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本 ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784163278902
感想・レビュー・書評
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こんなに美しい文体にあったのは初めて。
少年の透き通った心を厳しく鍛え、たくましく成長していく姿が美しく描かれている。 -
伊集院静独特の大人の厳しさと優しさ、少年の無垢な気持ちが、読者の心にじんわりと伝わってくる作品だ。
日常的な生活の中にこそ、生きることの意味があるのかも知れない。 -
成長過程の真っ只中にいる少年たちの心情・情熱や
周りの人たちとの風景を、絶妙なタッチで描いた
短編集。
成長過程の風景は、必ずしも明るいものばかりでは
なくて、時には大きな痛みを伴うものもある。
でも、そういう痛みを糧にして成長してゆくもの
なんだよ、むしろ痛みがある方が大きな男になれる
んだよ、という暖かくて抱擁力のあるメッセージが
感じられて、心が洗われる。
また、この短編の時代設定は、明記してあるものは
どれも戦中・戦後から昭和中期まで。明記していない
ものもその雰囲気からすると、だいたいこの時期を
想定している様。
この雰囲気が白黒写真の風景を思い起こさせて、
少年たちの思いをより際立てている。
読み応え十分の珠玉の短編集。 -
伊集院さんの少年ものは、必ず心にやさしいさざ波がたつ。
今回も美しい心をもつ少年が、大きな心をもつ大人にふれて
成長していく様子に、何度も涙した・・・。
よい大人がいて、少年はたくましく育ち、またよい大人と
なって、美しい人間関係が心地よく広がっていくのだ・・・。
人間の心の美しさにふれたくなったら、何度も読み返したい
すばらしい短編集。 -
一編目の「笛の音」でぐっと引き込まれる。
出生不詳の捨て子だったノブヒコ少年の流転の人生譚。
聡明なノブヒコ少年は、山奥で炭焼きを生業としている老夫婦に
愛情を注がれて幸せに暮らしているが、
博士に出会い、その聡明さに引かれて養子に貰われていくが、
そこでは実子などの嫌がらせを受ける。
まるで「小公女」の様なノブヒコの運命、しかし彼は決して
悲観することなく、恐らく拾い親であった老夫婦と、
彼が老夫婦の養子となる事に尽力し、彼に学問を教えた
和尚から最初に受けた優しさと厳しさで、
曲がることなく育っていく。
少女は早くに成長し、大人の世界への一歩も少年より早い。
早熟な少女の物語にはあんまり興味がない。
自分自身がそうであったので、改めて読みたいとは思わない。
少年期の、清々しい、それでいてもどかしいような
成長譚は、何故こうも読む心を優しくしていくのか。 -
火事場に捨てられた赤児。
山中で炭焼きの仕事で暮らす老夫婦に引き取られ
成長した少年は、後を継ぎたいと願うが
文武両道の手ほどきを受けた和尚から
「これからは一人で生きよ。一人で耐えて励め」と叱咤され
彼の数奇な運命が新たな人生を開くという・・・「少年譜 笛音」
「親方と神様」では、鍛冶屋の仕事場に来るようになった少年が
いつしか自分も鍛冶職人なりたいと言い出し
困り果てた親や教師が、諦めるように説得してくれないかと職人に
相談にくるくだりで
「・・・・ここはわしの神聖な仕事場じゃ。鍛冶屋は神様がわしに
下さった仕事場じゃ。それをけなす者はたとえ誰であっても許ん」と
そして、口下手な職人は、かつて親方からの教えられた言葉を
「玉鋼と同じもんがお前の身体の中にもある。玉鋼のようにいろんなもんが
集まって一人前になるもんじゃ。鍛冶の仕事に何ひとつ無駄なもんはない・・・」
と、彼に語るのである。
他に「吉備前」「トンネル」「腕くらべ」「朝顔」「茶の花」
という7つの短編になっている。
時代背景は戦後から平成にわたり
様々な少年たちの姿が描かれている。
鍛冶職人、寿司職人、書道家、陶芸家など
師匠や親方から弟子へと教えが受け継がれる峻厳さ
職人の心意気、矜持、人間としての気高さが心に迫る。
また、校長先生、母親とか、縁もゆかりもない人々。
彼ら彼女らが、少年たちを育もうとするあったかい心に胸が熱くなる。
教訓や教えを守り大人になった少年たちは
こうした人から受けた恩は決して忘れないでいる。
出自、職業とかの貴賎の区別によって人生は決まるのではない
人との出会い、自らを律する行いによって道は開かれていく
そんなことを伝えてくれる一冊だと思う。 -
少年には夢がある、可能性がある。
誰もがダイヤの原石で、将来性の塊。
そんなことを教えてくれる、説教くさい本ww
ただ、、、
ウン、もっと頑張ろう!
と、思った。 -
伊集院さん、久々。彼の短編はまさしく珠玉。読者に媚びず、淡々と描かれる。じ〜ん、と染み渡る。読後に緑を眺めて余韻に浸りたくなる。
「少年小説集」は彼の得意分野。最後の「親方と神様」に<弥彦>が出てきたのには笑った。競輪で行き慣れた場所であろうから。
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伊集院静さんの作品ははじめて読みました。
2009年4月の「週刊ブックレビュー」で北上次郎さんが紹介しました。
「羊の目」のときは、伊集院さんが特集ゲストとして出演しています。
マイミクさんの日記に感想も記されていて興味を持ち、図書館で借りて読みました。
この本には7編の短編が収められています。
伊集院静さんは山口県防府市の出身です。
種田山頭火と同郷です。
「週刊ブックレビュー」では「多感な少年期をさまざまな角度から描き出している」短編集だと紹介されていました。
人生の重みを持っていないと書けない「正しい文章」だというお話しもありました。
「少年譜 笛の音」では、防府の他、津和野、益田、山口大学が舞台として出てきます。
和尚さんの「一人で生きよ。耐えて励め」「なお励め」という言葉が印象的です。
「古備前」で鮨屋の見習いが長続きしなかったという話が扱われています。
個人で人を雇うことの難しさについて触れられています。
ここで修業している少年が子小学生の頃、教頭に命じられて廊下の天井の蜘蛛の巣を取ろうとして、花瓶を割ってしまいます。
教頭が激怒して、親を学校に呼びつけます。
母親は校長に土下座して学校を追い出さないでくれと嘆願します。
この辺の描写は現代では考えられませんが、昭和49年頃なら理解できます。
そういう時代でした。
「茶の花」では昭和20年の東京大空襲がモチーフとなっています。
このとき少年だった高名な書道家が、その時の想い出の女性に面影が似ているということで、仕事の依頼をしてきます。
壮大なロマンでした。
人間は誰か一人の人に愛されていれば生きていけるのではないかというのが7編に共通したテーマのようでした。
時代的にはわたしは理解できます。
わたしの子どもの世代にはどうでしょうか。
普遍的なものは変わらないと思いますが。
著者プロフィール
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