トラや

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (196ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163265100

感想・レビュー・書評

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  • 一緒に過ごす猫や犬に、確かに救われた瞬間がある、と
    しみじみ思える人には、ぜひ手に取ってもらいたい本です。

    待合室にあふれる患者を思うと、他の医者のように悠然と診察してなどいられなくて
    せかされるように、ひとりでも多く、と根をつめて診察を続け
    見学していた医学生に「こんな生活しとったら、長く生きられませんよ」
    と真顔で言われた南木さん。

    「人が病んで死んでゆく過程に付き合う仕事で生活の糧を得、
    そのあまりの業の深さを世間に開示せずには生きてゆけそうもなかったから
    小説を書き始めた」と綴る南木さん。

    その生真面目さが呼び寄せてしまったかのような鬱病のせいで
    奥さんの留守に、ついに包丁に手を伸ばし、死への衝動に身を任せそうになったとき
    命の輝きをそのままかたちにしたように
    ふすまを突き破って、ぽんと飛び出すのです、子猫たちが。
    いつもはうるさく鳴かないのに、その日に限ってにゃーにゃー鳴いて餌をねだり
    お皿に顔を突っ込んで、むせながらガツガツ食べるトラの旺盛な食欲が
    南木さんの身に起こした小さな奇跡に、心が震えました。

    死への衝動になんとか抗おうとする南木さんにじゃれついては繋ぎ止め
    夫から目を離せない奥さんに寄り添って慰め
    母をまるまる父に取られてしまう形となった子供たちの遊び相手になって
    南木一家のいちばん苦しい時期を支えたトラの気配が
    登場しない頁にまで感じられるような一冊です。

  • 読書中。とりあえず表現という表現があまりに丁寧で、無駄がないのに優しくて、驚嘆しながら読む。

  • 久々に南木さんの作品を読んだ。前に読んだ作品とかぶる設定が多い。半自伝的小説なんだろうな。
    今回は鬱を患う主人公とそっとその家族に寄りそうトラのお話。
    この話を読んでてふと我が家の猫も人生(?)折り返したんだな~と感慨深くなった。
    南木さんは佐久総合病院の医師でもあり、作品の舞台も東信が多い。私も以前まさに佐久病院のそばに住んでいた事もあり、千曲川や浅間山の描写などを読むと郷愁を誘われる。懐かしい!

  • 読んでて鬱々とするけど
    読み終わって何か違うもんが見えるような・・・
    感情が入っていきやすい話。

  •  一戸建ての平屋の病院住宅に妻と子供2人。1990年夏、母猫と子猫5匹が庭に。初秋、母猫二匹の子猫、トラ猫と白猫を庭に置いて去る。11月、2匹を家の中に。パニック障害、うつ病の時、猫がいる家の方が安らげると1ヶ月自宅静養。そのうち、シロはいなくなり、トラだけに。家を新築(二階建て)、猫の玄関を。トラ、去勢手術、太ってくる。たまに帰ってこない日が(とても心配)。交通事故で右の前足を骨折、1ヶ月寝込み、回復。老いが。冷たい水は飲まず、ぬるい湯を。トラはいつの間にか一家統合の要に。15歳、急性腎不全、没。トラがいなくなり、人だけが住むようになった家はひどく殺風景になった。玄関を開けると、私も、妻も、いつもトラを探してしまう。無言のまま、ため息をつく。

  • 自伝小説ならではのリアリティは感じた

  • ネコがでてくるのでとりあえず読んでみた。
    うーーーん、イマイチ。
    「ノラや」もまだ途中なんだよね。

    子猫を川に捨てるなんてことが日常なのは、都市部以外の現状なのかな。悲しいことだ。
    完全室内飼いが進めばいいな。小説の題材にはしにくくなるけど。

  • 200ページにも満たない本作品。
    けれども、15年に渡るトラとの生活を通じて、人間の成長と老いと死を考えさせる作品。日常を率直に綴った言葉が、逆に凄く心に沁みます。

  • 猫と暮らす。

    楽しく、
    悲しく、
    おもしろく、
    つまらない。

    猫と暮らすそんな日々。

  • うつ病に苦しむ著者と、その影響から重苦しい空気が漂う家庭を救ったのは、家の軒下に住み着いたノラ猫だった。
    ときに自殺を思い止まらせ、ときに介護に疲れはてた家族を救い、やがて子が巣立ち二人きりになった夫婦の仲を取り持った猫との生活を綴った随筆。

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著者プロフィール

南木佳士(なぎ けいし)
1951年、群馬県に生まれる。東京都立国立高等学校、秋田大学医学部卒業。佐久総合病院に勤務し、現在、長野県佐久市に住む。1981年、内科医として難民救援医療団に加わり、タイ・カンボジア国境に赴き、同地で「破水」の第五十三回文學界新人賞受賞を知る。1989年「ダイヤモンドダスト」で第百回芥川賞受賞。2008年『草すべり その他の短篇』で第三十六回泉鏡花文学賞を、翌年、同作品で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞する。ほか主な作品に『阿弥陀堂だより』、『医学生』、『山中静夫氏の尊厳死』、『海へ』、『冬物語』、『トラや』などがある。とりわけ『阿弥陀堂だより』は映画化され静かなブームを巻き起こしたが、『山中静夫氏の尊厳死』もまた映画化され、2020年2月より全国の映画館で上映中。

「2020年 『根に帰る落葉は』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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