wasabiさんの感想
2019年5月1日
これをもって杉本さんの遺した著作を完読だろう。気風のいい江戸の気質と情緒にあふれた書きぶり、そしてお会いした際の朗らかで気遣いに長けた人柄に惹かれた。小説での粋な表現は、まるで落語や講談を聴き入っているかのようだ。可楽に遊三、本業をうっちゃって噺家に身をやつすふたり。とりわけ遊三はふらふら者ながら、どこか信念があって憎めない。やはり著者が寄席に精通していたことを知るが、令和の世で新作に触れられぬのが残念。
すぎもと・あきこ 1953年、福岡県八女市生まれ。ノートルダム清心女子大学国文学科卒業後、金城学院大学大学院修士課程修了。江戸文学を学ぶ。1980年「男の奇跡」で歴史文学賞佳作入選、作家デビューを果たす。1989年「東京新大橋雨中図」で直木賞受賞。2002年『おすずーー信太郎人情始末帖』で中山義秀文学賞を受賞。近著に『起き姫 口入れ屋のおんな』など。本作は「お狂言師歌吉うきよ暦」シリーズ4作目の完結編となる。 「2016年 『カナリア恋唄 お狂言師歌吉うきよ暦』 で使われていた紹介文から引用しています。」