深淵のガランス

  • 文藝春秋 (2006年3月27日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784163247205

感想・レビュー・書評

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  • 花師であり絵画修復師でもある佐月恭壱を主人公とした中編2編。
    北森鴻は、面白いには違いないが、興に乗るまでに時間を要する作家。
    今回も読み終えてみれば、真相、ストーリー展開、何より絵画修復の世界が面白かった。

    「深淵のガランス」大正末期に活躍した画家の孫娘からパリの街並みを描いた絵の修復を依頼される。画家のモデルは藤田敏嗣か。
    隠された真相はかなりの驚きだった。

    「血色夢」洞窟壁画の修復と四分割された一枚の絵の話。
    大正期を代表する日本画家で、レゾネ(目録)無しのため贋作が出回りやすく、海外では人気のない・・・実際のモデルがいるのか、ストーリーよりこちらが気になった。
    (図書館)

  • 花師として名を馳せる佐月恭壱のもう一つの顔は絵画修復師。大正末から昭和初期に活躍した画壇の大家長谷川宗司の孫娘・真弓の依頼を受けた佐月は、宗司の妻が終生愛した曰くつきの傑作を修復することになり、描かれたパリの町並みの下に別の絵が隠されていることに気づく。それを知る真弓の元夫が奇妙な話を持ちかけてきた……。表題作ほか、欧州帰りの若き佐月を描いた文庫書下ろし「凍月」等全3篇。裏の裏をかく北森ワールドに酔う1冊。
    (2006年)
    — 目次 —
    深淵のガランス
    血色夢
    凍月

  •  銀座の花師にして絵画修復師の顔を持つ男が手掛ける、曰くつきの絵画の謎と、業界に蠢く思惑が絡み合う、ハードボイルド風の美術ミステリ。
     緻密な修復作業の難解さ、面白さの奥に、芸術が持つ光と影に翻弄される、人間たちの業が浮かび上がる。
     主人公の、一見クールながら、泥臭い情熱と高度な技、そして、美への献身。
     曲者揃いの登場人物たちの危険な個性。
     他のシリーズ物に出演するキャラクターのスピンオフ的要素も加わり、濃厚な世界観が繰り広げられる。

  • 花師と絵画修復師という2つの顔を持つ男の話。
    どちらの仕事も超一流の腕前を誇り、潔癖とも言える信念を持っている所は、別作品に出てくる旗師の女性に似ている気がする。
    主に絵画修復師の仕事にスポットを当てた作品で、話としては2作品が収録されています。
    曰くありげな登場人物がたくさん登場し、どちらもなかなか面白い。
    登場人物が出来過ぎている感が少し感じられましたが、旗師の話が面白いと思った方には、同様に楽しめる作品だと思います。

  • 佐月恭壱シリーズ。花師と絵画修復師という2つの顔を持つ男。

     東銀座の裏通り。「花師 佐月」のオフィスはここに存在する。しかし、絵画修復師としてのオフィスは存在しない。強いて言えば、そこにある黒電話の一角がそれだが、一般的に知らせてはいないため客からの直接の電話がくることはない。仕事はいつも、ある女性を通してしか引き受けていないのだ。
    常のように「例の人」から入った依頼は、長谷川宗司画伯の3点の絵の補修とウォッシング。絵自体は正真正銘画伯の手によって描かれたものであったのだが、そのうちの1点だけは修復前の科学調査であることが判明した。その絵の下には、文字どうりもう1枚の絵が存在していたのだ。しかし下の絵を取り出すためには今までの絵を消去する必要がある。画伯の娘であり依頼人・北条真弓の希望によりそのまま修復することになったのだが、佐月の目の前に、隠された絵に対して強い思惑がある男が現れる。―――『深淵のガランス』

    佐月にしては珍しく「例の人」以外を通して引き受けた依頼は、東北地方のある男が偶然見つけ、隠し続けていた洞窟壁画の修復だった。壁画の損失を食い止めるには春の来訪までがタイムリミットだ。壁画の「朱」に魅せられ完璧に修復するために極寒の中で調査をする佐月だったが、直前に片付けた依頼品が分割絵画であったことから、その後のゴタゴタにも知らぬうちに巻き込まれていく。分割絵画の行方、壁画修復の依頼人・多田の不審な言動、「例の人」の意味不明の手紙、佐月に対しての襲撃・・・。そうして、壁画修復の最終段階が迫っていく。―――『血色夢』
    2本の「あかい」中編からなる絵画ミステリ。

    まず最初に。「ガランス」とはある色を指します。村山槐多という画家が愛し執着した色であるそうで、本編にも紹介されています。どんな色であるかは…そのまま想像しつつ読み進めるのも一興かと思います。(実際、私もしりませんでした…) どうしても知りたいのなら検索してみてくださいナ。
    この作者の知識量っていったいどうなってるんだろう…? 北森作品を読むときにいつも考えることなんですが、今回も本当にそう。絵画修復の技術をこと細かく描写されていて圧倒されてしまいます。考古学者シリーズもすごい知識だし…いったいどういう人なんだ北森鴻。「油絵を描いてた」とかいったレベルじゃないんですもん…修復に際して行われる科学技術なんて、ハンパじゃないです。ギャラリーフェイク(漫画・青年誌)も好きで少しは読んでますけれど、あれとは全く違うなぁ…。
    単なる絵画修復の話で終わらないのは、まぁミステリだからなんですが(笑)。佐月のこだわり、そして「例のあの人」のトラブル体質の成せるワザではないでしょうかね。女狐さん…私はあちらのシリーズは未読なのですが、興味が湧いてきましたよ。佐月を手玉にとってるカンジがすごく好みだ…v
    脇キャラの存在もまた楽しいです。前畑のおっちゃんの侮れなさがいい。普段は憎めないおっちゃんなのに、いろいろヤリ手のようですね…佐月の父と行動してた時の話が知りたいところです。 それと明花ちゃん。申し訳ないが「血色夢」での未使用の器のくだりでは笑わせてもらいました。かわいいなぁv

  • 飾る場所と花器を見、そして花を見立てる花師と神のような手をもつ絵画修復師、2つの顔を持つ男・佐月恭壱。
    彼が依頼を受けた仕事にまつわる中篇「深淵のガランス」と「血中夢」2編収録。

    これまたクールな主人公ですね~。
    そして出てくる人物、皆一癖も二癖もあって。というか、謎の人物だらけ。
    大体、恭壱からして過去が謎だし、
    彼に修復の仕事を回してくる女性も一切謎だし(ひょっとして彼女かな?)、
    恭壱の片腕の前畑善次朗の万能ぶりも怪しいし、
    行きつけのバーの朱明花とその父で貿易商の朱大人も裏の顔があって・・・。
    いくら絵画の世界にも裏と表の顔があるとはいえ、ここまで誰も彼も怪しいってどうよ。

    ここまで周りが裏で顔が利くと、ピンチになってもあまりスリルを感じられないなぁ。
    そのうち語られてくるのでしょうが、そこまで付き合ってくれる親切な読者ばかりじゃないと思いマスよ。

    それはさておき、内容はこれまた画法、修復についての薀蓄たっぷりで、興味深かったです。
    どちらも最後に明らかになる動機で驚かせてくれました。
    でもやっぱり漫画『ギャラリーフェイク』を思い出しちゃうのですけど。

  • 絵画修復師ってのはあまり聞かないけれど、これ読むとなるほどものすごい職業があるんだなあ、と思う。これぞプロ!という感じでカッコよいぞ。ちなみにこういう世界ってのはやはり通ずるものがあるようで……「電話の主」ってのはあの人なんだよねたぶん?
    表題作のほうが好きかな。隠された絵画と、それが隠された理由ってのも面白いし。その絵画を巡るいざこざサスペンスが謎をとことん盛り上げてくれる。そして「絵画修復」……これはほんっと凄いとしか言いようがないなあ。

  • ガランス「1 植物の茜(あかね)。2 茜色。やや沈んだ赤色。マッダー」(Yahoo辞書にて検索)

    花師と絵画修復士を兼業する青年を主役に据えた美術ミステリー。
    絵画修復士って存在自体がとても興味深い。
    自らの個を消し去り、芸術家の欠落部を補うなんてある意味普通の芸術より高次元な気がしませんか?
    辻仁成『冷静と情熱の間』の主人公(男)然り、藤田宜永『壁画修復士』然り、なんとなくその存在が気になるんですよね〜
    中篇が2つ、ということでもっと読みたい!
    と思いつつ内容が結構濃いので一冊に収めるならこれぐらいで丁度いいかな、なんて思ったり。
    ちなみに北森ワールドの別の楽しみ方、狐がちらりと姿を見せていて思わずにんまりします。
    たぶん彼女のシリーズよりは10年後ぐらい未来の話なのかな?
    すこし落ち着いた様子の彼女が登場します

  • 面白い、というか前に読んだことがあるのか?
    壁画修復師の話をおぼろげながら思い出した。

    美術品やそれこそ、物全般に対しての知見が深い。
    そしてその表現が奥ゆかしい。

    それでこそ文学なのだろうか、北森先生やるね。

    物語は淡々と進むし、どこか全体に影がまとわりつく。
    整理されないまま、でも少しずつ色がついてゆく。

    後付の設定や、上手く使えて無い部分、無理やり登場させている部分もあるけれど、
    全体としてよくまとまっている。

    ただ読後感が少し物足りなさを感じたな、とも思った。

    冬狐堂の新作でないかな?

  • 絵画修復師の話。
    表題の「深淵のガランス」と「血色夢」の二編。
    「深淵のガランス」有名な画家の絵画修復を依頼された佐月はその絵の下に別の絵があるのを知る。
    ガランスとは「茜色」という意味なんですね。
    なんだか、画家の深い情熱、心のうちを表しているようで、是非見てみたいと思った。
    「血色夢」洞窟絵画の修復にまつわる話。
    奈良の大仏の鍍金で平城京が滅んだという話は印象的。
    専門的で、読み応えあり。
    佐月の腕があればあの高松塚古墳も修復できたかな・・・。

    確か、秋篠宮さまの長女が、日本画の修復をしたいと言っていたのではなかったかしら・・・。
    とにかく、専門的。

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著者プロフィール

1961年山口県生まれ。駒澤大学文学部歴史学科卒業。’95 年『狂乱廿四孝』で第6回鮎川 哲也賞を受賞しデビュー。’99 年『花の下にて春死なむ』(本書)で第 52 回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門を受賞した。他の著書に、本書と『花の下にて春死なむ』『桜宵』『螢坂』の〈香菜里屋〉シリーズ、骨董を舞台にした〈旗師・冬狐堂〉シリーズ 、民俗学をテーマとした〈蓮丈那智フィールドファイル〉シリーズなど多数。2010 年 1月逝去。

「2021年 『香菜里屋を知っていますか 香菜里屋シリーズ4〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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