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本 ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784153400269
作品紹介・あらすじ
千葉の巨大データセンター、サイバー網の急所・長崎、海底ケーブル船、そしてロシアの隣国エストニアへ。サイバーセキュリティと軍事のプロが最前線の現場で見たものとは。情報インフラと安全保障の要でありながら実態の見えにくいサイバー空間の可視化に挑む
感想・レビュー・書評
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サイバースペースの地政学
著:小宮山 功一朗
著:小泉 悠
ハヤカワ新書 026
いきなりデータセンターである
ネットワークの7層のうちの下1層、物理層がデータセンターのきもである
千葉ニュータウンにあるデータセンター
そのインフラエンジニアの聖地が、本書のテーマである
なぜ、千葉ニュータウンなのか
・北総台地の地盤が堅固で、地震を含めた災害リスクが低い
・都心から、30~40Kmという比較的交通アクセスのよい土地である
そして、データセンターが集まり出すと
・電力会社は、特別高圧電力の供給を
・通信会社は、高速で、安定した通信回線を、この地に優先して供給するようになる
つまり、一度、データセンターが集まり出すと、ネットワーク効果が生まれ、さらなるデータセンターを
呼び寄せることとなる
日本と海外とのインタネット通信量は、99%が海底ケーブルだ
2024年01月現在、世界には、574本、総延長140万kmの海底ケーブルが存在している
海底ケーブルのルートは、19世紀に往来が活発であった海の交易路と似ている
マラッカ海峡やスエズ運河などの海上交通の要衝は、海底ケーブルのルートしても、やはり重要なポイントである
実際のデータセンターでの電力消費量は、機器そのものの電力量ではない、機器を最適に保つための冷却装置の電力量、つまり、空調費用がふくまれている
データセンターとは過酷なところ
・寒い
・湿気が大敵、長時間いれば、肌がカサカサになる
・うるさい、キーンというファンのノイズが、センターには満ちている
・特殊なにおいがする
ここでいうリスクとは、中国の漁船に誤ってケーブルを切断されたり、ロシアの攻撃にさらされないように管理しようだ
目次
はじめに
第1章 「チバ・シティ」の巨大データセンター―千葉ニュータウン
第2章 日本がサイバースペースと初めて繋がった地―長崎市
第3章 ケーブルシップの知られざる世界―長崎市西泊
第4章 AI時代の「データグラビティ」―北海道、東京
第5章 海底ケーブルの覇権を巡って―新たな戦場になる海底
第6章 ポスト帝国のサイバースペース―エストニア、ロシア
おわりに
謝辞
ISBN:9784153400269
出版社:早川書房
判型:新書
ページ数:208ページ
定価:1000円(本体)
2024年06月25日初版発行詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
サイバー空間の複雑なリスクとその影響を学び、非常に興味深く感動しました。著者が取り上げた千葉のデータセンターやエストニアの事例を通じて、情報インフラの安全保障の現状が鮮明に描かれており、特にサイバー攻撃の特定の難しさやサプライチェーンの脆弱性についての洞察が印象的でした。現代のサイバーセキュリティの課題を深く理解する良い機会となり、内容の豊富さに感心しました
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小宮山執筆の第1〜第4章は、国内の訪問記を含むデータセンターや海底ケーブルの情報インフラに関して。技術的すぎず読みやすい。国境のないサイバースペースの土台にあるこれらインフラの重要性、地理的条件がよく分かる。偶発的な火災や海底ケーブル切断ですら障害が起きるのだから、第5章にも関係するが敵対国に意図的に破壊された場合は尚更だ。
小泉執筆部分は露による海底インフラ破壊の脅威やエストニアの脱ソ入欧努力、露国内のネット監視。
分量は手頃で読みやすく中身も興味深いのだが、両著者の執筆内容を、異なる側面からと見るか、木に竹を接いだようと見るか。特に第6章は他からやや浮いていた。 -
職場同僚の紹介。
Audibleにて。
サイバースペースは仮想世界のはなしとして、どこかふわふわと世界で唯一のフラットで境界のないものを想像してしまいがちだ。
この本ではサイバースペースを実現するための最重要物理層である、データセンターおよび海底ケーブルに着目し、実際に現地で取材した内容をもとに、そのようなイメージを払拭し、サイバースペースにおける地政学を講じている。
日頃デジタル技術を利用するときには意識しないが、堅実にその便利さを支えてくれているインフラに気づかせてくれるとともに、その危なっかしさを学ぶこともできる学びの多い本だった。 -
普段日常生活の中でさまざまなデータをやりとりするが、その実体のないデータを具体的な「モノ」に置き換えて考えることはない。あるいはサイバースペースという概念を知っていても、そこに可能性の広がりを見いだす文脈はあれど、空間的・物理的な制約を見出すことは少ない。
本書は、データ・通信の総体を、「データセンター」、あるいは「海底ケーブル」のような現実との結節点を用いて見える化した上で、その地理的(戦略的)条件について考える本。
まず着眼点がいい。あらゆるデータはデータセンターなくしては運用できず、またそのデータセンターが置かれる場所には一定の制約があることが語られ、このことはITやAIの可能性を語っていく上でその土台となる話であり、まさに「地に足をつける」ための議論だ。
データセンターの集約化、外資の参入状況、警備の多寡、あるいはデータの連絡網である海底ケーブルの脆弱性、ケーブルシップの数的制約...等、目に見えないデータと、現実的な運用実態との結節についての説明は説得的だ。特に海底ケーブルが「庭のホースくらい」の太さしかないことには驚いた。
全編を通してアカデミックな説明よりは少し旅行記じみたくだけた語り口で、著者ふたりの書きぶりも新書ナイズされていて読みやすかった。いわゆる地政学はいわば運命論的だが、サイバースペースにかかる議論は変更可能という話も(運命的な地政学が好きではないので)ふんふんと頷いた
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読了。
ン十年前、地政学を志して地理学科へ行き、教授たちから日本の地理学において地政学はタブーで封印されている、と言われて学業やる気なくしたワタクシとしては、ここのところの地政学ブームには戸惑いを隠せない。
封印された理由がわかるだけに、気軽な気持ちで学問と政治と軍事を交わらせてはいけないと思うからである。
今の地政学ブームはそういうことをしっかり理解した上でのものではなく、単に使い勝手のいい単語として使っているように感じて、そういう世の中に危機感を覚えていたりする。
というのはさておき。
「サイバースペース」という大地と最もかけ離れたところにある仕組みと「地政学」の組み合わせ、どういうことかと興味深く読んだ。
データセンター、海底ケーブル、通信基地など、サイバースペースといえどリアルの「ブツ」と離れて存在はできず、そしてリアルなブツがあるのならそれは地理学の範疇。その視点、さすがだなあと思った次第。
そしてネットワークに支えられた今の時代、社会、生活を壊すには、なにも核はいらない、という事実に改めて気づき、恐ろしくなった。
現代を生きる人々必読の書かもしれない。
なにより、サイバースペースを語るなら千葉から、という一文。書けるのはハヤカワさんだけだよねとニヤリとしてしまったのだった。
『ニューロマンサー』読み直したくなった春のひとときでした。 -
いつも使っているネットはどんな仕組みで動いているのか。
より深掘りしていくと、危うさが見えてくる。
LANは無線も有線も同じ物理的な弱点を持っている。 -
ある意味国防の問題
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それこそハヤカワ文庫から出ていた『100年予測』だっただろうか。
未来の戦争は、宇宙空間とサイバー空間の中が主戦場になる。
あっという間に決着がついてしまうだろう、といった話。
本書を読みながら、そんなことを思い出した。
ただ、自分が思っていた以上に、この問題、「物質」に縛られる側面があるようだ。
例えばデータセンター。
大都市から距離があると、通信のタイムラグが生まれるため、大都市近郊に設けられることが多いという。
大量の電力を食うため、送電などのインフラが整っている必要もある。
現在は衛星を使った無線通信などの新しい技術も開発されたとはいえ、海底ケーブルも通信には必要なのだとか。
そうすると、大陸に向けケーブルを通しやすく、陸揚げポイントに適した地形にある程度制約があるため、明治大正の頃に敷設された場所が現在でも重要な場所となるとのこと。
海底ケーブルの維持をする「ケーブルシップ」の活動については本書で初めて知った。
ケーブルは船の錨が当たったりすれば簡単に切れる、もろいものなのだそうだ。
ひとたび切れてしまえば、海中ロボットを使い、どこで切れているかを突き止め、つなぎなおすという超高難度なUFOキャッチャーのような作業をして直していく。
すごい技術だと思うし、このケーブルシップが能登の震災などの大災害時に、海から通信を修復すべく活躍しているという話は面白かった。
本の後半は、「地政学」と銘打つ本にあるような話。
具体的には中国が技術力と資金力でシェアを高めていることや、ロシア政府がどのようにネット監視体制を作っていったかなどだった。
本書からは知らなかったことを学ぶことができたのだが、この辺りを読んでいると、どうも気持ちが沈んでくる。 -
本書によると、「サイバースペース」という言葉は、SF作家ウィリアム・ギブソンが発明したもので、物理空間との関係性の問題が成立当初から内包していたという。サイバー攻撃で特に注意しなければならないのが海底ケーブルで、これが破壊されてしまうと、インターネットに混乱をもたらす。また本書でエストニアについて言及されるが、ソ連崩壊後、エストニアは国家主権を確立するために、ITに力をいれた。
著者プロフィール
小宮山功一朗の作品





