悼む人

  • 文藝春秋 (2008年11月28日発売)
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本 ・本 (456ページ) / ISBN・EAN: 9784163276403

感想・レビュー・書評

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  • 葬儀に携わる「おくりびと (納棺師)」ではなく、「悼む(いたむ)人」。日ごろいたむ事もないし、読み方も怪しかったこの言葉だが、本書でよく馴染んだ。という軽口はさておき、亡くなった人を思ったり悔やんだりする言葉、つまり、死後への関わり、という事だ。全国を放浪しながら、死者を悼む旅を続ける「悼む人」。自らとは無関係の人生を送ったあらゆる人に捧げる「悼む行為」が様々なドラマを生む。

    死人に口なし、という言葉がある。故人がどのような人間であったか、我々はそれぞれの記憶で解釈して死者を思う。善人であったか、悪人であったか。故人に限らず、単に自分自身との思い出の中で、良い行いを目撃したかどうか、体験したかどうかの印象の積み重ねに過ぎないのかもしれない。例えば、事件を起こしたような犯人は、その印象によって、悪人として記憶付けられるものだが、案外、人間の認知なんて単純で、「良い事」と「悪い事」のイメージを自然と足し引きし、人を判断している。その行為の特別性や自分との距離感、ギャップで印象を倍加したりしながら。

    赤の他人を悼む行為は、本来、故人の身内に寄り添って行われるべきで、実は「残された人」のために行われるのかもしれないと思う。行為そのものは神聖な感じもするが、身体的行為がなければ成り立たないものなのか、心の中でそっと悼んでも良さそうなものだ。この奇妙な行為については、物語の中でも賛否あるという扱いで展開されるので、読んでのお楽しみで。

    それにしても、本書の中で多くの死生観に触れ、物語でしか表現できない複雑な感情表現というのがあるのだと改めて感じた。

  • 年齢を重ねるたびに、悼む人が心にひっかかる。

    最後は言葉より悼む気持ちしかないのでは…

    また年数が経過したらどんな考えや感じ方になるか読みたくなる本。


    ぜひ〜

  • 「悼む人」ずっと本棚に置いてあったけどなかなか読めず、年末年始にやっと読了。
    何とも言えない気持ちになった。悼む人、誰を愛し、誰を愛して、どんなことをして人に感謝されたのかをできる限り胸に残そうとする人。
    静人はどんな気持ちでずっとずっと亡くなった人たちを思って日本中を回っていたのか。

    誰にでも訪れる死だからこそどう向き合うのか…自分と関係のない所で訪れている死がたくさんあることも改めて感じさせられ、とても考えが深くなる作品だった。

  • タイトルに惹かれて読んでみた。ちょっと変わった内容で癖になる味わいの作品、七年がかりの作品らしい。名前は知っていたけど私には初めての作家さん。作家の持つ死生観から生まれた作品のようだが共感には至らなかった。それでも一風変わった流れで 悼む人 と母親とのバランスが重苦しくなるのを緩和してくれておりました。

  • 最初は面白かっのに、奈義倖世の下りがダラダラとしていて、後半辺りからだんだんとダルさを感じてしまいました。
    ですので、「死生感」を感じとる事ができなくて、残念でした。

  • 悼む人、週刊誌の記者、末期癌の母、夫殺しの女が主な登場人物。悼む人の純朴な動機は分からぬもないが、夫殺しの女と結ばれる下りには違和感を感じた。また、見ず知らずの他人の死をあれだけ悼みながら、自分の母親が末期癌で苦しんでいるのを知らないのはどういうことか。死んだ人を悼むより、生きている間に人生を、家族との関わり、人との関わりをを楽しむべきではないか。。。

  •  ようやく天童荒太『悼む人』読了。ミステリーでもなければ純文学でもないけれど、人の死というものをこういう切り口で語り、そのことで一人一人の命や人生の重要さを改めて見つめさせてくれる。

     命や人生の意味づけのようなところを、作家も画家も多くの芸術家もスポーツ選手も職人も親も祖父や祖母も、さまざまな形で表現しようと努力している。ある意味、表現し、誰かに伝えることが人間の本能でもあるからだ。

     しかし、事故現場や犯罪現場を訪ねて、知らぬ人の死を悼む青年という、あまりにも特異なキャラクターを造形して差し出してみせた天童荒太の、この唯一無二なる表現方法には、真に意表を突かれる思いである。

     無駄なくぎっしり活字が詰まった本である。ある意味重すぎて読みにくいかもしれないが、著者が7年も費やして書き継いで来た、というだけの重さが、摩擦力となって有効に働いていることは確かである。

     ぼくはこの作品は、直木賞受賞作に相応しく、いい小説だと思う。いろいろな人の意見を聴いてみたい気がする。この本を題材に酒を呑みながらたっぷりと話をしてみたい気もする。自分の姿勢や表情を少し変えてしまうほど影響力のある本であるかもしれない。

     「悼む人」とは、この本においてはまさに「死者を悼む人」の意味である。死者を悼む人が小説のタイトルになっているところ、先日のアカデミー賞で話題になった「おくりびと」ブームに関連した作品なのかと勘違いする人なども、もしかしたら出現するかもしれない。ぼくは映画「おくりびと」は観ていないけれども、少なくないメディアの映像情報からは、葬儀社の専門職を題材にした映画であろうとことがわかる。 (その後映画を観て、大変感動しました。好きな映画の紛れもない一作となって記憶に掘り込まれました2012.6.24記)。

     その意味では「悼む人」は職業を扱った小説ではなく、「おくりびと」の世界とは何の関係もない。職業ではなく、純粋に死者を悼む行為を続ける一人の青年の行動を通して、その裏に透けて見えてくるものは、やはり天童荒太ならではの家族というテーマなのである。

     事故や事件の被害者を新聞などで調べて、実際に人が亡くなった現場を訪ね、そこで死者の生前の人間像を探ろうと関係者や近所の人を訪ね歩く。もちろんそうした不審な行為に、ごく当たり前に反応する人たちによって、彼は警察に突き出されたり、門前払いを食らわされる。しかし時に、一握りの人々が彼の行為に涙を流し感謝をする。死者を決して忘れない遺族たちの一部が。もちろん決して思い出したくない、他人が興味本位で掘り返すようなものじゃないと、拒絶反応を示す遺族もいる。でも、悼む人の行動は至ってシンプルで、無理強いはしない。

     彼が尋ねるのは、どのようにして亡くなったのかではない。誰かが死に方を語ろうとすると、彼は遮る。どのように亡くなったかを、ぼくは知ろうとは思いません。**さんは、どのように生きた人であったのかを、知りたいのです。彼は、親族や関係のある人々への聞き込みを通じて尋ねる。「誰かを愛したり、誰かに愛されたことはありましたか。誰かに感謝されたことはあったでしょうか」その言葉を常に尋ね、そうして命の消えた現場にしゃがみ込んで、死者に話しかけ、悼むのである。

     彼の放浪の旅はそうして続くのだけれど、彼のアウトサイド・ストーリーが同時に彼を取り巻く人々の間で進行してゆく。癌が進行中である彼の母と、母を取り巻く親族たち。ふとしたことから「悼む人」に出くわし、人生を変えることになった中年週刊誌記者。かつての夫を殺し、罪を購って出所したばかりの自殺志願の女性。

     いや、この物語は、悼む人の物語というより、多くの欠如感を抱えて極北まで追い詰められた人たちの救いの物語であるといってもいい。アウトサイド・ストーリーなどでは決してないのだ。

     「悼む」という行為は、見ず知らずの他人の死を、自分の関わりとして捉え、決してアウトサイド・ストーリーとして切り離さず抱え込み、交情しようという途轍もなくアクティブな行為であるように思う。そんな不思議で、心が豊かになる、静謐かつ激震の物語である。

     何度も言うように、この小説は、直木賞受賞にとても相応しいとぼくは思う。それとともに、天童荒太という作家こそが、悼む人なのだろうな、とも。

  • だいぶ前に読了し、再読したいなぁと思いながらも、読むのに気力と体力がいる。
    生きている人にも亡くなった人にもそれぞれの生き方や人生や家族がいる。当たり前の事をとても痛切に突きつけられる。「祈る」ではなく「悼む」ことをテーマにしているところに作者の謙虚さのようなものを感じる。天童作品の表紙の船越桂さんの彫刻が作品の崇高さや静謐さのようなものをよく表しているなぁと常々思う。

  • 正直、共感、はできなかった。
    だけど重たいテーマだけに静人の旅は
    ずっしりとインパクトがあった

    記者の方はきっと亡くなってしまったんですね…
    そして静人は母親の臨終に立ち会えたのかどうか
    明記されてないのが逆に印象に残りました

    なぎさんとのアレコレは、うーんちょっといらなかったかも知れない。

  • この本を読んでから、道路脇にある献花がすごく気になるようになった

    もう一度ゆっくり読みなおしたい

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著者プロフィール

天童 荒太(てんどう・あらた):1960(昭和35)年、愛媛県生まれ。1986年「白の家族」で野性時代新人文学賞受賞。1996年『家族狩り』で山本周五郎賞受賞。2000年『永遠の仔』で日本推理作家協会賞受賞。2009年『悼む人』で直木賞を受賞。2013年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞する。他に『あふれた愛』『包帯クラブ』『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』『静人日記』『ムーンナイト・ダイバー』『ペインレス』『巡礼の家』などがある。

「2022年 『君たちが生き延びるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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