タペストリーホワイト

  • 文藝春秋 (2006年10月26日発売)
3.17
  • (14)
  • (24)
  • (89)
  • (19)
  • (4)
本棚登録 : 262
感想 : 47
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

本 ・本 (216ページ) / ISBN・EAN: 9784163253909

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 装丁が素晴らしい。



    Will you love me tomorrow?
    ―明日もあなたは私を愛してくれるのでしょうか?
    キャロル・キングのアルバム「Tapestry」の一曲だ。
    彼女の歌は、希枝子を、洋子を、孝史を狂わせる。
    洋子の人生は、彼女の歌に縛られていた。
    姉の死、恋人の死―。
    全ては絶望へ。
    自らも死へと向かってゆく。
    けれど。
    彼女は全てを仕切りなおすことができた。
    自殺未遂、栄養失調、失語症。
    母の優しい気遣いに対して「ありがとう」と、言葉にする場面は涙を誘う。

    どんなに絶望が彼女を包んでも、その後には誰かが、何かが力になっていく。
    優しい母だったり、鮮やかな額紫陽花だったり、父のささやかな励ましであったり。

    ローデシアやビアフラやニカラグアの世界の情報を知っても、人は自由にはなれない。
    自由になれるとするならば、それは愛や信頼―。


    「あなたたちが作ったタペストリーは白い雪の上にまた新しい白い雪を
    重ねていくようなものだったのではないだろうか。
    慎重に指を這わせてみなければ、その模様には誰も気づかない。」
    …だから、『タペストリーホワイト』というタイトル。
    誰も気づかなくなるのかも知れないけれど、けれど今は覚えている。
    そして、今も確実に何かを与え続ける。

    「人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない。」
    『パイロットフィッシュ』の冒頭に出てくるように、とても優しい。
    いつかは忘れてしまう―。
    けれど、今は確実に、覚えている。
    亡くした姉も、かつての恋人も。

  • 暗いんだけど、所々でじわりとくるところがあって、泣きそうになった。わたしは学生運動なんて想像もできない世代だけど、その怖さが実感できた。

  • 姉の死んだ原因を探る妹。それで振り回される妹。一生に一回しかない輝かしい青春をそんなことに費やしてしまう妹。
    自分の生きる目標が他人ではだめなんだ。

  • ーWill you love me tomorrow?
    「私のことを心配してくれて、本当にありがとう」

    どうして、こんなに静かなんだろう。
    喪失も怒りも憤りもたしかに感じられるのに、この静かさはいったいなに?

  • 私がどれだけ苦しんだかわかっている?

    あなたを失って。そして恋人まで失ってしまった。
    それでも、私は何とか右足と左足を動かし続けて、
    頑張って頑張って動かし続けて、やっとここまできたの

    大学進学で東京に上京していた姉が死んだ。
    当時流行していた過激化した学生運動の集団に、襲撃されての死だった。

    最愛の姉を失った悲しみに立ち向かうために同じ進路を歩み東京に出た妹洋子。

    そこで出会った孝史、最悪の死、憎むべき革命という名の暴力的な学生運動。

    姉や恋人と同じ道をたどろうともした。
    けれど、そんな洋子を守ってくれた人がいたから、前に進もうと、思った。

    But Will you love me tomorrow?

    しかし、明日もあなたは私を愛してくれているのでしょうか?

    熱い!熱すぎる!
    最初から最後まで泣きそうになりながら涙こらえて電車のなかで読んだ。

    うわー!
    文がいいね。彼いいよ!)^o^(




  • 学生運動の頃の話
    大好きな、大好きだった姉を誤爆によってうしなってしまった主人公
    さらには恋人まで


    なんだか読んでいて遣る瀬無い感じ
    無念というか虚無というか
    この頃のことを知らないから何とも言えないけれど
    今自分の周りでこんなことが起こったら
    身近な人が鉄パイプや斧で頭を殴られ死んでしまったら
    と考えるとすごく悲しい気持ちになった


    学ぶということ
    知識
    それは一体私たちに何を与えてくれるのだろう
    日本では義務教育が9年と決まっていて
    大学でも教養科目とか一般教養とか自分が必要としないものも勉強しなければいけなくて
    何の意味があるんだろうと自分に問いかけてみたり
    日本の教育水準をあげるためとか体面を保つためとかだったら本当に腹ただしい

    たとえば高校での勉強にしても
    どれも平均ぐらいというよりは他はだめでも世界史だけは深い知識を持っている
    という人の方が私には羨ましくて
    でも日本の教育だとそれじゃダメで
    いくら世界史がよくてもほかの科目もそれなりの成績じゃなきゃ有名大学とか入学出来ない
    そんな現状に吐き気がする


    学びたければいくらでも学べる
    そんな環境に感謝しなければいけないのかもしれないけれど
    自分が何のために勉強するかといことが大切で


    憤りを感じてしまった

  • 大好きな姉のラブレターを盗み読みしてしまった。
     「明日もあなたは私を愛してくれるのでしょうか?」
    姉をそこまで恋焦がれさせたのは、一体誰?
    頭が良く物静かな姉をそこまで情熱的にさせたのは、一体何?
    疑問を胸のうちに秘め、私は高校に入学した。
     激化する学生闘争。そのせいでボロボロになった校舎で学んだ私。
     着地点を逸した学生運動。そのせいで大切な人を2人も奪われた私。
    「時代」の犠牲者はここもいる。

    予備知識なしで手に取りました。
    タイトルからも、序章からもこの展開は想像できなかった。

    同じことを別の言い回しにしている部分が多いのが気になったけれども
    その分何が言いたいか分かりやすかった。
    学生運動を題材にした作品にはいくつか触れてきたけれど
    「時代」の後の世代、という視点は考えたことなかった。
    変化はグラデーションのように起きると思っていたので
    これほど後処理を背負わされている感があったのは意外。
    忌み嫌っていても転向組よりそれを貫いた方に
    シンパシーを感じるというのは皮肉なストーリー。
    久々にぐいぐいくる本でした。
    学生運動って私の中ではやっぱり気になるキーワードだなぁ。

      人生が一枚の壮大なつづれ織りのようなものだったとして、
      あなたのタペストリーに私の糸が、
      私のそれにあなたの糸が、
      たとえ一本でもいい、絡み付いていたら、
      どんなに私は幸せでしょう。

  • 学生運動さなかに 姉と恋人を失い 絶望・虚無感から立ち直っていく女性の物語。 重い内容だけど 大崎さんの透明感ある美しい文章が救いです。

  • とても悲しいお話です。学生運動で愛する人を失い、そこから再生していくお話です。涙が止まらないシーンがありいろいろ考えさせられました。

  • 学生運動をバックグラウンドに主人公の喪失感とそこからの立ち上がる姿に泣きました。大崎さんの哲学(?)はやはり良い。少しパターン化は否めないものの、やっぱり好きです。

全47件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1957年、札幌市生まれ。大学卒業後、日本将棋連盟に入り、「将棋世界」編集長などを務める。2000年、『聖の青春』で新潮学芸賞、翌年、『将棋の子』で講談社ノンフィクション賞を受賞。さらには、初めての小説作品となる『パイロットフィッシュ』で吉川英治文学新人賞を受賞。

「2019年 『いつかの夏 名古屋闇サイト殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大崎善生の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×