女ざかり

  • 文藝春秋 (1993年1月1日発売)
3.29
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感想 : 8
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  • 本 ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163136806

感想・レビュー・書評

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  • 何回読んだかわからない「女ざかり」だけど(吉永小百合主演の映画も観たし)ご逝去を機に久しぶりに読み返してみたら、今までで一番面白かった&あれこれ腑に落ちた&賛否両論あった否にも納得できた…。


    大好きな丸谷才一さん。
    昭和元年のお生まれだったから心の準備はしていたつもりだけど、やはり訃報は衝撃でした。
    出会いは小説ではなく学生時代に駅の売店でたまたま買った「日本語のために」。
    “国”と個人という観点から国語教育を論じておられて、そっか、うん、ホントにそうだよね!と、目からウロコがボロボロ落ちるほどの凄いショック。

    完全な五十音図を教えよう、とか、正しい語感を育てよう、とか、子どもに詩を作らせるな、とか。

    なんとなくそれが当たり前、みたいに感じていた「国語」というものを、根本からひっくり返されたように思って、嬉しかったし、うん、今でも私の国語の授業の根本には、丸谷さんの精神がどっかり根を下ろしているように思います。

    その後、小説やエッセイは出るたびにワクワクと読みふけり、お洒落な文体(それが歴史的仮名遣いと同居しているってところがまた面白いよね。)や、人間観察の面白さ、ちょっと意地悪な目線、そして何より、「全体主義嫌い」が大きく一本通っているところが大好きでした。

    主人とおしゃべりしていて、あ、これって丸谷さんの言い方をそのまま真似して言ってるな、私、なんて感じることもあるくらい、現在進行形で影響を受けているみたいです。

    一番好きな小説は、「女ざかり」ではなく、「裏声で歌へ君が代」「たった一人の反乱」。
    あ、でも「輝く日の宮」もよかったなぁ。
    ただ最後の長編となった「持ち重りのする薔薇の花」は、もしかして私の好きな丸谷さんではないのでは?という恐れがあり未読。実はエッセイもお年を召されてからなんかしっくりこなくなってきていて、それは私が身辺の雑事に振り回されすぎて丸谷さんの世界に入り込めないのかも、と悲しかったりもしたんですよね。

    「女ざかり」の主人公・南弓子を中心とした“新聞社”話が、記者の生態や政治・宗教・経済界などとの結びつき、文章そのものについての考察、など、とにかく面白く、ただ、今回読んでみて初めて、発表当時に言われた、主人公はどこからどこまでも他力本願だ、という批判も、うん、それはそうだ、と思えたのもまた興が深かったように思います。

    丸谷才一逝去のニュースに、主人が「確かうちに丸谷才一の本、あったよな」と言うので一番手前にあった本を出してきた「女ざかり」なのですが、彼にとっては初めての丸谷本で、読んだ後に、
    「じゅんが丸谷才一を好きなわけがよくわかったよ」と笑っていたのが、私の密かなネタ帳を読まれた気分で面映かったこともまた、丸谷さんへのご供養かな、なんて思ったりしております。

    • niwatokoさん
      じゅんさんの思いがよく伝わってきました。わたしは好きといえるほど読んでいないのですが、お亡くなりになったことをきいたときはなんだかすごく寂し...
      じゅんさんの思いがよく伝わってきました。わたしは好きといえるほど読んでいないのですが、お亡くなりになったことをきいたときはなんだかすごく寂しい思いでした。「輝く日の宮」「女ざかり」はすごく好きでした。「裏声で歌へ君が代」「たった一人の反乱」やエッセイもこれから読んでみたいです。
      2012/11/28
    • じゅんさん
      コメント、ありがとうございます!(*^_^*)
      ここのところ、地に足がついていないような浮揚感漂う(汗)日々を送っていたじゅんですが、「女...
      コメント、ありがとうございます!(*^_^*)
      ここのところ、地に足がついていないような浮揚感漂う(汗)日々を送っていたじゅんですが、「女ざかり」をじっくり再読して、ちょっと自分を取り戻せたような気がしています。毎日寒いですよね。暮れに向かってどうぞお身体気をつけて!
      2012/11/28
  • 丸谷才一が亡くなった。ジェイムズ・ジョイスの訳者として、博識を洒落のめしたスタイルで軽妙に綴った数々のエッセイの書き手として、また日本における書評文化の担い手として、そして何より、『女ざかり』その他の長編小説の作者として八面六臂の活躍ぶり、まことに異能の人であった。『日本文学史早わかり』や『文章読本』など、文学評論の書き手として早くから注目していたが、風俗小説の名手として知ったのは、割合に遅かった気がする。あらためて『女ざかり』を手に取った。

    新聞社の論説委員である弓子は、着任早々「妊娠中絶」の是非を問う論説文を書く羽目になる。家庭内のいざこざもあって気がくさくさしていた弓子の文章の論調は、男性優位の社会に対する非難の色濃いものとなってしまうが、それと時を同じくして弓子に事業部異動の声がかかる。裏に何かあると思った弓子は各方面の伝手を頼りに情報を集める。どうやら新社屋用の土地取得の件に弓子の処遇がかかっていて、その原因は例の論説文らしい。持てるコネを総動員して不当人事と戦う弓子と、彼女を助ける男たちの活躍を描いた小説。

    丸谷の目論見を、弓子流に箇条書きにすれば、
    1.新聞社という、知っているようで知らない特殊な場を基点に政治の舞台裏を描く。
    2.新聞記者や大学教授とのインテリジェントな会話を通して日本に固有の文化を論じる。
    3.妻のある男との恋愛を主題とした「姦通小説」を描く。
    4.弓子の家を通して女系家族の人情や風体を描く。
    5.論説文の書き方を具体例を用いて実践的に指南する。

    1については、大手の新聞社で社屋用の土地の提供を国から受けていないのは一社しかない、とか論説委員の仕事ぶりの実際とか、選挙で票を買うのに使う茶封筒は選挙違反がバレるのを恐れて公示以前に別の地区で大量に仕入れるだとか、首相官邸の間取りだとか、相変わらず知らなくてもいいけど、知っていると面白い雑学がこれでもかというほど用意されていて、この手の逸話を小説の中にいくつも仕込んでいくその手並みは鮮やかなものである。

    2について、日本という国はその心性的な基盤を近代以前のずっと古層に置いているのではないか。その一つが今も残るお中元やお歳暮といった贈答文化だという「贈与論」をはじめとして、なぜ政治家は「書」を揮毫するのかだとか、お得意の御霊信仰とか、日本人や日本文化についての、これは作家自身の持論あるいはエッセイ集などで論じたことのある興味深い見解をそのまま作中の人物の口を借りて思うがまま論じている。これは巧い手である。世間に対して何かいいたいことがあるとき、架空の登場人物の口を借りて云えば誰にも文句のつけようがない。だってフィクションなんだから。

    3の「姦通小説」について言えば、『アンナ・カレーニナ』や『ボヴァリー夫人』をはじめ、西洋では「姦通」を主題にした小説は枚挙に暇がないが、日本に少ないのは「姦通」を描いた小説が禁じられていたからで、娼妓との関係ばかりを主題にする「花柳小説」が多いのは逃げである。漱石の『それから』は、「姦通」という主題に正面から踏み切った画期的な小説である、という丸谷が漱石のひそみに倣ったものと思われる。

    4は、着物や装身具という目に鮮やかな彩りを文章中に取り入れられるばかりでなく、着物の種類や帯との組み合わせに、人物の階層や趣味のよしあしを通じて人間を描くことができる。5については『文章読本』の著者なのだから当然。

    弓子と同期に論説委員になった浦野という元社会部記者の押しが強く自信過剰のわりにどこか憎めない性格がよく描けていて、上品とはとてもいえないが品が落ち過ぎない程度のユーモアを醸しだしている。恋敵であるはずの弓子の不倫相手が浦野を認めているところも二人の男の器量を高めている。そういう男たちが惚れるのだから弓子の値打ちがどれほどのものか、ということだろう。

    文芸誌に連載するというのでなく、長い時間をかけて「書き下ろし」というかたちで世に出されてきた丸谷の長編小説。これからはいつまで待っても読むことができない。実にさびしい。

  • 上手いなぁ。丸谷才一の小説は読んだ後に頭が良くなったような錯覚を覚えるところが何ともたまらん。

  • 小説、ってこういうのだよなあ。

  • この著者の本は格調高い、知的女性が出てくることが印象に残ります。南弓子という新日報社の論説委員というヒロインは、娘が大学院生なので、どう考えても40歳代後半だと思いますが、若々しくて美しい魅力的な存在です。そしてヒロインが書いた論説が「単身赴任社会の問題」を指摘しつつ、実に際どい女性の立場からの反道徳的な主張が巧みに隠されている!それが首相にまで耳に入る大事件になり、彼女を異動させようという圧力になる!元女優の伯母の紹介で、首相に会う場面などは非常に惹きこまれるシーンです。ベストセラーになり、映画化までされたというのですが、先日の朝日新聞に筒井康隆が書いているまで全く知りませんでした。小説中に出てくる、いろんな論戦などはそのまま使えそうな内容ですし、日本の知識社会を代表するような登場人物の多彩さも魅力です。

  • 名古屋などを舞台とした作品です。

  • <処分済>

    「印象的な官能表現がある本」と、何かの雑誌で紹介されていたので読んでみた。
    女性記者が、社説に載せた一本の記事ですったもんだする事件に、彼女のプライベートを織り交ぜたお話です(?)
    なるほど、わからん!

  • 400ページ以上もある長編、しかも旧仮名づかいだったが面白くて一気に読んでしまった。ストーリーの中に雑学が多々盛り込まれていて勉強になった。「贈り物」について改めて考えた。吉永小百合主演で映画化されているらしい。こちらも是非見てみたい。2009/9

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著者プロフィール

大正14年8月27日、山形県生まれ。昭和25年東京大学文学部英文学科卒。作家。日本芸術院会員。大学卒業後、昭和40年まで國學院大學に勤務。小説・評論・随筆・翻訳・対談と幅広く活躍。43年芥川賞を、47年谷崎賞を、49年谷崎賞・読売文学賞を、60年野間文芸賞を、63年川端賞を、平成3年インデペンデント外国文学賞を受賞するなど受賞多数。平成23年、文化勲章受章。著書に『笹まくら』(昭41 河出書房)『丸谷才一批評集』全6巻(平7〜8 文藝春秋)『耀く日の宮』(平15 講談社)『持ち重りする薔薇の花』(平24 新潮社)など。

「2012年 『久保田淳座談集 暁の明星 歌の流れ、歌のひろがり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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