折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5036)

制作 : ケン リュウ 
  • 早川書房
4.06
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本棚登録 : 632
感想 : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350366

作品紹介・あらすじ

三層に分かれた折りたたみ式の北京を描いた■景芳による表題作、中国に史上初のヒューゴー賞をもたらした劉慈欣『三体』の抜粋「円」など7作家の13作品を、『紙の動物園』著者のケン・リュウが選び収録。いま一番SFが熱い国・中国の粋を集めたアンソロジー。(■は赤へんにおおざと)

感想・レビュー・書評

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  • 中国については個人的にそれなりの思い入れがあって、定期的に現地を訪れていたものの、もう色々あって現地を10年以上訪れていないていたらく(?)です。
    現地のエピソードで一番印象的だったのが、「中国では、もし警察の車にはねられたら、はねられた側の人が謝って逃げる」という話。国家権力の強さと、民衆の弱さを象徴していて、まぁ日本とは逆ですね(皮肉って言うつもりもあまりなく、正直この関連の議論を続けていくと、結局どっちもダメという結論になると思います)。

    そして、このアンソロジーを読んで思いを馳せたのが、上記のくだり。良くも悪くも、国家権力の傷跡が大きいんだなぁと。日常の暮らしにまで染み付いた国家権力の強さは、創作者の思考の根っこに消せない影響を及ぼしているんだと思いました。(そういう意味では、『1984年』を読了しておいた良かったなぁという感も(笑)
    あと、現代中国的な拝金主義も本著の通奏低音の役割を果たしていて、特に『コールガール』では、お金にモノを言わせるものの、結局それでは満ち足りないという矛盾も感じます。

    ただ、そんな中でも本著の短編たちの面白さは飛び抜けているとも感じます。切り口の多様さ、舞台設定の奇抜さ、読み通すだけの価値はあるのではないかと思います。
    (『三体』のオチが著者解説であっさり出てきてしまうのは、まだ結末を未読の自分としては辛いですが・・・)

    中国は日進月歩だと思うので、今は私が一方的に持っている印象は今の実情とは違うのかもしれません。世界的にも刺激的な場所となり、世界中の金を惹き付け、これからどうなっていくのか・・・。
    ただ、本著の創作上にあるような、「独裁的な政府」や、一定の経済的地位に就きながらもトップにはなれないとする卑屈なスタンス…。今後の楽しい世界?のためにも、これが永続的に続く中国のキャラクターにならないと良いなぁとも思いました。

  • 「紙の動物園」を読んで中国SFに関心が高まっていたこと、以前知人にオススメされていたこともあって手に取った(三体もそのうち読もうと思いつつなかなか手が出ないのが恥ずかしい)。

    アンソロジーのいいところは何かしら自分の好みにあった作品がひとつは見つかるということと、表題作目当てで読んだら思わぬ出会いがあるということが挙げられると思うが、これもまさにそのようなアンソロジーだった。

    そのような観点からでは、「円」と「童童の夏」が良かった。前者は何といっても人間コンピュータを使って円周率を求めようとするというSF要素に古代中国の歴史ネタを混ぜるという壮大な設定に面食らったが、ハッタリもここまでくれば大いに楽しめるというものだ。後者は頑固な祖父を苦手に感じていた孫娘が、家にやってきた介護用ロボットを通じて祖父と距離を縮めていく様子が短いページながら情緒豊かに描かれていていた。家族という主題は「紙の動物園」に共通する所があり、そちらが好きな方に是非おすすめしたい。

    もちろん主題作である「折りたたみ北京」以外にも、「1984年」への意識が随所に感じられる「沈黙都市」や、工場から脱走した遺伝子改変ネズミの駆除隊に所属する青年の直面する日々が淡々と進む「鼠年」など、読みごたえがある作品が多く収録されている。硬質で安易なハッピーエンドにならない話が多い印象を受けたが、このあたりは中国だからというよりも、現代社会の矛盾に直面し科学技術の好ましくない側面を目の当たりにした時代性が反映されているのではないかと思った。

  • 現代中国SFのよりぬきアンソロジー。本全体から受けた印象は、とにかく人が多く、資源の配分が偏っていて、もらえない人が辛く、将来が見えないということ。急速に発展中の国の人たちが書いたのに、重苦しい読み心地の作品が多かったは意外だった。でも、ここで自分の受けた印象を眺めると、現代中国の問題意識が強く反映されているということになるようだ。前書きで編者が「中国特有のテーマの作品群と思ってほしくない」というようなことを書いていたと思うが、やはり、国の個性は出ているのではないかな。

    ということでSFに浮遊感と驚きを求めたい者としては「ぜんぶおもしろかった!」とは言い難いが、テクノロジーが難題を解決するさまが爽快な夏笳の「童童の夏」と、中国の物量作戦ここに極まれりという感のある劉慈欣の「円」がよかった。「円」は『三体』の一章を抜き出して改変したものだそうなので、『三体』もぜひ読んでみたい。

  • 貴志祐介の「新世界より」アニメ版の絵が頭に浮かんでくる『沈黙都市』。もう少しスラップスティック色を強めれば筒井康隆の初期作品に比肩するような『折りたたみ北京』。中国古典文学の大仰さを現代に持ち込んだような『円』。そして小粒だけれど強い印象を残す『コールガール』など、宇宙ものは無いけれどバラエティに富んだSF作品を集めた一冊。これは面白い!

  • 既視感なのか。
    設定、小道具、テーマに手垢がついた、とまでは言わなくとも、あったような、ありそうなものが多かった。

    SF小説のアンソロジーとなると、1つの世界観や設定を理解して、さあ用意ができたぞ!って頃に次の作品。
    そうするとなんだか、個別の作品の理解というより雰囲気が全てになってしまうのは僕だけなのだろうか?
    もしかするとSF初心者なので、楽しみ方が分かっていないのかもしれない......

    そんな中でゾワゾワ!っとしたのが、
    劉慈欣の「神様の介護係」
    神様の目的と最後の会話が作品の中にとどまらず、読後の空想妄想を引き立てた。
    「円」は、三体の一部に同じ設定が使われている。
    しかし、「神様の介護係」も「三体」の設定の土台に生きている。
    三体の第二部が発売された2020.6.18に読了。
    三体第二部への期待がとても高まってしまった!

  • 2021年10月22日読了。中国出身SF作家ケン・リュウ訳の現代中国SF小説のアンソロジー。7人の作家から1~3作品が収録されている。まずいずれの作品からも濃厚に香る「現代中国」がたまらない!共産党が支配し反日教育を受けテクノロジーに囲まれた国、という自分のイメージがまあ間違っていないにしてもいかにも一面的で、このような抑圧された社会の中でSF作家の想像力というものはかくも豊かに広がるものなのか、と感心させられた。夏笳の短編はブラッドベリみたいな詩情に満ちているし、『三体』の劉慈欣の短編2篇はいずれも中国らしいSFホラ話で、日本人からはこんなスケールの発想は生まれないだろうし、生まれたとしてもしっくりこないだろうなあ…と感じた。他の作品も捨てがなくどれも展開・ラストに驚きがあり普通に面白いSFとして楽しめた。是非他の作品も読んでみたい。

  • 現代中国の様々なSF作家の作品を集めたアンソロジー。傑作揃いで非常に読み応えがあった。
    全体的にディスピアものが多く、激しく変動する中国社会に苦悩する作家達が、世界に示したある種のアレゴリーとしても受け取れる。
    一方で、美しい詩的表現が目を引く作品もいつくかあり、詩歌(漢詩)の国 中国 の豊穣な蓄積が感じられた。

    以下、気に入った作品を軽く紹介。

    ・龍馬夜行/夏笳
    長い眠りから目を覚ましたロボット“龍馬”。長い年月の間に、地球から人類の姿は消えていた。“龍馬”はひとり、夜の旅をはじめる…
    幻想的な情景と、海子(中国の詩人)の詩の引用が、寂しい夜の旅を美しく描き出す。

    ・折りたたみ北京/郝景芳
    表題作にもなっている作品で、中国社会の貧富の差がSFに織り込まれている。
    来る日も来る日も厳しい労働に明け暮れる主人公の現実にやるせなくなる。
    胸を締つけるラストに、読んだ後もずっと切ない気持ちが続いた。

    ・蛍火の墓/程婧波
    SFとファンタジーを織り交ぜたような幻想的な世界観が、夢のように美しい。
    そのあまりに緻密な文章表現にひたすら魅了された。

    ・神様の介護係/劉慈欣
    壮大な宇宙スケールと中国古来のヒューマニズムが合わさった傑作。
    作者の想像力にただ圧倒される。

  • 百鬼夜行街、円、神様の介護係が面白い。特に人間3人を使って基本的な演算回路を作り、300万人集めて人力コンピュータを作るという「円」が素晴らしい。昔の日本のsfって、こういうセンスオブワンダーがあったんだよなー、と思いました。

  • これはみんな読むといい。SFにも中国にも興味ない人でもめっちゃ面白いはず!

  • 中国というバイアスをとっぱらって、素直にSFを楽しもうと思ったのだけれど、やはりなかなかそうもいかない。どうしたって人間が書いているのだから、現実の社会や環境、価値観が影響しないわけはないのだし、それでいいのだと思う。日本のSFもこのくらい盛り上がって欲しいものだが、それには日本の「三体」が必要だ。個人的には技術の進歩が人間の要請にそって希望がきらめいている「童童の夏」が可愛くて好きだった。

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著者プロフィール

1984年、中国・天津生まれ。2006年に清華大学物理学科を卒業後、同大天体物理センターを経て同大経営学部で経済学の博士号を取得。高校在学中の2002年に30歳以下を対象とした「新概念作文大賽」で一等賞を受賞し頭角を現す。2006年からSF作品の執筆を始める。2007年、「祖母家的夏天(おばあちゃんの家の夏)」が銀河賞の読者ノミネート賞を受賞。社会科学に関心を抱きはじめ、博士課程は清華大学経済管理学院に学び、2013年に国際貿易研究で博士号を取得した。長篇小説『流浪蒼穹(蒼穹の流浪)』(2016年)、短篇集『去遠方(遠くへ行くんだ)』、本書『孤獨深處(孤独の底で)』(2016年)のほか、紀行エッセイ『時光裡的欧洲(時間の中のヨーロッパ)』(2012年)が単行本として刊行されている。
2014年に発表した本書収録作「北京 折りたたみの都市」は中国系アメリカ人作家のケン・リュウによって2015年に英訳され、2016年、ヒューゴー賞(中篇小説部門)を受賞した。

「2019年 『郝景芳短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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