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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784163176901
感想・レビュー・書評
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佐野広実さんの本がおもしろかったので、島村匠名義の本も読んでみました。
慶応から明治へ、時代の変わり目で絵筆に「心」を現したい月岡芳年の画業の彷徨を描く。
偶然目にした武家の殺し。その黒頭巾の武家にぞくりとするほどの殺気を感じる。あの武家を描きたい。「心」が描けるはず。その場に落ちた簪から、芳年が武家を探す過程がミステリー仕立てになっている。
描かれるのは、慶応4年の閏4月から、5月15日。慶喜は江戸城を明け渡し水戸にいってしまい、官軍、彰義隊と江戸は落ち着かなく、逃げ出す人も出てきている。そんな混沌とした中で、2年前、芳年は兄弟子・芳幾と共作した「英名二十八衆句」という歌舞伎の残虐場面を描いた残酷絵が評判になっていた。だが、何かが足りないと感じていた。
そして5月15日、上野の山での彰義隊と官軍の戦い。追っていた武家はどうなったのか。芳年は弟子の年影と上野の山に向かう。うず高く重なる死体。自分の持つべきなのは筆だ。芳年は戦禍の死体を描き続ける。
明治元年(1868)に発表された『魁題百撰相』は、弟子・旭斎年景と共作。上野彰義隊と官軍の戦いを取材して描かれたと伝わる。この小説では、この時代の変わり目に、滅びゆく空気と、新しいうねり、それが芳年の絵筆を通じてみごとに描かれていた。
月岡芳年は、天保10年(1839)から 明治25年(1892)、53歳の生涯。明治元年は29歳。まさに人生の中盤で時代が変わっている。
芳年はこの慶応期の残酷絵が有名だったりするが、明治7年になると、兄弟子・芳幾の新聞錦絵に刺激を受け、『名誉新聞』を開始。明治8(1875)には『郵便報知新聞錦絵』も開始。歴史画や西洋画の技法もとりいれ多彩な画業を展開する。
実は2年位前に、月岡芳年の画集を何冊かみていたのだが、なにかこの本を読むまで忘れてしまっていた。しかし、芳年の、まさに「冥府彷徨」を垣間見て、芳年が生き生きと動き出した感じ。これが小説の力なんだなあ。
島村匠さん、この本の最初の場面が春画を描いている場面で、佐野広実名義の時とはまったく違った雰囲気だ。松本清張賞らしく、ほの暗い世界。
芳年は吉原の馴染みに亡き妻の面影をみている。この設定は佐野広実作品でもずっと出てくる。最初から出していたのか。
「芳年冥府彷徨」松本清張賞受賞作品
平成11年/1999年度
決定 平成11年/1999年5月7日
『文藝春秋』平成11年/1999年7月号選評掲載
1999.6.30第1刷 図書館詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
最後の浮世絵師とい言われる『月岡芳年』の人生がわかる好書です。
名前を初めて知ったの10年くらい前に、松本にある日本浮世絵博物館で開催されていた芳年の浮世絵を見てから。血みどろの武者絵が多数あり、まさに鬼気迫るものがありました。
その秘密はこの本のなかにあります。
上野山戦争で無残に散った彰義隊士の死骸を、戦火の後に、ひたすら模写してまわったという狂人じみた行動から得たリアリティでした。
自分が知っている限り、芳年を主人公にした小説はこれだけなので、興味を持ったら評伝などを読むより、まずこちらを読んで欲しいです。 -
絵を仕上げる絵師の執念が描かれて
います
この人は明治期に活躍した人で、高橋
克彦さんの作品で絵は見たことあります
凄みのある作品です
島村匠の作品





