Χωρα 死都

  • 文藝春秋
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163269108

感想・レビュー・書評

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  • 篠田 節子 『Χωρα ――死都――』
    (2008年4月・文藝春秋)

    互いに家庭がありながら不倫の関係を続ける亜紀と聡史は、エーゲ海の小島にやってきた。
    その島の廃墟の教会で、亜紀は聖母マリアのような幻を見た上、手のひらから急に血が流れ出すという体験をする。
    だが島の人々は、廃墟は「ホーラ」と呼ばれる不吉な場所で、そこに教会など存在しないという。
    さらに重なる不可思議な出来事。それらはホーラの持つ妖しい力によるものなのか……。
             (文藝春秋HPより)

    私にとっての篠田節子とは、ぶれのない日本語で芯の通った話を書く印象が強い。
    テンポ良く展開していく話が多いのに、なぜだかB級の匂いのしない、品のある作品を書く。
    いわゆる「何も起こらない話」がどうも苦手なので、篠田さんの作品は非常に有り難い。

    しかし、そんな篠田作品の中にも「何も起こらない話」は紛れこんでいて、もちろんそういう話だと事前にわかっているときには問題ないのだが、予備知識無しにコレに当たると肩透かしを食らう。
    この作品がまさかその系統だとは夢にも思わなかったのだが・・・。

    厳かな宗教画が施された装丁、帯にはゴシックホラーなんて銘打ってあるし、「おぉ、まさしくこれは」と喜び勇んで読み始めてはみたものの、どうも要領を得ない。
    聖母マリアの幻影を見たり、聖痕というのだろうか、傷も無いのに両手から血が流れてきたりして、ホラーらしい片鱗は見せても、そこで足踏みしてしまっている印象を受けた。

    ホラー的な要素よりも、不倫という原罪にキリスト教や仏教(というより無神論)の宗教観を絡めた方向に主眼が置かれており、これはこれで面白く読めたけれども、やはり期待していた怖~い展開にならなかったのが実に惜しい。
    西洋を舞台にしたホラーに日本人を飛び込ませたらどんな展開になるのか、読んでみたかったなぁ。

    60点(100点満点)。

  • うーん、何とも言いがたい読後感。…で?って感じでしょうか。確かにバイオリンの不協和音やオリエンタルな音色や雑踏が聞こえてきそうな文章ではあるのだが。ストーリーの中で、入り口だけが現れた様々の事象の、あれはどういう意味を持たせようとして出したのさ?が解決しないまま。活字としてはおもしろかった(先が気になる)けども、小説としておもしろいかどうかってのはまた別物で…。

  • 作者の作品に多い「音楽」にまつわるホラー。
    女性の頭部が彫られたバイオリン、廃墟の街、聖痕。
    本の装丁同様、黒いイメージがまとわりつく。

  • さらりと読めてしまった。かなり宗教色の強い篠田さん風のストーリー。この人の描く男性ってみんな似ている気がする…。

  • 篠田さんの著作を読むのは、デビュー作の『絹の変容』をおよそ5年前に読んで以来、これで2冊目です。他にも文庫を何冊か持っていますが、とくに理由もないままなんとなく寝かせっぱなしになっていて、でもずっと読みたい作家さんのひとりとして気になっているのでした。それがなぜ今急に本書を読んだのかというと、単純ですが、新聞の新刊広告を見て、めちゃくちゃ惹かれたからでした。

    <滅びた町が、生き惑う男女を誘惑する>
    <エーゲ海の小島、廃墟の教会、聖母マリアの幻と流れ出る血。重たい現実を背負った男と女が見たものは、聖なるものか邪なものか――>
    <妖しくも美しいゴシック・ホラー>

    これらは帯に書かれている言葉ですが、新聞の広告に書いてあったのもおそらく同じ文句だったと思います。瞬時に「読もう」と思いました。大好きなんですよね、「妖しくも美しい」とか「エーゲ海の小島」とか「廃墟の教会」とか。

    そして読んでみたら、ええもう、期待はまったく裏切られませんでした。おもしろくて夢中で読みました。主人公の亜紀がヴァイオリニストだというのも、この物語にぴったりすぎるほどぴったりな設定じゃありませんか。これの前に有川浩さんを続けて読んでいたので、こういうアダルトで陰の似合う話に久々に酔いしれちゃいました。

    ゴシック・ホラーとあるように、ちょっとコワい感じはあります。ドキドキしちゃいます。けどそんなのにはかまってられません。謎が謎を呼んで止まらないんですから。クライマックスでは、ヘリコプターの音がずっとうるさいくらい聞こえていて、なのにイメージは幻想的で、圧巻でした。

    いやホントにおもしろかった。いずれ読むつもりの作家のひとりだった篠田さん、これを皮切りにちょっとずつ読んでいきたいです。

    読了日:2008年5月11日(日)

  • 表紙に惹かれて読むことに。ゴシックホラーと書かれてたけど、ホラーとはちょっと違う感じ。
    幻想文学の一種+恋愛小説か・・・。

  • なんか さみしい 

  •  どう読み解いたらいいのだろう、という本には滅多に巡り合わないのだけれど、この本は、その滅多に巡り合わない類いの物語であった。幻想小説とでも言うのだろうか。恋愛小説であることは間違いないのだと思う。

     主人公は不倫相手の男性と二人でロンドンからギリシアへ向う。裏道に密やかにたたずむ楽器店で、バイオリン奏者を生業とするヒロインに、男は珍しいバイオリンをプレゼントする。二人はバイオリンを持ち、キプロスに隣接しているあたりの島へ渡るが、それは沈没船から引き揚げられた呪いの楽器のようである。

     島は季節外れであり、二人は長い不倫の果ての別れを予感しつつ、異邦人(エトランジェ)として、エキゾチックな奇妙の世界に迷い込んでゆく。山上の廃墟の跡に、決して存在しないはずの教会を見、幻の女に出会う。幻の女は、バイオリンの頭に掘られたデスマスクのような女の顔と瓜二つであった。

     死都の伝説に耳を傾け、バイオリンがどのような歴史を辿ってきたかを耳にする。二人は自動車事故に遭遇、男は重症を負うが、海は荒れ、帰りのフェリーは来ない。島の中で恋人がゆっくりと死に向って衰弱してゆく様子を見るヒロインは、不倫の罰であると感じる。

     より不思議なことにヒロインの両掌からは、傷もないのに血が流れ出す。修道女たちは、聖痕であり、聖母マリアの祝福だと言うが、どうも気持ちの悪い話である。

     終始モノクロームの世界。嵐の中で分厚い雲に閉ざされた季節外れの孤島から出られない二人は、日本人としてよりも、幻想の物語世界を彷徨う、国籍を持たぬ漂着者のようである。

     正直、人に勧められる小説ではなく、自分でもこれほど楽しめない篠田小説は、『斉藤家の核弾頭』以来じゃないかと、何故か圧迫感さえ感じながら読んだ。自分の体調が悪いのではないかとさえ思う。ホラー、に徹しているわけでもなく、どきどき感もなく、まるで悪夢映画を、まどろみの中でたゆたいつつ鑑賞しているかのような、半覚半醒の体験であった。それが作者の狙いだと言えばそれまでなのだが。

     熟練の文章が、さほどのストーリのーない世界に続いてゆく。罪と神、といった西洋絵画の世界に、いきなり迷い込んだような居心地の悪さがずっと続く。やはり理解を超えた本なのだとしか、言いようがない。

  • 評価が難しい本ですが、独特の書き味に最後まで読んでしまいました。
    異国の地に不思議な世界に引き込まれるなんてありそうな話、死都のりあるな表現がとても好きです。

  • ギリシャありきで執筆したのでしょう。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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