書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
3.31
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本棚登録 : 380
感想 : 32
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350335

作品紹介・あらすじ

推理作家のクローンとして公共図書館の書架に住まう男。彼の力を借りるべく、謎を携えた麗しき令嬢が図書館を訪れる。令嬢に貸し出された彼の元に立ちはだかった驚愕の事件とは……。SF界の巨匠、ジーン・ウルフの最新作にして、騙りに満ちたSFミステリ

感想・レビュー・書評

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  • 人口が十億人にまで減少した未来の世界のニュー・アメリカ。
    亡くなったミステリ作家の複生体(リクローン)は
    図書館の書架を住処として
    希望者に貸し出されるのを待つ、蔵書ならぬ「蔵者」だった。
    ある日、コレットと名乗る女性がやって来て彼を連れ出し、
    生前の著書の中に重要な秘密が隠されていると告げた……。

    ――というディストピアSFミステリ長編だが、
    予想外に肩の力を抜いて楽しめた。
    文明批判の一種には違いないけれども、
    凝った「騙り」の多いこの作家にしては、すっきりしたストーリーで、
    入門者にもとっつきやすいかもしれない。
    随所で様々な先行作品のイメージを喚起する言葉選びが
    なされているのも楽しい。

    売れっ子ミステリ作家の若かりし日のコピーで、
    顔は晩年のイメージに合わせて改変されているが、
    内面はナイーヴな青年のままだし、
    目覚めてからずっと図書館で暮らしているため世事に疎い、
    賢いけれど非力な男が外に出て奮闘する様が愛おしい。

    途中からバカSF風味(!)が入ってくるけれど、それも含めて面白い。
    映画化したら、上質なサスペンスが後半でB級ホラーっぽくなって
    脱力すること必至と見た(笑)。
    ラヴクラフト「ランドルフ・カーターの陳述」をご存じの方は、

     Q.“こちら”と“あちら”で携帯電話での通話は可能か
     A. ドアが開いていて電波が届けば

    といった問答でニヤリと笑うこと請け合い。

    ところで、この作品中にも "island" "doctor" "death"の三語が
    浮かび上がるのだなぁ。
    『デス博士の島その他の物語』を再読したい……。

    結末の主人公の選択は……どこの誰とも知れぬ「あなた」に向かって
    この物語を綴るためだったのかもしれない、そんな気がする。

    それにしても、80歳を過ぎても
    こんなに瑞々しい小説を発表できる作家とは!
    普通は年を取ると気力・体力が衰えるので、
    アイディアが湧いても作品を完成させるのは――特に長編は――
    厳しいと思うのだけど、驚嘆の至り、そして、惜しみない拍手を!

  • 序盤読み始めてこのジェンダー観やばくない?古典か?いつの本だよいうて確認したら2015年のでビビり倒したけど書いたのが84歳のおじいちゃんで二度ビビる

    おじいちゃんことジーン・ウルフさん本初見

    全体的にキャラ立ちよすぎんか?という印象 翻訳もいいのだろうな、というかんじ

    主人公(100何年前に存在した作家のクローン、図書館に蔵者として収蔵されている)は自分を借りてくれた人物に起きたことについて首を突っ込み奔走する。その過程でまるで本当の図書館に所蔵された本のように色んな人に借りられたり、借りられそうになったりするが、受ける扱いはぞんざい。その扱いからも分かるように人間からは人間未満とみなされている。しかし実際のところは内省的な存在であり、その境界は曖昧、むしろ人間なのかもしれない。その内省的、という点で、私達の現実世界における本もその実そうなのでは?というかんじ は?となるだろうが、私もは?となっている、詳しいところが言語化できない くるしい 言語化できるようになりたい とにかくミステリ色つよめのこのSFにおいて、このクローンがオリジナルの自分、そこといまの差異について思案するのがめちゃくちゃツボ 最高

  • ファンタジーかと思えばミステリ、さらにはハードボイルド、SF、そしてまたぞろミステリ、と様々な顔を持つ本書。ジーン・ウルフのガチのファンの方には物足りないでしょうか。「ケルベロス…」などと比べるとエンタメ寄りというか、親しみやすいというか。確かに、その分読後の高揚感は足りないかもしれません。ただ、続編が予定されているようなので(ウルフじいちゃんがんばれ)しっかり評価するのはそれからということで。

  • おもしろかった。

    素敵な表紙に中世ヨーロッパぐらいの探偵ものを予想すると、まさかの未来設定。
    図書館に住まう主人公は
    デジタル移植でつくられた人間扱いされない、人間。
    生きたデータとして、貸し出され、不要となれば廃棄もありうる、と。
    いやあ、ほんっとすごい設定。
    そしてとある女性に貸し出されたことから、始まる事件。
    これはどーゆー展開に?と思いつつ読んでいたら、
    なんと屋敷に別の惑星に通じるドアが、とまたまたとんでもない設定が!
    あれ、なんかSF系なの?とか一瞬戸惑う。
    なんだか先がみえず、どうなってんだー?っとくらくらしてたら、最終的には身内のごたごただっただと~!
    っと、いやあ、最後の最後まで飽きさせないなあ。
    にしても、結局、実年齢としては彼はいくつなのだろう?
    最初っから、元の人間が死んだときの年齢にされるのだったら、クローニングされて、数年ってこともありうるんだよなあ。

    なんかぶっとんだ設定なわりに、主人公の語りが、
    落ち着いている、とゆーか古めかしい
    (いや、それは脳が過去の人のものだかららしいんだが)
    ので、ぶっとび感が緩和されてちょうどいい感じで読めた。
    よく考えると海外SF系はいつも途中挫折するんで、
    最後まで楽しく読めてうれしい。

  • 現代の図書館では、「本」以外にもDVDなどの映像物の閲覧もできるが、さすがに「本人」の貸し出しは想像を超える。

    主人公はかつてミステリー作家としていくつもの作品を世に出した人物、そのクローンを図書館の蔵書ならぬ「蔵者」として閲覧・貸出を行うという未来設定のSF小説。

    この「図書館の蔵者」という不思議な設定と、出てくる小道具などにSF的な要素があるも、本筋はアガサクリスティやエラリー・クィンのミステリー

    殺人事件現場に「こころ」の文庫本が墜ちていた、さあ夏目漱石のクローンを図書館から借りてきて、犯人を推理してもらおう・・・・・って感じ(こんな推理小説はありません…たぶん)。

    怪しげな洋館、富豪家族の確執と謎の死、主人公たちを追う謎の人物たちなど、ミステリー色満載!

    一冊あっという間に、ミステリーとして違和感なく面白く、いただきました。

  • 設定勝ちだね。
    こんな面白い世界観よく考えたね。
    素晴らしい。
    SFとミステリが上手いこと融合されてる。
    若干SF寄りだけど。

  • ああ~~~~~~~~意外にも近未来SFだった・・・

  • 謎も謎解きもしっかりとある少しSF風味の入ったミステリ
    なのだが、この本のキモはそこではないと思う。

    物故した作家の、記憶までも完全にコピーしたクローン体─
    リクローン─を、蔵書ならぬ「蔵者」として図書館に収蔵
    するということが実現したら一体どういうことになるのか。
    そしてそんなことが起こる社会とはどのようなものなのか。
    そういう一種の思考実験がこの本の面白いところなのでは
    ないだろうか。

    もちろん素直にミステリとして読んでも十分に楽しめるの
    だが、さすがはジーン・ウルフ、エンタメ寄りでわかり
    やすい作品でありながらいろいろと考えさせられる内容で
    あった。本を大切にしよう。

  • 初ジーンウルフ。クローンの人権の無さは容赦ないねぇ。主人公の言い回しが俺の苦手な本格ミステリなのか?と不安になったが、こりゃ一風変わったハードボイルドだな。面白かったです。

  • 近未来SFにミステリーを加えたような作品。ただのSFとして読めば面白いのかもしれないが、題名「書架の探偵」だし。全体的に今一つ納得いかないことの方が多く、ミステリーとして今一つ。
    主人公が複生体である必要があったのか?実験室が異星となぜつながっていたのか?などあげるときりがない。
    設定に期待していただけに残念。

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著者プロフィール

1931年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。兵役に従事後、ヒューストン大学の機械工学科を卒業。1972年から「Plant Engineering」誌の編集に携わり、1984年にフルタイムの作家業に専心するまで勤務。1965年、短篇「The Dead Man」でデビュー。以後、「デス博士の島その他の物語」(1970)「アメリカの七夜」(1978)などの傑作中短篇を次々と発表、70年代最重要・最高のSF作家として活躍する。その華麗な文体、完璧に構築され尽くした物語構成は定評がある。80年代に入り〈新しい太陽の書〉シリーズ(全5部作)を発表、80年代において最も重要なSFファンタジイと賞される。現在まで20冊を越える長篇・10冊以上の短篇集を刊行している。

「2015年 『ウィザードⅡ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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