風味絶佳

著者 :
  • 文藝春秋
3.39
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本棚登録 : 2004
感想 : 393
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163239309

感想・レビュー・書評

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  • 山田詠美さんの作品が読みたくなって谷崎潤一郎賞受賞したというこの作品を取り寄せた。
    表紙はキャラメルを並べたイラスト福井紀子氏
    鳶職、ごみ収集、ガソリンスタンド、引っ越し、汚水槽清掃、火葬場という業種に働く方々の生き生きとした様子が心情と四季を含めた街の風景と馴染むように物語が進む。登場する男性は狼狽困惑する場面が多く、女性の芯の強さとの対比が印象深い。
    人間の嫌な部分やずるい部分、少し救われる部分などドキッとさせられる。それぞれの物語の色合いが題名とともに違いを楽しめる。台詞がまた要所要所でスパイスになっている。
    鳶職の同僚寺内さんの仕事ぶりを見てみたいし、美々さんの料理でお出迎えされたい、不二子さんのお店に行って説教されたい、日向子さん実家の庭を覗きたい。アトリエだけはですます調で哀しさが増すような気がした。

  • 己の欲望に正直な
    淫らで甘やかな感性と
    独特な言葉のリズム、
    そして美しくほろ苦い
    読後の切なさ。


    若い頃に山田さんにハマった時より
    ストンと腑に落ちるこの感覚。


    やはり彼女の小説は
    様々な経験を経て初めて
    味わいが増すし、
    理解できる質のものなんだなぁ〜と
    改めて思い知りました(^_^;)




    鳶職の男の三角関係と
    ミステリアスな友人との不思議な日々を描いた
    「間食」、


    料理で男の胃袋を掴むことにすべてを懸ける元主婦と
    ゴミ収集の作業員の恋を描いた
    「夕餉」、


    キャラメルが恋人だというお婆ちゃんと
    GSで働く孫とその恋人たち
    「風味絶佳」、


    離婚した母娘と
    引越し屋さんの触れ合い
    「海の庭」、


    汚水槽の作業員と
    スナックのホステスの
    濃密で変態チックな関係がコワい
    「アトリエ」、


    好きな女を
    火葬場で働く親父に取られた
    息子の葛藤を描いた
    「春眠」、


    などどれも
    ガテン系の仕事をする男たちの恋愛話だけに
    同じ職種の自分としては
    共感しやすかったです。



    そして、
    ミラノ風カツレツ、
    黄色い箱の
    森永ミルクキャラメル、
    出汁の染みた高野豆腐、
    バスキン・ロビンスのアイスクリーム、
    甘くてとろとろしたシュークリームなどなど、
    食べ物の描写が
    ゴクリと喉を鳴らすほどに
    美味しそうなのも
    特筆すべき点かな。



    個人的には
    大人の淫靡さで
    もう一度初恋をやり直そうとする男女を
    娘の視点から描いた、
    『海の庭』に
    酔わせてもらいました。


    サガンの「悲しみよこんにちは」を彷彿とさせる、
    思春期の少女の心の揺れが
    絶妙な塩梅(笑)



    それにしても
    「たったひとりにだけ、
    嫌といいは
    同じ意味になるんだよ」は
    心の名言集に
    しかと刻まれましたよ(笑)(^_^)v



    滋養豊富、風味絶佳な
    6つの短編集。


    甘くとろけて
    香り立つ、
    極上の後引く味わいです。

    • さちろーさん
      初めまして、円軌道の外さん!

      私は、外さんのレビューの大ファンです。
      なぜ、そんなに言葉の使い方が上手なのでしょう。

      心惹かれ...
      初めまして、円軌道の外さん!

      私は、外さんのレビューの大ファンです。
      なぜ、そんなに言葉の使い方が上手なのでしょう。

      心惹かれて早速、この小説を購入しました。
      私もガテン系の男性に弱いので、読み進めるのが楽しみです。少しずつ極上の甘さを味わいたいと思っています。
      2013/02/24
    • 円軌道の外さん

      さちろーさん、
      コメントありがとうございます!

      いやいやいやいや、
      ファンやなんて
      そんな恐縮です(^_^;)

      自...

      さちろーさん、
      コメントありがとうございます!

      いやいやいやいや、
      ファンやなんて
      そんな恐縮です(^_^;)

      自分のレビューは
      基本読んだものすべてではなく
      好きなものしか書いてないんで(笑)、
      (好きなものしか書けないんで)

      好きだからこそ
      感じたことを素直に書けるっていうのは、
      もしかしたらあるかもしれへんですね。

      あと自分はメモ書きではなく
      始めから誰かに伝えるためにレビュー書いてるんで、
      あったかい言葉
      ホンマ嬉しいです☆



      おおーっ!
      この小説手に入れられたんですね♪


      山田さんの小説は
      合わない人には合わないんやけど(汗)
      コレは映画化もされたし
      まだ読みやすい方だと思うし、
      またレビュー楽しみにしてますね(^_^)v


      2013/04/08
  • 「哲学の基本でしょ?」「プリモピアットはラザニア」「なんというイディオットな」「死っていうのがいつも隣にあったんじゃないかな」・・・山田詠美節炸裂の短編集だった。二十歳の頃はこういうの大好きだったんだけどね、今はもうキツいという事が解った。あと、すごい年下と交際したり結婚したりする人間は男女問わず、かなり地雷だから注意して!って感じだった。

  • 鳶職、ゴミ収集職員、ガスステイション店員、引越業者、汚水槽清掃業者、火葬場職員。
    6つの短編に登場する、6つの職業。
    身体を動かす男と恋愛、もしくは結婚、あるいは不倫している女たちの話。

    ---------------------------------------

    年齢が離れていたり、相手を想う熱量が全然違っていたりして、傍から見ると釣り合っていないような二人でも、本人たちからすればいい具合にバランスが取れていたりする。その逆もまた然り。
    色んな関係性がある。外から見ただけじゃ、中の様子はわからない。

    『海の庭』の二人の距離感がとても新鮮。
    中年になってから初恋の人と再会して、初恋をやりなおす話。人を情けないと思うことと、いとおしいと思うことは似ている。かっこつけずに、情けない部分も受け入れてもらえたらどんなに素敵なことだろう。

    『間食』に登場する寺内くんも強烈なので書き記しておく。
    死んでしまった同僚は世界中の人を殺したのと同じ、と話す寺内くん。死ぬことは殺すことと一緒なのだ。うーん、哲学。


    装丁がキャラメルを模していてイケイケの本だ。

  • 肉体労働の男との恋愛話6編。
    昔は3Kといって嫌われた肉体労働が、草食男子が増えた昨今、逆に人気のようですね。
    佐川男子なんて言葉もあるし。
    でもやっぱり男には多少なりともワイルドさが必要でしょ。
    だから「風味絶佳」の志郎は振られちゃったんだよね。
    ジェントルなだけではつまらないから。

  • 風味絶佳、海の庭、春眠が好きです。共通してちょっと切ない。
    風味絶佳は、女性側から見ていると感じる。シュガーとスパイスの配分はセンスと経験かな。グランマの孫にしては志郎センスないな。
    海の庭は、日向子の本当の初恋物語。夏と海と青色の物語。
    春眠の弥生は、生涯において奇跡的に出逢うべき人と出逢えた。それが居場所だってことは自分だからこそわかるんだろうな。

    • 9nanokaさん
      共通してちょっとせつないのわかります。終わりがちょっと曖昧で、どうしたらいいかわからない感じですよね笑。
      センスと経験…難しいですね。史郎...
      共通してちょっとせつないのわかります。終わりがちょっと曖昧で、どうしたらいいかわからない感じですよね笑。
      センスと経験…難しいですね。史郎にセンスがないのは同感です笑。

      優しいコメントをたくさん、ありがとうございます。とても、恐縮です…
      でも感想が言い合えるのは面白いですね!
      2014/09/14
  • 海の庭、アトリエ、が好みだった。
    作並くんのようなおじさんは素敵だと思う。歳とともに積み上げてきたものは確かにあるだろうに、それを感じさせない気負いのなさは少女が恋するに十分だという気がする。情けなさが愛おしいの表現も非常に共感できる。
    アトリエはちょっと怖かった。どっちもおかしい。彼女の気鬱は不幸への憧れのようなもので、幸福を与えることで抜け出せるようなものじゃない。痛めつけて不幸と思い込ませた方が彼女は幸せだったと思う。

    • komoroさん
      貸して~。(笑)
      9nanoka さんの、情けなさが愛しいことに共感できる。が興味深い。
      情けない人が、いいの?(^-^)、
      貸して~。(笑)
      9nanoka さんの、情けなさが愛しいことに共感できる。が興味深い。
      情けない人が、いいの?(^-^)、
      2014/08/24
    • komoroさん
      9nanoka さんは、僕の本の先生です。
      今回も風味絶佳、貸していただきありがとうございました。
      読んでみて、nanoka 先生のレビ...
      9nanoka さんは、僕の本の先生です。
      今回も風味絶佳、貸していただきありがとうございました。
      読んでみて、nanoka 先生のレビューのよさが染みてきました。
      とても素敵なレビューです。
      特にアトリエのレビューは、「痛めつけて不幸と思いこませたほうが彼女は幸せ」という発想は、鋭く、僕なんかただ読んでるだけでそんな発想にはなりませんでした。
      海の庭の情けなさが愛しいもnanoka の優しさが伝わってきます。
      これからも素敵なレビューをお願いします。
      同じ本を読んで感じたことを伝えられるっていいね。(^-^)
      2014/09/10
  • 「思いを馳せる過去は、既に何かを失っているからだ」心に響きます。何かの本で「青春とは何かを失っていく事だ」と読んだ事がありますが、こっちの言葉もいいな。”間食”の主人公はどうしようもないクズ男だな。誰もが愛されたいと願っていて、ちょっと切ない。あと、グランマはいい女。

  • 『間食』、『夕餉』はどきどきする作品だった。恋をしてようやく分かる自分の姿は恥ずかしいけれど誇らしい。

    『風味絶佳』は恋愛小説というより女性小説として読んだ。主人公は男の子だけど、グランマや乃里子の生き様のほうがより鮮烈に映った。

    『海の庭』は流れる時間がとてもゆるやか。進行もゆるやか。ラストは表面上の変化はゆるやかだが、主人公は確実に変わったと思った。

    『アトリエ』、『春眠』は少し退屈な話だった。わたしの集中力が途切れてしまったのかもしれない。『アトリエ』はよく分からなかった。また読み返して考えてみたい。


    ひとつひとつの短編のタイトルと内容のリンクに戦慄した。タイトルは皆内容を最小に凝縮したワードであると思う。特に『海の庭』などはどんな話だったかと聞かれれば海の庭の話だったと答えるのが一番しっくりくる。

  • 「間食」での言葉。
    「頬をこすり付けて、自分の匂いを移すためにあるもの。噛んだり、羽交い締めにしたり、つねったり。可愛がりたい気持ちが行きすぎて、ついそんな行動に出てしまいたくなる対象。」

    あまりにも表現が愛しすぎて
    号泣してしまいたい衝動に駆られてしまった。危ない。

    これには一ページ目からやられた。

    愛されたくて、愛された分だけ誰かを愛したくて。
    人がたくさんいるように、愛し方も同じようにたくさんある。
    無条件な愛情。

    生活の中で欠かせない職だが、表にはなかなか出ない仕事柄がよく出てきた。

    高3の時に風味絶佳シュガー&スパイス映画を観たけど、
    映画の印象とグランマ役の夏木マリの印象が強すぎ。

    金原ひとみが著者の影響を受けているなぁwってわかった。
    うん。とにかく、なんかすごい)^o^(

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著者プロフィール

1959年東京生まれ。85年『ベッドタイムアイズ』で文藝賞受賞。87年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞、89年『風葬の教室』で平林たい子文学賞、91年『トラッシュ』で女流文学賞、96年『アニマル・ロジック』で泉鏡花文学賞、2000年『A2Z』で読売文学賞、05年『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞、12年『ジェントルマン』で野間文芸賞、16年「生鮮てるてる坊主」で川端康成文学賞を受賞。他の著書『ぼくは勉強ができない』『姫君』『学問』『つみびと』『ファースト クラッシュ』『血も涙もある』他多数。



「2022年 『私のことだま漂流記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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