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本 ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784163214108
感想・レビュー・書評
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【読もうと思った理由】
以前、サン=テグジュペリの「人間の大地」の感想を書いた際にも、お世話になった森大那(ダイナ)氏。今回も以前と同じ動画「絶対にハズレなし小説10選」で紹介していた小説だ。森大那氏いわく、日本の現役作家で間違いなく、もっとも面白い作家とのこと。そんなことを言われれば、読みたくなるに決まっている。「人間の大地(人間の土地)」のときも、期待を大きる上回る感動を与えてくれたので、今回もかなり期待して読もうと思ったのが理由。
【佐藤亜紀氏って、どんな作家?】
成城大学文芸学部卒業。同大学院文学研究科博士前期課程(修士課程)終了。専攻は18世紀美術批評。大学院終了後の1988-1989年にはロータリー財団奨学金を得て、フランスに留学。1991年、「バタルザールの遍歴」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。以後、「戦争の法」「鏡の影」などの作品を主に新潮社より発表。2002年に5年ぶりの長編「天使」を上梓し、第53回芸術選奨新人賞(平成14年度)受賞。2004年にはその「天使」の姉妹編である「雲雀」、2006年には、初の評論集となる「小説のストラテジー」を刊行した。2007年刊行の「ミノタウロス」は高い評価遠受け、第29回吉川英治文学新人賞、2007年「本の雑誌が選ぶノンジャンルのベストテン」1位を受賞した。2022年、「喜べ、幸いなる魂よ」で第74回読売文学賞受賞。
【あらすじ】
混迷を深める第一次大戦前夜のウィーン。天賦の“感覚”を持つジェルジュは、異能者を集めた諜報組織を指揮する“顧問官”に拾われる。自らの“力”に翻弄されつつも、やがて彼は“選ばれし者たち”の壮絶な闘いの中へと身を投じていく。
【感想】
いま日本で佐藤亜紀氏の作品を読んだことがある読者の方は、どれぐらいいるだろう?僕は恥ずかしながら、今回が著者の作品は初読みだったが、今まで見たことのない文体であり、また作風でもあるので、驚愕とともに感動を覚えた。一つだけ明確に言えることは、佐藤亜紀氏の作品をもっと知りたい、もっとその世界観を深く知りたいと思えたことが、今回の最大の収穫だ。
著者の作品を1作品しか読んでいないので、どんな作風なのか説明するには、情報が少なすぎるのでまだ詳しくは書けない。だが、なんていうんだろう、作品の至るところで、文学的センスをこれでもかと、まざまざと見せつけてくれるそんな作品だ。ただ一点、注意点がある。決して読者にとって優しくない書き方のため、一文一文を集中して読まずにいると、たちまち作品から置いてけぼりにされてしまう。なので、通勤電車の中や仕事のちょっとした空き時間に読むのはあまりオススメ出来ない。実際僕が、今回その読み方をしてしまったので、何度も作品から置いてけぼりを喰らってしまい、何度もページを行ったり来たりしてしまった。
抽象的な表現ばかり最初に書いてしまったが、今作の概要は以下となる。
第一次世界大戦の約十年前から一九二八年にかけてのヨーロッパを、他者の頭の中に入り、動かすことができる〈感覚〉を具えたスパイたちが暗躍する。オーストリア=ハンガリー帝国の終焉とハプスブルク家の斜陽を、史実とフィクションを巧みに織りまぜた筆致で描く知的歴史小説だ。
主人公はジェルジュ・エスケルス。グレゴール(またの名をライタ男爵)という馬泥棒から度胸と才覚でのし上がった悪党の私生児として生まれ、育ての親であるヴァイオリン弾きが路上で野垂れ死にすると、顧問官と呼ばれる男にウィーンに引き取られ、十歳から〈感覚〉の英才教育を施される。顧問官の右腕コンラート・ベルクマンの荒っぽい洗礼を受けて、めきめきと磨かれていく能力。顧問官のボスであるヨーゼフ・フェルディナント大公の姪ギゼラとの出会いと宿命の恋。弱冠十八歳で与えられる初めての任務。ペテルブルクで無政府主義者たちの結社に潜入し、コンラートと顧問官の連絡係として暗躍するも、そこで宿敵となるアレッサンドロ・メザーリに遭遇する…。
今作を読了して、佐藤亜紀氏の特出した能力を感じたのが、他人の考えが読めてしまったり、相手を見つめるだけで相手の意識にアクセスでき、なんなら相手を殺害することもできるなんて、間違いなくファンタジーの世界だ。だが作品を読んでいると、独特な文体からくるものなのか判断はつかないが、こんな世界も現実でも起こりうるかもと思えてしまう。それは必要最小限の表現で描き切る天才的筆致からくる文体が、まるで目の前に現実世界と見間違うほどのリアリティを持って迫ってくるからなのかもしれない。前段でも書いたが佐藤氏の作品を1作品しか読んでいないため、今のところファンタジー作品を現実世界と誤認識してしまう理由を明確化できない。だが今回作者に対する興味が増幅されたことだけは、間違いない。
まだ佐藤亜紀氏の作品を一度も読んだことがない方で、最近の流行りの現代文学では物足りなくなってきた方にこそ、ピッタリハマる作品だと思います。そんな方にはぜひ一度読んでみて欲しいです!おそらく僕と同じで佐藤亜紀氏の作品をもっと追いかけたくなるはずです。
森大那氏のオススメ作品はこれで2作品目だが、今のところ2作品とも僕にとっては当たりの作品だ。残り8作品もどこかのタイミングで読もうと、今回改めて思った。
【雑感】
次は予定通り三島由紀夫氏の「金閣寺」を読みます。平野啓一郎氏もこの作品から三島ワールドにどっぷりハマったという三島作品の中でも代表作だ。文体があまりにも美しいとの評判なので、僕が文体でもっとも好きな古井由吉氏の文体と比較して読んでみようと思う。期待して読みます!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第一次世界大戦の前後、孤児ジェルジュが顧問官に拾われて、特殊な能力(感覚を操る)を武器にスパイとして育てられる。そのたんたんとした描写と闘いの官能的なミスマッチが面白い。こんな人々が暗躍していたとは!なんて恐ろしいこと。でもウィーンが舞台ならありそうな感じ。
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第一次世界大戦前後のウィーンを中心にした超能力物。
1000人に1人くらい『感覚』を持った人間がいて、人の心の中を感じ取ることができるという設定。中でも主人公は強い感覚の持ち主で、その感覚を見込まれウィーンの諜報部を指揮する顧問官に引き取られ厳しく贅沢に養育され、長じて諜報活動に従事するようになる。実際の史実を背景に架空のキャラクター達を旧い外国映画を見るようなリアルな描写で描いていく。特に超能力描写は美しく秀逸。SFとか歴史物にカテゴライズするのが難しい作品だが、間違いなく名作。ただ、まぁ、読み手を選ぶけどね。 -
うお本当に超能力者モノだったわ。
WW1前夜のオーストリア=ハンガリー二重帝国あたりを舞台にしたスパイもの、と説明して決して間違いではないはずですがさて? 滅び行くものへの哀惜とか崇高さとかいやむしろ退廃美がどうのとか他もろもろの要素もありますが、何より欧州のお貴族様好きに推薦すればいいと思う。 -
けっこう難解だった。登場人物がなんの説明もなしに入れ替わり立ちかわり出てくるので、集中して読まないとすぐわかんなくなる。あんまり時間がなかったから、もう一回くらいじっくり読み直したい。あと、世界史的な知識があるともっと良いかも。ひとつひとつのエピソードはすごく繊細で美しかった。ジェルジュは素敵だー(笑)
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2002-11-00
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4/4 読了。
カッコいい文章。カッコいい編集。カッコいい構成。カッコいい登場人物。これだけ揃えば小説は最高だー! -
ここで終わるか…。この作者の作品がコンスタントに文庫に出るようになって一安心。これまで問答無用で新書買いしてたしね。
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2010/2/28購入
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これに書かれていたのは本当に日本語だったのか……?
と思うほどに理解ができなかった。
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