岩倉具視 言葉の皮を剥きながら

  • 文藝春秋 (2008年2月28日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784163265308

感想・レビュー・書評

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  • 幕末のキーパースン。気になる人である。巷間聴く以上に真面目で波乱万丈の人だった。もう少し追求したい。

  • 本のサブタイトル「言葉の皮を剥ぎながら」という表現にまず、訳もわからず感動、即購入、一気読み。「尊皇攘夷」、「八紘一宇」、「美しい日本語」云々、『言葉の皮を剥ぐ』。なんと凄い表現だろう。傘寿を越えたとは思われない女性作家の情念を感じさせる本である。

  • (2013.07.09読了)(2013.06.29借入)
    【新島八重とその周辺・その⑩】
    岩倉具視は、幕末ものに欠かせない人物なのですが、どのような人物でどのような役割を果たしたのかよく知りません。ということで、数年前に話題になったこの本を思い出し、図書館から借りてきました。
    小説ということになっているのですが、歴史随筆といったほうが妥当なようです。
    岩倉具視だけでは、歴史が進んでいかないので、幕末の薩長と幕府の動きの中にところどころ岩倉具視が出てきます。表立った動きがよくわからない人物ということなのでしょう。
    地位のあまり高くない公卿に思われる人物なのに、大政奉還後に、慶喜が欠席する中で新政府の陣容を決めてしまい、その後の会議で、山内容堂などの正論と思われる主張をも乗り切り、徳川の力を抑えてしまいます。
    徳川方を抑えるための武器としての錦の御旗をでっち上げ、朝敵となることをはばかる人たちをあっという間に平伏させてしまいます。
    明治政府を世界に通用するものにするために、遣欧米使節団を率いて、一年十カ月も欧米を視察しています。
    岩倉具視は、孝明天皇の側室?堀川紀子の兄ということです。もし、妹が天皇との間に男の子を生み、その子が、天皇にでもなれば、たいへんな力を揮える地位にあった、ということです。平清盛みたいな感じです。
    副題に「言葉の皮を剥きながら」とあります。話は、「手入」という聞きなれない言葉の意味から入ります。辞書にもない意味で江戸時代には使われていたというのです。
    他にも、尊王攘夷とか、開国派とか、手あかのついたような言葉がありますが、なかなか幕末にレッテル貼りで済まないことがあるようです。

    【目次】
    貧弱な構図
    虚妄の世界
    手入の風景
    奔馬
    皇女・皇女
    奈落
    姦物の時間
    情報の虚実
    毒殺・そして「壁」の光景
    「深謀の人」の「記憶」
    その日まで
    余白に……
    あとがき

    ●幕府は朽ちて(13頁)
    彼ら(岩倉具視、品川弥次郎、大久保市蔵)が強力だったのではない。幕府が指一本で倒せるところまで朽ちかかっていたのだ。
    ●幕藩体制(14頁)
    譜代には権力を、外様には富を、一門には血の優位性を。この絶妙なバランス政策は、家康と二代目秀忠の発想によるものである。
    ●手入(27頁)
    当時の「手入」とはすなわち、
    「贈賄」
    ただし、今の使い方より、多少罪悪感は薄められている。
    ●孝明天皇は佐幕派(58頁)
    孝明も全くの攘夷派ではない。ちなみに、歴史学者石井孝氏は、孝明天皇は「徹底した佐幕姿勢を固辞した」と強調しておられる。
    ●井伊直弼(59頁)
    井伊は「開国派」として全力投球して斃れた。時代の先覚者、といいたいところだが、この時対外交渉にあたっていた有能な外国奉行たちを、一橋慶喜を担いだという理由で罷免している。
    ●馬関戦争(113頁)
    一八六四年、攘夷は終わったのだ
    ●脱藩(126頁)
    脱藩にもいろいろある。藩を見限っての出奔。あるいは藩則から自由になり、活動が制限されないための手段。ここには藩との間に暗黙の了解がある。さらには、一応脱藩者ではあるが、藩や国許に太いパイプを持つ人々。坂本、中岡はこれに当たる。
    ●一橋慶喜(139頁)
    「徳川宗家は継承いたしますが、将軍職はお受けいたしかねます」
    ●伊藤博文(164頁)
    伊藤のいわく『皇太子に生まれるのは、全く不運なことだ。生まれるが早いか、至るところで、礼式の鎖にしばられ、大きくなれば、側近者の吹く笛に踊らされねばならない』と。
    ●東征に大名の姿なし(211頁)
    錦旗に従う大名の姿がないではないか。
    もちろん手勢は出しているが藩主本人は傍観なのだ。
    ●廃藩置県(218頁)
    領地からの藩知事の引き剥がしと旧領主と藩士との支配関係を断ち切ること
    ●万国公法(226頁)
    ビスマルクは一笑に付した。
    「あれは強国の並べた理屈さ。弱肉強食のおしつけでしかない」
    表面は礼儀を重んじて交際しているが、腹の底は知れている。「万国公法」は自国に有利のときだけふりかざすのだ。
    ●史料(239頁)
    史料というものは問いかけによって別の答え方もするし、時代によって違う顔を見せてくれるのだ、ということが解ってきたのだ。

    ☆関連図書(既読)
    「保科正之-徳川将軍家を支えた会津藩主-」中村彰彦著、中公新書、1995.01.25
    「奥羽越列藩同盟」星亮一著、中公新書、1995.03.25
    「戊辰戦争」佐々木克著、中公新書、1977.01.25
    「松平容保-武士の義に生きた幕末の名君-」葉治英哉著、PHP文庫、1997.01.20
    「新島八重の維新」安藤優一郎著、青春新書、2012.06.15
    「小説・新島八重 会津おんな戦記」福本武久著、新潮文庫、2012.09.01
    「八重の桜(一)」山本むつみ作・五十嵐佳子著、NHK出版、2012.11.30
    「八重の桜(二)」山本むつみ作・五十嵐佳子著、NHK出版、2013.03.30
    「吉田松陰」奈良本辰也著、岩波新書、1951.01.20
    「吉田松陰」古川薫著、光文社文庫、1989.06.20
    「吉田松陰の東北紀行」滝沢洋之著、歴史春秋出版、1992.12.25
    (2013年7月9日・記)
    (「BOOK」データベースより)
    下級公家がいかに権力の中枢にのし上がっていったのか―構想四十余年。歴史の“虚”を剥ぎながら、卓越した分析力と溢れる好奇心で、真摯に史料と対峙し続けた評伝の最高峰。

  • 岩倉具視、断片的にしか知らなかったので、通して読んでみた。
    隠遁生活は自らの意思かと勘違いしていた。大きな挫折で奈落の底から這い上がって結果を出した男の話。

  • 小説家と思いきや、歴史解説書。
    もうかなり高齢なはずの永井路子さんですが、相変わらず文章の方は非常にチャーミング。
    喜劇ともいえる歴史のエピソードを軽快かつエスプリを効かせて語ります。

    時代的に複雑で、全体像をとらえにくい明治維新。この本では、岩倉具視という視点に立って公家側からみた明治維新を語ることで、浩瀚知られているものとは違ったドラマが浮かびあがらせています。
    武家の権力争いとは違ったもう一つの明治維新、
    この時代に興味のある方には、非常におすすめです。
    また、あとがきにある岩倉具視のご子孫と著者とのエピソードは微笑ましくて、イイ感じ。

  •  幕末を扱う歴史小説やドラマでは華やかに持ち上げられがちな人物達を脇に置き、敢えてこうした主体を軸にして時流を見つめ直す手法が如何にも著者らしい。
     この時代、名の知られた者以外にも、強烈な個性と野心を抱いた男達が目白押し、二転三転どころではない策謀がぶつかり合っては絡み合う。
     犬猿の仲から融和へ、抱き込んだ相手との鍔迫り合い、大技・寝技・小技に連続技、逆転に次ぐ逆転劇など、まさに権謀術数の見本市。
     教科書でもお馴染みのキーワードの虚飾の衣裳を剥ぎ取り、その実状を冷静に解体する筆致はいっそ爽快だ。
     『手入』の内幕と効力、皇女和宮の降嫁を巡る駆け引きや、薩長同盟成立寸前の機運、将軍家茂の死の情報操作と長州再征を装う体裁の工作の連関など、儀式やパフォーマンスの水面下にこそ、政治の本質が潜んでいると言えるのかもしれない。
     皮を剥かれた『攘夷』の実態は、武力においては長州の外国艦隊への敗北で、政治の世界では孝明天皇の条約勅許により、終焉を遂げていた。
     殊に、宮中の混迷と策動に焦点を当てたことで、この著作はより説得力を高めている。
     また、具視の名言の数々(天皇=“一家の神棚”)に噴き出しつつも膝を叩いたり、大政奉還でも弱体化しない徳川慶喜の摂政案など、表面化せずとも瞠目すべき面白さも随所に光っている。

  • 8位
    岩倉具視の生涯を綴った本、というよりも、
    具視を軸として幕末の貴族政治を解説した、
    という方が似合う本。

    つまり明治以降にはあまりふれていないわけで、
    西郷隆盛の征韓論をめぐって
    詐欺同然の反対運動をしたり、
    国賊として暗殺されかけたり、
    といったあたりに興味がある人には残念。

    しかし――。
    副題の「言葉の皮を剥きながら」に
    注目していただきたい。
    本書の眼目は、著者の清冽な理性にあるからです。

    私は丸谷才一と永井路子と佐野洋を
    尊敬している。
    いずれも1920年代産れで、
    共通するのは、理性。
    この三人は「情緒」や「空気」に
    まっこうから逆らい
    (まさに「たった一人の反乱」だ)
    理性を大事にしてきた。
    そこには清潔な色気が漂う。

    本書を分類するなら、
    長編エッセーとなるでしょう。
    ここでいうエッセーとは
    モンテーニュのそれと同義。
    八十を過ぎた老人の
    精神の運動を追うのが、じつに楽しい。

    永井路子は、尊皇攘夷、佐幕、王政復古、
    そして明治維新といったキーワードを使わない。
    「言葉は思いがけないほど
     虚偽の衣装を纏っていることが多い」
    からである。

    たとえば公家諸法度。
    江戸時代の貴族は
    幕府によって厳しく監視されていた、
    とみられがちだが
    「これは誤解ではないか。
     養われていても頭を下げない、という
     権威の歴史的性格にもっと
     注目しなければならないだろう。
     「権威」は常に頭を高く揚げ、
     「養い料」を貰ってやるぞと
     悠然と手をのばす」

    孝明天皇まつわる言葉も
    はがしてゆく。
    「一本調子の攘夷主義者などと見るのは
     後世の誤解である。
     書簡の態度も謙虚で
     政治感覚にも欠けていない」

    長州と薩摩は外国と戦い――
    ここで「攘夷」は終った。
    「言葉の皮を剥くために書いている
     私としては、もう一度言っておく。
     一八六四年、攘夷は終ったのだ、と」

    徳川慶喜は将軍に就任してまもなく
    英米仏蘭の公使を引見している。
    「まさに彼が日本の王者であることを
     当時の外交ルールにそって表明したわけで
     ここで日本は近代国家としての
     第一歩を踏みだした、
     と私は思っている」

    そして岩倉具視の大業とは何か。
    「十二世紀から始まった幕府を
     打倒したことだけが
     クローズアップされているが、
     具視は九世紀以来続いて来た
     千年の摂関制度を打破したのである。
     もし摂関制度が明治以降も
     続いていたら? と想像するとき、
     やはりこのときの彼の大業に
     もっと注目すべきだと思うのだが」

    といっても彼に向ける視線は終始厳しい。
    それが理性の力である。 

  • 偉人は時代によって、偶像化され、
    事実を捻じ曲げられてしまう事がある。
    我々が当然の事と思っている歴史も
    「果たして本当にそうだったのか」
    というのは、残念ながら全てを知る術はない。
    だから時代背景とか、
    一つの事象を多角的に客観的に見る事
    それを伝えられる文章力のある人に私は強く惹かれる。

  • 09/10/24 オビに評伝の最高峰とあるが・・・
         具視に肩入れしすぎでは・・・

  • 読了 2008年 8月 (借:大村市民図書館)

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著者プロフィール

(ながい・みちこ)1925~。東京生まれ。東京女子大学国語専攻部卒業。小学館勤務を経て文筆業に入る。1964年、『炎環』で第52回直木賞受賞。1982年、『氷輪』で第21回女流文学賞受賞。1984年、第32回菊池寛賞受賞。1988年、『雲と風と』で第22回吉川英治文学賞受賞。1996年、「永井路子歴史小説全集」が完結。作品は、NHK大河ドラマ「草燃える」、「毛利元就」に原作として使用されている。著書に、『北条政子』、『王者の妻』、『朱なる十字架』、『乱紋』、『流星』、『歴史をさわがせた女たち』、『噂の皇子』、『裸足の皇女』、『異議あり日本史』、『山霧』、『王朝序曲』などがある。

「2021年 『小説集 北条義時』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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