- Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163239705
作品紹介・あらすじ
大阪のしがない短大で日本近代文学を講じる桑潟幸一助教授(通称・桑幸)のもとに、とある童話作家の遺稿がもちこまれた。桑幸がこれを発表するや意想外の反響を得るのだが、喜びも束の間、遺稿は盗まれ、編集者は首なし死体で発見されて…絢爛たる謎、探究の恍惚、日本近代文学の輝ける未来。
感想・レビュー・書評
-
一応クワコーもの…なのだけど、よくみると微妙に違うのは、現在のクワコーシリーズは「准教授」だけど、こちらは「助教授」。単純に時系列でいうと、クワコーが神戸のレータンにいた頃の話なので前日譚ともいえるし、共通のエピソードもあり、クワコーのキャラはそのままだけど、厳密には一種のパラレルともいうべき別次元のお話。きっとこの作品で作者自身か担当者か誰かがクワコーのキャラを気に入りシリーズ化されたのだろうけど、こちらはこちらで完結していて、のちのクワコーの人生とは連続していない。
シリーズという意味ではむしろクワコーものではなく、『鳥類学者のファンタジア』に始まり『ビビビ・ビ・バップ』続き、『「吾輩は猫である」殺人事件』や『雪の階』にも登場したギュンター・シュルツの「神霊音楽協会」にまつわる作品と見たほうが良いかもしれない。なにより鳥類学者~シリーズのヒロイン・フォギーも本作には脇役で登場することだし。クワコーものだと思って気楽に読み始めたらシリアスだし、トマス・ハッファーだのロンギヌス物質だのが出てきて、そっちに繋がるのか!と驚いた。
さて物語としては、クワコーが『日本近代文学者総覧』で偶然担当した溝口俊平という無名の作家の未発表原稿が発見されたことからクワコーが事件に巻き込まれていく。原稿を持ち込んだ編集者・猿渡が遺体で発見され、溝口俊平が執筆をしていた久貝島という場所の別荘にまつわる謎がどんどん深まっていく。
一方で、ジャズシンガー兼業ライターの北川アキは、偶然クワコーにインタビューしたことからこの事件に興味を持ち、別れた元夫の諸橋倫敦と共に「元夫婦探偵」として趣味の探偵を始める。この北川アキの友人として登場するのがジャズピアニストのフォギー。単に巻き込まれたクワコーと、この元夫婦探偵のトンチキ推理パートが交互に描かれ、やがて交わっていく。
どこへ連れていかれるのかわからないミステリーとしては大変読み応えがあったけれど、気楽にクワコーで笑おうと思っていたら、事件の全貌は意外と凄惨で、クワコーなのに笑えなかったのは寂しい。しかしパズルのように複雑怪奇な伏線がすべて回収されて収束していくあたりはさすがの奥泉光でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
推理小説というよりはSFっぽい感じというか怪奇というか、いややっぱSFかなぁという色々とぶち込まれた感もあり。このごった煮感が好きかどうかは分からんけど、語り口がけっこう好きなんよね。いちいち無駄口というか無駄にトリビア的なものを交えるというか、いやトリビアでもなく単なるコメントではあるんだけど、そういうのって文学の素養とかSFの素養とか、ちっと難しいネタだったりするけど、今作では特に小難しくもなくてどうでも良いネタを挟んでくるから好きなんかもねぇ。まぁジャズミュージシャンの名前とかは知らんけどね。
そういうどうでも良いネタをつっこむその極地が駄洒落マスターへの道なんかもしれんよね。クワコーの小市民っぷりが楽しげだったのに、最後には解脱しててわたしゃ残念だよ。 -
その後の「クワコーシリーズ(たらちね国際大に籍を移している)」とは全然違う作品(だから大学を移ったんだね)。クワコーシリーズが抱腹絶倒の仕上がりなのに対して、こちらは意欲的な本格ミステリーだ。
文体や小説の構造に趣向を凝らした一作で、その仕掛けが楽しい。けどこのスタイルで続編が書かれなかったってことは、読者受けは悪かったのかなぁ。濃密だし紙数も相当なものだしね。 -
R2/1/5
-
※図書館
-
「スタイリッシュな生活」からの読書になったので、同じような展開かと思いきや
全然違うではないか!
そのやる気のなさは相も変わらずではあったが、事件解決するのは女子大生ではない。当然、「スタイリッシュな生活」とは大学が違うわけで、活躍する女子大生が出てくるわけではない。
そしてこれもまた、桑潟幸一ことクワコーが物語を解決するわけではない、
本の表題にここまで登場人物の名前を出しながら、事件を解決する本人でないのは初めての展開である。
「スタイリッシュな生活」とは違って、本格ミステリーというスタイルではあるのだが、ほの中核にある、アトランティスのコインに関する内容がちょっと手薄だったかと思われる。 -
小説の手法を駆使したミステリー小説。此処まで語る事が出来るのかと畏怖すら感じる。作家の読書経験を召喚して、多様な語り部を交錯展開する物語作りだが、煩雑に成らずスイスイ読み進めてしまう面白さが奥泉の世界。
副題の助教授が堪らなく小市民の小心者なのだが、本人が意識する以上に物語に関与するにも係わらず、謎解きには無関係なのがアイロニーか?
途中から参画した元夫婦が探偵を引き受けて真相に迫る。過去の謎とも交錯しながら虚構の世界も醸し出す。何でもありにみえながら文章に現実性は保持されている。作家が意図して描く物語を共有出来る作品で有る事には首肯出来る。要は面白い! -
厚さに戸惑いつつ挑戦。・・・でも、挫折。ゴメンナサイ。