カスティリオーネの庭

  • 文藝春秋 (1997年1月1日発売)
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本 ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784163171708

感想・レビュー・書評

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  • 清朝皇帝・乾隆帝に仕えたイエズス会修道士、ジュゼッペ・カスティリオーネが皇帝の無理難題に応えて作り上げた噴水から白骨死体が発見された。
    禁裏で見つかった死体は一体誰なのか?

    ミステリーのような、そうでないような。
    面白いことは面白いんだが、なかなか入り込めず。
    西洋建築とか庭園および噴水の作成方法に詳しければもっと楽しめたかも。
    犯人探しや動機解明よりは、はるばるポルトガルからやって来たもの布教を許されず、画才だけを愛された西洋人画家の視点に立った清朝帝国を描くことがこの物語の主のような気がする。
    どんなにすばらしい作品を描いても皇帝にとって「物珍しい工人」に過ぎないという事実を幾度となく突きつけられる主人公の苦悩や
    布教のためにやってきたのに受洗を願う中国人を拒否するアンビバレンツ。
    それは保身のためというより私欲に満ちたものであることが後半判明するのだがそれを見越してさまざまな手を打ってくる乾隆帝の底知れなさに慄然とする、というのが本音。

    若い公子の精を吸い尽くし栄華を誇る十全老人。
    彼の足元に横たわる累々たる死体の上に立つ帝王の孤独は深く、どんな創意工夫を凝らした庭園も辺境からの美女も彼の心を溶かすことはできない。
    唯一心がほぐれるのは自らの血を分けた一族から血が流れる時なんだから彼の心は一筋の光明も差し込まない闇に沈んでいるとしか言いようがない。

    たびたび挿入されるカスティリオーネが手がけた作品(絵画および庭園のスケッチ)が非常に見事です。

    最終章は特に辛辣な言葉が重なり、作者はこの憤りを描きたいがためにカスティリオーネを主人公に据えたんじゃなかろうかと邪推しております。

  • 中野美代子の中国歴史小説。
    テーマはズバリ、「東洋と西洋の融合」!
    18世紀に中国で活動したイエズス会士で、イタリア人宣教師のジュゼッペ・カスティリオーネ(中国名「郎世寧」)の物語。
    清朝第六代皇帝・乾隆帝に仕え、絵画や建築などで活躍した彼が、本来の目的である布教の道を閉ざされ、芸術面のみの活動に限定される苦悩が描かれています。
    円明園の西洋楼建築に関する乾隆帝の無理難題と、皇子たちの信仰と情愛をめぐる苦悩、同じ苦労を分かつ他の修道会士たちとの友情、そして思わぬ所で発見された白骨死体!?
    乾隆帝の「十全武功」の一つ、ウイグル征伐と、香妃伝説も出てきます。

    舞台が中国でありながら、西洋美術が随所に出てきます。
    挿絵が多く、円明園の図や、欧州の建築美術、中国や欧州の絵画なども見れるので、物語中の説明がビジュアル的に補足されます(^O^)
    欲を言えば、挿絵はカラーでもっと詳しく見たかったですね(;^_^A
    あと乾隆帝の息子たちにスポットを当てるなら、私生児と言われる福康安も登場させて欲しかったなw

    ニン、トン♪

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著者プロフィール

1933年生まれ.
1956年,北海道大学文学部中国文学科卒業.
北海道大学文学部助教授.
主 著:
砂漠に埋もれた文字—パスパ文字のはなし (塙書房,1971)
海燕(長編小説) (潮出版社,1973)
中国人の思考様式—小説の世界から (講談社,1974)
カニバリズム論 (潮出版社,1975)
悪魔のいない文学—中国の小説と絵画 (朝日新聞社,1977)


「1979年 『辺境の風景 日本と中国の国境意識』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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