蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房 (2023年6月20日発売)
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  • 本 ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350601

作品紹介・あらすじ

蒸気機関が導入され発達した、もうひとつの李氏朝鮮王朝。あるときは謎の旅人として、またあるときは王の側近として、歴史の要所要所で暗躍した蒸気駆動の男=汽機人〈都老〉の500年間にわたる彷徨を描いた、5篇を収録した異色のスチームパンクアンソロジー

感想・レビュー・書評

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  • 기기인도로 - 조선스팀펑크연작선 - 김이환 외 4인 - 진짜였다면 어땠을까 : 네이버 블로그
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    기기인 도로 - YES24
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    蒸気駆動の男──朝鮮王朝スチームパンク年代記 | 種類,単行本 | ハヤカワ・オンライン
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    • 猫丸(nyancomaru)さん
      『蒸気駆動の男──朝鮮王朝スチームパンク年代記』(チョン・ミョンソプ他/著、吉良佳奈江/訳、早川書房) – K-BOOK振興会
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      『蒸気駆動の男──朝鮮王朝スチームパンク年代記』(チョン・ミョンソプ他/著、吉良佳奈江/訳、早川書房) – K-BOOK振興会
      http://k-book.org/yomeru/230720/
      2023/07/25
  • 朝鮮王朝繁栄の裏には、蒸気機関を発明した謎の男・都老[トロ]の暗躍があった。何百年にも渡り歴史の影に現れ、実は蒸気で動く汽機人なのではないかと噂される都老の存在を軸に、朝鮮王朝とスチームパンクを掛け合わせたSFアンソロジー。


    日本版の表紙だと都老が見るからにロボじみた姿で登場しそうだがそんなことはなく、見た目は完全に人間という設定。基本的に都老は朝鮮王朝時代に蒸気機関を移植するためのマジカルなガジェットであり、主人公になるのは最後の一篇だけ。以下、各作品の感想。

    ◆「蒸気の獄」チョン・ミョンソプ
    宮廷での蒸気機関推進派と反対派の派閥争いと、推進派粛清の真相。このあとの作品で蒸気技術者が隠れている理由が説明されているので最初に置かれるのはわかるんだけど、いきなり読むには少し煩雑に感じた。宮廷ドラマで慣れていると違うんだろうな。

    ◆「君子の道」パク・エジン
    完成度が高い一つ目の作品。奴隷階級の少年が蒸気機関で作ったアンドロイドを使い、生涯をかけて支配階級のポジションを乗っ取る。主人公は人間らしい扱いを受けられず老いていくが、作りだしたアンドロイドは人間として出世するという皮肉なストーリーに、異母兄弟の愛憎が重ねられている。自立歩行できて文字が書けて簡単な問答もできるアンドロイドをサクッと作ってしまうので、SF的にはエッて感じではあるけど、虐げられた者たちに技術を授ける都老がプロメテウスのようで印象深い。

    ◆「朴氏夫人伝」キム・イファン
    民話の伝説的な人物を下敷きにした作品。蒸気機関が強固な身分制度を突き崩すかもしれない希望のように語られる。あんまり"夫人"にスポットが当たっている感じはしない。

    ◆「魘魅蠱毒」パク・ハル
    蠱毒を行なった罪で死刑になった男は、本当にそれを実行したのかというミステリー仕立て。人の死骸をエネルギーにして動く(?)巨大ロボが思わせぶりに登場するわりに地味に終わる。ロボに暴れてほしかった。

    ◆「知申事の蒸気」イ・ソヨン
    完成度が高い二つ目の作品。これが一番の当たり。有名な史実上の人物だという洪国栄[ホン・クギョン]の正体を汽機人の都老だという設定にして、人の形をしていながら情を持たない側近と、人間である前に王でなければいけない男の心の交流を描く。都老が死骸の山のなかから見つかる登場シーンの不気味さと、蒸気のせいで人間より温かく、近づくと体内からかすかにゴロゴロと音が聞こえて猫みたいだというディテール描写のギャップがアンドロイドものの旨味って感じでたまらない。史実的な辻褄合わせの結果っぽいけど、都老に心が芽生えるきっかけが王じゃないところもよいと思う。都老にとって王がどんな存在だったのかはよくわからない。それでいいのだ。
    「息をし、動き、考えることを止めよ」という言葉。これが最大の愛の台詞になってしまう人間とアンドロイドの非対称性。「では、すべて消すように。そして何も受け入れてはならぬ。止まることができぬなら、目からも、口からも、皮膚からも、何も受け入れてはならぬ。再び命令するときまで、息でも整えておけ。それならできそうか?」いい台詞だなぁ。このアンソロ、全体的に賜死(王が毒を渡して自死を促す刑)をロマンティックに描いてて、それ自体はあまりよろしくない気もするが、死ねない都老を壊すこともできなかったとわかるのがいいよね。

    ◆「スチームパンク朝鮮年代表」
    この設定資料がかなり面白い。収録作は宮廷や官僚を書いたものばかりだけど、年表では秀吉の朝鮮出兵が蒸気機関の技術狙いだったことになってたり、女真族が蒸気馬で無双したりしていて、これで架空戦記的なものを書いてほしいと思った。

  • 李氏朝鮮に蒸気機関が存在するという設定の朝鮮を舞台に、蒸気で動く人造人間「都老」を様々な形で登場させた短編集。ホラーっぽいものから、なかなか重たい話題になるもの、機械が情を知ったらどうなるかというものまで色々。
    https://historia-bookreport.hatenablog.jp/entry/2023/07/03/234410

  • 好き〜〜〜〜〜〜!
    こういうアンソロジーを作家さん自身が「書こうぜ!」「いいね〜」みたいな感じで作ったのも素敵だなあと思いました。
    儒教BLがあるよ!というキャッチーな宣伝ツイートに惹かれて読みましたが、全部好きです。とっても良かった。表紙も大好き。
    今年の4月にほぼ同じ作家さんたちが発行したサイバーパンクなソウルのアンソロジーも読みたいです。

  • 全編おもしろかった。「知申事の蒸気」の最後で思わずニヤッとなる。

    蒸気機関という共通のテーマがありながら、それぞれまったく切り口が異なる。アンソロジーなので当たり前ではあるが。どこにフォーカスを当てるか、で個性が見えるのもおもしろかった。

  • 韓国で活躍するSF作家が飲み会で集まった時に盛り上がったネタをもとに製作されたのが本作『蒸気駆動の男: 朝鮮王朝スチームパンク年代記』だ。タイトルにある通り、”もし韓国の歴史に蒸気で動く人間がいたら?”という歴史ifモノで全部で5人のSF作家が参加している。形としてはアンソロジーに近い者だが、共通の設定や歴史年表を最初に設定してから各作家が書き進んでいったらしく、全体としては統一した世界観のもとで話が折り重なっていく。

    本作はタイトルに「スチームパンク」という文字が入っていることから自分が想像したように、”蒸気によって文明が支えられていた架空の韓国”を舞台にしているわけではなかった。確かに全ての短編で蒸気機関は登場してくるのだが、この劇中世界では蒸気機関が全面的に活用されるわけではなく、時々の政治状況によって利用が活発になったり弾圧されたりする。その振り子のように揺れる方針が、宮廷内における政治闘争が激しく、王たちが派閥均衡のために政策を変えてきたという韓国の歴史とうまくリンクしているところが本作の仕掛けの上手いところだ。

    その方針の揺れが最も端的描かれているのが、冒頭に配置されているチョン・ミョンソプ『蒸気の獄』だ。この作品では、16世紀に実在した政治家趙光祖(チョ・グァンジョ)の政治的な失脚と死が、実は蒸気機関を積極的に推進したためだったという”秘密”が明かされる。劇中では「蒸気の獄」と呼ばれるこの政変は、実は朝鮮の歴史ではしばしば見られたように、国王がうまく反対派とのバランスを取るために彼を切り捨てたことによって起こったのだった。


    この趙光祖の死が示すように、この「蒸気駆動の男」の世界では蒸気機関というのは意思を持たない物が活動を行ったり、あるいは動きを見せるということで、朝鮮における根本的な価値観(少なくとも建前の上では・・)とされる儒教とは相容れないものとされている。そのため、蒸気の利用は明らかに利便性があることがわかっていても、政治的に弾圧がされやすい状況にあるのだ。

    その弾圧の強さと悲劇を描いているのが、キム・イファン「「朴氏夫人伝」」のイ・ソヨン「知申事の蒸気」だ。前者は蒸気を使って鍛治を行っている民間人、後者は蒸気によって動く汽機人が主人公になるという違いはあるとはいえ、いずれも蒸気を用いていることが最終的には弾圧の理由になってしまうという悲劇を引き起こしてしまう。

    ちなみに後者の実質的な主人公になる汽機人「都老」は劇中を通じて登場するキャラクターで、朝鮮の蒸気を用いる仮想歴史の裏側で常に活動をしている狂言回しのような役割を担っている。ある短編では人間に蒸気利用の方法を教えたりする存在し、他の短編では宮廷で自らが活動をするのだが、その正体や出自は最後まで明らかにならない。


    最初に書いたように本作は全部で5篇が収められており、上に紹介した以外には、蒸気を用いて奴婢の立場から抜け出そうと試みる主人公を描いたエジン「君子の道」と、ある地方都市を騒がせる呪いの正体が蒸気機関であるというミステリー仕立ての作品、パク・ハルの「厭魅蠱毒」が収められている。

    本作で取り上げられている歴史イベントは韓国の歴史でも有名な話が多いため、、例えば21代英祖とその孫で正祖となるイ・サンの物語に裏側には、実は名も知られぬ蒸気で動く男がいた・・という設定だけでニヤリとしてしまうだろう。とはいえ、韓国の歴史を全く知らなくても各短編の設定がしっかりしているため、読者は物語にあっという間に引き込まれることは間違いない。

  • 無難におもろいけどジャンル自体に内在するおもろさであって特に目新しくはない 朝鮮の歴史に親しみを持つためのみちびきとしてよかった

  • 装丁がとてもすてき。
    都老は名前が出てくるだけであったり、あるいは案内者的な立ち位置で一瞬登場するだけであったりと、舞台道具的な立ち位置。しかし、最後の一編でそれが覆された感があった。国栄は、自身に人間的な内面はないと考えている(というかそもそもその有無すら意識していなさそう)。しかし、周囲の人間の目には国栄が私情に基づいて行動していると見える(がゆえに王は処分に踏み切る)し、国栄が認識していないものを提示される読者の目にも、そこに人間的な内面があるように映る。結局、それがただ機械を擬人化して捉えているに過ぎないのか、あるいは本当に「人間性」が芽生えていたのかはわからないが、この人物がアンソロジー全体を繋ぐ経糸だったのかという驚きが残る(全ての都老が同一個体だとは言い切れないにしても)。そこにアンソロジー全体の構造のうまさがあると思った。
    あとは、突き詰めた合理性が人からどのように見做されるのかっていう話でもあるのかな。そのあたりはカミュの言う不条理につながるのかも。

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