グロテスク

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 2151
レビュー : 351
  • Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163219509

感想・レビュー・書評

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  • 女性性と、主体と客体。自分が認識する「こう思われているであろう」という自分の像と、他人が見た時に感じる自分の像が致命的にズレている人間。そのズレから生まれる歪みが、その本人を際限なくグロテスクな存在に変化させていってしまう負の螺旋の様子が、学校内ヒエラルキーや、超絶美人の妹を持った姉、娼婦などの生活を通して描かれていく。全編を通してパンチがあり、単純に読んでいて面白かった。特に後半の和恵の章は、どこまでも落ちていく感覚に読んでいて頭がくらくらする。

    桐野夏生の本を読むのはこれが初めてで、読む前はなんとなく「リアルで精緻だけど真面目すぎて読むのが疲れそう」という印象だったが、実際読んでみると荒縄で腕を縛られてぐいぐい引きずられるようなパワフルな推進力があった。ドSの匂いがする。文章も構成もエネルギッシュでこちらも負けじと食らいついてがしがし読んだ。この人の他の本も読んでみたくなった。

  • 中学、高校から始まる階級社会。いじめ。徹底的な差別化。女は若くて、痩せているほうがいい、という、なんとなくみんな思っている通念。できるオンナは嫌われ、高学歴のオンナほど、身の処し方が難しいという現実。

    そんな中、純粋すぎて、落としどころを知らず、盲目的に突っ走って堕ちていく和恵。
    若い頃は絶世の美女と言われちやほやされたのに、中年太りで見る影もなくなったユリコ。
    常に一番でないと、と強迫観念にかられ、カルト宗教に身を投じて犯罪をおかすミツル。
    悪いのは全て人、と信じて疑わず、悪意でしか物事を見ることができない「わたし」。

    出てくる人みんなが自分のことしか考えておらず、他人を憎み、その憎しみから生み出されるねたみや嫉妬、悪意がこれでもかと描かれていて、読んでいてうすら寒くなってしまった。でもページを繰る手が止まらない。

    こわいこわいこわい。

  • 怪物的な美貌を持った妹ユリコを持った姉である私。そしてその高校時代の同級生・佐藤、そしてユリコ。ユリコは中年売春婦として殺され、佐藤もエリートOLの傍ら渋谷で売春婦となり、また殺される。この2人の人生が強烈でグロテスクそのものであるものの現実に東電OL殺人事件をモデルにしており、その通りだと思うとリアリティーがあります。恐ろしい世界が日本の近くにあるんですね。また私と佐藤の高校時代の才色兼備の同級生が狂信宗教教団のテロ容疑者として夫妻で被告人になっているというのもオウムのモデルとなっているだけに興味深いです。しかしながら、実は嫉妬と嫌悪と周囲への冷たい目線を持ちつづけている「私」が一番怖い人ではないか、ということがずっと伏線として流れています。それが私たちの罪の本質ではないか、と恐ろしい本です。一気に読んだものの、かなり陰鬱な気持ちになる本です。

  • 激しい階級社会の縮図であるQ学園にまつわる人々が、彼らの心の闇をその後の人生で膨らませていく過程を綴ったストーリー。超絶美人の妹を持つ超凡庸な姉、一流企業に勤めながら夜は娼婦として生きる事で心の闇を益々深める和恵、中国の田舎から日本に流れ着く過程で妹を殺してしまうチャン、カルト教団に入り無差別テロの実行犯になる常に成績トップのミツルなど、敢えて複数人の人生を追いかける構成になったのは、そうする事で読書に誰の中にも存在する大小の心の闇の存在を意識させるためか?
    ただ物語の後半の「肉体地蔵」で、和恵が怪物化しながら壊れていく下りの描写が強烈過ぎて、他のキャラクターがまともに見えてきてしまった。

  • 人間という一塊の生物がその束の間の時間と空間にとどまる間、自分勝手に各々が想像力を駆使して織りなす幻想の中でもがき苦しむ姿を俯瞰で見せられた気がする。誰もが主観の中で訳知り顔に物語を紡ぎながら必死に生存争いを繰り広げているだけ。世界の深淵に触れたと思った、そしてその傍から見失ってしまう。この作品にはそんな絶妙な世界のつかみどころのなさと生き物でしかない人間の哀れを感じさせどうしようもなくさせる。あらゆる幻想から解放された先には自由と勝利による征服感が待っているのかも、あるいはもっとグロテスクな世界が広がっているだけなのか。娼婦としての人格描写の精緻な分析のされ方は見事、最も弱者の極みから世の中を眺めることから世界の矛盾やシステムの綻びを見つけるというのが常套であり分かり易い結び付け方だと思ってきた。真面目であるということが、弱く惨めでありもしない幻想に漂うことで生きる素っ裸のみっともない人間が獰猛な欲望という大河で泳ぎ息切れしていく姿を最もわかりやすい象徴として「東電OL殺人事件」を背景に人物描写されていく和恵の主観世界から汲み取るものはどこかの水脈でつながっている人間の本質的な惨めさであり、どんなにもがいても所詮半神動物として前頭葉を持つ理性的合理的人間との間に流れる大いなる矛盾をわかりやすく表現されている気がする。
    奇形的な美しさで生まれたユリコは完全に自己を疎外し、モノ化することでぎりぎりの自我を保っている。どこまでも厭世的で、怪物的な自らの美の前で一切の努力は水泡に帰すことを誰よりも自分で認識しているようで、それをうらやむ姉も幼いころから比較されることで実際にはただの僻みであるが悪意を育てたと称し、他人が作った競争の場には敢えて参加しないという立場を敢えて選んでいる自分という立ち位置を維持し別の時空で他人の競技する姿を嘲笑するという悪趣味な遊びで世の中の人間のありようを傍観者として一切の感情を捨てたように語っている。少しでもゆすぶられると本当は壊れそうな自分の世界を立場を、優位性を感じさせる悪意を進化させ嫉妬の膿を放出させて生きる様は、実際には何度も作中で他人に見透かされてばかりいるという哀れな生い立ちだ。誰もが競争の中で擦り切れて傷つき傷つけあってボロボロになって喘ぎながら世界を手に入れる手段を模索する。男は微量の白い液体という結果を求めて四苦八苦し、この世界を作り、男の作ったその世界という幻想の中での競争は所詮女の生きる世界ではないという現実を思い知らされるまでをある二人の娼婦、美人コンテストでの負け組女の遠吠えから語る見事なストーリー構成。

  • 東電OL殺人事件がマスコミに語られる際に、「なぜ一流企業のエリートOLがそこまで堕ちたのか」というくくりで語られることがほとんどだが、売春=堕ちるという単純な決め付けが腑に落ちず、本書を手にとってみた。が、作者が描いて見せたのは、予想を上回る深さ、精密さで語られる、「おんな」だった。

    容貌、出自、頭脳において、自分より劣るものを見て安堵する、男に優しく抱かれたりキスされたいと願う、自己否定により壊れゆく・・・これらのことは多かれ少なかれ実は誰もが経験することではないだろうか、ユリコのような超越した存在で無い限り。少なくともユリコのようではない私は、そのどれもを自分の体験として認めることができ、読んでいて心臓がえぐられるようだった。ユリコの姉や和恵などは、まさに自分より劣る女たちとして優越感に浸れる存在でもあった。

    おんなの性が商品になることは、おんなの特権である。と同時に商品であるが故の屈辱ともなりうる。ただその屈辱の面だけを取り上げて「堕ちる」と決め付ける世の中の風潮にもの申している側面もあって爽快だ、と感じたのは、ラストでおんなが男を買うシーンがでてくることだ。

    ちなみに自分はこの小説のモデルになっている高校を出ているが、多少大げさな表現もあるとはいえ、作者の鋭い描写にはただただ驚くばかりだった。

  • 読み切るのに1ヶ月かかりました。
    読むのにとても苦しかった。
    少し前に読んだ「女ともだち」のレビューで、
    この本も読んでらっしゃる方が多かったので、借りてみた。

    ハーフだけど似てない姉妹、妹は絶世の美女、でも姉は平凡。
    そして姉の同級生、和恵とミチル。
    そしてそこに絡んでくる木島。

    それぞれがとても奇妙な性格。
    でも人ってそういうものなのかな。
    心の中にグロテスクなものを抱えて生きてるのかも。

    だけど、ここの登場人物はやっぱり異常。

    やっと後半にユリコの息子が登場して、唯一潤う事が出来たのに、
    そんな彼も母や和恵と同じ道を歩むなんて。

    とにかくタイトル通りでした。

  • 桐野さんの最高傑作だと思っています。一番好きな作品。発売されてすぐ買ってすぐ読んで、ガツーーーンとやられてぐいぐい読まされて、救いのなさにどーーんと落とされて。東電OL殺人事件がベースになっているのは明らかなのですが、それに至るまでの幼少期、学生時代の「グロテスクさ」がもう戦慄!で。美しい妹とそうでもない姉(本当は人目をひく美しさはあるはずなのに植えつけられた劣等感)の確執、女子高内の絶対的なヒエラルキー、そのあたりから主人公の崩壊は始まっていて、OLになってからの急降下ぶりは目を背けたくなるほど。女子の世界の黒さを描かせたら林真理子もすごいと思うのですが、あの明るさとか軽さとか都会的な感じとはまた違う、壮絶なまでの救いのない黒さです。女子中高出身者には読んでみて欲しいなあ。あ、これ女子中高校生時代に読んでなくてよかったです。ここまで見下されてたって気づいたら相当ショックだったはずなので。2004年1月

  • まいった!

    ここまでの憎しみ、険しい、しみったれた、いやらしい、どうしようもない、きたない、いまいましい感情らに移入できるとは、自分は太っ腹で「いい奴」だと思い込んでいい気になっている私、実はとてつもなく「卑しい」のかもしれぬ。

    同著者の「OUT」同様、そんじょそこらの不幸ではないぞ、これ。希望も夢も出口すらもない、終わる事もない「不幸」がべっとり。

    「名門」「付属」「私立」のいずれかに引っかかる人は「思い当たる事」多のはず。おそろしや。

  • 東電ol殺人事件をモデルにしたお話。
    女の嫌な部分を強調して書かれているので読んで心が汚れていきそうになる、イヤミス小説。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。成蹊大学卒業。1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で紫式部文学賞、2010年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、2011年同作で読売文学賞を受賞。2015年、紫綬褒章を受章した。近著に』『奴隷小説』『抱く女』『バラカ』など。

「2016年 『猿の見る夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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