- 本 ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163275208
感想・レビュー・書評
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タイトルにまず掴まれる。
“つい昨日のことのように鮮やかなのに、もう戻れない遥か遠い日 ”というノスタルジー。
いやむしろ、“濃密な今と明日を生きる少女少年には、過ぎた昨日はあっという間に過去になってゆく” 、という比喩なのか。
美しい響きの『昨日のように遠い日』という言葉に、あれこれ講釈をつけるのは無粋だ。そのままに味わいたい。
レベッカ・ブラウンの『パン』が読みたくて本書を手に取ったが、収録作はどれも面白い。
ダニイル・ホルムスが読めたのも嬉しい。ソ連当局に危険視されたという背景が、『うそつき』ではなるほどと感じることができる。「ホルムスの世界」も気になっていたけど、柴田元幸さんセレクト五編を読めたので満足。
スティーブン・ミルハウザーの『猫と鼠』はひねりが効いた秀作。
“つるつるの床の上で、猫と鼠は止まろうとして身を後ろにそらす。かかとから火花が上がるが、大きなドアが迫ってくる。ー鼠はドアを突き破り、鼠型の穴を残していく。猫もドアを突き破り鼠型の穴をもっと大きな猫型の穴で置き換えるー”
おぉ、脳内でトムとジェリーのアニメーションが完璧に再生されていく。
鼠を捕まえる作戦はどんどんエスカレートして、それに比例して悲惨な結末が繰り返えされていくが、猫は一向に諦めない。
爪の半歩先を鼠は常にすり抜け、猫は毎回返り討ちでボロボロになっても、すぐにリセットされる。だってこれは毎週放送されるテレビアニメだから。
二人にそんな自覚はなくとも、何故にこんな生き方を強いられているのか?、という内省の声がする。繰り返しの日々からの解放への想いが胸に燻る。実にアニメらしい締めくくりが用意されて、ジ・エンド。
レベッカ・ブラウンの『パン』は期待に違わず、素晴らしい。
女子寄宿舎の中で繰り広げられる、崇拝と支配が混然とした少女たちの人間関係が、レベッカ・ブラウン独特の反復によるリズムで語られる。
憧れの対象に近づきたいという想いが募って、権威に挑戦することになるラストまで、このリズムが息苦しいほどに緊迫感を高めてゆく。あなたの真似をして、あなたの流儀でパンを食べるシーンは、ちょっとゾクゾクする。
でも僕は、キッチンで働く太った食事係の女の子が、あなたのために手付かずで取っておかれたパンを、なにげなく口に放り込むシーンが好きだ。
私とあなたとみんなで作り上げた神聖な世界を、気にもかけない女の子の存在が私に一線を超させるきっかけになる。
本書は、少年が権威主義な父親による日常を捨て決然と夢の中へ漕ぎ出すバリー・ユアグローの『大洋』で始まり、子供たちが一人また一人と老女の夢と記憶に溶けてゆくデ・ラ・メアの『謎』で締め括られる。
子供はいやおうなく大人になる。くぐり抜けるきつさが伝わってくる作品が印象的なアンソロジーだ。
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バリー・ユアグローの「大洋」はなんか・・・悲しかったな・・・
ダニイル・ハルムスは星新一的な・・・SSだけどもちゃんと爪痕は残してく、みたいな・・・
レベッカ・ブラウン「パン」まさかの女子校百合 -
とっても柴田元幸。少年少女のための小説ではなく大人になっちゃった人たちのための少年少女小説。アルトゥーロ・ヴィヴァンテ「ホルボーン亭」。最後の僕と父の台詞に胸を打たれしばし固まる。ダニイル・ハルムスはナンじゃコリャ的な作品の中では「トルボチュキン教授」が可愛い。大好きなスティーヴン・ミルハウザー「猫と鼠」はアレですね、切なくて痛々しくてちょっと辛かった。レベッカ・ブラウンかと思ったら違ったマリリン・マクラフリン「修道者」は好きだな、主人公の女の子の今後の人生に幸ありますように。次がレベッカ・ブラウン「パン」怖い…。パンの描写が魅惑的過ぎる。おまけのマンガ「眠りの国のリトル・ニモ」ひっくり返したりしてくすくす笑いました。絵も素敵だな。
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『おかしな本棚』の中に紹介されており、クラフト・エヴィング商會のお二人の手によるとても可愛い装丁で印象に残っていました。
内容もとっても好みです!
"青春"ではなく、その一歩手前の"少女少年"小説。
さまざまな著者の作品を柴田元幸さんが1冊に集められています。
中でも好みだったのは以下の3作品。
○「灯台」 アルトゥーロ・ヴィヴァンテ
少年が灯台守と再会したときの心の動きが切ないくらいに伝わります。
少年が成長した瞬間を見てしまった…そんな気分で読み終えました。
○「ある男の子に尋ねました」 ダニイル・ハルムス
たった8行の物語のシュールさに、にやり。
ほかにもこの著者の作品が4つ収められていますが、もっともっと読んでみたいです。
○「猫と鼠」 スティーヴン・ミルハウザー
「トムとジェリー」を冷静な目で文字の形におこしたら、きっとこうなるのでしょう…。
賢いネズミとまぬけなネコが展開するドタバタと書き手の冷静さのギャップがものすごくシュール。 -
レベッカ・ブラウンの“少女”、ユアグローの“少年”、デ・ラ・メアの名作「謎」の子どもたち、20年代ソ連のアヴァンギャルド作家の愉快で恐ろしい世界、サラエボ出身の新鋭に、本邦初登場のアイルランドの女性作家…。世界と、あらゆる時から届けられた逸品が勢ぞろい。永遠に失われる前の大切な話、選りすぐりの15篇
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「修道者」という話がとても印象に残った。
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天使になるにはまだ早い
著者プロフィール
柴田元幸の作品





