愛の領分

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 146
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163200606

作品紹介・あらすじ

不倫でもないのに秘密の匂いがする。愛を信じられない男と女。それでも出会ってしまった彼らの運命。すべてをかなぐり捨てた四人がゆきつく果ては…。待望の恋愛長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 大人の恋愛。男と女。五十代でもこんな恋愛ができるのはすごい。恋愛物は苦手だなーと思いつつ、こんな世界もあるのかと新鮮だった。

  • #読了。第125回直木賞受賞作。妻に先立たれ一人息子と暮らす主人公。若かりし頃の友人。以前の不倫相手であるその妻。友人の愛人であった女性。4人の大人の恋愛長編小説。愛と向き合い、死と向き合う。“領分”というの表現が深い。

  •  「直木賞受賞エッセイ集成」に収録されていた藤田宜永氏のエッセイがすごく好きな感じだったので、受賞作を読んでみることにした。熟年男女四人が織り成す友情と恋愛模様を描いた作品。とてもよかった。暇さえあればページを繰りたいとソワソワした。

     藤田氏は、台詞の裏に潜んだ感情の動きを丁寧に言葉にするのが上手な人だなあと思った。言葉で隠された感情は相手には伝わっていないんだろうなあ、いやもしかたら伝わっているのかも?とかいろいろな可能性を考えながら読むと、一層作品の深みが増す。

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    「諦めから始まった人生だった、ってわけですか」惇蔵はわざと軽い調子で言った。(p.230)
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     相手には「わざと」であることは伝わらない。軽い調子で言ったその言葉だけが届く。でももしかしたら「わざと」であることも伝わっているかもしれない。それを感じ取った上で、伝わっていないふりをしているのかも。どっちなんだろう?会話している二人の感情の可能性が広がれば、その場の空気感もガラッと変わる。和やかな会話のように見えて実は互いに腹の中はグツグツしていたり、饒舌なときこそ実は本音を隠そうと一生懸命に自分を抑え込もうとしていたり。台詞の裏の裏まで事細かに教えてもらえる読者には全てが手に取るようにわかるけれど、本人たちは当然相手の本心がわかるはずもなく悶々としている。そんな彼らの姿を、もどかしいような、ほのかに優越感を感じるような気持ちで読んだ。

     タイトルにもなっている「愛の領分」はいったいどんな意味なんだろうと思っていたけれど、終盤の惇蔵と昌平の会話で、すっと自分の中に入ってきた。

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    「私なんか敵じゃないと思ったんですね」
    「失礼だけど、その通りだ。美保子とお前は、何て言ったらいいのかな……」
    「生きてる世界が違う」
     昌平はうなずいた。「一言で言えばそうなるが、職業や収入のことを言ってるんじゃない。どんなに立派なものでも、着物に合わない帯がある。帯に合わない着物がある。お前と美保子は、ちぐはぐな帯と着物だった。そんなふたりを結びつかせてしまったのは、俺だけど、やっぱり、愛にも領分があるって思うんだ」
     惇蔵は不愉快な気持ちに襲われた。美保子をめぐる争いでは、昌平が勝者である。勝者に、負けた理由を解説されているような気分がした。
     だが、昌平の言っていることは正しい。自分と美保子には、一緒にやっていけるという確かな手応えはまったくなかった。惇蔵の先走った情熱だけが、ふたりの愛の形を決めていたにすぎない。これまでの一生で、唯一、若さを感じる恋だった。(p.363-4)
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     共感しかない。でもこれ、大人になった今だからこそすんなりと受け入れられるけれど、もっと若い頃だったら、そんなの関係ねぇ〜とムキになっていたと思う。仮に領分なんてものがあったとしても、そんなもん気合いと根性で超えて行ったるわ!と。でも、私の中でそんな時期はいつしか終わってしまったのでした。「愛の領分」というようなものは確かにあって、若さとか感情的な勢いとかを総動員して必死で逆らったところで、最終的にはうまくいかなくなる。無情だけど、結局そういうもんなんよね。

     最後に、印象に残った「あとがきに代えて」の一部を抜粋する。藤田氏の他の作品も是非読んでみたい。

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     静思果敢。
     或る年上の友人が、寒中見舞の葉書にしたためてきた言葉である。おそらく、彼の造語であろう。
     沈思黙考してばかりでは何も始まらない。だが果敢に攻めればいい、というわけでもない。深みのある言葉に、僕は少なからず胸を打たれた。(p.394)
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  • 人の人生はさまざまな縁から成り、その縁が人生の深さを探り始めていく。「似合う着物に似合う帯、似合わない着物に似合わない帯」は必ずや恋仲に存在し、最後には別れか結びの絆に変わっていく。過去の思い出はよく見えるのは今の状況が不幸と見えてしまうから余計に過去に戻りたいと思ってしまうのかもしれない。

  • 盛りを過ぎた恋愛。手慣れた筆運びで楽に静かに読めた。

  •  えーっと……もうちょっと年取らないとわからないなぁ……と、頭を抱えたくなるような話。
     奥さんを先に亡くした20代の息子を持つ男の人が、30代の女の人に恋をする話なんですけど。
     ちょっと待って……そんな……っていう……ぅん。
     まだ僕には、そんな男の人に恋をするような気持ちはわからん……。

     この人って男前なのっ!?

     とか、読みながらいろいろなことを考えてふらふらしてましたが、そんなこともないよなぁ……っていう結論に落ち着く。
     やっぱり理解ができないんだ……。
     僕には。

     どっちかっていうと、ショタだからね……(殴)
     でも、まぁ、話としては面白かったと思います。

  • 「愛の領分」って、「難しいこと言うなぁ~」って思ってたけど、「なるほどなぁ~」って感じです。
    いろんな男と女の関係が楽しめました。

  • 久しぶりに大人な本を読んでみました。
    いくつになっても男は女を、女は男を求めるものなんですね。
    自分が女だから女の気持ちしかわからないけど、
    男も愛に対してこんな感情を持っているのか、
    と考え深いものがありました。
    でも登場人物達は、もう若くはない人達。
    年老いてもそういう気持ちがあるって羨ましいかも。

  • 読後、深い感動で暫く思考停止状態。
    苦い幸せに胸が詰まりました。
    打ちのめされました。
    大人の味わいのラブストーリー。

    激しく遊んだ青春時代。友人の妻との燃えるような恋。無理に落ち着くために、家庭を持ったものの妻に先立たれ、いつしか50を超えたやもめ暮らしの男。

    何人の女と交わったって、行きずりの関係なら心など痛まないし。
    でも本当に望んでいるのは魂の交歓ですよ。
    ここで描かれている狂おしいほどの男女の肉体の交わりにオイラの大事なところははち切れんばかり!汗

    汚れを知った男女だからこその美しく透き通った恋愛が描かれている。
    とても美しい。

    人の心の暗い闇を、丁寧な筆致で描くところなんて、奥様と似ていますね。
    誠にエロい夫婦ですね。
    そして彼女の書いた「恋」も大好きな作品なのであります。

  • 2001年 『愛の領分』(文藝春秋)で第125回直木賞受賞。

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著者プロフィール

1950年福井県生まれ。早稲田大学文学部中退。パリ滞在中エール・フランスに勤務。76年『野望のラビリンス』で小説デビュー。95年『鋼鉄の騎士』で第48回日本推理作家協会賞長編部門、第13回日本冒険小説協会大賞特別賞をダブル受賞。その後恋愛小説へも作品の幅を拡げ、99年『求愛』で第6回島清恋愛文学賞、2001年『愛の領分』で第125回直木賞受賞。17年には『大雪物語』で第51回吉川英治文学賞を受賞した。その他『タフガイ』『わかって下さい』『彼女の恐喝』など著書多数。2020年逝去。

「2021年 『ブルーブラッド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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