いっしん虎徹

  • 文藝春秋 (2007年4月26日発売)
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本 ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784163258508

感想・レビュー・書評

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  • 山本兼一先生といえば歴史小説を得意とする作家さんです。代表作には西田敏行さんが岡部又右衛門という信長に仕える終わりの宮大工を演じた「火天の城」が有名です。そもそもこの作品も信長にスポットを当てずに岡部又右衛門に当ててるところから、僕を知らない世界にいざなってくれる。夢中になって一晩で読破した記憶があります。

    今回夢中になった作品は

    「いっしん虎徹」

    虎徹と言えば頭に浮かぶのは新撰組の近藤勇であるが、山本先生が一筋縄で書くとは思えない。書き出しから出てきたのは甲冑師である長曽禰興里。彼の入道名を虎徹といい、本作は近藤勇の愛刀とされている虎徹を作り上げた長曽禰虎徹の物語である。

    「虎徹を見たら偽物と思え」

    これは刀剣マニアなら誰でも知っていることだろう。ただ、虎鉄自身が出来が悪いと自分の銘を打たなかったり、違う銘を刻んでいたりとしたせいでそうなったのかもしれない。

    現在では首切り役人で時代劇などでも活躍した山田浅右衛門により発表された『懐宝剣尺』に記される、最上大業物13工、大業物21工、良業物50工、業物80工、大業物・良業物・業物混合65工の計228工のうちの最上大業物に位置付けされるほどの名刀です。

    切れ味も強度もかなりのもので人間の体を4つ重ねて切られた四つ胴切りが国立博物館にあるそうです。近藤がほしがったのも頷けるような気がします。

    面白い!…はずなのですがどこか物足りなさも同時に感じてしまう。やはり夢を追い続ける虎徹と同じ夢でも違った形の岡部では人間性の中身が変わってくる。大人と子供といった感がある。どうしても火天に比べると一枚落ちにも思えてしまう。ただ、やはり知らない世界なので、面白いですね~♪

  • 鉄を鍛えて刀を作るということに人生の全てを賭けた実在した長曽祢虎徹の物語。

    30歳までは兜と鎧を作る鍛冶屋だったが、戦国の世が終わり兜と鎧は売れなくなる。

    しかし、刀は売れ続けるので江戸に出て刀鍛冶になることを決意する。

    身体の弱い妻とあることから弟子になった正吉と刀鍛冶になるために修行から入り、独立して刀鍛冶を続け名前と刀が少しずつ売れるにつれて傲慢になったりもする。

    しかし、色んな出来事が虎徹の人格を成長させていき、なぜヒトは刀を持つのかということや生死について哲学的に考える。

    とにかく刀鍛冶として刀を鍛えることが自分の人生なのだと精進するのだが、周りの人間も虎徹を政治の道具に使ったりして人間臭いのが面白い。

    良い話なのかどうかもわからないが、こんなに一心不乱に何かに打ち込むことができる人生って素晴らしいと思う反面、4人も子供を亡くしても鉄を鍛えることに全てを捧げるのは酷いと思う。

    なんか良い本かどうかもわからなくなった。
    こんな人がいたんだという話だと思う。

  • 新撰組の近藤勇も所有していたと言われている名刀の刀鍛冶、長曽祢興里の生涯を描く。

    刀鍛冶という職人としての生き様、また刀の製法から道具など細部に至までの作者のこだわりなど、熱いものがこみあげる。

    源清麿は壮絶過ぎだったが、虎徹は純粋に感動できた。

    山岡鉄舟、源清麿、長曽祢虎徹、それぞれ立ち位置は違うが一貫しているのは、携わった、関わった人に恵まれたことを自覚していること。

    作者は男としてだったり、職人としての頑さ、一途さを全面に描いているかと思いきや、自分一人では何もできないこと、人との関わり合いの大切さを根底に描く。

    これもまた心を熱くさせてくれる要因になっているのかなぁと思う。

    今では故人山本兼一氏の作品、全て読んでやろう思っている今日この頃である!

  •  虎徹の自信過剰慢心ぶりに、辟易したが一つのことに一心に取り組む人は、自信家になるんだなあ。そして、自信の花がぽきりと折れてもまた這い上がる力を持っているんだなあと思った。そして本当に力を得た時に謙虚になるのか、苦しんで謙虚になったからこそ力を得たのか。

  • 強烈な信念を持った刀鍛冶の話。
    最後の方の、圭海のことばも良い。

    虎徹がどんどんと技術を上げていくところがこの物語の柱である。
    そして、将軍家お抱え鍛冶にしようという話が出てくるあたりから老中の政争に巻き込まれて行ってしまう。

    初めの方に出てきた謎もきっちりと話を付けているので読んでいてすっきりする。しかし、話は予想通りに展開していくので、「ああ、いったいこれかだどうなるんだ...」というハラハラドキドキが少ない。

    技術的に、古い時代の小さな鍛冶場で精錬した鉄の方が日本刀に向いているというところはなかなか興味深い。

    最後に「銘の変遷」があるが、読み終わった後に見るにはまことに余韻があってよろしい。

  •  江戸時代の刀鍛冶・虎徹の物語。泰平の世となり、鎧兜の注文はない。興里(のちの虎徹)は、越前と甲冑師の仕事を捨て、江戸で刀鍛冶になることを決意する。

  • 先日読んだ『おれは清麿』と同じ、刀鍛冶シリーズ。
    清麿のレビューを見ると、虎徹や正宗の方が評価が高いようだったので、楽しみに読みました。
    虎徹と言えば近藤勇?くらいの知識しかありませんでしたが、熱い職人魂に一気に読んでしまいました。
    ただ、虎徹自身よりも、叔父さんの才市さん、格好良かったです。
    あと、虎徹には過ぎた奥さん、内助の功とはこういうことを言うんでしょうねぇ。

  • 「火天の城」、「利休にたずねよ」が面白かったので、もっと山本兼一を読みたくなって借りた。

    面白かったが、上記2作品程ではなかった。虎徹といえば近藤勇で有名でその刀工の話である。

    鉄・鋼に関しては異常な情熱を捧げる虎徹が甲冑師から刀工として身を立てて行くまでの苦難を描く。出世を欲せずただただ日々工夫を凝らし納得できる刀を作る事だけに精魂を込めた刀工の生き様。

    清々しい生き方だが、主人公が苦難にぶつかっても、その持ち前の力強さで前へ前へと進んで行く姿、刀の工夫以外の迷いがない精神の異常な強さが少し面白みに欠ける。虎徹に欠点らしい欠点がなく、隙がなくて魅力が感じられない。

  • ひたむきに鉄を見つめ続けた、刀鍛治の生き様を描く。
    凛々しく、清々しい余韻が残る作品。

    鋼を生み出すところから、刀を生み出すまで、ひとつひとつをつぶさに描いていて、読み応えがある。
    迫力のある鍜治場、そして気品ある刀の姿が、目に浮かぶ。

    虎鉄だけでなく、皆が自分の道を究めようと、懸命に生きていく。
    凄烈な生き様が、強烈な印象を残す。

    特に才市の矜持と、それを見つめる虎鉄には、泣けた。
    http://koroppy.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-8023.html

  • 鉄を叩く甲高い音、水に浸ける瞬発的な音、炎の熱さ、汗のにおい、鋭く光る刀の色…全てがリアルに感じられ、そして主人公が繰り出す言葉の数々に心打たれました。
    読み終えたあと、熱くなった心がじわじわと溶けて全身に行き渡る感覚。
    人生の糧になる作品だと思います。

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著者プロフィール

歴史・時代小説作家。1956年京都生まれ。同志社大学文学部を卒業後、出版社勤務を経てフリーのライターとなる。88年「信長を撃つ」で作家デビュー。99年「弾正の鷹」で小説NON短編時代小説賞、2001年『火天の城』で松本清張賞、09年『利休にたずねよ』で第140回直木賞を受賞。

「2022年 『夫婦商売 時代小説アンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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