いのちなりけり

  • 文藝春秋 (2008年8月7日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784163272801

感想・レビュー・書評

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  • 最近このシリーズの最新作が出たのを知ったので、読む前に復習しておこうと第一作から。

    佐賀小城藩の御親類格・天現寺家に婿入りすることとなった雨宮蔵人。
    妻となる咲弥は病で亡くなった前夫とは違い和歌も学問も知らない蔵人に失望し、夫婦らしい交わりを一切拒む。そんな自分に何も言わない蔵人に更に失望する。
    一方の蔵人は咲弥に問われた『これこそ自身の心だと思われる和歌』を探しながらも政争に巻き込まれ、上役から咲弥の父を上意討ちするよう命じられる。そのことが咲弥・蔵人夫婦の流転の始まりだった。

    久しぶりの再読で結末が分かっていながらもハラハラドキドキしながら読んだ。
    最初は鼻持ちならない女のように見えた咲弥が、ただただ無骨で不器用で一途な蔵人が、とても上手くは行かないだろうと思える夫婦が、藩や幕府の政争に巻き込まれ離れ離れになってしまうことによって逆に相手のことを知り理解し想っていく過程はグッとくる。

    ここまで追い詰められなきゃならないのか、と思うほど敵の多い蔵人。
    一難去ってまた一難、一つの敵が消えたかと思うとまた別の方向から湧いてくるという具合で心の休まる暇がない。
    だが蔵人の心の中は不思議なくらい凪いでいて、一方で咲弥への想いは募るばかりなのだ。たとえそこへ行けば殺されると分かっていても会いたい。

    『四十を過ぎても女人をかように想い続けているとは、わしは愚か者だな』

    何しろ二人が離れていた時間は十七年。それほど長く離れていて、それでも尚相手を思い続けられるなんて、自分にひと目会えればそのまま死んでも良いとすら想われるなんて、女冥利にも尽きるというもの。
    『遅くなりました、申し訳ござらぬ』
    『本当に、十七年は待たせすぎです』
    なのにそうやってツンを見せるのが咲弥なのだ。

    という二人の長い長い恋物語が主軸なのだが、実はこの作品は佐賀鍋島藩と小城藩を中心とした佐賀の権力争い、そして将軍綱吉・老中柳沢と水戸藩光圀との確執、更には綱吉ら将軍側と朝廷側との確執という、様々な暗闘が脇で描かれている。というより描写される場面としてはそっちの方が多いかも知れない。

    それらの暗闘の中で暗躍する様々な忍びや武士や牢人たちの歪んだ欲望や歪んだ心理も大いに描かれる。
    それだけに蔵人の素直で無骨な意思がより清廉に見えてくる。
    清く美しいものを前にすれば、歪んで淀んだものはより汚く見える。だから清く美しいものは汚いものを滅ぼして当然であり、蔵人がバッタバッタと敵を倒していく様は気持ちが良い。
    現実世界はそうはいかないのだけど。また現代小説でもそうはいかないだろう。いくらなんでもやり過ぎ、過剰防衛が過ぎて殺人罪になってしまう。これを許せる時代小説は素晴らしい。

    他にも脇に水戸黄門の助さん角さんのモデルになった人物が出てきたり、忠臣蔵のあの人が出てきたりと、続編への伏線として楽しませてくれる。

    和歌を知らない男が十七年かけて見つけた、想い人へ送る和歌とは。まさに『いのち』であった。

  • 江戸時代の純愛小説です。

    結婚したものの、数年で相手が亡くなってしまう朔弥。
    その後、父親が婿にと雨宮蔵人を朔弥と結婚させるのですが、朔弥は、好きな和歌を探してこい!じゃないと結婚しない!と言い、形だけの夫婦になるのですが……。形だけの夫婦になってから、本当の夫婦になるまでが長いのです。

    それぞれに思いがけない事が起こるし、新たに分かったことなどもあります。

    色々あるけど、この夫婦に幸せになって欲しい。
    そして、ここで続編がある事も知り、早速借りてこなくてはっ!と、思ってます。

  • 歴史小説ゆえにかなり登場人物もおおく、されがまた漢字のオンパレードなので読むのは大変だがいい小説です。深い恋愛小説です。

  • 離れることで惹かれあう恋というものを見たような気持ちです。二人の間を温かいものがあふれている思いでした。

    人の名前が途中で変わったりするので、ややこしく感じました。歴史ものは、時代背景が分かっていないので、ちょっと苦手です。

    恋愛小説としては、面白く読めました。
    ほのぼのとした読後です。

  • いいお話しでした。好き!なんといっても、蔵人が咲弥の為に探し出した、ただ一つの和歌。
    〜春ごとに花のさかりはありなめど あひ見むことはいのちなりけり〜

    〜雅とはひとの心を慈しむことではあるまいか〜
    〜命に使えるとは死すべき時に死に、生きるべき時に生きる命を受けとめることでござろう〜
    〜いのちとは、ー 出会い ではなかろうか。〜
    と、探し続けた雨宮蔵人。
    『大日本史』編纂中の水戸家光圀の元、彰考館奥女中として佐賀小城藩 おとりつぶしの天源寺家、咲弥。
    佐々宗清 通称・介三郎。安積覚 通称・覚兵衛。小八兵衛。
    すけさん、かくさん、はちべえも登場します!
    綱吉の時代 柳沢保明。向かいあうことになってしまう水戸家。
    巻き込まれる二人…
    そして。再会できた二人!よかったぁ。

  • 光圀や綱吉、保明、朝廷、いろいろな立場の陰謀が渦巻き、暗殺や切腹などが頻繁に行われる世界。そんな中、蔵人は幼い頃に一目惚れをした咲弥への恋に生きる。咲弥に会いたいという想いで走り続ける蔵人には惚れてしまう。ーー春ごとに花のさかりはありなめどあひ見むことはいのちなりけりーー

  • 登場人物が多く、様々な藩や幕府・朝廷が入り混じる背景が複雑で、少し解りづらいところもあったけれど、主人公の蔵人がたいへん魅力的で、面白かった。蔵人と、妻である咲弥が長い年月をかけてやっと理解しあい再会する終盤、二人が唱和する和歌が感動的だった。
    水戸光圀や助さん、格さん、八兵衛のモデルになったであろう人達も登場するし、ストーリーを少し簡素化して、舞台化しても面白そうだなと思った。

  • 久しぶりの葉室さん。いつもながら震えます。純愛を描かせるとこうなるんですね。水戸公とか、ちょっとどうかと思いましたが、こういうドス黒い人たちや訳の分からないこの時代のルールが、蔵人や咲弥、お初その他の綺麗な人たちの美しさを引き立てるんでしょうね。こんな気持ちを持ち続けられることに憧れます。「あひ見むことはいのちなりけり」

  • 単独の作品としてかつて読んだが、三部作の一冊目と知り、通読しようと10年ぶりに再読。
    水戸光圀が中老を手討ちにするするという史実から幕を開ける。
    幕府と水戸藩との軋轢、鍋島藩と小城藩の内紛、幕府と朝廷の暗闘等々、様々な史実にフィクションを織り交ぜ、それに歴史上の人物や架空の人間を絡ませ、葉室麟のエキスがたっぷりと詰まっている歴史長編。
    物語は種々錯綜するが、そこに貫いてあるのは、咲弥と蔵人との純愛ドラマ。
    祝言の夜、好まれる和歌は、と蔵人に問いかける咲弥。自らの心を顕す和歌を探し続ける蔵人。
    有為転変の末、遂に再会へと到った二人の応答。
    「遅くなりました。申し訳ござらぬ」
    「本当に、十七年は待たせすぎです」
    そして、「春ごとに花のさかりはありめども」と、蔵人の手紙に書いてきた和歌の上の句を咲弥が詠むと、蔵人は続いて詠じた。
    「あい見むことはいのちなりけり」
    こんな雅な再会の場面は、どんな恋愛小説にも勝るとも劣らないと言っていいだろう。
    それにもまして、葉室麟氏の和歌や漢詩に対する素養の豊かさには、驚嘆の面持を禁じ得ない。
    続いて、『花や散るらん』を。

  • 水戸藩と江戸幕府の争いがテーマか、天地に仕えいのちに仕える侍、雨宮蔵人の恋物語、武士道がテーマなのか?
    今まで読んだ葉室麟作品のなかでは1番のめり込めない物だった。
    どうも話の展開が散らばり過ぎるように感じられてしまった。
    私の読解力では歯が立たない作品だったのだろうか。残念。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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