乳と卵

著者 :
  • 文藝春秋
3.10
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本棚登録 : 2991
レビュー : 683
  • Amazon.co.jp ・本 (138ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163270104

作品紹介・あらすじ

姉とその娘が大阪からやってきた。三十九歳の姉は豊胸手術を目論んでいる。姪は言葉を発しない。そして三人の不可思議な夏の三日間が過ぎてゆく。第138回芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 自分が異性ということもあるのでしょうが、表題作「乳と卵」は面白かったです。
    母娘の上京というシチュエーションの中で、母の豊胸手術への高揚感と、初潮前の娘が感じている卵子というものが繰り返す、存在していることへの虚無感がうまくミックスされて、その大阪弁の思考言葉?の語り口表現がよく活きていたのではないかと思います。
    母・巻子はどん底に近い生活の中で娘を育てながら豊胸手術に熱中している。娘・緑子は口を利かずノートでの筆談でしか会話をしなくて、日記に自らの不思議な思いを綴るのみ。そして、上京先の母の妹=叔母は、そんな2人を眺めている。
    銭湯?での乳房品評のシーンや月経のシーン、そしてジェンダー論もどきなど、これでもかという具合に女性の身体を題材に様々な角度から、時には滑稽に、時には細部にわたるリアリティさで描写する様はとても面白かった。緑子の日記での思考でシーンを区切る趣向も良かったですが、思考が駆け巡る一文の長さや、体言止めの文など作者の文章表現の変幻自在さも魅力的でした。
    最後の卵割りの場面で何もかもが融合していく様は、何が何だかわからない一方で(笑)、妙にのめり込ませるシーンでもありました。それまで鬱屈していた女性たちの感情のほとばしりが楽しかったのかな?(笑)
    併録は「あなたたちの恋愛は瀕死」で、もてない女性の抑圧された思いが、道でテッシュを配る男性を接点に、行きづりの交際の魅力で解放される物語。化粧をした自らの姿を視るという女性ならでは(?)の心の動きが楽しめた。

  • 語り部「私」の姉にあたる巻子は豊胸手術に異常に執着している。巻子の娘である反抗期の緑子は言葉を発さず、コミュニケーションは筆談で行う。豊胸手術をするために、ある日巻子は緑子とともに私の住む東京にやってくる。

    句読点を多用したりほぼ改行が無かったり話言葉に「」があったり無かったりといった独特の文体裁が、取りとめのない滞った感情を表しているようで印象的。
    緑子が自身の「女」への体の変化や胸を“何か”で膨らませようと躍起になっている母の行動に対し、嫌悪にも似た感情を示す。「母」が「女」に戻ろうとする姿は子供にとっては恐怖だ。母も一人の女性であり一人の人生には違いないのだけど、「母」が「女」になってしまったら、もう「子」では居られない。もっと言えば「子」として誕生させしなければ、「母」は「女」のままでいられたのにとさえ感じる。
    母としての役割と反対側に置かれる女としてのアイデンティティ。生きていく以上女はやめられないのだから、女を疎んだとしても煩わしいと感じても、その入れ物で勝負をしていくしかない。

  • 芥川賞受賞時の書評を読んで、惹かれる引力があった作品です。でも、妙にセクシャルな印象を受けるタイトルに暫くは遠慮していました。ストーリー、文体、装飾の無い全てドライな作品が唐突に読みたい、と思ったときに、ふとこの作品が思い浮かんで、手に取ることになりました。緑子の言葉は、「これを男性も読むのか」と思うと、何だか気恥ずかしくなってしまう程、女性として理解せずにはいられない箇所が多いです。そして大阪弁の効果が、関西人の読者にはかなり効いています。「厭やなあ」という心の声が、すとん、と響きます。「嫌やなあ」じゃないんだよね、「厭やなあ」なんだよね、とくだらない違いのように思えるところも、何だか愛おしくて、理解出来てしまいます。それから、非常に気に入ったのは、たらたらと続く文体です。一歩間違えたら、作文として崩壊しかねない、感情の垂れ流しのような文章構成のはずが、不思議と読みやすいのです。ケータイ小説の「等身大」等と言われる表現よりもずっと「等身大」で、不思議な風格があります。でも、とにかく緑子の「厭やなあ」がとっても好き。彼女のこの、たった一言に惚れてしまったような気がします。古本ではありますが、単行本で買ってよかった、ずっと手元に置いておきたい作品になりました。

  •  東京に住む主人公の夏っちゃんと、大阪にいる姉の巻子とその娘の緑子。巻子の旦那は、東京にいる他の女へと出て行ったため、残された2人は母子家庭の中で生きている。巻子は娘と生活をしていくために場末のスナックでパートとして働くが、元々快活ではなく、地味な女性であった彼女。生活に余裕もなく、緑子との関係も上手くいっておらず、半年程前から娘から母への意思表示の手段は全てノートに書かれた文字のみ。夏っちゃんの元に緑子と共に姿を現した時にはすっかり痩せ萎んでしまっていた。
    巻子が東京にやって来たのは、周囲からの評価が良いクリニックで豊胸手術を受けるためだ。夏っちゃんに対しても口を利かない緑子。そんな2人にどう対応してよいか分からない夏っちゃん。緑子は緑子で母親に対して愛情を失っているわけではないが、思うことを口に出来ない、思春期ゆえの葛藤。そんな不器用な3人の物語。

    この小説において、「」で括られぬ会話があり、台詞も整然としたものでは無いため、序盤読みにくさを感じたが、それも読み進める中で、登場人物の不器用さを表現しているのだと解釈するようになり、その手法に感心した。また、その不器用さの中に、それぞれの心情がよく現れていて惹き込まれた。読んでいる人を突き放さない構成は、「こんな人達はきっと、この世にありふれているんだろうなあ。」と思わされるリアリティに繋がっている。

    全体的に緩やかに進んでいくなかで、シリアスな展開でこそ笑える点が盛り込まれ、シュールな笑いが溢れました。笑 緑子の言葉遣いが歳下の従姉妹を連想させたなー。最終的には全てをはっきりさせないままでのハッピーエンド。なかなか面白かったです。

  • 乳と卵・・・ 女性を象徴する言葉。

    独身の私と、 母である巻子、その娘で、思春期まっただ中の緑子の3人の物語。

    ブログにて詳しいレビューしています。
    http://egaodekurasu.jugem.jp/?eid=970

  • 女であろうと必死になっても、女でありたくないと拒否しても、女であることを意識しまいとしても、結局のところ女は女である。哀しくて滑稽で、可哀相。
    女であることに縛られて生きているという思いは、必ずしも厭な面ばかりではないのだけれど、でも嫌悪することも確かにあって、きっとその思いはぐしゃりと叩き割られた卵のように生々しい。
    全体として、実に生々しいのだ。ですます調の関西弁が、生々しい描写を誇張しているようでいて、緩和させている。この文章だから、すいすいと読めるのだろうと思う。

  • わたしも中学生のときに理科の男の先生(not保健体育)に授業中に「お前らも全員卵を持って生まれてきてんねんで」って言われたときにものすごくびっくりして、たぶんすごく恥ずかしくて、だけどびっくりしたまま頷いてしまったことがあるなぁってこの本を読んだときに思い出した。
    クライマックスが強烈な画だな!おかしい。

  • 良かった。すごく女性的ななまなましいところをえぐる話。
    冒頭から感情のままに書きなぐったような文がはじまるのだが意外にはいりこみやすい、じつはものすごく丁寧に書かれていた。
    感情の些細な繊細なとこをつかまえてきて晒してきている。人物像もしっかりとしていて、乳と、卵、というモチーフも面白くかつムダがなくて、 すごく好きだった。

    • atuki029さん
      当時話題になっていたので、私も読みました。
      女性特有の心理模様がとてもよく描かれているのではないかなという印象でした。(当方男なのでどこまで...
      当時話題になっていたので、私も読みました。
      女性特有の心理模様がとてもよく描かれているのではないかなという印象でした。(当方男なのでどこまで理解できたかは分かりませんがw)
      2013/09/18
  • なんかもうたやすくは言葉にならない読後感でいっぱい。
    とりあえず緑子を抱きしめたい!笑
    女っていう生き物について、生理について、胸について、卵子について、受精について、生まれるってことについて、私が悶々と考えてきたことを、緑子が考えていた。あ、こういうことだったんだ、って自分の中にあった煙みたいなもやもやが、一気に形を得た。
    それを、他に類のない言葉とリズムで編み上げてゆく凄さ。脱帽しっぱなしでした…。

    ただ、関西弁にまったく馴染みのない者としてはややキツい部分もあり笑
    それから、男性読者がこの作品をどうとらえるのかが気になるところ。

  • この本を読み終えて最初に思ったのが、
    「なんて斬新な小説なのだろう」ということ。

    でも、とても懐かしいお話ばかりで構成されてて、
    読んでて笑っちゃったり、涙が出てきたり。

    とっても可笑しなオハナシなんですけど、
    笑いとばすこともできないような。

    果たして、この小説を良い作品といって良いのでしょうか?

    緑子と巻子の親子関係、緑子はまっすぐに育ちましたね~。

    良かったです。

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プロフィール

1976年大阪府生まれ。2006年に随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』を刊行。2007年に初の中編小説『わたくし率  イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補になる。同年、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2008年、『乳と卵』が第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞を受賞。2010年、長編小説『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞と第20回紫式部文学賞を受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞を受賞。

「2013年 『りぼんにお願い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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