私の男

著者 :
  • 文藝春秋
3.56
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本棚登録 : 5017
感想 : 1014
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163264301

感想・レビュー・書評

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  • とにかく強烈だった。
    桜庭さんの作品はかなり読んだけどこれは次元が違うくらい強烈に印象が残ってる。

    禁断の父娘(花と淳悟)の恋愛関係について書かれた本。
    仄暗いストーリーだけどものすごくパワーを感じて、
    読みだすと止まりませんでした。強烈な引力に引き寄せられているような。
    また、過去に遡っていくストーリー展開も効果的だった。
    各章ごとに語り手が変わる芥川スタイルはもうトレンドですね。

    流氷のシーンは鳥肌が立ちました。
    流氷を見送る花の壮絶とも言える表情が不思議と鮮明に思い浮かんだ。

    男性には受け入れがたい話かもしれないけど、
    この本を評価する女性は多いのではないでしょうか。
    あと、物語に整合性を求める方には向かないですね。
    でも人間に整合性を求めるなんてナンセンスな気もします。

    他人には理解できない感情はあって当然。
    支離滅裂な展開だってこの世の中には一杯ありますから。

    読み終わって釈然としない方もいらっしゃるかもしれないけれど、
    私はこの物語に流れてる雰囲気とその時々の感情の描写を評価したいです。
    物語を通しで捉えるとうーんと思うかもしれないけど、
    登場してくるシーンを一つ一つ切り取るととても秀逸。
    そんな「私の男」とってもいいと思います。

    淳吾のビジュアルはオダジョー派かトヨエツ派か。
    私は断然、トヨエツ派。
    ろくでも無いけどかっこいい。
    こういうキャラクターに私は弱いんですよね。

    • さおぴさん
      うおぉこれ読みたいけど躊躇してました・・・・・・!気になる。。。
      うおぉこれ読みたいけど躊躇してました・・・・・・!気になる。。。
      2013/02/15
    • cecilさん
      >さおぴさん
      エロいのと暗いのが平気であればお薦めです!読み終わった時の疲労感がなんともいえないw
      >さおぴさん
      エロいのと暗いのが平気であればお薦めです!読み終わった時の疲労感がなんともいえないw
      2013/02/15
  • 冒頭が狡い。「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくり広げながら、こちらに歩いてきた。」なんて、文章に掴まれて引きずり込まれました。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という有名な小説の冒頭に匹敵するくらい作者にしてやられたなーと思いました。
    ただ内容は静かなのに激しい。決して気分の良い物語ではないです。
    淳悟にとっても花が“私の女”なら良いのになと思いました。花が女としてなれる淳悟のすべてであったらなーと。花にとっては淳悟がすべてだという感じがしました。
    でも、どんどん物語が過去に遡っていくから、まるで花に未来はないよ、あるのは過去だけだよ、と作者が言っているような気がしてならなかったです。花の前から姿を消した淳悟はどこへ向かったのでしょうか。

    そういえば、花の「おとうさぁん」という呼び方や、大塩じいさんの「ヨォ」とか「ネェ」という語尾が、いい感じでイラッとさせてくれました。

  • すっごくゾクゾクする本だった。気持ち悪いと思う人が多いのも分かる。だけど、父に対する恋に似た憧れ?ってちょっと分かる。

    当たり前だけど、桜庭一樹、文章が上手すぎる。
    分厚いし、文字も大きくはないのに、気付いたら読み切ってた。ほんとに「これで三分の一くらいかな」って本を閉じたら、7割くらい読んでた。
    表現もすごく綺麗。「身内しか愛せない人間は、自分しか愛せない人間と同じ」とか、好き。それに、不気味な生々しさも好き。

    最初「この人の考えてる事は理解出来ない」って思っても、主人公が変われば「ああ、そういう人か」って分かる。自分と相容れないタイプの人間でも、スッと理解させてしまうのが上手すぎる。

  • カテゴリ化するのは無粋な話だけれども、ヒロインは綾波レイ的な何かだよなぁ、という雑感。処女に母性を持たせる聖母性ほど淫心を擽られることはない。
    エログロナンセンス三拍子揃えて勢いで読ませる筆力、薄い本と言われる界隈で好まれそうな題材を山盛りにし破綻させずに多視点(この辺りも薄い本らしさがある)及び逆順時系列を使い纏め上げる構成力、文章内の比喩表現が美しく湿度の高さを見事に表現していて、すばらしいと思う。

    ところでナンセンスはどこにあるのかというと。
    もうそもそも冒頭の結婚が成立してしまうところやら、押入れの中身の腐乱を考えないところやら、(能力についての言い訳はあるにせよ)「目を見ればわかる」やら。現実的に考えたらそこはどうなの? あ、でもこの物語にリアリティは必要ない部分なんで削ったんですねわかります、としか納得出来ない部分。無理やりそう自分に言い聞かせても、喉に刺さった魚の小骨のように、世界に浸る邪魔をしてくれたけれど。

    全体的に文章がひどく官能的。男の手の乾燥した様や唾液の粘度の高さや乾燥した愛液など、水まわりの表現にくどいほど気を遣っているせいだろう。若干しつこく感じる程であるが、でもそこがまた滴るようですばらしい。エロスに湿り気は必須なのである。
    でもこれだけエロ描写が卓絶していても、この小説は官能小説ではないのである……不思議だなぁ。

    文庫版の表紙絵を見かけたけれど、"男"の両目は色のないマーガレットのような”花”で、干からびたような無骨な手だけが色を持っている。やはり男の手は強烈に意識に残るものとして作中に描かれているのだろう。

  • ふたりの心情はどこか現実離れしてるにも関わらず、引き込まれる。ふたりには、暗く深い海のような未来しか見えないのが、また辛くなる。

  • イヤな小説である。近親姦に殺人まで絡むのだから当たり前だ。だが、うなるほど上手い。
    冒頭のシーンで鮮やかな花柄の傘をさして銀座を歩く2人は、印象的ではあっても、まだ作り物めいたキャラクターだ。それが、荒川の拘置所近くの安アパート、黒い海を望む紋別の町に舞台を移したとたんに、肉の重さや匂いをまとわりつかせて動きはじめる。
    時間をさかのぼる叙述形式によって、あまりにありえなさそうな花と淳悟の関係に得心がいくようになるというわけでもない。ただ、その土地の濃厚な気配とともに、2人の肉の交わりが、実体のある重みとして感じられ始める。
    氷原の上で、花にこんこんと語りかける「大塩さん」、荒川のアパートの2人にとりついている田岡、結婚式の会場で、いい気になるなよ、小娘・・・という気配をのこして動く中年のウェイターなど、脇役たちが放つ存在感も強烈だ。
    主人公に「腐野」なんて名前をつけるあたりがどうも軽い印象だったのだが、先入観を裏切るどっしりした作家ぶりで、これから読む機会が増えそうだ。

  • エロイだけの話かな?と読む前は思っていた。
    が、そういうものではなく、どちらかと言えばミステリーに近い。

    影のある親子、ただし養父と養女の関係。
    北に住んでいたときに、彼らに起こった出来事はなんだったのか?

    第一章が現代であり、花が結婚し養父から逃れていく。
    淳悟はその後姿を消してしまうため、どうなったのかすごく気になるが、その後が描かれていない。また、花の母親とどのようないきさつがあったのかも描かれていないため、その点が少し不満。母親と愛し合っていたのか、そうでなかったのか。

    結果的にあまり好きになれる内容ではなかったが、デビュー作でこれだけ書けるとは素晴らしいと思った。他の作品も読みたいと思える作家。

  • 店頭にこれが、並んだ時は、こういうのはいいですって、勝手に拒否。直木賞も煽って、結構、売れていたような。
    桜庭一樹という名前も普通に聞くようになって、急に読んでみようと思い立った。これが、私の読み時。
    すごく読み応えがあった。
    近親相姦が軸で、単純には、そこが桜庭一樹的と思える。内容は、奇をてらうったものではなく、文学が、ずっと取り上げてきた心の闇とそこにある家族の話。本当に欠陥を持ってしまった時、それでも生きていくのに、必要なものを考えさせられたし、本当にそれでも生きていかなければならないのかとさえ思ったけれど、答えなんて出ない。誰かを犠牲にして、それでも、幸せには生きられない負のスパイラル。あー、久々に出口のない話を読んだ。

  • 何がすごいって、ここまで読ませるものに仕上げたのがすごいです。
    だってこれ、単なる「イッツァ女の夢」にほかならない、としか思えませんでしたから。

    一見優雅で、でも寂れていて、でも女が放っておけないいい男で、そして何より、自分からすべてを奪い、自分が去って行ったことで消えてしまう「私の男」(滅してしまうとも言う)。

    こんな宿命的な男に身も心も滅ぼされ尽くす(アレは愛されたとは言わんと個人的に思う。少なくとも、慈しみではナイ)を「女の夢」と言わずしてなんと言う!
    というか、激しい「著者の妄想」でありましょう、この世界。

    いやいやいや、小説は言ってみればすべて「作者の妄想」なわけで。これは当然。
    ただ、私がこの作品に他作品よりもビンビンに「女の妄想&夢」を嗅ぎ取ってしまったのは、おそらく嗜好がぴったんこに同じだからな気がします。

    で、この「妄想」を、ここまで読めるものに昇華させたところに、作者の力量を感じたのであります。恐れ入りました。

    最後まで読んで、二人が離れた(のかな?)のは当然の帰結と思わされましたわ。
    最後の章で、「遡る時系列」という構成が効いていると思いました。

    なんと残酷な。
    作中でいう「欠損」が、こんなにも残酷な関係を二人に築かせてしまったのかと。
    子供二人が寄り添って生きてきたようなもんですわ。

    女主人公にとっての「敵役の女」の扱いが、もうイジワルでヒィヒィ笑ってしまう。
    どんどん太って醜くなっていくなんて、酷!!
    でもこのヒトが、状況を一番冷静に、そして本質を見抜いていたところが深いのよね。

    ハァ~疲れた。
    なぜなら、淳悟を深く深く愛していた花の気持ちがどえりゃーよく分かったから^^;
    現実世界に戻りマシュ。

    つ~かコレ、裏タイトル「俺の娘」だよね……

  • 図書館で借りた本。昔はとにかく人を愛するということは狂ったことだと思っていたため、愛情表現が異常であればあるほど共感していましたが、結局狂ったように愛した男と結婚して子どもが産まれたら自分の子どもが一番大事になって狂ってる場合じゃねぇな、って正気に戻ってしまったので今は共感は出来なくなってしまったのが残念。結婚する前に読んでおけば良かった一冊。お話が過去に遡っていく形式なので徐々にわかっていく感覚が楽しく、また最初に戻って読み直したくなりとても面白かったです。真実の多くを語らないところも余白を想像できて良いですね。

著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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