風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋
3.58
  • (279)
  • (485)
  • (759)
  • (74)
  • (19)
本棚登録 : 2979
感想 : 575
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163249209

作品紹介・あらすじ

愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている。大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 久しぶりの森絵都さん。宇宙のみなしご以来、約一ヶ月ぶりです。久しぶりに読んだことない森絵都さんの本を見つけたのでついつい吸い込まれるように手に取っていました。
    風に舞い上がるビニールシートというタイトルも気になりました。読んでみると六編の短編集でそれぞれの世界観どれも良いもので面白かった。

  • 短編集。最後の表題作が一番好きかなぁ。
    なにかに入れこんだり、夢中になったり、愛したりっていう行為は、客観的にみると一般的なことからズレた場所を、まっすぐ進んでいるようなものなのかもしれないと、この短編集を読んで思った。
    このままどうなってしまうのか、読んでいると不安になるくらい、真っ直ぐに、人も物語も突っ走っていくけれど、落ち着くところにおさまる。

  • 素晴らしい短編集。
    森絵都さんの多岐にわたる関心と好奇心の程が伺えた。
    そして一つ一つの短編に、前を向こうと頑張る者に向けた暖かい眼差しと、人間の可能性を祝福する姿勢が表れている。
    とくに仏像の修復師の物語『鐘の音』と、本書タイトルの『風に舞いあがるビニールシート』が好き。

  • 森絵都さんの短編が6つ収められた作品。

    どの話も決して明るくはない話題を重すぎない筆致で綴られ、
    最終的には少し光が差し込む感じにまとめられているので、読後感がよい。

    どの話の主人公も、
    情熱、というと大袈裟かもしれないけど、それを傾けられる何かがあって、
    そこへのアプローチは様々だけど、
    等身大の愛すべき人々でした。

    かつての私も、夢中になって追いかけるものがあって、
    でも、1つかけ違えたボタンによって、
    夢中が故に自分を傷つける結果になりました。
    今は方向転換をし始めるタイミングにいるので、
    「鐘の音」には他の話とは違う共感と希望を抱きました。



    でもやっぱり一番ぐっと来たのは風に舞うビニールシート。
    国連難民高等弁務官事務所という、もはや一般企業の常識の範疇を超えた、
    ある種の使命感なくしてはできない仕事をとりまく家族の感情が、どんどん心のなかに入ってきました。
    当人が言ってる意味は頭ではわかる。でも、家族の立場で、心からの納得は簡単にはできない。
    そこから、物語のゴールに向かっていくときの心の機微がとても自然でした。

    中学生以来に久々に森さんの小説を読みましたが、やはり好きな作家さんです。

  • 少し内容が難しいなと感じるものもあったが、
    「器を探して」は続きが読みたいと思う短編だった
    ⭐︎⭐︎⭐︎
    あまりにおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。
    生まれてきてよかった。

  • 6編の短編からなる短編集。最初の「器を探して」「犬の散歩」を呼んだ後、「風に舞いあがるビニールシート」までとばしてしまった(正直あまり刺さらなかったので)。
    ただ、「風に舞いあがるビニールシート」には考えさせられた。難民問題に向き合う夫とその夫を心配し、2人で平和に暮らしたいと願う妻。
    『私は富める国に生まれた大多数の人たちと同様、貧しい国の惨状から目を背けているだけだ。』
    『ああ、やはりこの国は平和でいい。平和ボケ万歳だ、望むところだ。平和ボケは美しい。ボケでもなんでもすばらしい。どうかこの美しさが、すばらしさが永久に続きますように。』
    日本で暮らしている自分も当然「富める国に生まれた大多数の人」。教科書やテレビなんかでは見るけど、本当は見ようともしていない貧しい国の惨状。そんな平和ボケしたすばらしい世界…。
    最後の最後で、妻は夫が死んだアフガンへ行きたいと志願する。夫の人格を形成した幼少期の環境や、それを知らずにおり、死後に知った妻にどんな心情の変化があったのか、思わず考えてしまう。

    想像以上に惨い苦しい世界があることを知った上で、日本にいる私たちはしっかりと平和ボケして、平和ボケした世界をちゃんと「すばらしい」って言っていかなきゃいけないな、と思った。

  • 6つの短編小説から成る物語

     ひとつひとつの作品が短編とはいえ 十分な読み応えを感じさせるのは 著者の森さんが持つ深い知識と作品を書くにあたって調べ上げたであろう情報量の多さに他ならない

     6話はどれをとっても面白く読後感が良い

    ◯『器を探して』の作中に『釣具小鳥将棋碁麻雀』というのが出てくるが こういう発想に感心する

     『一口含んで、泣きたくなった。昔から、あまりにもおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。生まれてきてよかった。そうつぶやくと周囲は大袈裟と笑うけれど、「食」とは人類に最も手短な、そして平等な満足と幸福をもたらす賜りものであると信じている。』
        (器を探して の文中より)

     同感!
    そうだ そうだ!
    『衣食住』というが 『食』は人の体ばかりか心もつくりあげる

    ◯『だから、私の中にいつもあるのは、自分はこの犬たちの一割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる九割を見捨ててるんだって思いなの』
       (犬の散歩 の文中より)

     ボランティアをするにあたって してあげているという優越感ではなく これしかできないけど自分のできることはしっかりさせていただくという使命感がある人間がいることが素晴らしい
    ボランティアの真髄を問う物語でもある

    ◯『守護神』では 「伊勢物語」や「徒然草」の解釈や考察が面白すぎだった

    ◯『鐘の音』は仏像の話が大変興味深かった
    私の父は丸太の木から仏を彫り起こす作業を趣味にしているからなおさらだ
    仏を彫るも 修繕するも 仏の御魂を移す儀式も 全てが厳かでドラマチックだった 
    だからこそ プラモデル用の接着剤や 最後の鐘の音のくだりはクスクスっと笑えて楽しかった

    ◯『ジェネレーションX』ではオチがあるに違いないと
    想像力を駆使して読書を楽しんだが 私の想像力を超える明るいオチが待っていた

    ◯『風に舞いあがるビニールシート』は 表題作なだけあって 濃厚なメッセージ性をはらんだ物語だった
     
    『もう君は聞き飽きたと思うけど、僕はいろんな国の難民キャンプで、ビニールシートみたいに軽々とばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところを、さ。』
      (風に舞いあがるビニールシート の文中より)

     『誰かを助けたい』って思いがあっても 自分の身に危険を呈しても行動に移すっていうのは 誰にでもできることじゃないよなって思う
     『助けたい』と思っただけでもすごい
     『それについて知ろうと学ぶこと』…それもすごい
     でも そこに体ごと突っ込むっていうのは 死ぬかも知れないけどそれでもいいって覚悟で 
    私はそういう人間を 本当に尊敬する
    作中の彼女が最後にそう決断した全ては 最高の愛情を
    得たからに違いないと思う

     やはり 『愛情』を受けた人は 強くもなり 優しくもなれるのだと思う


     短編はあまり好き好んで読まないけど 今回この本は出会ってよかった
    朝 仕事にいく前の数分間ができた日に ちょっとずつちょっとずつ読み進めるのが楽しかったな

     

  • 市井に生きる普通の暮らしをする人、国際機関で働く非凡な暮らしをする人…様々な人の心模様を森絵都さんならではの視点で描いている。
    大人向けの本だが、何故これが中学校の図書館にあったのだろうか。

  • 図書館で気になる題名と思って、手に取ってみた。
    短編集で、どの作品もいろんな立場の方の話で興味深く読み進められた。
    友人にも勧めたい。
    森さんの作品をまた読んでみたいと思った。

  • 『器を探して』
    『犬の散歩』
    『守護神』
    『鐘の音』
    『ジェネレーションX』
    『風に舞いあがるビニールシート』

  • すごく頭がいい人だと思う。どの作品も専門知識がしっかり調べられていて、知識の羅列にならずにしっかり物語の核に絡められている。ただ、その頭のよさ、隙のなさが圧となって息苦しさを感じることもあり。

  • 短編集。どの話が良かった?と聞かれても正直どれもあまり印象に残らなかった。ただ、それが悪い印象かといえば違う。どちらかと聞かれれば間違いなく、良かったよーと答えると思います。こんな読後感は初めてかも。うーん、なんだろう。無色透明、無味無臭な感じ?

    話の内容は、先が気になって止まらないとかワクワクしたりなんて無かったのですが、最後の何行かでとても良い終わり方になっていると思います。渇いた身体に水がすーっと染み渡る様なスッキリ感がありました。

    森絵都さん、物語のラストの締めくくり方がとてもうまいです。

    器を探して/犬の散歩/守護神/鐘の音/ジェネレーションX/風に舞いあがるビニールシート

  • 森絵都さんってこの表題作で直木賞をとっていたんですね。
    この本は短編集だけど、表題作は彼女の作品の中でもそんなによかったかなぁ?という印象です。自分は断然、仏像修復師の「鐘の音」がよかったです。

    という個人の好みはさておき。
    すべて「働く」ということについて模索・葛藤・邁進する様子を描いた短編集で、さまざまな仕事が垣間見れて愉しかったです。

    「器を探して」は、人気パティシエの秘書として無理難題をこなす女性の話。パティシエ本人は難ありだけど、作り出すケーキがすばらしいという。わかるわ〜としみじみ。笑 これだ!という美濃焼に出合うところがドラマティックでよいです。

    「犬の散歩」は、殺処分されるわんこのボランディアをするためにスナックで働く女性の話。牛丼で価値観をはかる先輩を思い出して、わんこのエサで価値観をはかるのがわかりやすくて参考になりました。笑

    「守護神」は、文学の勉強に励む勤労大学生の話。これだけ勉強することが仕事の学生ですね。主人公は勤労といってもアルバイトなので片身が狭く、一見ちゃらそうなのだけども、『伊勢物語』や『徒然草』を独自の視点から読み解く姿がかっこうよかった。それを考察する働く大学生の守護神、ニシマミユキさんも素敵でした。

    「鐘の音」は、自己顕示欲の強い芸術家肌の仏像修復師の物語。若さ故に師匠とぶつかったり他人を見下す描写などが、中島敦の作品を思わせる渋さがありました。最後の吾郎は子どもを授からなかったというのは、人生の対比としてわかりやす過ぎて不要のような気もしましたが。しかし、この中では一番好きな作品ですね!

    「ジェネレーションX」は何歳になっても、結婚しても、子どもができてもバカができるような大人でありたい、という男の子の夢ですね。高校時代の野球部で10年後に集まろうという約束を果たす前日の話。みんながさまざまな人生を歩んでいて、その姿を年上の主人公が眺めているのだけど、最初は諦めに似た感情を抱いていた中年会社員が、取引先の今ドキの社員を見て奮起するみたいな。気持ちのよい作品で、セリフでの話の進め方とかが「守護神」に似ているかな。

    で、表題作は、難民を救うために国連で働く夫婦(というか元夫婦?)の話なんだけども……。ちょっと短編で扱うには感情移入しにくいなあ、というのが本音です。二人の結びつきがよくわからなかった。物語的に破綻しているわけではないですし、むしろよくできているけれども。自分が平和ぼけしているせいですかね。

  • 初読

    森絵都作品二作目。
    やっぱりこの人の作品好みーっ!

    甘辛のバランス良く読み易い。
    特にこの短編集は題材のバリエーションが豊か。

    天才女性パティシエの秘書の『器を探して』
    社会人学生専門論文請負人の『守護神』
    難民支援機関職員の表題『風に舞いあがるビニールシート』
    が特に気に入ったけど

    犬の保護活動の『犬の散歩』はあらあら綺麗ないいお話?と感じたけど
    (それだって犬好きの私は絶対嫌いじゃないのだけど)
    ギリギリでそれだけに傾かないバランス、
    仏像修復士の『鐘の音』の精神状況、密室劇のような『ジェネレーションx』、
    外れゼロ!

    私にはまだ森絵都さんがどういう人なのかわからない。
    作家の主張、本人が作品に出ずにはいられない(それがその人を作家たらしめているのだが)
    特に女性作家はそれが一度鼻につくとそのまま受け入れ難くなってしまうので
    そうはならずゆっくりと読んでいきたいなぁー

  • あまりにもつまらないので、途中でやめた。これが直木賞?

  • 大人向きに書かれるとこうなるのかという森絵都の世界。大人って色んな細かな事実を知っていて気がついちゃう、更に知らない世界を知りたいとも思う、情報の渦の中にいるんだねえ…と改めて感じました。役に立つ物ばかりではないんだけど!最初のうちは森絵都らしさが薄いかなとも思いましたが、そんなことはありませんでした。大切な物にこだわって生きる大人達。子供よりも長い年月こだわり続けることもあるから奇妙に逸脱してしまうこともあるのですね。それでも新たな方向へ向かっていく勇気。この暖かさと強さ。痛む傷口を洗って風に当てて自然に乾かすような穏やかな視線。さすがです。

  • 短編集。
    ジェネレーションX
    風に舞い上がるビニールシート
    が良かった。

    中高生のうちの子どもたちにはまだ難しいかな。もっと大人になってからの方が興味深く読めるかも。

  • この風変わりなタイトルが直木賞受賞作
    わたしは受賞作・作家だからと言ってことさら読まない主義
    というか興味わかない、へそまがり

    しかし
    話題になったときから読んでおくんだったなあ、という作品は多々ある
    その範囲に入る作家さんの作品であった

    なるほどね
    今に読み継がれる不変の真理を抉る作品群
    短編の名手
    現代版日本の「O・ヘンリー」かもしれない

    わたしの好みで言えばこの6短編収録中「守護神」が一番好き

    大学の第二学部に入学してくる学生たち
    なぜ、働きながらの通学するのか
    さまざまな事情を抱えた学生群像の事情もよく描けているが

    「代返屋」ではなくて「レポート代筆屋」との本気対決が
    学問ならぬ人生を真剣に考えさせてくれる

    働きながらの勉学に時間は無い
    膨大なレポート提出、試験を乗り越えるには
    お手軽な手も使いたくなる

    けれどもこの主人公はお手軽とは程遠くいまじめ学生で
    「レポート代筆屋」に注文しに行くも
    すでに確固たる自説のレポート内容に到達しているのだ
    それを滔々と述べてしまうおろかしさ

    「なら、じぶんで書きなさい!」と「レポート代筆屋」に突っぱねられる
    「あなたは代筆がして欲しいのではない、愚痴をこぼす相手が欲しいのだ」
    とせなかを押されていまや「守護神」になった「レポート代筆屋」のもとを去るのであった

    すべては自分に還るのだとしみじみ思う
    誰かがやってくれるのではない
    全部自分がやらなければ何事も進まない

    なかなかの筆力の作家とみた
    他作品も読もうと思う

  • 一つ一つの話は面白いと思ったが、全部読み終えてみるとあまり記憶に残っていない。

  • 6つの物語集、私にいちばん響いたのは仏師にならず修復師にもなれず家具職人の道を歩く男の話 「鐘の音」。直木賞受賞の「風に舞い上がるビニールシート」よりも沁みました。

全575件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

森絵都の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×