蕨野行

  • 文藝春秋 (1994年1月1日発売)
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本 ・本 (220ページ) / ISBN・EAN: 9784163146102

感想・レビュー・書評

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  • 若い頃『楢山節考』を読み衝撃を受け、その後『蕨野行』でさらに衝撃を受けた。改めて再読。

    村の掟に従い60歳で蕨野行、姥捨山の習慣だ。
    余りに厳しい掟。覚悟を決めた蕨野行であっても、諦観はできないだろう。
    ワラビの衆と協力しあい、老いた姿を「鬼婆の如し」と笑いあっても、心は寂寞としている。

    けれど不浄の物を喰うても生きると決めた時、蕨たちの消えそうな命の残り火が再び燃える。呆毛も消え失せ、足動く。人はそういうものなんだと胸が震える。

    だが自然は厳しい。命の終わりはくる。輪廻転生に身を委ね最期を迎えるお姑たちは、身は「若えときのように軽うなったのう」心は「嫁のときのよにたのしからん」という。

    老いた身体の終わりは苦しみからの救いであり、新たな命への生まれ変わりなのだと、凪いだ気持ちで読み終えた。

    人とも思われぬワラビの衆の姿に神を見た里人が手を合わせたように、私も頭を垂れ手を合わせたくなる。
    生きていくことの辛さと喜びとが描かれている。生への賛歌だ。

    若い頃読んだ時とは違う感動を覚えた。お姑の年齢になったら再読したい。

  •  生と死の境界にあるワラビ野で、死を予定されながら、もし自分であったら、レンたちのように、ここまで強く生きられるだろうか。
     困難の中で姑を思い、姑のやったようにと必死で庄屋の若かかの役目を果たしていく、年若いヌイの姿にも心打たれる。
     眩しい雪の朝、現世の務めを果たし終わって身が軽くなったレンとトセは、ワラビ野から飛ぶように丘を下り、トセは来年ワラビとなる亭主を待つため墓所のある森に向かい、レンは村へ、ヌイのもとへと下る。最後のその情景が素晴らしい。
     
     勢いで映画も見た。映画のなかで描かれる、日本の山里の豊かな風景、レンの市原悦子やヌイの若い女優の演技も良かった。あの雪の山では年寄りは生きられない。しかし年寄りと言っても60歳、あと数年で自分もその年。
     日本各地に残る姥捨伝説だが、実際はどのようだったのだろうか…。

  • 村田さんとの衝撃的な出会い「ゆうじょこう」を思い起こす作品でした。
    還暦を迎え自ら姨捨山に赴いた姑と、彼女を実の母とも慕う年若い後妻の、往復書簡のようなやり取りだけで構成された作品です。
    読み始めてすぐ、余りの方言に読み通せるかという不安を持ちましたが、最初さえ乗り越えればリズムのようなもの、後半は一気読みでした。方言が味を感じさせるところも「ゆうじょこう」を思わせます。
    里に近い姨捨山。赴いた老人たちは糧を得るために毎日里に下りて村の手伝いをする。動けなくなり手伝いができなくなったら逝くのみ。飢饉の年、秋の初めには村から手伝いを断られ、山からの恵みで永らえようとするものの、一人二人と脱落していく。そうした悲惨さの中に靭さや逞しさを感じさせるところも「ゆうじょこう」良く似ています。
    明るさを見せるエンディングがさわやかです。

  • この作品は『楢山節考』よりはるかに饒舌であるのだが、文にリズムがあってそれが心地良かった。そして、姥捨ての物語で終わるのではなく、蕨野で亡くなった姑レンが嫁ヌイの子供として再生するという大団円を迎えて、そこでは輪廻転生が謳われているように想えた。

  • 嫁と姑の交換書簡のようなもの
    方言で読了できず

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著者プロフィール

1945(昭和20)年、福岡県北九州市八幡生まれ。1987年「鍋の中」で芥川賞を受賞。1990年『白い山』で女流文学賞、1992年『真夜中の自転車』で平林たい子文学賞、1997年『蟹女』で紫式部文学賞、1998年「望潮」で川端康成文学賞、1999年『龍秘御天歌』で芸術選奨文部大臣賞、2010年『故郷のわが家』で野間文芸賞、2014年『ゆうじょこう』で読売文学賞、2019年『飛族』で谷崎潤一郎賞、2021年『姉の島』で泉鏡花文学賞をそれぞれ受賞。ほかに『蕨野行』『光線』『八幡炎炎記』『屋根屋』『火環』『エリザベスの友達』『偏愛ムラタ美術館 発掘篇』など著書多数。

「2022年 『耳の叔母』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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