グローバリズム出づる処の殺人者より

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (319ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163275604

感想・レビュー・書評

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  • 原題「THE WHITE TIGER] 2009年ブッカー賞受賞作。グローバルズム経済下で発展を遂げるインドの現在の実像を暴いている。「白い虎」と自称する起業家が主人を殺すことでのし上がった成功物語。インドに行くと人生観が変わるなんて「とんだお笑いぐさね」とその格差社会の強烈さに圧倒させられる。本書は「グローバリズム時代の『罪と罰』である、に納得。

  •  「インドの実像を伝えたかったから」と、著者アラヴィンド・アディガさんが執筆動機を語る本書。描かれていたそのインドの実像には衝撃を受けた。以前読んだヴィカス・スワラップ著『ぼくと1ルピーの神様』が気に入り、インド?がりで本書を読んだが、見事に同じようなインド社会が描かれていて驚くとともに、信憑性も高まった。実際はどうなのだろう。本書は、わたしこと、バルラム・ハルワイという主人公が、中華人民共和国の温家宝首相に宛てた書簡として語られている。インパクトあるインド社会とこの書簡形式のために、物語は独特の雰囲気を醸し出している。BRICs(ブリックス)といわれ、台頭する新興大国の一国であるインドが、いまだ本当にこの物語のような状況なのだろうかと、とても複雑な気持ちになって読んだ。主人公バルラム・ハルワイは言う。インドには運命はふたつしかないと。食うか、食われるかしか。壮絶で残酷な社会に、背筋が寒くなった。そんな社会の中で、食われる側だった主人公バルラム・ハルワイが、食う側にまわる。殺人を犯してまでも……。教訓めいているようであり、そうでないようでも。ひねりのある話ではない。ただ、人間らしい暮らしを夢みた男の話である。人間らしい暮らしという概念さえなかった男がある日それに気付き、手に入れたいと願う。そのためには悪行も辞さない決意を固める。事業を起こし、成功させよう。そのためには殺人さえも……。しかし、殺人を犯しては、真っ当な人間とはいえない。人間らしい生き方に反する。そんな矛盾が主人公の心の中に発生するまでの過程を諧謔を弄して語ったのがこの物語だ。現実、夢、絶望、罪、そして富。主人公が心の中に溜まったドロドロしたものを赤裸々に、あたかも懺悔のように吐き出したのが、インドの抱える病巣であり、この物語の本質なのかもしれない。

  • スラムドッグミリオネアもはなはだヒドイ話だと思ったけど、こちらはその上を行く。
    インドの起業家がいかにして起業家になったかを語るという手法で物語は展開される。
    幼い頃の村での思い出は怖い祖母と、なんとか息子に教育を施そうと車夫として懸命に働き
    志し半ばにして死んでいった父だった。
    どう頑張っても抜け出せない「使用人」としての階級からの唯一の突破口は主人を殺すことだった。
    インドの使用人ならば誰もが一度は想い描くその考えを、なぜ主人公だけが実行に移せたのか。
    そこまでの経緯がテンポよく語られ、非常に面白い。

    しかも、主人公はこの話を誰よりも中国の国家主席温家宝に聞いて欲しいと考えている辺りがまた面白い。
    中国も現在 起業家が軒並み出現しているという。
    いずれ主人公のような事件を起こす使用人が出てくるかも・・・それとも既に?

  • みんなすごく逞しいな

  • なかなか読みごたえがありました。人間は、心を踏みにじられることが一番つらく、悲しく、怒りを掻き立てられることなのだと痛感しました。グローバリズムが引き起こす貧富の格差は、目に見える現象ですが、目に見えない、「心」について考えさせられる小説でした。

  • インドの「光」と「影」
    インドは今注目されるべき国に間違いない。
    読み応え有ります。

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