流浪蒼穹 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350564

作品紹介・あらすじ

地球とコロニーである火星のあいだで戦争が起き、終結した。友好のため、火星の少年少女は使節として地球に送られるが、かれらは地球と火星のどちらにもアイデンティティを見いだせず……。「折りたたみ北京」でヒューゴー賞を受賞した著者の美しきSFドラマ

感想・レビュー・書評

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  • 火星移民たちが武装蜂起し、地球から分離独立した。それ以来両星はほぼ途絶状態だったが、関係改善の努力は細々と続けられていた。

    火星独立から40年経過した2190年(火星暦40年)、両星間の関係改善に向けて地球に初めて送り込まれた留学生たち(水星団(マーキュリー)20名が、5年間の地球滞在を経て火星に戻ってきた。

    地球からの資源供給を失い、生きるため新しい技術を生み出すことが必須だった火星の人々は、住居や生活物資を平等に割り当てて独占や競争を排除し、お互いの役割を決めて協力し合う理想的な社会主義的国家を建設していた。

    理想社会のはずの火星だったが、システムはやがて硬直化・官僚化していった。そして、少なくとも地球での生活(功利主義的で不平等な競争社会だが、選択の自由が火星と比べてはるかに大きい地球社会の営み)を体験した若者たちにとっては、自由の少ない窮屈な社会と写ったのだった。若者たちは、住む家を選んだり変えたりできなかったり、自分の意志で自由に転職できないことに不満を募らせていった。

    一方、火星を訪問した地球のドキュメンタリー映画化監督は、逆に功利主義を排除した火星社会の素晴らしさに気づいていた。

    という訳で本書は、火星を舞台に「社会における自由とは何か」思い悩み迷走する若者たちの群像劇を描いている。社会システムの弊害は世代間の軋轢を生むことから、火星社会の世代交代の物語にもなっている。

    いかにも中国人作家が取り上げそうなテーマ、と言えるかな。火星社会を「1984」のようなディストピアとしては描かず、理想社会の疲弊といった無難な描き方をしているのにも、それなりの理由があるんだろうな、きっと。

    それにしても長かったな。一つ一つのエピソードが複数の人物の視点で細かく描かれているのでかなり冗長。しかもサクサク読める文体じゃないのでペースも上がらず、読み終えるのに1週間ものかかってしまった。これで夏季休暇が終わりとは、トホホ。

    著者の好みなのか、カミュの作品(「ペスト」「反抗的人間」など)からの引用がやたら多い。意味はよく分からなかった。


  • 流浪蒼穹 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
    https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000015067

  • 「宝をめぐって闘うことは、宝そのものより重要だ」
    地球へ向かう輸送艦、老いた艦長から老いた火星総督への伝言、物語はここから始まる。

    舞台である「火星と地球」は、火星独立時の事情から、「統制管理と経済支配」という社会構造の相違から、再び戦火を交える直前にあった。その様子は、まるで現代の「社会主義と資本主義」を比喩しているよう。

    人の幸せとは何か
    自由と保護は相反するのか

    そしてこの大きなテーマは、主人公達の葛藤という内面でのテーマとも通じている。

    「自由とはなにか」主人公ロレインたちの迷い……。
    自由、それは束縛からの離脱、独立。離脱したのちにあるものは、自らが作る新たな束縛?

    レイニー医師の言葉
    「世界は扇動と盲従の上に築かれている。その原動力は欲望だ」
    「幸福とは頭をはっきりさせておくこと。自由とは頭をはっきりさせておけること」

    第三章、刻々と迫る変化のなかで繰り広げられる群像劇、そして結末。

    SFでありながら、カミュやサン=テグジュペリからの引用を多用した哲学書のようなこの物語。
    『流浪蒼穹』この二つの熟語の題名は、「流浪、その果てに蒼穹」と、私は感じた。

  • 秋の夜の様に、長く静かな作品だった。二段組で669ページ。読んでは止まり、止まっては読み、数ヶ月かけてようやく読み終えることができた。地球より独立して数十年が経過した火星が舞台。地球への留学から帰ってきた少女ロレイン。二つの世界を知ってしまった彼女はその違いに迷い、自分の生きる道を見失ってしまう。彼女の揺れ動く心の動きを追いながら、微妙なバランスの上に成り立っている火星と地球の関係へと展開する。最後の十数ページにある、ロレインの祖父ハンスの独白が特に印象深かった。

  • 火星に人類が移住した後に地球と火星の間で戦争が起き、火星が地球から独立して35年後の話。火星総督の孫ロレインは地球へ5年留学して故郷に帰ってきたが、懐かしい故郷になかなか馴染めずにいた。
    資源が乏しい代わりにテクノロジーを発展させた火星では、各々の知識は全員が共有し生活や住居は保証されているが、職業や住む場所の選択は制限されている。自由で資本主義が支配している地球の暮らしをした後では、全体主義のような社会に違和感を感じるのは当然だろう。さらに火星の独立戦争時代の英雄である祖父がどんな思いで社会を作り上げてきたかを知るにつれ、ロレインは益々自分の進むべき道が分からなくなっていく。
    SFらしさは全然感じないけど、ある種の思考実験のようで興味深い。主人公を始め登場人物たちが類型的なのは残念。ル・グィンの『所有せざる人々』を少し思い出した。

  • 次回「流浪蒼穹 第二部 ~宇宙(そら)を駆ける~」
    2136年刊行予定 以下序文。

    火星に大規模な水がもたらされたことで、火星の都市圏は拡大、拡散し、前総督が予測した通り、各都市間の摩擦・貧富が生じ、分裂が生じていく中、前総督の孫ルディと航空システム長官ホアンが実権を握り、うちをまとめるため、ついに地球に宣戦を布告、地球へとコロニー落としを敢行する。

    一方、地球と火星との橋渡しである宇宙船マアースでは前総督が最後の時を迎える。看取るのは前総督のもう一人の孫ロレイン。地球への留学経験がある彼女は祖父の遺言を受け、兄ルディを止めるため火星へと帰還。対抗勢力ネオ火星を組織し、地球勢力とのパイプを活かし兄と戦うことになる・・・!

    〝ジーク火星!〟

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著者プロフィール

1984年、中国・天津生まれ。2006年に清華大学物理学科を卒業後、同大天体物理センターを経て同大経営学部で経済学の博士号を取得。高校在学中の2002年に30歳以下を対象とした「新概念作文大賽」で一等賞を受賞し頭角を現す。2006年からSF作品の執筆を始める。2007年、「祖母家的夏天(おばあちゃんの家の夏)」が銀河賞の読者ノミネート賞を受賞。社会科学に関心を抱きはじめ、博士課程は清華大学経済管理学院に学び、2013年に国際貿易研究で博士号を取得した。長篇小説『流浪蒼穹(蒼穹の流浪)』(2016年)、短篇集『去遠方(遠くへ行くんだ)』、本書『孤獨深處(孤独の底で)』(2016年)のほか、紀行エッセイ『時光裡的欧洲(時間の中のヨーロッパ)』(2012年)が単行本として刊行されている。
2014年に発表した本書収録作「北京 折りたたみの都市」は中国系アメリカ人作家のケン・リュウによって2015年に英訳され、2016年、ヒューゴー賞(中篇小説部門)を受賞した。

「2019年 『郝景芳短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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