猫を抱いて象と泳ぐ

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 775
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163277509

作品紹介・あらすじ

伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。

感想・レビュー・書評

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  • 廃バスの中で暮らすマスターから少年はチェスを教わる。でも、その男の死を目の当たりにして、少年は成長することが怖くなり、11歳の身体のまま成長がとまる。そして、少年はチェス台の下に潜み、からくり人形「リトル・アリョーヒン」を操りチェスを指すようになる。少年の友達はデパートの屋上で亡くなった象のインディラと架空の少女ミイラだけだった。
    チェスに全然馴染みがない私でも、次がどうなるのか気になって物語の世界に没入していく。
    少年の祖父母、マスター、ミイラ、みんな優しい。
    何よりも哀しいのはミイラとの別れ。取り返しのつかないことをしてしまっても、成長を自ら拒絶してしまった少年にはなす術がないのか。
    少年は、チェスと結びついた人々と永遠の別れを重ねていく。そして最後には、、、。

    小川洋子さんが少年を通して何を訴えたかったのか今はわからない。
    ただ、この物語が森の中の湖面を揺らしながら進んでいく美しく切ない物語だということだけは言える。

  •  作品には、主人公と他の登場人物の名前が記されていない。
    最初から物語は存在しないということか?唯一記されている人物は、アレクサンドル・アリョーヒンという。
    物語上では、伝説の人物となって「盤上の詩人」という呼称である。

     物語は、少年の生い立ちから始まり、その後の人生を決める出来事に出くわす。七歳になったばかりの少年は、祖母と弟の三人でデパートへ出掛けるのをささやかな喜びとしていた。

     彼は、遊具に何の興味も示さなかった。屋上にベンチがあり、前には立札が立っていて、「本デパート開業記念として、インドからやってきた象のインディラ臨終の地。子象の間だけ借り受け、動物園へ引き渡す約束だったが、あまりの人気に返却期間を逸し、インディラは大きくなり、屋上から降りることが出来なくなった。以来三十七年間、子供たちに愛嬌を振りまきながら一生を終えた」

    ある日少年は、バス会社の独身寮の裏手に迷い込んだ。廃車になった回送バスが停まっているのを見つけ恐る恐る中に入ってみると、男性から声を掛けられた。手作りの菓子とチェスをこよなく愛していた。男に「チェス」をやってみないか、と誘われたことがきっかけでチェスにのめりことになる。しかし、男はただの平凡なチェス指しではなかった。チェスの本質的な真理を心で掴み取っているプレイヤーだった。

     チェスと出会って以来、男を「マスター」と呼ぶようになった。少年の祖父は、家具修理の職人で、自宅寝室の天井にチェス盤の模様を描いてもらった。駒を持たずとも頭の中に盤面が浮かぶようになった。チェステーブルで、マスターとチェスをする少年の足下にはいつもポーンと名付けられた猫がいる。対局中は猫を撫で盤面を見ないでチェスをする習慣がついた。寧ろ、見ないで対局する方がリラックスできるのだ。四年の歳月が過ぎた頃、マスターの盤面に美しい蜘蛛の巣の模様があり、一箇所に綻びを発見することができた。そこから冷たい一筋の風がマスターのキングに吹き付けている。「チェック」少年はクイーンを滑らせ、マスターは、自分の黒いキングの駒を倒し「坊やの勝ちだ」と。

     少年は十一歳になっていた。狭い回送バスの中での出来事、他の人と対局したことがない。だからといって広い場所で対局したいという願望はない。伝記上のプレイヤーで尊敬する人物から“リトル・アリョーヒン”と命名され“盤下の詩人”と呼ばれることになった。

     彼は決して名声が欲しい訳ではなく、ただ駒を動かしたいだけだという。全くチェスを知らない人や国際マスタークラスの人ともチェスを通して、語りあい美しい詩(棋譜)を書きプレゼントした。

     読書は楽しい。

  • 読みたかった本。リトル・アリョーヒンの生涯は地味で孤独だったように見えるかもしれないが、チェスを通してこんなにも心豊かで深い世界を生きていたことに胸を打たれた。

  • 或るチェスプレイヤーの生涯を描いた作品。
    チェスの知識ゼロでも、なんとかなる?
    哀愁漂う優しい物語。

    チェスのことは、全くわかりません!笑
    なので、チェスの動きの描写に対しては「あー駒が、升のどこかに動いたんだなー」ぐらいにしか思えませんでした。。
    チェス盤と駒の動きを想像できたら、もっと感動できる場面もあったんだろうな〜と思うと、ちょっと残念。

    でも、この本に惹かれたのは『物語の温かさ』です。
    主人公の大切な人や物事を失くしながらも、その人・物からもらった思い出や教えが主人公を守ってくれる。
    その哀愁と温度が心地よかったです。
    失くした時にトラウマを背負うけれど、心に残るのは傷だけではない。
    その人の声や思い出、空間の匂いとか、そういうものを感じた時って、なぜか温かい気持ちになるんですよね。
    そういう気持ちを、物語と共有できた事が嬉しかったです。

    甘いお菓子と温かい飲み物をお供にしたい物語。

  • さすが小川ワールド。
    すごくきれいな文章です。
    ただ 国語の試験に出てくるような文章なので、気を抜くと読み落とし、何回も読み直しながら読みきりました。
    登場人物の設定に入り込むまで、少し時間がかかりましたが、後半はすっかり小川ワールドにハマって読みました。
    静かに流れるような本でした。
    とてもいい作品でした。
    手元のコレクションにおいておきたいと思います。

  • 伝説のチェスプレイヤー、リトル・アリョーヒンの人生物語。
    ページをめくったとたん、手放さない布巾、スネ毛…至るところに小川さんが愛してやまないような世界が溢れ出し、瞬く間にひきこまれた。
    盤下はリトル・アリョーヒンにとっての唯一自分が自分でいられる静かな母なる海、そして盤上のチェスの駒で美しい詩を紡ぎ出す。その世界をひたすら慈しむ彼の姿を優しく繊細な言葉で包みこむ小川さんの世界はとにかく美しくて心地良い。
    やっぱり小川さんの紡ぎ出す静謐な世界が好きだ。
    その言葉しか出ない。

  • 静かで、そして美しいお話しだった。
    最初に見た時のタイトルからのイメージと作品を読み終わってもう一度タイトルを見て想像すると、猫のポーンを抱いて、象のインディラとミイラと一緒にチェスの大きな海を泳ぐ少年がいる素敵な景色が広がる気がした。
    老婆令嬢と家で一戦を交えるシーンは静かながらもぐっとくるものがあった。
    夜にそっと目を開けて、リトル・アリョーヒンがどんな闇の中を過ごしていたんだろう…そんな想いに耽りたくなる作品でした。

    とても心地の良い余韻の残る作品だった。

  • 昨年初めて小川洋子さんの作品を読んでそれ以来定期的に小川洋子さんの世界に入りたくなります。
    この作品もとても素敵でした。小川洋子さんの作品は人と関わるのがしんどくて時代についていくのが忙しくて、って時の私にとって待避所的な存在です。

  • マスターとの出会いによってチェスと出会い、少年の運命が決まる。
    途中少年の心の痛みを思うと辛かったけれど、辛いことばかりでなく幸せを感じる時もあったのが救いだった。
    最後は涙が溢れた。

  • 唇がくっついた状態で産まれてきたからか、無口で空想の象と壁に挟まった少女のミイラだけが友達だったリトル・アリョーヒン。ある日、回送バスに住む巨体のマスターにチェスを教えてもらい、どんどん世界が開けていく。
    無口だけれど、チェスの盤上で広大な表現を繰り広げられる職人的な姿が誠実さと堅実さを醸し出し素敵だった。マスターやミイラや様々な人との絆もまたチェスによって固く結ばれていて、チェスという小さな存在が与える大きな力を感じ、えらく感動してしまった。最後は少し切ないけれど、チェスが人々を幸せにするお話と言って良いと思う。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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