』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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